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第 3 章 効率性重視と行動的管理会計

2 手法の相互関係

手法の相互関係について整理する73。リーン・アプローチとシックスシグマの違いは、

それぞれの手法がどのような状況や環境で活用されるかを知ることによって、もたらされ る便益を最大化することができるとファーガソンは主張している74。リーン・アプローチ とシックスシグマの相違を整理すると、図表3-7のように整理することができる。

図表3-7 リーン・アプローチとシックスシグマの相違

区分 リーン・アプローチ シックスシグマ

様 式 理念 プログラム

重 点 経営戦略、組織設計・組織構造、組織

文化、プロセス全体の価値の流れ コスト、品質、事業計画 便 益 組織全体 プロジェクトの範囲内

推進体制 全職員が関与 プロジェクト・メンバーに限定 終 期 永続的に実行 プロジェクト終了時点

(出所)Ferguson, D., “Lean and Six Sigma: The Same or Different,” Management Services, Vol.51, No.3, 2007, pp.12-13.をもとに筆者作成。

シックスシグマが一つのプログラムである一方、リーン・アプローチは理念である。シ ックスシグマでは、プロジェクトチームを設置し、そのプロジェクトに関与しない職員は 除外され、プロジェクトによる便益は特定の部門に限定される。その一方、リーン・アプ ローチは組織全体を含み、組織全体の便益に関連する。シックスシグマは、コスト、品質 および事業計画に重点を置く一方、リーン・アプローチは、経営戦略、組織設計・組織構 造、組織文化およびプロセス全体の価値の流れに重点を置く。

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プラウドラブは、リーン・アプローチがシックスシグマよりも参加型であり、ボトムア ップ型のアプローチであると示されている75。この理由として、プラウドラブは、リーン・

アプローチがより直観力と深い洞察力を職員に求めることに言及している76

さらに、プラウドラブは、リーン・アプローチとシックスシグマの相違点について、次 のように指摘している。「シックスシグマは、根本的な原因や未知の問題解決アプローチで ある。シックスシグマの目的は、プロセスの構成要素を変えることであり、問題に固執す るよりもデータから明らかにされる予測数値を厳密に分析する統計的な方法論から始まる。

その一方、リーン・アプローチは、度重なる試行錯誤による改善活動を通じた問題解決ア プローチである。リーン・アプローチは改善を導き、調整するために活用される77」。シッ クスシグマは、統計解析を活用することによって事業パターンを明らかにし、そのパター ンに導かれて、より安定した計画のもとで事業が執行される。これに対して、リーン・ア プローチは、職員の直観と洞察のもとで、自らの有する問題意識に対して改善活動を実施 していくことになる。リーン・アプローチでは、事業目標が職員間の対話や議論を通じて 導出されるものであり、職員間の意思疎通が重要な要件になる。

プラウドラブは、リーン・アプローチとシックスシグマの比較研究を通して、どのよう な改善アプローチを活用するとしても、組織変革と明確なアプローチが不可欠であると結 論づけている78

シックスシグマとTQMの違いについて、リビアとブラックは「TQMプログラムが、品 質改善というよりも、むしろ組織のコンプライアンスを強調する。その一方、シックスシ グマが、根本的な原因分析によるプロセス改善を重視した組織の利益を強調する79」と述 べている。

シュローダーは、シックスシグマが本質的にTQMよりも規範的であると示している80。 シュローダーによれば、多くの組織がシックスシグマを適用する理由として、シックスシ グマが実務に基づき発展した品質管理のアプローチであり、既にTQMに取り組んでいる 組織が、TQM とシックスシグマを組み合わせることで、さらなる業績の向上を組織にも たらすと主張されている。

ディーンは、TQMの本質、TQMとBPRの相違について次のように言及している81。 ① TQM は、改善活動の結果をフィードバックし、さらなる改善を目指すプロセスを

構築する。

② BPR は、既存プロセスを改善せず、まったく新たなプロセスに入れ替えることで、

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③ BPRには、品質向上プログラムで求められるアプローチとは異なる変革管理のアプ ローチが求められる。

行動的管理会計手法の相違を認識することで、組織の課題を解決するための適切な行動 的管理会計手法を選択することができるとディーンは主張している82。行動的管理会計手 法は、それぞれ強みと弱みを有しており、組織が置かれている環境によって、行動的管理 会計手法を選択して適用することができる。

アールネイターとマレイヤフは、リーン・アプローチとシックスシグマを組み合わせる ことで、互いに弱みを補うと主張し、「リーン・アプローチが、意思決定に向けて、より多 くのデータを活用すべきであり、より科学的な品質管理アプローチを目指すべきである。

その一方、シックスシグマは、組織に内在するムダを除去するために、職員のスキル向上 を目指すべきである83」と述べている。

デディアは、積極的な財政的効果を得るために、「リーン・シックスシグマ」の活用が有 用であることを示唆している。デディアによると「リーン・アプローチはムダを減らし、

プロセスの効率性を向上させることができる。シックスシグマはバラツキを減らし、業績 を向上させることができる。リーン・アプローチとシックスシグマを組み合わせることで、

