第 2節 小学校算数科における代数指導
① 一般化された算術としての代数的推論
一般化 された算術 としての代数的推論 とは、児童が特定の数の例 をい くつか考 え、その集 ま りか ら数学的なアイデ ア (数の性質や関係 な ど
)を
見つ けて一般化 し、それ を文字や記号①
②
③
な どを用いて表現す るこ とで ある。例 えば、一般化 され た算術 としての代数 的推論 としては、
奇数や偶数 を使 つて和や積 な どの偶奇性 についての問題 が考 え られ る。具体例 として、偶数
+奇
数 の和 の偶奇性 について考 えてい る。(ア
)「
い くつかの特定の数 の例 について考 える」2+5=7 4+9=13 8+17=25 12+25=37 42+101==143 な どの具体的 な数字 を使 って関係 を考 える
(イ
)「
数学的 なアイデ アを一般化す る」偶数 と奇数 の和 は必ず奇数 にな る
(ウ
)「
文字や記号等 を使 って形式的 に表現す る」偶数 十奇数
=奇
数この よ うに小学校算数科 において、具体的な数 を用いた式 か ら考 え させ ることで、式 を計 算の対象 としてみ るこ とか ら関係性へ と視 点 を変 え させ てい く。そ うす る ことで、児童 は一 般化 され た (ウ
)の
式 の「偶数」や 「奇数」とい う言葉 を代数 として理解 し、表記 として「奇 数」や 「偶数 」 と書 かれ た部分 に任意 の奇数・偶数 が あてはま る とい う「変数」 として、その文字 を理解す ることにつ なが る。また、表現が文字や記号 を使 わず に実際の数 であつて も、
その数 を一般性 を含意 してい る数 (擬変数)と して理解す るこ とが、表記 内容 の理解 や変数 概念 を育て ることにつ なが る と述べてい る (藤井 &Stephens,2002,2006)。
そ して
BlantOn&Kaput(2005)は
、小学校低学年 の児童 に対 して彼 らに計算 で きない よ うな大 きな数字 (45678+85631)を使 つて、答 えの偶奇性 につ いて考 え させ てい る。児童 は、それぞれ の数 について偶奇性 を考 え「偶数 と奇数 の和 は、奇数 だか ら」と実際 の数 を計算 の 対象 として扱 ってい るのではな く、代数 的 に扱 ってい るので ある。
この よ うな理解 を通 して文字 を導入すれば、文字 に対す る理解や認識 を高 めてい くこと がで きると筆者 は考 える。
②
関数的思考 と しての代数的推論
関数的思考 としての代数的推論 とは、児童が特定の数をい くつか考え、その集ま りか ら数 学的なアイデア (数的・幾何学的なパターンな ど
)を
見つけ一般化 し、それ を文字や記号などを用いて表現す る。具体例 として
BlantOn&Kaput(2005)で
は、台形の机のまわ りに座 ることができる人数 について考えている (図 4‑2‑1)。図
4‑2‑1
問題例(BlantOn&Kaput,2005,p425)
(ア
)「
い くつかの特 定の数 の例 について考 える」机 の数 が1台、
2台
、3台の とき、机 のまわ りに座れ る人数 は、
5人
、8人
、11 人と机 の数 と座れ る人数 の関係 について考 える。そ こか ら、机 が1台増 えるたび
に
3人
ずつ増 える とい う数 的パ ター ンを見つ ける。(イ
)「
数学的なアイデ ア を一般化す る」座れ る人数 は、机 の数 を
3倍
して、2を足 した数(ウ
)「
文字や記 号等 を使 つて形式的 に表現す る」n(□ )台
の ときの人数 は、3×n(□ )+2
この よ うな数的なパ ター ンを見つ け、一般化 して表現す る関数的な思考 は、小学校算数科 の 早 期 の 段 階 か ら促 進 して い く必 要 が あ る代 数 的 推 論 で あ る。 そ して
Blanton&
Kaput(2005)に おいて も、数量間の数学的関係 を発見 し、記述 し、正 当化 し、そ して記 号化 す る代数的 (関数 的
)思
考 は小学校 において きわめて重要で ある と述べてい る。この よ うに パ ター ンや数式の中で、変 わつてい く数量 とそ うでない数量の関係 を理解 し、一般化 していく中で記号表現 してい くこ とを促進 してい る。
この よ うに、児童 が代数的思考の中で数 と文字 の関係 を扱 うことで、□
,△
な どの記号や 文字 に対す る認識や理解 を高 めてい くこ とができる と、筆者 は考 える。2 Carraher氏
