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中学生のためのキャリアカウンセリングに関する研究 : 職場体験事前指導としてのグループカウンセリングプログラム作成をめざして

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(1)【論文要旨】 中学生のためのキャリアカウンセリングに関する研究 職業体験事前指導としてのグループカウンセリングプロゲラム作成をめざして. 学校教育専攻 生徒指導コース. 田中あゆみ 1.研究目的. 尺度,神田(1993)の子供用一般主観統制感尺. (1)研究のねらい. 度,職業体験の感想の質問紙調査をし,職業. 中学校での進路指導で自己理解を促進さ. 体験が中学生の自己受容と1㏄us of con七rol. せることや職業体験:の効果的な指導のあり方. にどのような影響を及ぼすかについて調査を. は,その必要性が指摘されているにもかかわ. 行い,その結果を分析することによって,プ. らず,実証的な研究にはほとんど手がつけら. ログラムの作成に役立てる。. れていないと言ってよい現状である。. (2)プログラムの作成. 先行研究と(1)の. そこで本研究では,自己理解を促進させ. 調査結果から中学生をヌ橡とした自己理解促. る進路指導プログラムを作成し,中学校にお. 進のための進路指導プログラムの内容や実施. ける実践を通して,その有効性と効果を検証. 方法を検討し,プログラムを作成する。. し,修正を加えて学校で実践的に使用できる. (3)プログラムによる実践と効果測定. ものとすることを目的とする。あわせて,自. 成したプログラムを中学生に実施し,プログ. 己理解促進の機会として職業体験を想定し,. ラムの効果を分析,検討する。効果測定には,. プログラムの中に職業体験を組み入れる。そ. (1)で用いた2つの尺度を使用する。また特. して職業体験をより効果的なものにすること. 徴のある生徒を抽出し,インタビューも行う。. 作. をねらいとした。. (2)自己理解の定義. 3.職業体験による自己受容とLOCの変化. また,先行研究から,本研究での自己理解. (1)研究対象と方法. 公立B中学2年生. め定義は,単に自分のことがわかるというの. を対象に質問紙調査を実施,分析の対象. ではなく,自分について知り,ありのままの. は,222名であった。. 自分を受け入れ,未来に対して前向きな考え. (2)結果と考察. を持つというものであるとした。. グラム作成に向けてのいくつかの留意点が得. 調査の結果から,プロ. られた。感想調査からは,①事前に自分が 2.研究の概要 本研究では,中学2年生を文橡に以下の3. 希望している職業の仕事内容を知り,自分に. 向いているかどうかを考える,②働く時の. 点の検証をおこなった。. 人間関係や人との接し方について,考える機. (1)職業体験での自己受容とLOCの変化. 会を持つ,の2点であった。尺度による効果. 職業体験の前後で宮沢(1980)の自己受容性. 測定と自由記述の分析から,職業体験で得ら.

(2) れた自信を生かすとともに,具体的に「自分. れた。①職業体験の効果として,自己受容. のことがわかる」ことや,「前向きな考え方を. のうち,自己信頼と自己理解の領域を促進す. 持つことができる」ような内容を考える必要. る効果があった。②LOC面接群における. があることなどが示唆された。また,体験に. 自己理解の領域で面接プログラムの効果があ. 向けて具体的な目標を持ち,目標に対する達. った。LOC面接群の生徒は,体験当日の目. 成感を抱くことも必要なことがわかった。そ. 標達成に向けて考えていく過程でこれまで気. して,自己受容得点とLOC得点がもともと. づいていなかった自分に対する認識を深める. あまり高くなかった者は,職業体験によって. ことができたのであろう。. それらの得点が増加した。. (2)質的分析による結果と考察 質的分析では,自己受容と1㏄us of con七rol. 4.プログラムの作成. の事前得点による特徴(自己認知タイフう別の. 先行研究と3の調査結果を参考にして,中. 効果測定や面接過程の分析,インタビューに. 学生を文橡とした自己理解促進のための進路. よる分析を行った。その結果,次のことが明. 指導プログラムを作成した。. らかになった。①職業体験によって自己受. 作成にあたって,守られた空間での仲の良. 容と1㏄us ofcon七ro1を高めることができる。. い友達とのグループで行うカウンセリングを. ②自己認知タイプによって効果があがる面. 取り入れた。そして,カウンセリング対象者. 接に違いがある。自己認知タイプ得点の低い. である生徒のニーズに応じて選択できるよう. Aタイプ,Eタイプの生徒には,自己受容面. に,複数のプログラムを作成した。. 接が効果的であり,自己認知タイプ得点の高. いCタイプの生徒には,LOC面接が効果的 5.プログラムによる実践と効果測定. に働く。自己認知タイプ得点が平均よりやや. (1) プログラムによる実践. 上のDタイプや自己承認,自己価値,自己理. 作成したプログラムを使った実践を行っ. 解が平均より上で1㏄us of con七rolと自己信. た。対象は,T市立C中学2年生で,1クラ. 頼が平均より低いBタイプには,自己受容面. ス37名を面接群,4クラス135名を統制群. 接もLOC面接も効果がある。③自己受容. とした。面接群のうち,4グループ16人に. 面接で友達から肯定的な自己像を伝えられた. 自己受容性を高める面接(以下自己受容面接). り,職場で評価されたりする体験が,自己受. を,5グループ21人に1㏄us ofcontrolを内. 容や1㏄us ofoon伽1を高める。. 的統制方向に高める面接(以下LOC面接)を. 以上の結果からプログラムを選択するため. おこなった。面接群,統制群ともに面接の前. の査定モデルと使用の手引きをまとめた。. 後で3と同様2つの尺度による効果測定を行 った。また,面接群は,面接の感想を問う調. 主任指導教官 上地安昭. 査も併せて行った。. 指導教官. (1)量的分析による結果と考察 量的分析では,次のような分析結果が得ら. 古川雅文.

