第 3 章 効率性重視と行動的管理会計
1 リーン・アプローチ
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Ⅱ 効率性重視の行動的管理会計手法
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ウォマックとジョーンズによって示されるリーン・アプローチの5原則が、一般的にリ ーン・アプローチの基本的なフレームワークや方法論として考えられている。この5原則 をもとに組織では、業務改善の能力と知識を高める4段階(図表3-1)を活用して、リー ン・アプローチが実行されているとクリングスは示している25。
図表3-1 リーン・アプローチの実行に向けた4段階
第1段階
リーダーと主要な職員からの意見聴取、データ収集・データ分析、測定プロ セスによって、組織に求められているものを認識し、組織をどのように運営 していくかという方向性を確認する。
第2段階
組織内にリーン・アプローチ実行の専門グループを設置する。専門グループ は、リーン・アプローチがもたらす改善効果を理解し、十分にコミットメン トさせるようにトップ・マネジメントが起点となる。
第3段階
短期のカイゼン・イベントを通して改善活動が実施される。あるいは長期的 に導かれた業務改善アプローチで改善活動が実施される。短期的にも長期的 にも、リーン改善ツール、プロセス測定手法、プロジェクト管理技術を活用 することが求められる。
第4段階
組織にリーン・アプローチの理念を浸透させるために、改善活動を推進する 組織風土の醸成が求められる。そのためには、改善成果を明らかにするため の業績測定およびリーン・アプローチ実行に向けた人材育成が必要になる。
(出所)Krings, D., D. Levine and T. Wall, “The Use of Lean in Local Government,” Public Management, Vol.88, No.8, 2006, p.15.
図表3-1では、4段階のアプローチを通して、職員の能力向上と改善活動を推進する組 織風土の醸成がなされることが示されている。そのため、効果的なリーン・アプローチの 実行における主要な要因は、人的資源であり、職員をいかに組織にコミットメントさせる かが重要であるといえる。人材育成を企図したリーン・アプローチは、改善活動を持続す ることが重要になり、中長期の目標設定や計画によって、職員は動機づけられる26。
リーン・アプローチは、プロセスから導出される価値に着目する。言い換えると、リー ン・アプローチは、相互に関連するプロセス間のフローに着目し、プロセス間に内在する ムダを省くことである。リーン・アプローチは、価値を生み出さないもの、ムダ、不安定 なものおよび柔軟性を持たないものを除去することに焦点を置く。そのため、リーン・ア プローチは、顧客が求めている価値を最も理解している現場職員を起点としたボトムアッ プ27のアプローチを重視している。組織全体としてリーン・アプローチに取り組むことは、
組織を構成するすべての職員が改善活動に関与し、組織戦略の実現に向けて必要とされる プロセスを職員間で共通認識をもつことである。バリューストリーム・マッピング28を活 用することで、どのような価値が導出されるかを明らかにすることができる。現場職員は 組織戦略を実現するためのプロセスを明確に認識し、組織にコミットメントすることで価
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(1) リーン・アプローチの有効性
スコットランド政府報告書は、リーン・アプローチが民間企業だけでなく地方自治体に おいても有効であり、組織の業績向上に資する手法であることを結論づけている。このほ か、イングランド、ウェールズおよび北アイルランドにおいても、同様な調査研究がなさ れている。
筆者は、2012年2月22日および同年4月27日に英国を訪問し、ラドナーに英国地方 自治体における行動的管理会計手法に関するインタビューを行った。
ラドナーによると、英国では、長期化する財政逼迫を起因として、行政サービスの提供 水準を維持していくことが困難となっており、英国地方自治体に行動的管理会計手法を適 用させていくことが検討されていると示された。さらに、リーン・アプローチが行政サー ビスの提供プロセスに内在するムダを削減するという特徴を有しているため、行政サービ スの効率化に向けた行動的管理会計手法であるという認識が示された。
AIMRによる行動的管理会計手法の調査研究では、多数の研究者がリーン・アプローチ を研究対象としており、特に、医療分野においてリーン・アプローチが顕著に適用されて いることを明らかにしている29。このことから、英国の公共部門における行動的管理会計 手法として、リーン・アプローチが効果的な手法であると考えられている。2007年にAIMR が実施したアンケート調査では、公共部門で最も効果的に適用されている行動的管理会計 手法がリーン・アプローチであるという結果が示されている30。この調査では、64%の公 共部門がリーン・アプローチを適用していることが示されており、次いで、シックスシグ
マが41%、BPR が 23%という結果が示されている。この結果からも、英国地方自治体に
おける有効な手法が、リーン・アプローチ、シックスシグマ、BPRであり、リーン・アプ ローチの有効性が示されている。
ラドナーへのインタビューから、英国地方自治体でリーン・アプローチの適用が検討さ れている理由として、英国政府による地方自治体への大規模な補助金削減が示された31。 英国地方自治体は、財政的な困窮を回避する手段として、民間企業で飛躍的な成果を上げ ていたリーン・アプローチに注目したのである。年々、地方自治体への補助金が削減され ており、限られた予算のなかで、最少の経費で最大の効果で住民にサービスを提供するた めに、ムダの除去によって効率性を重視したリーン・アプローチの導入が図られてきた。
- 58 - (2) リーンの家
ラドナーは、英国地方自治体における業務改善の取り組みを調査した結果から、図表 3
-2 に示されるようにリーン・アプローチの概観を示している32。図表 3-2 は、「リーン の家」と称されている。
図表3-2 リーンの家
(出所)Radnor, Z., Review of Business Process Improvement Methodologies in Public Services, Advances Institute of Management Research, 2010a, p.14.
この家の柱として、ツールやテクニックが示されている。赤色の柱は、迅速な結果、明 確な焦点および関与を実現するための評価・改善ツールを意味している。この評価・改善 ツールは、リーン・アプローチに取り組む初期段階で取り組む必要がある。オレンジ色の 柱は、活動の効果を認識し確立することに重点をおくモニタリングツールを意味している。
緑色の柱は、サービス提供プロセスや日々の活動にリーン・アプローチを浸透させるため のツールとテクニックを意味している。
これらの柱は、顧客の要求と能力の理解、価値の把握、強力なリーダーシップ、戦略に つながる行動、プロセス志向およびコミュニケーション戦略という6つの要素によって支 えられている。図表3-2の中段に柱を支えるように6つの要素が示されており、6要素が リーン・アプローチを効果的に実行させるための重要な要素になっている。
6 要素を支える基盤として、職員研修・人材育成、リーン・アプローチの運営チーム・
プロジェクトチームが位置づけられている。
ラドナーによると、体系的にプロセスを理解することが重要であると示されている33。
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つまり、図表 3-2 には、それぞれのツールやテクニックが、個別にプロセスや活動を生 み出すのではなく、それぞれのツールが互いに影響し、体系化されたシステムとして機能 することで、全体的なシステム思考をもたらすことが示されている。つまり、ツールやテ クニックの機能に着目するのではなく、ツールやテクニックを通した行政活動から導出さ れる価値に目を向け、全体プロセスを理解する必要性が示されている。