口Schliemann氏
の研 究(1)早
期の代数 日算術 プロジェク トこれまでの代数学習において、代数表記は表記内容 を理解 していないにもかかわらず、
未知の用語 。表現 。技術 として扱われ ることがあ り、生徒が代数表記 を使用す る理由や 日 的など理解できず形式的な扱いや処理に従事 して しま うことがある。そ こで、Carraher&
Schllemann(2008)は
、早期の代数はこれまで中・高等学校で教え られてきた代数を早 く 教えることと同じではない と主張 している。そ して、早期の代数は、児童が一般化を表現 し、詳 しい分析や推論の対象になる記号表現を使 うために、早期の数学か ら通常の内容を より深 く考えることを助けるものであると述べている。そ して、Carraher&Schhemann
(2007)は、早期の代数・算術プロジェク トについて次のよ うに述べている。
「算術 についての深い理解 は、数学的な一般化 と基礎的な代数の法則の理解 を要求 します。」 (p689)
そ して、算術 と代数 はそれ ぞれ別 の教科ではない とし、数 と量 の一般化 され た算術 とし ての代数 に注 目してい る。 これ まで、小学校算数科で行われてきた特定の数や捩J定値 か ら 式 を得て計算 をす るといつた算術演算 を単なる計算 として考 えるのではな く、数量の間の 関係 を、つ ま り関数 として考 える代数的活動が重要 である と指摘 してい る。
この ことか ら筆者 は、小学校算数科の早期の段階か ら数量の間の関係 を扱 つた関数の考 えを通 して代数表記 を扱 うことであると捉 える。 この よ うな活動 を小学校算数科の早期 の 段階か ら取 り入れ るこ とで、代数 的な思考 を促進 し文字 の理解 を促 す こ とがで きる と筆者 は考 える。
(2)実
践例Carraher&Schllemann(2007,2008)は
、小学校第3学
年 の児童 (63人)を
対象 に次 の課題 を与 え、ジ ョン とメア リーが もつているキャンデ ィーの個数 について考 えさせてい る。算術演算 を特定の数や測定 され る量の上の計算 として考 えるのではな く、数や量の算術的一般性 に注 目 し、数量 の間の関係 、つま り関数 と して考 え させ るこ とで代数表記 の導 入を扱 った授 業を行 ってい るc
The Candy Boxes Problem
・ 左手 の箱 の 中は、 ジ ョンの キャンデ ィー です。
・右 手 の箱 の 中は、メア リー のキ ャンデ ィー です。 また、
は 、箱 の 中 と箱 の上 の置 かれ た3個も含 ん でい ます。
。それぞれ の箱 には、同 じ数 のキャンデ ィーがあ ります。
メア リーのキャンディー
問題 の始 め に、児 童 は ジ ョ す る課題 に取 り組 ん でい る。
を示 したc
ン とメア リー が もつてい るキ ャ ンデ ィー の個 数 につ いて表 現 そ の活 動 の 中で児 童 は表 現 の種 類 と して図
(422)の
反応40 35 30 25 20 15 10 5 0
No rcsponse Single valuc lndeterminato drawing or statement
VVeaker Strategy
Muitiple Ceneral values expression
Stronger
図 4‑卜 2 The Candy Boxes problemを 解決す るために選んだ表現(数値 は児童 の数)
(Carraher&Schliemann,2007,p692)
図か ら見 られ る特徴 と して、63人中40人
(63.5%)の
児童 が ジ ョン とメア リーが持 つ てい る箱 の中のキャンデ ィーの量 に個々の数値 を割 り当てて考 えてい る。 これ はある限 ら れた1つの場面または実例 のみを答 え と考 えていることを示 してい る。 またCarraher&
Schliemann(2008)は
、様 々な場 面が考 え られ る不確 定な量で あることを理解 していて も個々の場面 ご とに特別 な数 を割 り当てて考 えてお り、多 くの児童 が個 々の状況 を表現す る ために特別 な数 を割 り当てることを必要 としていると述べてい る。 この よ うに これ までの 算術での学習 が特別 な数 を計算 して答 えを求 める活動 が中心で あったた め、多 くの児童 が 具体的 な状況 を表現 してい る と考 え られ る。
また、63人中23人
