第 8 章 NPG における「住民の関与」「組織間関係の形成」とパートナーシップ
2 コ・プロダクションの普及状況
ラフラーによって2008年に実施された調査では、図表8-1に示されるように、ほぼ半 数の住民が公共サービスに関与した経験があることが示されている13。この調査において、
英国、独国、チェコ、仏国、デンマークに在住する1,000人の住民を対象にインタビュー を行うことで、コ・プロダクションの普及状況について評価している。この評価は、100 を最大値として各国の普及状況が示されている。図表 8-1 から欧州諸国では、コ・プロ ダクションが住民に普及し、ほぼ半数の住民が地域に寄与する活動に関与していることが 読み取れる14。
図表8-1 欧州諸国におけるコ・プロダクションの普及状況
(出所)Loffler, E., et al., “If You Want to Go Fast, Walk Alone. If You Want to Go Far, Walk Together” Citizens and the Co-Production of Public Services, 2008, p.25.
英国 独国 チェコ 仏国 デンマーク
最小 最大
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ペストフによると、コ・プロダクションが注目されるようになった背景は、1996年にエ リノア・オストロム15による論文が公表されたことにある16。この論文において、オストロ ムは、地域の治安を改善していくためには、警察だけでなく、住民も協力していくことが 重要であると示し、コ・プロダクションに関して、公的機関による中央集権的な統制より も、個々の地域課題に向けた小規模かつ多元的な組織の方が相乗効果を起こしやすいと主 張している17。また、オストロムは、コ・プロダクションによる公的機関と住民との関係 を図表8-2として説明している。
図表8-2 コ・プロダクションによる公的機関と住民との関係
(出所)Ostrom, E., “Crossing the Great Divide: Coproduction, Synergy, and Development,”
World Development, Vol.24, No.6, 1996, p.1080.
そもそも、公的機関と住民とのインプットが代替可能であれば、相乗効果を導出するこ とはない。そのため、このような場合は公的機関と住民はインプットを分割しているに過 ぎず、コ・プロダクションの利点はない。仮に、公的機関のインプットのみで、最も効果 的なアウトプットを導出できるのであれば、住民からのインプットは不要になる。図表 8
-2は、公的機関と住民とのインプットが補完的である場合のアウトプットを曲線Qで示 している。図表8-2では、公的機関のインプット(An)と住民のインプット(Cn)を組み 合わせて、アウトプットが導かれることになる。オストロムは、コ・プロダクションを図 表 8-2 のように示し、公的機関のインプットを補うように住民のインプットが求められ ることを説明している。特に、地域の治安を改善していくために、公的機関と住民がとも にインプットを提供することで、相乗効果を導出することが重要であることをオストロム は示している。
つぎに、ボイルは、コ・プロダクションが注目されるようになった背景にはNPMによ る行政改革にあると主張している18。ボイルは、これまでにコ・プロダクションの概念が 浸透しなかった理由を、中央集権的な目標設定、市場原理主義、標準化といったNPMの
A2
A1
C2 C1
Q:アウトプット 公的機関のインプット
住民のインプット
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考え方によって、地方自治体のサービスが制限されてしまったことにあると主張し、英国 地方自治体の NPM による行政改革を批判している。その一方、ペストフは、NPM の行 政改革により多くの公的機関がアウトソーシングを行ったことで、第3セクターの役割が 高まったと主張している19。つまり、ペストフによると、英国では、多くの第 3 セクター を介して、コ・プロダクションが取り組まれるようになったと主張されている。
筆者は、2015年 7 月7 日にランベス・ロンドン特別区の政策担当部長のジェイムソン に英国におけるコ・プロダクションの現状についてインタビューを行った。ジェイムソン によると、2010 年に英国政府からの補助金が大幅に削減されることになり、年間で 200 万ポンドの資金不足をランベス住民に求められたことがコ・プロダクションに取り組むよ うになった主要因であることが示された。そのため、これまでに公共サービスに投資して いたコストの削減を図るとともに、限られた財源のなかでサービス水準を維持していくた めに、住民が必要するサービスに財源配分を行うことを地方自治体に求めた。このことに よって住民と地方自治体との力関係に変化が生じたことをジェイムソンによって言及され た。ランベス・ロンドン特別区は、多くの若者が存在しているが、今後、高齢化が進むこ とを住民が認識しており、住民は、高齢化に備えた支援に財源を配分するよう地方自治体 に要求したのである。ランベス・ロンドン特別区におけるコ・プロダクションは、財源不 足に伴う公共サービス水準の低下を回避するために、住民が自治体と合意形成を図り、協 働することで、今後の公共サービスのあり方を検討したことが背景にあった。
