第 2 章 わが国における公的年金の変遷 19
2.4 公的年金の転換点
2.4.2 公的年金の実務と制度への信頼 : 日本年金機構の創設と年金記録問題 33
2.4 公的年金の転換点 33
受給者については5年の消滅時効が完成していても回復分を給付するとした. 現在の受給 待機者および被保険者については, 5年以上前の年金給付を自動的に時効消滅させないと した.
今後の年金記録の管理についての対策も講じられた. 住所異動,氏名変更,死亡等が生じ た場合は, 住民基本台帳ネットワークと連携し, 自動的に年金管理記録に反映されるシス テムを導入するとした. 同時に, 社会保障カードを導入し, ネットワークを経由して安全か つ迅速に自身の年金記録を確認できるシステムを構築するとした.
2.4.3 被用者年金制度の再編 : 被用者年金一元化と適用範囲の拡大
有澤他 (1979) など多くの研究が指摘するように, 制度間格差は公的年金を巡る主要な
テーマの1つであった. 1985 年改革における基礎年金の創設による部分統合はその第一 歩であったが, その後も被用者年金間, すなわち厚生年金と共済年金の制度間格差は主要 なテーマの1つであり続けた.
2007年(平成19年) 改正法案
自民党・公明党連立政権下で2007年の通常国会に提出された被用者年金一元化法案は, そのような問題意識に沿ったものである. そこでは, 厚生年金保険法における公務員およ び私立学校教職員の適用除外規定を削除し, 共済年金の加入者を厚生年金へ加入させると した.
一元化に際し, 制度間の差異については基本的に厚生年金に揃えるとされた. 給付面で は, 2階部分を厚生年金に統合し, 共済年金にある遺族年金の転給制度や地方団体の首長の 加算特例は廃止するとされた*35. さらに, 共済年金創設以前の期間にかかる恩給部分につ いては 27%引き下げるとした*36. 制度間格差批判の最大の焦点であった職域加算 (3階 部分) も廃止し, 新たな3階部分のあり方を検討するとされた.
保険料については, 共済年金の1, 2階部分にかかる保険料率を徐々に引き上げ, 公務員 共済については 2018年 (平成 29年) に, 私学共済については2026年 (平成 38年) に厚 生年金に統合するとされた. それに伴って各共済年金が保有する積立金を, 厚生年金の積
*35共済年金においては,遺族年金の受給者が死亡した場合, 3親等以内の別親族が新たな受給権者になるとさ れている. 一方, 厚生年金にはそのような規定はない. また, 既存の年金受給者については経過措置が設けられ, 総収入 (年金給付+賃金)の10%を給付削減の上限とし, かつ削減によって月額収入が35万円を下回らない ようにするとされた.
*36ただし,引き下げ額が年金給付額の10%を下回らないこと,減額後の給付額が年間250万円を下回らない とされた.
2.4 公的年金の転換点 35 立金比率相当分について厚生年金に統合し, 被用者年金制度の共通財源とするとされた.
それらに合わせて, 事務組織と財政運営等に関する規定も改められた. 共済組合等を改 めて標準報酬の決定・改定, 保険料の徴収, 保険給付の裁定を担う組織として位置付け, 給 付と負担の状況を厚生保険特別会計厚生年金勘定に一括して計上するとした. 共済組合は 徴収した保険料を拠出金として厚生年金勘定に納付し, 厚生年金勘定は年金給付を交付金 として共済組合に交付するとした. 加えて, 制度全体の財政検証を定期的に行うとした.
それらに加えて, パート労働者に対する被用者年金の適用範囲の拡大が規定された. そ れまで, 同じ事業所に属する正規従業員の平均的な週間就労時間の4分の3以上就労すれ ば, 被用者年金が適用されていた. 企業が人件費削減のためにその規定に適合しない非正 規雇用者を増大させた結果, 非正規雇用者としてしか就業できなかった第1号被保険者が 多く発生し, その就労環境が劣悪であることが問題視されていた. 他方で, 第3号被保険 者について, 就労時間および年間収入を調整し, 第3号被保険者の適用条件内に留まるこ とに強いインセンティブがあることが指摘されていた*37.
その問題に対応するため, パート労働者については, 学生を除く週間就労時間20時間以 上, 賃金月額98,000円以上 (賞与, 通勤手当, 超過勤務手当除く), 勤続年数1年以上の者 を新たに厚生年金の対象にするとされた. ただし, 事業主の負担能力を考慮して, 従業員 300人以下の事業所については, 特例として別に法律で定めるまでの間, その基準の適用 を猶予するとされた.
