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柔軟性を背景とした官官連携によるイノベーション

第 6 章 NPG における「柔軟性」とイノベーション

3 柔軟性を背景とした官官連携によるイノベーション

Tri-Borough Workingの取り組みを公共サービスにおけるイノベーション・フレームワ

- 123 - ークの4指標から次のように整理することができる。

組織業績への影響では、官官連携によるイノベーションが3自治体の効率性および住民 満足度の向上に寄与している。イノベーション生成に向けた活動では、これまで3自治体 で蓄積されてきた知見を共有することを可能にしている。内部環境としての組織能力では、

3 自治体の CEが『Tri-Borough 計画』を示し、リーダーシップを発揮している。イノベ ーションを助長する外部環境では、単独自治体ではなく、複数の自治体で行政サービス提 供の共同運営を行うことで、官官連携に取り組んでいる。

Tri-Borough Workingの取り組みでは、内部事務の共同運営による中間管理職ポストの

削減によって、行政コストが削減されている。Tri-Borough Workingの取り組みは、ホル ゲイトにインタビュー調査を行った時点では、当初計画の中間評価が明らかになった段階 であるが、その計画で7,000,000ポンドのさらなる歳出削減を見込んでおり、計画以上の 成果が期待されている。さらなる改善として、職員給与システムといった IT システムの 統合や、市営住宅といった資産管理の統合によって経費削減を計画している。好調な改善 成 果 を 導 出 し て い る 3 自 治 体 は 、 引 き 続 き 連 携 す る こ と で 、2017/18 年 度 ま で に

145,000,000ポンドの財源不足を補てんすることを期待している。

Tri-Borough Workingの官官連携から得られる重要な示唆は、自治体間が相互に情報や

知見を共有し、互いの利権に捉われずにイノベーティブな政策を進めたことにある37。ハ ンマースミス&フルハム、ケンジントン&チェルシー、ウエストミンスターの 3 自治体は 地理的にも隣接していることから、同じ経済圏域に位置している。その利点を活かし、そ れぞれの自治体が抱えている課題解決に向けて、ともに取り組んでいる。特に、3 自治体 の議会は異なる政党が与党であるため38、官官連携を円滑に進めていく決議は容易なこと ではないはずである。しかしながら、財政危機を回避するために、自治体間で連携し、と もに知恵を出し合うことで、新たなリーダーシップの形態を創り出したのである。その結 果、歳出削減という効率性と住民サービス向上という有効性をともに達成しているといえ る。これは、価値創造によるイノベーションの生成を実現した取り組みであるといえる。

英国では、行政サービスの改善は、地方自治体を現代化するための主要な要因となって いる。地方自治体を含めた他の組織と戦略的に連携することは、地方自治体がより高い水 準の行政サービスを提供するための重要な戦略になっている39。パートナーシップを通じ たサービス提供主体の合理化は、より効率的かつ有効的なイノベーションの生成につなが る。多様な組織の知見と経験を融合し、新たな手段で革新的なアプローチを提供すること

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で、行政サービスに急進的な変化をもたらすことができる。組織間連携、つまりパートナ ーシップの形成は、規模の経済を達成するとともに、不十分な専門技術を互いに補完する ことで、より効果的な行政サービスの提供手段や新たな予算調整に取り組むことができる のである。

(注)

1 本章では、地方自治体が主体となって提供するサービスを「行政サービス」、地方自治体に加え、

民間企業、NPO、住民団体が地域のために提供するサービスを「公共サービス」として区分してい る。

2 2010年内閣府に設置された新しい公共円卓会議によって、行政組織、民間企業、住民団体がそれ

ぞれの役割をもって公共サービスに参加し、協働の場を創設する必要性が提言されている。

3 本章では、公共サービスにおいて地方自治体が提供するサービスを「地方公共サービス」と位置 づけている。

4 Schumpeter, J. A., Theories der Wirtschaftlichen Entwicklung, 2. Aufl., 1926. 塩野谷祐一・中 山伊知郎・東畑精一訳『経済発展の理論(上)』岩波書店、1977年、182頁。

5 Ibid. 『同上書』、182-183頁。

6 Rogers, E. M., Diffusion of Innovation Fifth Edition, Free Press, 2003. 三藤利雄訳『イノベーシ ョンの普及』翔泳社、2007年、16頁。

7 Christensen, C. M., The Innovator’s Dilemma: When New Technologies Cause Great Firms to Fail, Harvard Business School Press, 1997. 玉田俊平太監修・伊豆原弓訳『イノベーションのジ レンマ-技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社、2001年、8-11頁。

8 楠木健「クリステンセンが再発見したイノベーションの本質」『ハーバード・ビジネス・レビュー』

38巻、第6号、2013年、51頁。

9 OECD, Oslo Manual: Guidelines for Collecting and Interpreting Innovation Date 3rd Edition, 2009, p.46.

10 Chesbrough, H., Open Innovation: The New Imperative for Creating and Profiting from Technology, Harvard Business School Press, 2003. 大前恵一朗訳『オープン・イノベーション-

ハーバード流イノベーション戦略のすべて』産能大出版部、2004年。

11 Prahalad, C. K. and Ramaswamy, V., The Future of Competition, Harvard Business Review

Press, 2004. 有賀裕子訳『コ・イノベーション経営-価値共創の未来に向けて』東洋経済新報社、

2013年、57頁。

12 Audit Commission, Seeing the Light: Innovation in Local Public Services, 2007, p.4.

13 Hartley, J., “Innovation in Governance and Public Services: Past and Present,”Public Money and Management, No.25, Vol.1, 2005, pp.31-32.