筆者は、2015年 7 月6 日にエジンバラ・ビジネススクールのステファン・オズボーン にインタビューを行った。オズボーンによると、2011年にスコットランド政府の独立機関 であるクリスティー委員会によって公表された『公共サービスの将来(Commission on the Future Delivery of Public Services)』の一つの要点としてコ・プロダクションが位置づけ られたとの回答が得られた。この報告書には、スコットランドにおける公共サービスの改 革プランが示されている。この報告書には、財政逼迫に加え、人口減少によって、調達可 能な財源が減少していくことが予測されており、公共サービス改革を推進していく手段と して、地域コミュニティーとの連携が不可欠となり、住民とともに改革を実現していく必 要性が示されている20。
筆者は、2015年7月11日にバーミンガム地方自治体研究所のアイリーンにインタビュ ーを行った。アイリーンによると、近年、公共サービスの財源を捻出するため、バーミン ガム市の職員数が半減されていることが示された。図表 8-2 に照らすと、バーミンガム
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市が公共サービスの提供水準を維持していくためには、半減された職員数を他のインプッ トで補填する必要がある。半減された人件費を金銭的資源として補填することも想定でき るが、そのすべてを補填することは難しい。そのため、半減された職員数で住民に従前と おりのサービスを提供するためには、インプットの不足分を住民が補完する必要があり、
このことにより、サービス水準を維持することが可能になる。
ジェイムソン、オズボーン、アイリーンへのインタビュー調査を踏まえると、英国にお いてコ・プロダクションが重要な役割を果たしていることが理解できる。図表 8-1 に示 されるように、英国において最もコ・プロダクションが普及されているが、英国でのイン タビュー調査から、さらなる普及が期待できる。英国では、コ・プロダクションを通じて、
公共サービスにおける財源を相互に補完することが意図されていることが明らかになった。
ボベールとラフラーは、コ・プロダクションのアプローチを図表 8-3 に示されるよう に、①コ・コミッショニング(Co-Commissioning)、②コ・デザイン(Co-Design)、③コ・
デリバリー(Co-Delivery)、④コ・アセスメント(Co-Assessment)に分類している21。 ボベールとラフラーは、コ・プロダクションのアプローチを分類することで、さまざまな サービス活動にコ・プロダクションの概念を広く適応させている。
図表8-3 コ・プロダクションの分類
コ・コミッショニング 地域政策の策定やその実施活動、優先するサービスへの財源配分、財 源調達の方法に公的機関と住民がともに関与していくことである。
コ・コミッショニングは、財源の使途に関して議論し、事業への資源 配分の検討をサービス利用者や住民に求めることが特徴である。
コ・デザイン 協議会に住民が参加することである。つまり、公共サービス提供に組 織外部に位置づけられる住民の視点を取り入れることで、公共サービ スにイノベーション生成を企図している。そのため、多くの場合、コ・
デザインでは、住民の経験を基礎として公共サービスが試行されるこ とになる。
コ・デリバリー 公的機関と住民が協働することにより、サービスを提供していくこと である。公的機関と住民が互いの知識、経験、技能、時間、労力を持 ち寄ることで、公共サービスを効果的に提供することである。つまり、
住民がサービス提供プロセスに関与することで、住民は迅速にサービ ス提供から導出される結果を認識することができる。さらに、公的機 関と住民は、サービス提供手段やその質的向上に向けた改善の程度を 共有することができる。
コ・アセスメント 公的機関の管理者や職員は、住民がサービス提供をどのように感じて いるかを認識するために、公共サービスの評価に住民を関与させるこ とである。つまり、公的機関や公共サービスの改善に向けて住民の意 見を取り入れることである。
( 出 所 )Bovaird, T. and E. Loffler, We’re All in This Together: User and Community Co-Production of Public Outcomes, Institute of Local Government Studies Third Sector Research Centre, 2012, pp.4-11.