第 9 章 ニュー・パブリック・ガバナンスに基づく地方自治体の業績向上と今後の課題
Ⅱ 行動的管理会計アプローチによる地方自治体の業績管理
第1章では、わが国地方自治体における行政評価の現状と課題として、行政評価は業績 測定および業績報告の機能を有するが、業績管理として機能していないことを指摘した。
わが国の行政改革を推進するツールとして行政評価が位置づけられたが、総務省の調査結 果から、行政評価が行政運営の効率化や成果志向に主眼を置き、目的志向や顧客志向に主 眼を置いていないという現状を指摘した。
地方自治体の業績は、一般財源に対するアウトカムを評価することで明らかにできる。
地方自治体の業績を向上させるためには、より少ない一般財源でアウトカムを創出するこ とが必要である。一般財源に対するアウトカムは、一般財源、インプット、プロセス、ア ウトプットおよびアウトカムにプロセス展開でき、経済性、効率性、達成度および有効性 で評価できることを確認した。それぞれの視点において導出される数値を向上させるよう に行政経営資源を配分する必要性がある。さらに、アウトカムを施策と事務事業に識別し、
事務事業のアウトカムがいかに施策のアウトカムに寄与できているかといった政策体系に 沿って、地方自治体の業績管理を行う必要性を示した。
そして、API(Advanced Performance Institute)による効果的な業績管理の10原則、
EU共通評価フレームワーク(CAF)、英国行政サービス改革モデルを考察し、諸外国の地 方自治体における業績管理が、行政活動から導出される成果を評価し、さらなる改善・改 革に向けたフィードバックが企図されており、戦略的かつ体系的なアプローチであること を示した。
以上の検討から、以下の4つの研究課題を示した。
第1に、わが国の行政評価が、業績測定や業績報告の機能を有しているが、業績管理の 機能を有していないことがあげられる。業績向上のためには、行政評価から導出された評 価をもとに、改善活動を実践し、マネジメント・サイクルの展開を企図していく必要があ る。
第 2 に、わが国の行政評価が、効率性を中心とした事業目標の達成が強調されるため、
全体最適を企図した地方自治体の業績を向上させるという視点が欠如していることがあげ られる。
第3に、わが国地方自治体は、行政活動の結果を強調するあまり、望ましい成果を促進 する要因への配慮が欠如していることがあげられる。
第4に、顧客志向が欠如しているため、行政サービスが住民にどのような価値をもたら
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しているかという利害関係者への最終的な価値を考慮していないことがあげられる。行政 評価が活動結果の評価に過ぎなく、受益者たる住民や利害を有する外部関係者との関係性 を考慮する必要がある。
これらの課題を解決するために、第2章以降において検討を行った。
第2章では、わが国地方自治体が2000年以降に取り組み始めた業務改善運動に着目し、
第1の課題について検討を行った。
業務改善運動は、自発的な職員の行動を促し、改善活動を通じて達成感や職場での連帯 感を醸成する有効な取り組みである。全国都市改善改革実践報告会を開催した自治体を先 進自治体として抽出し、各自治体における業務改善運動の取り組みを考察した。多くの先 進自治体では、行政改革プランに業務改善運動が位置づけられており、行政改革を推進す る取り組みとして期待された。特に、山形市、尼崎市および北上市では、行政評価による 評価結果に対して改善・改革を実践していくことで、業務改善運動を通した行政改革の推 進が期待された。
先進自治体における改善事例の類型化から、先進自治体の業務改善運動が行政サービス の有効性向上を重視する傾向にあることを明らかにした。考察対象とした自治体では、職 員の創意工夫により行政サービスの質を向上させることを目標にした改善活動や、業務プ ロセスを標準化することでサービスの質的バラツキを低減させる改善活動に取り組まれて おり、行政サービスの有効性向上に向けた取り組みが重視されていた。その一方、コスト 削減を企図して行政サービスの効率性向上を重視する自治体もあり、三条市は、強力なト ップ・マネジメントによって、業務改善運動を推進し、人員数と超過勤務時間の削減を通 して、行政運営の効率性向上を図っていた。
第2章の検討から、業務改善運動の課題として次の2点を指摘した。
① 業務改善運動には、活動成果をフィードバックさせるといった改善・改革に向けた マネジメント・サイクルが展開されていない。
② 業務改善運動は、行政サービスの有効性に加え、効率性を向上させることを企図す べきである。
この2点の指摘を集約すると、地方自治体の業務改善運動は、多くの職員を改善活動に 関与させ、改善文化の醸成といった点で行政改革を推進するが、業務改善運動がいかに政 策目的に寄与できているかという視点が欠如していると指摘できる。すなわち、地方自治 体の業務改善運動には、行政運営の最適化を図るという視点が欠如していると整理できる。
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行政サービスの提供は、担当部署に職務が明確に割り当てられており、自治体職員は自 らの職務の遂行に専念するため、他の部署が担当する職務に関心を持つことがない。すな わち、行政システムがタテ割りになっているため、職場単位の改善活動が、いかに組織全 体の改善・改革に寄与できるかという発想を持ちにくい側面がある。