(3) 学校カウンセリングにおける フォーカシング導入についての基礎的研究 学校教育専攻 生徒指導コース. 冨士盛公年. 1 心のケア・心的外傷体験への対応の必要性. 時期だが,このような事から,虐待とは言えな. いじめや不登校,虐待,突発的な暴力事件の. いが,激しい親子間葛藤を感じている生徒が見. 増加など,多くの問題が発生する中,心的外傷. られる。こうい場合には,親の言うことにふり. 体験という言葉が学校現場でも知られるように. まわされる形で,非常に気持ちが不安定であり,. なった。厚生省の調査でも虐待事件の件数は急. 進路についてのカウンセリングで親への不満や. 増するばかりであり,これから教師が多くの場. 恨みをぶつけてくることが多い。. 面で心のケアに取り組まねばならないことは容 易に想像できる。. 3 予防的カウンセリングの必要性 筆者の経験では適性のない進路に進んだ場合. 2 進路についてのカウンセリングで見られる 心の問題の影響. しかし,心的外傷体験などは一部の特別な生. には問題が起こりがちで,例えば進学先で退学 するなどのその後の進路指導に影響を与えるこ とがある。親子間葛藤の激しい生徒は自分が親. 徒の問題で多くの生徒には関係がないことと思. になった時に,育児について悩み,相談してく. われがちである。ところが高校で進路について. ることが多い。. の個人面接を行うと,何になりたいのかが自分. また,筆者は高校時代に親子間葛藤が激しか. でわからない,適性のない進路希望に固執する. った卒業生から,今になって親の老後やこれか. など,担任として気になる生徒がいる。そこで. らの介護について相談されるようになった。こ. その理由を傾聴し続けると心的外傷体験や激し. れからの学校教育は,生涯教育の視点を持つべ. い親子間葛藤について語り出す場合がある。大. きだといわれているが,これはまさにライフサ. きな自然災害や暴力事件だけでなく,一般的な. イクルとも重なった問題である。. 生徒でもいじめなどで心的外傷体験を受けてい る場合がある。. さらに最近では,進学するには高額の学資が. だからこそ,今,問題を起こしていなくても,. 生涯を通じた発達的な視点に立って予防的カウ ンセリングの必要性があるのではないか。. 必要であるため,親の経済負担も重く,親が進 学についてあいまいであったり,言うことがそ. 4 なぜ,フォーカシングか. の時々で違い,感情的になる傾向がある。親の. さて,その心的外傷体験を語ったり,親への. 側のストレスを子どもにぶつけているケースも. 恨みを訴える生徒に対応するのは,話すこと. あった。思春期は一般的に親子間葛藤の激しい. によって依存が高まったり,解離状態を起こし.

