• 検索結果がありません。

第 2 章 わが国における公的年金の変遷 19

2.3 少子高齢化と年金改革

複し, 過剰給付になる. 第3に, 被用者年金にかかる配偶者分の加給年金の水準が低く, 単 身者と有配偶者の分化が不十分であった. 第4に, 国民年金への加入が任意であったため, 制度の運営が不安定化した.

基礎年金創設と加入の強制, 新たに導入された第3号被保険者制度はそれらを大きく改 善した. 夫と配偶者が個別に公的年金に加入し, 年金給付を受けよう改めたことにより, 年 金給付の個人単位化が達成され, 被用者の被扶養配偶者独自の年金権が確立した. 給付の 重複も改善された. その一方で, 第3号被保険者制度はそれまでと同様に夫が外で働き, 負 担能力に応じた保険料の拠出を根拠に配偶者も年金給付を受けるものであり, 保険料体系 は世帯単位のままであった.

2.2.4 それ以外の改正

1985年改革では, 先に挙げた3本の柱の他にも重要な改正が行われた. 1, 国民年 金の加入年齢前の傷病によって障害を負った場合の障害年金についてである. それまでは, 20歳に達した後に障害福祉年金が給付されたが, 本人および扶養義務者に関する所得制限 が課され, 給付水準も低く抑えられた. そのため, 20歳前に初診日のある障害についても 通常の障害基礎年金を給付するよう改め, 扶養義務者にかかる所得制限も撤廃した*14. 存の障害福祉年金受給者にもそれを適用した.

第2, 11年金の原則に基づく併給調整である. 原則として, 複数の年金の受給権を 得た場合は, 本人の選択に基づき, 1つの年金を給付するよう改めた. ただし, 基礎年金と 報酬比例部分であれば併給できるとした. 65歳以降については, 老齢基礎年金と遺族厚生 年金の併給が認められた.

2.3 少子高齢化と年金改革

*15

2.3.1 1994 年改革 ( 平成 6 年改革 )

1985年改革を経て公的年金は大きくリニューアルされたが, その後も少子高齢化は進み

続けた. 1994年改革は, そのような環境を背景に, 将来の年金財政の安定化と世代間の負

担・給付のバランスを改善し, 本格的な高齢社会にふさわしい年金制度を構築する必要が あるとする問題意識の下で実行された.

*14本人にかかる所得制限は存続した.

*15以下,断りがない限り山崎 (2002), pp.60-87, 92-111に沿っている.

厚生年金の支給開始年齢の引上げと在職老齢年金の改善: ライフサイクルの変換

1994年改革では, 1985 年改革における基礎年金導入のような制度設計の転換は見られ ない. しかし, 年金財政に長期間にわたって影響を及ぼし, 国民生活の前提を大きく変える 多くの改革が実行された.

第1に, 厚生年金の支給開始年齢の引き上げである. それまでは, 厚生年金の受給権者 が60歳に達した後に, 報酬比例給付に加えて64歳まで基礎年金相当額の定額給付が支給 されていた. それを改め, 定額部分の支給開始年齢を2001年から (女性については2006 年から) 徐々に引き上げ, 2013年 (女性については2018年) 以降に60歳に達する世代か らは支給せず, 報酬比例部分のみを給付することが決定された*16.

第2に, 在職老齢年金の改善である. それまでは, 厚生年金受給者による勤労収入の稼 得に伴って年金給付が停止されており, 年金受給世代の労働供給に対する阻害要因になっ ていた. そのため, 厚生年金受給者が勤労所得を得ても,年金給付の合計が増加するよう改 められた.

それらの改革は, 「60歳前は賃金を中心とした生活設計, 60 歳〜64歳は賃金と年金を 組み合わせた生活設計, 65歳以降は年金を中心にした生活設計*17」への転換を図ったも

のである. すなわち, 1994年改革は進展する高齢化に対応するため, 国民生活の前提条件

の転換を図ったと理解できる.

給付水準, 支給要件の改定と財源調達, 次世代育成支援

給付面では,基礎年金の給付水準が大きく改善された. その一方で, 年金給付額の裁定に 利用される再評価率表の改定率が, それまでの名目賃金上昇率から所得税や社会保険料を 控除した手取り賃金 (ネット賃金) 上昇率へ変更された. それは, 先に述べた1994年改革 の目的の1つである年金受給世代と現役世代との給付・負担バランスの改善を, 所得代替 率のベースの変更により図るものである.

また, 遺族年金の所得制限が緩和された. 障害年金の所得制限も緩和され, 2段階制を導 入するとともに, 給付全額停止点が引き上げられた. 支給要件も緩和され, それまでは3年 以上障害等級に該当しない場合は失権とされていたが, 3 年経過後も再度障害が悪化した 場合は再び支給するよう改められた.

*16ただし,障害等級3級以上の者は働き続けることが困難であるとみなされ, それまで同様に60歳に達する と年金を支給するとされた. また, 厚生年金の加入期間が45年以上の長期加入者も,従来通り60歳から満額支 給されることとされた.

*17牛丸(1996), pp.167-168.

