(4)職業体験における事前・事後指導
職業体験などの啓発的体験における事前・事後指導の重要 性は,これまで数多く言及されてきている(岡田忠義,1991;
鶴来町立北辰中学校,1994;文部省,1994c)。それは,実際に 指導に当たっている教師も痛感していることであり,現に本 研究の調査校、実践校でも,事前・事後指導の時間は十分確 保され,取り組みにも工夫がなされていた。しかし,本研究 を通して啓発的体験における事前・事後指導を改めて考えて みると,今後さらに必要とされるのは,個に向けての配慮を 伴った事前・事後指導を行うことではないだろうか。学年団 を中心とする中学校の指導体制の中では,学年の計画に基づ く一斉指導に主眼が置かれるのは当然のことかもしれない。
しかし,本研究の質的分析の中で追究したように,生徒の自 己認知タイプにより体験や面接の効果に違いが出ることや,
体験に向けての経緯(希望どおりの職場に行けない,体験当 日欠席してしまうなど)によっても生徒の自己理解は低下す ることを考えたとき,啓発的体験をより効果的なものとして 機能させるためには,一斉指導を1つの車輪とすると個への 配慮による事前・事後指導がもう1つの車輪として必要なの ではないだろうか。本研究における2つのプログラムも個へ の配慮を担う手段として活用することができるのではないか
と考えている。
(3)査定モデル
第5章でも考察したように,自己認知タイプによって面接
得点による査定モデルを作成した。そのモデルをFig.6−1に 示す。このモデルにしたがって生徒の自己認知タイプによっ てプログラムを使い分けることで自己理解の発達がはかれる
と考える。
事前調査
プロフィールによるタイプ分け
Aタイプ Eタイプ Bタイプ Dタイプ C タイ
自己受容面接
★問題のあった生徒へのアフターケア★
カウンセリング・学校生活への配慮等
Fig.6−2プログラムの査定モデル
また,実施時の留意事項を加えた改訂版プログラムも作成 した。詳しくは,APPENDIXに掲載したので参照されたい。
第2節 今後の課題
最後に本研究の問題点と今後の課題について述べておきた い。まず問題点としては,次の2点があげられる。1つ目は,
研究Hの実践において面接の効果だけをみることができるよ うな計画がなされていなかったことである。プログラム自体 が面接と職業体験を連動させたものになっており,事後調査 を全セッション終了後行ったわけであるが,面接と職業体験 のどちらの効果かはっきりしない部分もあり,今後プログラ ムの内容を検討していく上では再考しなければならない点で ある。また,研究Hで各グループの特徴に合わせたプログラ ムを実施していない。すなわち,実験的な形では,検証され なかった。この点もさらに検討の余地がある。
次に,本プログラムは学校現場での活用を意図したもので ある。教育相談係の教員やスクールカウンセラーが放課後希 望者を募って実施することを想定しているが,現行の学校で
の活用を考えたとき,学級担任が手軽に実施するのは難しい と言わざるをえない。もちろん,一斉授業の中での使用も可 能な内容であるが,そうすると作成者である筆者の意図とは 少しズレが生じてくる。現実を考えたときには一斉授業で行 うための手立てが必要である。その1つに,カウンセラー役 である担任のアシスタントとして各グループに3年生につい
てもらういうピアカウンセリング(peer counseling)の援用が
考えられる。3年生は職業体験の経験者である。自分の経験
を基にアドバイスが可能であろう。もちろん生徒の査定に関
する情報の把握は,担任の段階で止めておき,各グループを
回って生徒の様子を把握し,必要に応じてアシスタントに指
示を出すのである。また,現職の教員が専任キャリアカウン セラーとして活動を始めている学校(:東京都立山吹高等学校)
もある。このような専任キャリアカウンセラーによる実施も
考えられる。
今後残された課題としては,第1に,前節で示した査定モ デルを用いた実践による効果の検証があげられる。第2に長 期の職業体験による自己理解の発達についての検討があげら れる。本研究で行われた職業体験は1日だけのものだったの で,より長い体験を行うことによって,より大きな効果が得 られるかもしれない。本研究を土台として,学校という現場 の中で生かすことができるように今後更なる検討を加えてい
きたい。
謝 辞
本研究をまとめるのにあたり,大勢の方々にご指導いただくとともに,支え,
励ましていただきました。心から感謝いたします。
特に,指導教官の古川雅文先生には,研究の構想からまとめの段階に至るまで,
終始細部に渡り,ご指導をいただきました。先生には,今夏の日本教育心理学会,
今秋の日本進路指導学会で本研究の一部をご一緒に発表させていただきました。学
校現場で抱いていた問題意識を拙いながらも論文という形にまとめることができましたのは,先生の懇切丁寧なご指導があったからだと思います。本当にありがとう ございました。
また,主任指導教官の上地安昭先生には,広い視野からご指導をいただきまし た。臨床心理の分野では相談室での事例を持たせていただき,夏野良司先生,辻河
昌登先生から暖かくも厳しい激励の言葉を頂戴しました。講座主任の渡邉満先生を 始め,八型光俊先生,安原一樹先生,上地寛治先生には,中間発表会をはじめ様々 な場面でご助言と励ましのお言葉をいただきました。先生方からの暖かい励ましと 貴重なご教示は,私にとって論文作成への大きな原動力となりました。さらに,お忙しい中,研究に協力下さいました豊橋市立本郷中学校の先生方お
よび羽田中学校の松葉武男前校長先生,鈴木佳和校長先生をはじめ,諸先生方,中でも,1ヶ月に渡るカウンセリングプログラム実施にお骨折りいただいたました豊 橋市立羽田中学校の坂口晴彦先生,藤田愛子先生と生徒のみなさんに,深くお礼申
し上げます。
そして,同じゼミで共に学んだ大濱氏をはじめ2年の時を共有した19期生のみ なさんにも,いろいろなことを教えていただきました。喜び,悩みや苦しみを分か
ち合うことのできる仲間の存在は,本当にかけがえのないものでした。ありがとう ございました。学校という場を離れ,研修することへのご指導とご助言,そして惜しみない応 援をして下さいました豊橋市立南部中学校の杉原興一先生をはじめ,諸先生方にも
心より感謝いたします。最後になりましたが,この2年間の研修の機会を与えて下さいました愛知県教
育委員会,東三河教育事務所,豊橋市教育委員会の諸先生方にも深謝申し上げます。社に来て2度目の冬が本番を迎えようとしています。この地で得た多くの知識や感動,出会 いはこれからの私にとって大きな財産となることでしょう。今はそれを大切に温めようと思っ ています。来るべき春…旅立ちの日に備えて…。
1999 12 20
田中あゆみ
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