山形市、尼崎市および北上市では、業務改善運動を通して、行政評価による評価結果に 対して改善・改革を実践していくことが示されていたが、第2章における業務改善運動の 類型化を踏まえると、行政評価による評価結果と業務改善運動が連動しているとはいえな い。行政評価から導出される評価結果に基づき、改善活動を実践していくことで、行政運 営の最適化が図れる。すなわち、行政評価を地方自治体の業績管理として機能させるため には、業務改善運動と行政評価を連動させる必要がある。
2000年以降、わが国地方自治体は、業務改善運動に積極的に取り組んできた。地方自治 体の業績管理に資するためには、行政システム全体の最適化に視点をあてた業務改善運動 を行う必要がある。しかしながら、業務改善運動は、現場職員を起点とした改善・改革に 向けた活動であり、前述のように行政システムがタテ割りとなっているため、事務事業に 限定された改善・改革に過ぎない。このことから、地方自治体の業務改善運動は、現場職 員を起点としたボトムアップによるオペレーションの改善・改革と整理できる。
業務改善運動がいかに政策目的に寄与できているかという課題に対して、トップダウン による組織マネジメントと、ボトムアップによるオペレーションの改善・改革を結びつけ ることで、解決策を見出すことができる。「①業務改善運動には、活動成果をフィードバッ クさせるといった改善・改革に向けたマネジメント・サイクルが展開されていない」とい う課題には、トップダウンにより現場職員の行動に影響を与え、行政評価から導出される 評価結果に対して改善活動を実践していくように職員を動機づけることで、解決策を見出 すことができる。「②業務改善運動は、行政サービスの有効性に加え、効率性を向上させる ことを企図すべき」という課題には、管理会計情報をもとにした評価基準を設定するよう に行政評価を再設計することで、効率性と有効性の双方の視点から行政活動を評価するこ とができる。すなわち、管理会計情報の活用を通してトップ・マネジメントが行政評価で 用いられる評価基準の設定に関与し、組織を方向づけることで、解決策を見出すことがで きる。
第3章では、第2の課題について検討するために、行動的管理会計手法に着目しトップ ダウンによる組織マネジメントと、ボトムアップによるオペレーションの改善・改革を結
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びつけるツールとして、行動的管理会計手法の概念整理を行った。
管理会計が経営管理過程のあらゆる段階で人間の行動に影響を与える重要な役割を果た している1という特徴を踏まえ、経営管理手法は、管理会計の一部として捉えることができ、
その領域を行動的管理会計と位置づけた。管理会計の史的変遷から、管理会計に行動科学 の理論や手法を含め検討が加えられていることを示し、職員の自発性や創造性に焦点をあ てた新たな組織マネジメントとして、組織全体の業績向上に資する役割が管理会計に期待 されていると整理した。
行動的管理会計手法の整理では、ラフバラ大学のラドナー教授へのインタビュー調査を もとに、リーン・アプローチ、シックスシグマ、ビジネス・プロセス・リエンジニアリン グ(Business Process Reengineering:BPR)、総合的品質経営(Total Quality Mana-gement:TQM)およびベンチマーキングを抽出した。ラドナー教授へのインタビュー調 査では、英国地方自治体における財政的な困窮を回避する手段として、効率性を重視した 行動的管理会計手法の適用が検討されていることが示された。
これらの5つの手法を整理することで、①継続的な改善活動、②非付加価値活動の排除、
③より良いプロセス・フロー、④品質改善による組織運営の効率化の4つの効用を有して いることを示した。行動的管理会計手法の適用が、行政サービスの効率性向上に資するア プローチになり得ることを示した。その一方、5つの手法は、それぞれ特徴を有しており、
行動的管理会計手法の適用に向けて、①導出される成果、②成果の導出に要する期間、③ 手法に投資可能なコスト、④関与可能な職員数、⑤外部支援の有無という5つの条件から、
どの手法が組織環境や組織目的に適合しているかを判断しなければならないことを示した。
加えて、行動的管理会計手法が排他的なものでなく、手法を組み合わせることで、相乗効 果が期待できることを示した。
続く、第4章では、行政サービスの有効性向上に着目して、第3の課題について検討を 行った。行政サービスの有効性向上は、地方自治体の政策目的や施策目的の実現に向けて、
継続的に改善・改革に取り組むことで達成されると位置づけた2。行動的管理会計手法の適 用における成功要因および阻害要因を整理し、継続して成果を導出していくために、改善・
改革の持続可能性に着目した。
行動的管理会計手法の成功要因として、①リーダーシップ、②コミュニケーション、③ 業績測定システム、④職員の能力開発を取り上げて、整理を行った。取り上げた4つの成 功要因のすべては、人の行動に与える影響を基礎としている。強力なリーダーシップのも