第 6 章 NPG における「柔軟性」とイノベーション
2 イノベーション指標
NESTA におけるイノベーション指標の開発では、正確性(Accuracy)と比較可能性
(Comparability)を考慮して、長期的な視点で公共サービスのイノベーションを把握で きるような指標が研究されている。正確性を考慮するために、NESTA は広範にわたる地 方自治体のイノベーション事例や先行研究を調査している。正確性は、行政組織でイノベ ーションがどのように生成し、どのような効果を導出しているかを把握するための視点で ある。比較可能性は、さまざまな行政領域の違い、地方自治体と民間企業の違い、諸外国 との違いから、イノベーションの生成を明らかにするための視点である。NESTA は、正 確性と比較可能性の2つの視点から国民保健サービス(National Health Service:NHS) と地方自治体を調査することで、イノベーション指標の開発に取り組んでいる。
NESTAのイノベーション指標の開発では、地方自治体と民間企業の相違を明らかにし、
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民間企業とは異なる指標を開発することが強調されている21。その明らかとなった重要な 相違は、価値の定義と組織の運営方法の2点である。第1に、公共サービスにおけるイノ ベーションでは、経済的価値だけでなく、社会的価値への影響も評価する必要がある。そ のため、地方自治体と民間企業では、価値の捉え方が異なっている。第2に、地方自治体 は、数多くの制度を定め、その制度に基づき行政活動がなされており、地方自治体は、行 政活動を通じて、経済社会に与える効果を促進する立場にいる。そのため、民間企業に比 べて、地方自治体は自由裁量が少ない。このような相違を認識し、NESTA は、公共サー ビスのイノベーション指標、イノベーション・フレームワークの開発を行っている。
NESTA の研究では、イノベーション指標を開発することによって、①政策担当者や調
査員がさまざまな分野でイノベーションを促進する要因を理解すること、②公共サービス 提供者がイノベーション、業績、基礎的能力の水準を認識することが期待されている22。
NESTAの研究では、イノベーション指標として「組織業績への影響」「イノベーション生
成に向けた活動」「内部環境としての組織能力」「イノベーションを助長する外部環境」が 示されている。イノベーション指標は、イノベーションを認識するために英国政府から開 発研究が求められたものであり、公共サービスにおけるイノベーション生成を促進する尺 度となることが期待されている。
指標の開発に際して、NESTAは、2010年に388のNHSと353の地方自治体を対象に イノベーション生成に関する事例を調査している。この調査では、それぞれの組織の事務 総長、部長級など、行政運営に責任を有する人物を対象としてインタビュー調査が実施さ れている。この調査は、①イノベーション生成のパターン、②イノベーション生成の基盤、
③イノベーションが生成している組織環境の分析の3つの視点に焦点が置かれている。こ の3 視点をもとにした調査によって、図表6-4 に示されるイノベーション指標の開発が 行われた。
図表6-4 公共サービスにおけるイノベーション指標
指 標 分 類 細 分 類
組織業績への影響 重要な業績指標の見直し 重要なアウトプット指標の再設定 重要なアウトカム指標の再設定 評価制度の見直し 住民ニーズの反映
効率性の向上 効率性/生産性指標の再設定 組織風土改革 改善活動の実施状況
イノベーション生 成に向けた活動
斬新なアイデアの活用 活動量と種類 斬新さ
活用範囲(全体・内部・外部)
アイデアの開発 全体的 選択的
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資源配分的 多目的 試行的 アイデアの実行 全体的に実行
効果の測定 訓練
アイデアの普及 アイデアの共有 内部環境としての
組織能力
リーダーシップと組織文化 包括的な思考
管理職のビジョンと熱意 イノベーションの優先順位づけ リスク負担とその対応
職員とサービス利用者への配慮 アイデアを創出するための余地 継続的なリーダーシップ イノベーションの管理 組織目標との調整
投資水準
イノベーションの普及状況 専門家の活用
リスクの管理 イノベーションを促進する要因 経営情報
関連性
インセンティブと報酬 ICTインフラ
技術支援の活用 イノベーションを
助長する外部環境
インセンティブ 包括的な思考
需要 競争性 業績目標 透明性
顧客への説明責任 法令
自発性 柔軟な地域戦略への対応
イノベーションの機能 柔軟な予算配分 独自性・独創性 法定根拠
リーダーシップと組織文化 イノベーションに向けたビジョン と熱意
職員とサービス利用者への配慮 協働意欲
短期・中期・長期目標 助長する要因 業績データの比較
外部組織のベスト・プラクティス 共同化
ITシステムの活用
イノベーションへの資金援助
(出所)Hughes, A., K. Moore and N. Kataria, Innovation in Public Sector Organisations: A Pilot Survey for Measuring Innovation across the Public Sector, 2011, pp.52-53.
イノベーション指標では、①イノベーション生成のパターンの視点として、イノベーシ ョン生成に向けた活動が最も重要な指標であることが示されている23。つまり、公共サー ビスにイノベーションを生成させるためには、図表6-4に示される「組織業績への影響」
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「イノベーション生成に向けた活動」「内部環境としての組織能力」「イノベーションを助 長する外部環境」という 4 つの指標のうち、「イノベーション生成に向けた活動」が最も 重要な指標であることが示されている。このイノベーション生成に向けた活動では、類似 する外部の組織からベスト・プラクティスに関する情報を得ることで、自らの組織にイノ ベーションを引き起こしていることが示されている24。その活動の多くは、現場職員によ る活動であり、現場職員のアイデアが公共サービスのイノベーション生成を促進している ことが示されている。
②イノベーション生成の基盤では、内部環境としての組織能力が最も重要であることが 示されている25。特に、イノベーション生成に向けた活動基盤として、組織の方針や目標 が策定されているかどうか、また、その方針や目標によって職員が動機づけられているか どうかが重要であると示されている。組織がイノベーション生成に向けて、明確な方針と 目標を定め、現場職員の活動を促進しているかどうかが重要である。
③イノベーションが生成している組織環境では、住民へのフィードバックが最も重要で あることが示されている26。つまり、住民への説明責任を果たすために、組織の業績を明 らかにするとともに、行政手続きの透明性を高めていく重要性が示されている。
このようにNESTAでは、英国地方自治体におけるイノベーションの調査研究が行われ ており、どのようにして公共サービスにイノベーションを生成させるかの研究に取り組ま れている。英国では、その一つの方策として、イノベーションの定量化が試みられており、
イノベーション指標の開発が行われている。