第 5 章 中国不動産業中堅企業の経営財務分析
5.3 中国不動産業中堅企業とトップ 4 社の財務比較
5.3.4 安全性の比較
長期の負債と短期の負債に対する長短期の支払能力を評価し、企業の安全性を判断す るため、流動比率や自己資本比率など幾つかの指標が用いられる[9]。本節では、安全性 に関する 4 つの指標(流動比率、当座比率、固定長期適合率、自己資本比率)を計算 し、中国の不動産中堅企業と不動産トップ企業と間で安全性について比較する。
102 (1) 短期的な負債支払い能力の比較
短期的な負債支払い能力の指標として流動比率と当座比率を取り上げる。流動比率と 当座比率はそれぞれ次式で定義される。
流動比率=(流動資産÷流動負債)×100(%)
当座比率=(当座資産÷流動負債)×100(%)
流動比率は一般に、100%以上であれば、1 年以内に支払いが不能になる可能性は小さ いとされ、さらに 200%以上が望ましいとされる。
流動比率と当座比率の計算結果を表 5.10 に示す。この表より、以下が読み取れる。
① 中堅企業 13 社の平均流動比率は 183.17%、トップ企業 4 社の平均流動比率は 165.70%
で、中堅企業 13 社の平均値がトップ企業 4 社の平均値より大きい(5%有意)。中国 の中堅企業の平均値とトップ企業の平均値はともに日本の不動産企業の平均値(法 人企業統計年鑑によると平成 26 年度が 113.6%)よりかなり高い値である。また、
流動比率は、何れの企業群とも 3 年間にわたって安定した値となっている。
② 中堅企業 13 社の平均当座比率は 53.72%、トップ企業 4 社の平均当座比率は 49.29%
で、中堅企業がトップ企業より若干高い。ただし、両者の差は有意でない。日本の 不動産企業の平均値は、平成 26 年度が 55.9%(法人企業統計年鑑より)であり、ほ ぼ日本の不動産企業の平均値と同程度といえる。また、中堅企業の当座比率の平均 値には若干増加傾向がみられる。
③ 流動比率と当座比率を平均値で見る限りにおいて、中堅企業とトップ企業で大きな 差はない。ただし、中堅企業は企業間の差が大きい。
④ 中国不動産企業において、流動比率と当座比率の差が日本企業より大きい理由には、
中国不動産企業が大量の販売用不動産を棚卸資産として保有しているためである。
(2) 長期的な安全性の比較
長期的な支払い能力として固定長期適合率と自己資本比率を計算する。固定長期適合 率は、固定資産を長期負債と返済期限のない株主資本(自己資本)でどれだけカバーで きているかを示す安全性の指標である。固定長期適合率と自己資本比率は、それぞれ次 式で定義される[9]。
固定長期適合率=(固定資産÷(固定負債+自己資本))×100(%)
自己資本比率=(自己資本÷総資本)×100(%)
固定長期適合率の値は、製造業では 100%以下であることが望ましいとされる。計算結 果を表 5.11 に示す。この表より、トップ企業の固定長期適合率の平均値は 25.95%、中堅 企業の平均は 42.04%とトップ企業が低い(1%有意水準で 5%以上の差がある)。しかし、
中堅企業とトップ企業の何れも、中国不動産企業は、固定長期適合率が日本企業より低 く、一見安全性が高いように見える。これは、長期的に安定して収益が得られやすい賃
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貸用オフィスビルなどを、中国企業は固定資産として保有し運用していないためであり、
この点から、中国企業は、固定長期適合率が低いことをもって安全性が高いと判断して よいかどうか疑問が残るところである[4]。
自己資本比率は、トップ企業の平均値が 27.73%、中堅企業の平均が 30.73%とトップ企 業が若干小さいが、有意な差ではない。なお、これらの水準は、日本の不動産業トップ 企業の三井不動産、三菱地所、住友不動産の自己資本比率とも余り差がない。財務総合 政策研究所の法人企業統計年鑑(平成 26 年度版)によると、日本の不動産企業の平成 26 年度の自己資本比率の平均値は 35.7%で、中国中堅企業の方が若干低い値となっている。
表 5.10 中堅企業 13 社とトップ企業 4 社の流動比率と当座比率
記号 流動比率 当座比率
2012 年 2013 年 2014 年 2012 年 2013 年 2014 年
aA 94.78% 95.22% 95.89% 74.05% 74.59% 75.55%
aB 163.08% 220.28% 193.26% 52.70% 75.75% 71.01%
aC 151.98% 163.34% 162.15% 30.83% 21.39% 42.41%
aE 134.79% 229.88% 230.38% 44.60% 100.12% 116.96%
aF 164.56% 158.53% 139.55% 76.31% 44.68% 32.00%
aG 185.54% 210.33% 227.21% 28.38% 38.11% 40.84%
aH 323.10% 269.21% 190.78% 54.63% 69.30% 61.30%
aJ 160.16% 166.15% 197.37% 35.11% 49.89% 64.37%
aK 148.94% 131.95% 133.33% 49.16% 53.04% 78.39%
aM 177.58% 185.73% 170.06% 67.86% 65.41% 34.73%
aP 231.04% 164.08% 198.19% 87.80% 48.26% 68.51%