(36.5%)の
児童 が箱 の中のキ ャンデ ィーの量 に値 を割 り当て るこ とを避 けて考 えてい る。 これ は箱 の中のキャンデ ィーの量が不確定であるため、特別 な数 を割 り当て ることがで きない ことを示 している。 そ してある児童 は不確 定 な量 を表すため に、疑問符 を用いて箱 の中の量が未知であることを表現 してい る (図 423)。図
4‑2‑3 (Carraher&Schliemann,2008,p242)
この表現 について
Carraher&Schliemann(2008)は
、変量 と しての量 を概念化す るこ とと同 じではないが、不確 定な量の表現は結果 として変数 を導入す るためのプ レイスホル ダー である と述べ 、 この よ うに不確 定 な量 をそのまま残す こ とで、児童 が問題状況 にお け る詳 しい分析 と議論 の必要性 を意識 し、数量間の関係性 について考 える機会 を与 えている と述べてい る。 この よ うな不確 定ではあるが変化す る数量を意識 した児童 の表現は、記号 や文字が数や 量 を表 してい ることを意 図 した表現であ る と考 える。 そ して、 この よ うな活 動 を通 して個 々の量 ではな く数量間の関係 に 目を向け させ 、一般化す るために不確 定な量 に対 して代数表記 を用い ることを提案 し、代数表記 に関 して詳 しい議論 を行 ってい る。 そ うす ることで、代数表記 が任意 の変化す る量 (変数)を
意味 してい るこ と、数量の関係性載 芦 ボ クj
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を一般的に表現 してい るこ とを意味 してい ることを理解できると筆者 は考 える。
この よ うに、小学校算数科 の早期 の段階か ら個 々の実例や値ではな く、集合お よび相互 関係 へ焦点 を移す一般化 させ た算術 としての代数的な思考 を促進す るこ とが、
2つ
の数量 間の関数 関係 を理解 し、一般化す るた めの代数表記 の必要性や意味 の理解 につ なが り、代 数表記 としての文字 の理解や認識 を高 めてい くために有効 で ある と筆者 は考 える。3.Radford氏 の研究
(1)
小学校算数科 における代数的思考Radford(2011)においては、 これまでの学習の流れ は伝統的に算術 について本質的な知 識 を得 る機会 があ り、その後代数 が教 え られて きてい ると述べ てい る。 しか し Radford氏 は最近の数学教育 において、算術的思考 と代数的思考が明確 に区別 され ないまま早期の年 齢か ら代数 を導入す る研究 (Carraher&Schllemann,2007)に 問題意識 をもつてい る。 そ の理 由 として、Radford氏 は、表記 を使用す ることが代数的に思考す るための必要条件 で も十分条件 で もない とし、代数的思考 と文字 の使用 を結び付 けるこ とは誤 りで ある と述ベ てい る。そ して代数的思考 とは、ある方法で推論す ることに関係 してい ると指摘 し、算術 的思考 と代数 的思考 を区別す るものを次の よ うに述べ てい る。
「算術的思考 と代数的思考 を区別す るものは、不確定な量を解析的な方法で 扱 うことで あ る。」 (p318)
す なわち代数 的思考 は、算術 的思考 と違 い、未知 の数量や 不確 定 な数量 を既知 の数量 を 扱 うの と同等 に扱 えるこ とで あ り、それ らを使 って演算す るこ とがで きるこ とで ある。 そ して、Radford氏 は小学校 の早期 の段階か ら、数 を計算の対象 として見 るのではな く、特 定の値 によつて表現 された定式の中に一般性 を見た り、数 を特別 な数 として考 えた りして 代数的 に見 ることが必要で ある と述べ てい る。 さらに、算術 と代数 の学 問の関係 について 代数 において本質 的 に算術 の もの と算術 において本質的 に代数 の ものが あ り、パ ター ン学 習 はその
2つ
の様相 をもつてい る と主張 している。この ことか ら筆者 は、小学校算数科の早期の段階か ら数の性質や 関係・定式の一般性 な ど、不確定な量を角峯析 的な方法で扱 う代数的思考に重点を置 いた指導 を通 して、記号や文 字等 の意味や概念 を扱 うこ とで、文字 の理解 を促す こ とがで きる と考 える。
(2)
実践例Radford(2011,2012)は 、小学校第