効果を高めることができる84」と示されている。

アンダーソンは、TQM、シックスシグマおよびリーン・アプローチを組み合わせること で、改善・改革への活用を示唆している。「手法を組み合わせることによって、それぞれの 手法の弱みを互いに補うことができる。多くの組織は TQMを適用しているが、改善効果 との因果関係を明確に定量化できない。シックスシグマは、組織内の全職員を関与させる 環境を創り出すことができない。リーン・アプローチは、柔軟性が欠如している85」。

アンダーソンは、この3手法を組み合わせることで得られる効果を次のように言及して いる86。TQMによって得られる効果は、業績の向上、顧客満足度の向上、市場占有率の向 上および収益性の向上である。シックスシグマによって得られる効果は、収益性の向上で ある。リーン・アプローチによって得られる効果は、運営(処理時間の短縮、生産性の向 上、在庫の削減)、管理(処理誤差の縮小、顧客サービスの簡素化)、戦略(コストの削減)

の3つの領域にあるとしている。

より効果的に行政サービスの効率化を図るためには、行動的管理会計手法の適用を適切 に行う必要がある。行動的管理会計手法の違いを認識することは、どの手法が自らの組織

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に適合するかの前提問題になる。行動的管理会計手法そのものを理解することによって、

期待できる成果を予測することができる。組織の置かれている環境や、組織が有する課題 解決に向けて組織に適合する手法を選択して適用することが重要である。また、行動的管 理会計手法を組み合わせて、組織に適合させることも可能となり、組織目的に適合する手 法の検討が必要となってくる。

(注)

1 キャプランは「管理会計の主たる機能は、組織的に望ましい行動に影響を与えること」と言及し ている。Caplan, E. H., Management Accounting and Behavioral Science, Addison-Wesley, 1971.

山口年一監訳、安国一・笹井賢治共訳『管理会計と行動科学』白桃書房、1976年、62頁。

2 岡本清・廣本敏郎・尾畑裕・挽文子『管理会計(第2版)』中央経済社、2008年、13頁。

3 『同上書』、14頁。

4 American Accounting Association, A Statement of Basic Accounting Theory, 1966. 飯野利夫訳

『基礎的会計理論-アメリカ会計学会』技報堂、1969年、55頁。

5 Beyer, R., Profitability Accounting for Planning and Control, The Ronald Press, 1963, pp.16-17.

6 Anthony, R. N., Planning and Control Systems: A Framework for Analysis, Harvard Business School Press, 1965. 高橋吉之助訳『経営管理システムの基礎』ダイヤモンド社、1973年、20-25 頁。

7 Caplan, E. H., op.cit. 山口年一監訳、安国一・笹井賢治共訳『前掲書』、3-4頁。

8 Ibid. 『同上書』、4頁。

9 American Accounting Association, “Report of the Committee on Behavioral Science Content of Accounting Curiculum,” The Accounting Review, Vol.46, 1971, p.247.

10 American Accounting Association, “Report of the Committee on the Relationship of Behavioral Science and Accounting,” The Accounting Review, Vol.49, 1974, p.127.

11 広原雄二『活動を基準とした管理会計手法の展開と経営戦略論』創成社、2011年、1頁。

12 廣本敏郎「市場・技術・組織と管理会計」『一橋論叢』第132巻、5号、2004年、601頁。

13 管理会計の進展により、活動基準原価計算や制約理論(Theory of Constraints)、バランス・ス コア・カードといった行動的管理会計手法も開発されており、既にわが国においても多くの研究が なされている。しかしながら、これらの手法はわが国地方自治体への顕著な普及が見られず、実現 可能性が低い、あるいは高度な専門的知識が必要と考えられるため、文献調査の対象から外した。

14 Radnor, Z., Review of Business Process Improvement Methodologies in Public Services, Advanced Institute of Management Research, 2010a.

15 ラドナーは、AIMRの調査担当を務めているだけでなく、ウェールズ議会、英国会計検査院およ び英国内閣府の委員会メンバーを務めており、英国におけるオペレーション・マネジメント研究の 第一人者である。ラドナーは、スコットランド政府、英国歳入関税庁、英国裁判局等から受託研究 を受けており、多くの研究実績を有している。

16 Radnor, Z., op.cit., 2010a.

17 Womack, J. P. and D. T. Jones, Lean Thinking: Banish Waste and Create Wealth in Your Corporation, Simon & Schuster, 1996. 稲垣公夫訳『リーン・シンキング』日経BP、2003年、

22-45頁。

18 Ibid. 『同上書』。

19 Holweg, M., “The Genealogy of Lean production,” Journal of Operations Management, Vol.26, No.2, 2007, p.427.

20 Womack, J. P. and D. T. Jones, op.cit. 稲垣公夫訳『前掲書』、22-45頁。

21 「プル」とは、製造工程における後行程引取方式を指している。製造工程において、必要なとき に、必要な量だけを前工程に要求し、製品を完成させることで、過剰な在庫の製造を削減する利点 がある。プルの反対を示すのが「プッシュ」であり、押込生産方式を指す。