aQ 341.15% 215.99% 283.56% 37.56% 27.28% 32.53%
aR 135.95% 145.17% 153.47% 20.71% 24.21% 24.67%
平均値 185.59% 181.22% 182.71% 50.75% 53.23% 57.17%
中堅企業
総平均 183.17% 53.72%
A 139.62% 134.39% 134.54% 41.41% 33.72% 43.43%
C 214.67% 217.45% 175.40% 85.46% 72.33% 53.46%
D 173.08% 181.84% 187.31% 38.07% 37.87% 44.67%
E 133.36% 153.76% 143.03% 34.64% 55.55% 50.92%
平均値 165.18% 171.86% 160.07% 49.90% 49.87% 48.12%
トップ企業
総平均 165.70% 49.29%
(表 5.6 のデータより計算)
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表 5.11 トップ企業 4 社と中堅企業 13 社の固定長期適合率と自己資本比率
記号 固定長期適合率 自己資本比率
2012 2013 2014 2012 2013 2014 aA 140.72% 145.23% 135.83% 6.94% 5.91% 4.07%
aB 16.21% 7.67% 6.40% 25.46% 20.65% 18.66%
aC 70.31% 63.77% 59.86% 57.67% 54.98% 48.60%
aE 48.18% 14.59% 12.31% 27.20% 28.14% 27.64%
aF 11.14% 6.82% 18.01% 26.12% 27.33% 27.26%
aG 41.09% 34.65% 34.29% 34.58% 33.18% 29.39%
aH 20.20% 19.56% 44.61% 29.19% 25.11% 22.81%
aJ 18.94% 24.62% 25.32% 29.36% 32.04% 32.25%
aK 45.61% 76.31% 77.97% 40.51% 21.99% 33.22%
aM 51.42% 37.89% 22.26% 37.46% 35.27% 26.79%
aP 43.58% 54.68% 47.06% 44.86% 40.84% 43.44%
aQ 7.12% 9.51% 4.96% 37.27% 34.63% 52.71%
aR 54.12% 49.10% 37.77% 21.93% 20.85% 20.89%
平均 43.74% 41.88% 40.51% 32.20% 29.30% 29.83%
中堅企業
総平均 42.04% 30.44%
A 13.47% 24.73% 26.75% 21.68% 22.00% 22.79%
C 33.98% 29.80% 35.51% 48.57% 46.04% 41.78%
D 7.26% 7.42% 8.35% 21.81% 22.03% 22.11%
E 43.39% 36.74% 44.04% 17.44% 22.79% 23.69%
平均 24.53% 24.67% 28.66% 27.38% 28.22% 27.59%
トップ企業
総平均 25.95% 27.73%
(表 5.6 のデータより計算)
5.3.5 成長性の比較
売上高や営業利益率などを対前年比でみることで企業の成長性を評価することができ る。営業利益の伸び率は、年度ごとの変動が大きいことから、本節では、売上高の対前 年度比で成長性を評価することにする。売上高でみた成長率は次式の増収率で定義する ことにする。
増収率=(売上高-前年度売上高)÷前年度売上高×100(%)
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中堅企業 13 社とトップ企業 4 社の売上高と増収率を表 5.12 に示す。2013 年度と 2014 年度について、トップ企業の総平均値は 30.43%、中堅企業の総平均値は 14.97%と大手企 業の増収率が高く、両者の間に 2 倍ほどの差がみられる。しかし、中堅企業 13 社につい ての増収率は、企業間でばらつきが大きく(分散が大きく)、平均値の差に有意性はみ られなかった。
統計的有意性はみられないが、それでもトップ企業の総平均値と中堅企業の総平均値 の間にはかなりの差が存在しており、その差が生まれている原因は、下記に示すように ある程度推察できる。
① 中堅企業の増収率の平均値は、2013 年度の値が 22.72%であるのに対して、2014 年度 は 7.23%へと大幅に低下している。これは、中国景気の減速によるものと考えられる。
また、景気の影響による売上高の増収率の低下は、トップ企業より中堅企業の方が大 きいといえる。
② 中国での都市化はまだ進展中であり、都市部での住宅需要は旺盛である。このことが、
住宅価格の上昇と相まって、住宅の開発・分譲事業の高い増収率を維持させている。
③ 都市部でのオフィスビルの開発・賃貸は、中国においてはまだ利益率が低く、開発・
分譲事業を主としたトップ企業にとって賃貸事業は魅力的な事業分野とはなっておら ず、規模もまだ小さい。このことが、トップ企業にとって高い利益率と増収率を維持 できている重要な原因となっている。
④ 資金力や地方政府との関係が弱い後発の中堅企業にとって、オフィスビルの開発・賃 貸事業は、ニッチな事業分野として参入が可能であった。しかしこの分野での増収率 は、開発・分譲での増収率より高いとはいえない。