2012年(平成24年) 改正法
2007年の通常国会に提出された被用者年金一元化・被用者年金適用拡大法は, 審議未了 のまま2009年の衆議院解散とともに廃案とされた. 民主党,国民新党連立政権下で新たに 被用者年金一元化法, 被用者年金の適用拡大を定めた最低保障機能強化法が提出され, 国 会の審議に掛けられたのは 2012年2月の通常国会であり, 成立したのは2012年8月で あった.新たに成立した被用者年金一元化法は, 多くの部分で2007年改正法と共通してお り, 共済年金の条件を厚生年金に揃え, 2階部分を厚生年金に統合するとされた.
加入要件, 給付面では, 加入年齢の上限が無制限であったものを, 厚生年金に合わせて 70歳とした. 未支給年金の給付範囲が2親等以内の遺族あるいは相続人であったものを, 死亡した者と生計を共にしていた2 親等以内の親族に限定した. 在職老齢年金について は, 賃金と年金給付の合計が 28万円以上であった時に一部または全額が支給停止になっ
*37被用者年金の適用拡大問題については,詳しくは第5章および第8章で論じるが,権丈(2006)や堀(2009) などが強く指摘している.
ていたものを, 60歳代前半であれば賃金と年金給付の合計が28万円を超える場合, 60歳 代後半であれば 46万円を超える場合に一部あるいは全額を支給停止するとした. 障害年 金の支給要件については, 保険料納付期間にかかる条件がなかったものを, 保険料納付済 期間と免除期間の合計が, 年金加入義務期間の3分の2以上に達しなければならないとし た. 遺族年金の転給が認められていた点については, それを認めないとした.
財源面については, 保険料率を, 2007年改正法案と同様に, 厚生年金の保険料率が上限 に達する平成 29年 (2017年) 以降も引き上げ, 私学共済については平成38年(2026年) までに, 公務員共済については平成30年 (2018年) までに厚生年金に揃えるとした. 積 立金の統合についても, 厚生年金の積立金比率相当分を各共済年金の積立金から切り離し, 厚生年金に統合するとした.
事務組織や手続きについても2007年改正法案をほぼ踏襲している. 保険料の徴収, 年 金給付額の裁定,年金の支給は, 従来通り厚生年金分については厚生労働大臣, 共済年金分 については各共済組合が行うとした. 資金の融通については, 各共済組合が徴収した保険 料を拠出金として厚生年金勘定に拠出し, 厚生年金勘定から共済組合にかかる厚生年金給 付を交付金として各共済組合に交付するとした. 毎年の決算報告および定期的な財政検証 については, 厚生年金全体について行うとした. 積立金の運用については, 厚生労働大臣が 運用案を策定し, 関係する大臣協議を通じて決定するとした. 決算報告書については, 厚生 労働大臣が原案を策定し, 大臣協議を経たものを報告書として公表するとした.
2007年改正案と同様に, 制度間格差の象徴とされてきた3階部分は, 従来のものを廃止 し, 現在の共済年金被保険者が既に拠出した保険料分についての取り扱いも含め, 新たに 法律を定めるとした. 共済組合創設以前の就業期間にかかる恩給部分については, 2007年 改正法案と同様に, 27%削減するとした.
被用者年金の適用拡大については, 2007 年改正法案に若干の修正が加えられている. 2012年改正法においては, 学生を除く週間就労時間20時間以上, 月額賃金88,000円以上 (年収106万円以上), 勤続年数1年以上, 従業員規模501人以上の企業に適用するとされ
た*38. 2007年改正法案と比較すると,収入要件については若干拡大されている一方で, 従
業員規模要件についてはむしろ縮小されている.
また, 公的年金の最低保障機能を強化する観点から, 受給資格期間が短縮された. 改正前 は, 25年分以上保険料を納付しなければ老齢基礎年金の受給資格が得られなかった. それ を改め, 10年以上納付すれば受給資格を得られるとされた. 加えて, 次世代育成支援の観 点から, 産前産後休業期間にかかる保険料について, 産前6か月, 産後8か月間の保険料徴
*38従業員規模については, 改正前の基準で適用となる被保険者数で算定するとされた.
2.5 わが国の公的年金の到達点 37