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第 3 章 公的年金を巡る国際的な論争 41

3.3 新たな世界銀行の方針 : Holzmann and Hinz (2005) より

3.3.2 制度設計の基本理念

以上のような目標を掲げて制度設計の在り方に言及している. 具体的な改革のオプショ ンとしては次の5種類が挙げられている.

1. パラメトリックリフォーム (parametric reforms)

2. NDC (a nonfinancial or notional defined-contribution (or similar) reform)方式 3. 年金民営化 (a market-based approach)

4. 公的な事前積立 (public prefunding) 5. 複数柱改革 (multipillar reforms)

1.は,現行制度の枠組み, 具体的には給付の算定方式や公的運用, 並びに賦課方式の枠組 みを維持したまま, 給付の算定式や保険料率などの主要なパラメーターを変更するもので ある. 2.は, 年金給付の算定方式のみを変える方法である. 3.は,給付建てであれ拠出建て であれ, 民営積立方式へ移行するものである. 4., 給付建てであれ, 拠出建てあれ公的な 事前積立方式へ移行するものである. 5.は, 年金制度について給付の構造, 運営, 財政方式 を変更するものである.

Holzmann and Hinz (2005) は, 上で挙げた5つのオプションのうち5.を支持してい る. Holzmann and Hinz (2005) , 原則としてWorld Bank (1994) と同様に年金制度 が果たすべき役割をすべて1つの柱に持たせるのではなく, 機能ごとに別の柱を立てるべ きとする立場を継承している. その上で, World Bank (1994) が提唱しなかった柱を新た に加えた, 第ゼロから第4の本の柱により構成される新たな高齢者の生活保障政策の体系 を提示した.

第ゼロの柱 拠出に基づかない, すなわち「第ゼロの柱」 (a non contributory or “zero pillar”)

第1の柱 報酬比例の保険料に基づいて給付され, 所得の一定割合を代替する「第 1の

*25以下, Holzmann and Hinz (2005), pp.5-12に沿っている.

柱」 (a “first-pillar” contribution system that is linked to varying degrees to earnings and seeks to replace some portion of income)

第2の柱 強制加入の「第2の柱」(a mandatory “second pillar”) 第3の柱 自発的な「第3の柱」 (voluntary “third pillar”)

第4の柱 保健福祉や住宅へのアクセスを含む, 高齢者に対するインフォーマルな家庭内 あるいは世代間の金銭的,非金銭的支援(informal intrafamily or intergenerational sources of both financial and nonfinancial support to the elderly, including access to health care and housing)

第ゼロの柱は, 生活保護に近い形態を採用し, 最低限の生活を保障するための給付であ る. 第1の柱は, 給付建ての年金給付であり, 報酬比例の保険料に基づいて所得の一定割 合を代替するものである. 第2の柱はWorld Bank (1994) でも採用されている強制加入 の年金であり, 基本的には個人勘定の形態を採用するが, 実際の運用はそれにとらわれず 様々な形式を採用できるとする. 第3の柱は, World Bank (1994) も採用している第 3 の柱であり, 自発的な貯蓄である. 個人貯蓄, 職域年金, 給付建て, 拠出建てなど多種多様 な形態が柔軟に採用されえる. 第4の柱は, 政府を経由しない家庭内や世代間の高齢者支 援であり, 保健サービスや住宅を含めた現金, サービス給付である. Holzmann and Hinz

(2005) は, それらが持つ機能の内できる限り多くのものを組み合わせて, 各国の環境を考

慮し, 改革に伴って発生するコストやその規模を視野に入れながら生活保障を行っていく べきとする.

Holzmann and Hinz (2005) は, 上で挙げた5本の柱を設計する際に念頭に置くべき3 点の基本原則を挙げた. 第1に, 全ての年金制度は所得保障機能 (basic income security) と貧困緩和機能 (poverty alleviation) を持つべきである. 方策として, 社会的扶助(social assistance program),穏やかな資力調査付年金給付 (small means-tested social pension), 高齢者向けの一般現金給付 (universal demogrant available at higher age)などが挙げら れている. ただし, それらは他の社会的弱者が国内のどの程度を占めているか(prevalence of other vulnerable group), 政府の予算制約 (availability of budgetary resource), 現行 の年金制度の補足的給付 (design of the complementary elements of pension system)の 設計次第であるとする.

第2に, 理論的には, 事前積立方式は経済的にも政治的にも望ましいとする. 事前積立 方式の下では, 将来の年金給付義務は法的に保障された財産権であり, 政府は異時点間の 予算制約を改善するように今から手を尽くす必要がある. そのことは, 国内貯蓄を増加さ せ, 経済成長に資することが予想される. ただし, 給付から負担を控除した純給付が正にな

3.3 新たな世界銀行の方針: Holzmann and Hinz (2005) より 65 ることは保証できない. 政治による市場操作が積立方式を誤った方向へ導く可能性もある. そのため, 各国特有の事情を念頭に置き, 十分に積立方式の利益とコストを考えることが 必要であるとする.

第3に, 積立方式は年金改革を評価する際の有力なベンチマークになることである. 年 金制度の最終的な目標は, Orszag and Stiglitz (2001) が主張するように社会的厚生の最 大化である. あらゆる改革案を検証するとき, その制度への移行によって得られる社会的 厚生が, 積立方式への移行によって得られるそれと比較して, どの程度大きいかによって その利益を評価できる. 同時に, 移行に必要とされるコストも, 積立方式のそれと比較して どれほど大きいかによって評価できる. 第3の柱についても同様であるとする.

具体的な制度設計を行う際の注意点としては, 次の 3点を挙げる. 第1に, 第ゼロの柱 は,年金制度の枠組みに明確に組み込むべきである. とりわけ低所得国では, 救済を必要と する他のグループと競合するためである. 支給要件についても適切に基準を定めるべきと する.

第2に, 強制加入のシステムは, その給付を大きくしすぎてはならず, 管理可能な範囲に 止めるべきである. 基準として, 低所得国においては自発的貯蓄の補完として第ゼロの柱 を位置づける. 強制加入年金の捕捉範囲が十分に大きい場合は, 所得代替率と保険料率の 水準を適当な水準にとどめるべきとする.

第3, 報酬比例年金に所得再分配を組み込む場合は, その補足範囲に応じて負担方法 は変化する. 補足範囲が大きくない場合は補助金の規模を大きくせず, 被保険者が拠出し た保険料の範囲内で行うべきとする. 補助金の財源には, 報酬比例年金に捕捉されていな い, より不利な環境にいる人々が負担した租税も含まれるためである. 補足範囲が十分に 大きい場合は, 透明性を担保しつつ補助金の投入によって行うべきとする.

また, 障害年金や遺族年金にも言及している. いずれも最良の枠組みには議論の余地が 多いことを認めつつ, 障害年金については老齢年金とリンクさせるべきとする. 遺族年金 については, 所得再分配的な側面と, 伝統的なジェンダーの枠組みのどちらを重視するか をより詳細に検討する必要があるとする. 強制加入制度を職域によって分けることにも言 及し, それは望ましくないとする. 労働力の弾力的な移動を妨げるだけでなく, それ以外の 職域と比較して明らかに有利で, 他方で持続可能ではない制度が運用され得るためである.