14 3章を参照されたい。

15 Hartley, J., op.cit., p.32.

16 Council on Competitiveness, Innovate America: Thriving in a World of Challenge and Change, 2005.

17 チェスブロウは、サービス活動と製造活動の違いを次のように述べている。「製品を取引する場合、

製品は結果というよりも望ましい結果を得るための手段である。製品が売られると、製品提供者の 仕事は完了する。製品を使って理想的な結果に到達する責任は利用者にある。一方、サービスの取 引では、サービス提供者の仕事はニーズが満たされるまで終わらない」。

Chesbrough, H., Open Innovation: Rethinking Your Business to Flow and Compete in New Era,

Jossey-Bass, 2011. 博報堂大学ヒューマンセンタード・オープンイノベーションラボ監修・監訳

『オープン・サービス・イノベーション-生活者視点から、成長と競争力のあるビジネスを創造 する』阪急コミュニケーションズ、2012年、57頁。

18 Hartley, J., op.cit., pp.27-30.

19 Brown, L. and S. P. Osborne, “Risk and Innovation: Towards a Framework for Risk Governance in Public Services, Public Management Review, Vol.15, No.2, 2013, p.187.

20 英国イノベーション・大学・技能省(Department for Innovation, Universities and Skill: DIUS)

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は、『イノベーション国家』においてNESTAに、技術戦略委員会(Technology Strategy Board)

や先端的技術研究所などの機関と協力して、イノベーション指標を開発することを依頼している。

21 National Endowment for Science, Technology and the Arts, The Innovation Index: Measuring the UK’s Investment in Innovation and Its Effect, 2009.

NESTAは、イノベーション・プロジェクトの結果として、2011年に4つのイノベーション指標

の報告書を公表している。

22 Hughes, A., K. Moore and N. Kataria, Innovation in Public Sector Organisations: A Pilot Survey for Measuring Innovation across the Public Sector, 2011, p.4.

23 Ibid., p.10.

24 Ibid., p.16.

25 Ibid., p.23.

26 Ibid., p.18.

27 Ibid., pp.48-51.

28 PPPは、Public Public Partnershipの略であり、わが国には浸透していない概念である。わが国 PPPは、Public Private Partnershipの略と認識されることが多い。2014312日にラマ ダバーミンガムホテルで、ボベールにインタビューを行い、新たなPPPとして示された。

29 自治体間連携の必要性については、次の文献が詳しい。石原俊彦・行正彰男「地方公共サービス のイノベーションとガバナンス(1) 第30次地方制度調査会答申『広域連携等』に対応した新しい 予算編成手法の開発-財務的協働(ファイナンシャル・コラボレーション)の新手法を垣間見る」

『地方財務』第710号、2013年、75-86頁。

30 この構想は、20112月に『Tri-Borough計画(Tri-Borough Proposals Report: Bold Idea for Challenging Times)』で明らかにされた。

31 Westminster City Council, the London Borough of Hammersmith and Fulham and the Royal Borough of Kensington and Chelsea, Tri-Borough Proposals Report: Bold Ideas for Challenging Times, 2011, p.10.

32 Ibid., p.7.

33 Ibid., p.8.

34 Westminster City Council, the London Borough of Hammersmith and Fulham and the Royal Borough of Kensington and Chelsea, Tri-Borough One Year: Delivering Our Promise to Improve Lives and Make Public Funds Go Future, 2012, p.5.

35 Ibid., p.2.

36 201474日、ハンマースミス&フルハム特別区で行ったニコラス・ホルゲイト事務総長のイ

ンタビューによる。

37 筆者が201474日の実施したインタビュー調査では、ホルゲイト事務総長、財務担当のレ イチェル・ウィグリー、児童サービス担当のクレラ・チェンバーレイン、図書館サービス担当のト ニー・ロイドが同席し、レイチェルは、Tri-Borough Workingの重要な成功要因として、3自治体 における情報共有に伴い職員が動機づけられたことを示した。たとえば、財務担当の職員は3自治 体すべての財務管理に関与するため、3自治体の職員と交流がなされることになる。そのため、職 員が他の自治体を訪問し、情報や知見を共有し合うことによって、互いの職員が動機づけられたこ とをレイチェルは示した。加えて、レイチェルは、相当な苦労があったことも示された。

38 インタビューを行った2014年において、ハンマースミス&フルハムにおける与党は労働党、ケ ンジントン&チェルシーとウエストミンスターでは保守党である。

39 Department Communities and Local Government, Strong and Prosperous Communities: The Local Government White Paper, 2006, p.2.

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