2.3 少子高齢化と年金改革 27 負担面では, 厚生年金の保険料率と国民年金保険料単価が共に引き上げられた. 厚生年 金については,それまで保険料が賦課されていなかった賞与も, 3か月を超える期間ごとに 支給されるものには賦課されるよう改められた. また, 厚生年金保険料率を将来にわたっ て30%以下に抑制すべきとする観点から, 保険料に加えて積立金の運用収入を活用する ことが提唱された.

一方で, 保険料負担に少子化対策が組み込まれた. それまでは, 育児休業中も休業前の 標準報酬月額に基づく厚生年金保険料の自己負担分を拠出しなければならなかった. それ が, 育児休業終了時まで自己負担分が免除されるよう改められた. その期間にかかる年金 受給権については, それまでと同様に育児休業直前の標準報酬月額を反映するとされた.

その他の改正

その他には, 公的年金内や他の社会保障制度との不整合の解消が図られた. 第1に, 雇 用保険との併給調整である. それまでは, 定年退職後に老齢年金と失業手当の併給が可能 であったが, 失業手当を受給している間は老齢厚生年金の支給を停止するよう改められた. 第2に, 遺族厚生年金と老齢厚生年金の調整である. それまでは, どちらか一方を選択す るとされていたが, 本人の保険料拠出を反映するため, 遺族厚生年金の3分の2 (夫の厚生 年金の2分の1)と本人の老齢厚生年金の2分の1との併給が可能になった.

また, 無年金, 低年金対策として, 60歳以降の任意加入期間が, それまでの65歳から70 歳まで延長された*18. 加えて, 1986 年4月から施行された第3号被保険者制度の適用要 件を満たしながら,未申請であったためにその間の受給権を失った者について, 2年間の特 例として, 時効である2年を超えた期間についても遡及して第3号被保険者の申請を認め るとした.

加えて, 一時金に関する改善も見られた. わが国において社会保険の適用は国籍にかか わりなく強制されるが, とりわけ短期在留者については納付した保険料が掛け捨てになっ ていた. それを改め, 保険料を 6か月以上納付したものについては, 帰国後 2年以内に申 請すれば, 脱退一時金が支給されることとなった. また, 国民年金の死亡一時金も改善さ れ, 上限が引き上げられた上で区分が細分化された.

*18ただし, 昭和30 (1960)41日以前に生まれたものに限定される.

2.3.2 2000 年改革 ( 平成 12 年改革 )

給付水準の抑制: 給付裁定式における給付乗率の引下げと支給開始年齢の引上げ

1994年改革に続いて, 2000年改革も少子高齢化への対応が進められた. 第1に, 年金給 付の伸びの抑制が強化され, 年金給付額の裁定に用いられる給付乗率が5%引き下げられ

*19. 1985年改革以降も高い水準で推移した所得代替率を, 1973年改革において目標と

された60%まで引き下げるためである. 他方で, 既存の年金受給者の受給権を保護する目 的で,「新しい給付乗率による老齢厚生年金等の額が,従前の年金額算定方式 (物価スライ ドを含む) による年金額を下回る場合には, 従前の年金額算定方式による年金額」を支給 するとされた*20.

加えて, 65歳以降の給付の改定には原則として物価スライド率のみを適用するとした. ただし, 年金給付の実質価値を保護する目的で, 65歳以降に物価スライド率のみを適用し て改定した給付額と, 65歳以降も賃金スライド等を適用して改定した場合の乖離が過大に ならなよう, 必要に応じて賃金スライドを行うとした.

また, 老齢厚生年金の支給開始年齢を, 報酬比例部分についても引き上げることが決定 された. 具体的には, 定額部分の支給開始年齢引き上げが完了する2013年度 (平成25年 度) 以降に60歳に達する世代 (1953(昭和28) 42日以降生) から, 2年毎に1 ずつ引き上げ, 2025年度 (平成37年度) に完了するとされた. それによって, 65歳現役社 会の構築に向けて, 厚生年金における対応のスケジュールが示された*21.

報酬比例部分の支給開始年齢の引き上げに加えて, 60歳代後半の在職老齢年金が導入さ れた. それまでは, 厚生年金の適用事業所に就業していても, 65歳以上であれば厚生年金 の被保険者とはせず, 勤労収入に関わらず満額の年金が支給されていた. それを改め, 65 歳以上 70歳未満の就業者にも厚生年金を適用して, その期間は勤労収入に応じて年金給 付を減額するとした. その背景には, 65歳以上の被用者の中には会社役員などの高額所得 者も少なからず存在し, 支給開始年齢に達した高齢者に一律に老齢年金を給付することへ の理解が得難いという状況があった.

*19具体的には,それまでの7.5から7.125へ引き下げられた.

*20より詳細には, 1994年の標準報酬再評価率表に物価上昇率のみを適用したものを利用し, 従来の給付乗率 を乗じた給付裁定額と, 手取り賃金スライド率を適用した再評価率表を利用し, 新たな給付乗率を乗じた給付裁 定額のうち高い方を採用するとした.

*21なお, 1994年改革同様,女性については5年遅れの2018年度(平成30年度)から2030年度(平成42 )にかけて実行するとされた.