(4) たりして,構造化が難しかったり,面接の目標. ことができるように援助することができる。フ. 設定にのってこないなど,学校カウンセリング. ォーカシングを身につけることで,自分なりに. では困難な場面である。その困難場面の技法と. 問題を解決することを可能にする。. してフォ一国シングを考えた。. フォーカシングを考えた理由は,面接中は学. 6 フォーカシングの有効性と今後の課題. 校カウンセリングで一番の問題であるカウンセ. そこで,今回の事例では悩みを抱えて自主来. ラーへの依存が少なく,面接が終わっても,そ. 談した生徒1名と担任の個人面i接で進路が不明. こで習得したスキルを日常生活で利用できるの. 確であったり,適応が心配であるなど担任にと. で,自立心が一貫して高いままであることであ. って気がかりな生徒2名を筆者がカウンセラー. る。つまり,フォ一思シングを導入することで. として依頼され,フォーカシングを導入した面. 構造化しやすいのである。. 接を行い,その効果を事例を通じて考察した。. 実際の事例では,行動化が激しい生徒や精神. 1事例を除いては設定した目標に達せずに終. 的に不安定で落ち着かない生徒にはまず,環境. 了せざるを得なかったが,自己受容尺度の上昇,. 調整をして行動の変化に焦点を当てたアプロー. 生活感情尺度の上昇などの成果を得た。さらに. チを行うのが先決である。それに対し,行動的. 3ヶ月後の調査によれば,フォーカシングを用. でなく,沈んだ感じであったり,恨みを語る生. いてその後の問題に自分なりに取り組なことが. 徒にはフォーカシングを行うことが考えられる。. できるようになっており,自己受容尺度,生活 感情尺度はさらに上昇していた。また,定期試. 5 フォーカシングの働きの構造 では,フォーカシングがなぜ有効に働くので. 験の成績も上昇した。. つまり「構造拘束」されたクライエントは,. あろうか。心的外傷体験を持つ生徒は自分の中. 自分の中にある見たくないものや認めたくない. に心的外傷と思われる自分では見たくない部分. ものをフォーカシングで認めることで,自分の. があり,それを見ることを避けて防衛をしてい. 中の問題に取り組めるようになった。自分の中. る。その一方で,虐待する親やいじめる可能性. の問題に取り組めるようになれば,面接終了後. のあるクラスの生徒に過剰に適応しようとする. もその方法は身につくのである。. などの硬直化した態度が見られたり,進路につ. フォーカシングを使用すると深く内省するた. いて自信がなかったり,逆に適性のない進路希. めに面接目標との調整が難しい。常に面接目標. 望に固執する:場合がある。その生徒から受ける. を確認していくことが留意点である。. 印象は内面を見ないで問題に直面することを避. 目標設定とフォーカシングの方向性との調整. けようとする心のしくみにしばられた感じであ. や面接回数などの条件はあるものの学校カウン. る。これをGendlinは「構造拘束」と呼んだ。. セリングにフォーカシングを導入することで,. フォーカシングは人に話せない心的外傷体験 を持っている生徒には,その問題をイメージの. 心的外傷体験を語ったり,親子間葛藤の激しい 生徒に適用できることがわかった。. 世界で自分からとりだすことで話しやすくし,. 見たくない部分に対してやさしく安全に認める. 主任指導教官 上地安昭教授.

(5) 学位論文. 中学生のためのキャリアカウンセリングに関する研究. 一臓業体験事前指導としてのグループカウンセリングプログラム作成をめざして一. 兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 学校教育専攻生徒指導コース. M98163K 田中あゆみ.

(6) 目 次 1. 第1章問題の所在と研究の目的 第1節 1. 申学校における進路指導の現状と課題. 1. 1. 中学校の現状 進路指導の課題. 2. 進路についての自己理解. 5. 1. 自己理解についての先行研究から. 2 3 4. 自己受容性. 5 7 9. 2. 第2節. 肯定的な未来展望のために 進路探索のための自己理解. 10. 進路における自己理解を深める方法. 11. 1. 進路における啓発的体験. 11. 2. キャリアカウンセリング. 12. 研究の目的. 14. 第3節. 第4節. 17. 第2章〈研究1>職業体験が自己受容とIocus of controlに及ぼす影響. 第1節. 研究1の目的. 17. 第2節. 調査方法. 17. 1. 2 3 4 5. 第3節 1. 2. 3 4 5. 調査対象 使用する尺度について 調査用紙の構成 調査手続きと調査時期 職業体験について. 17 17 18 19. 20. 結果と考察. 20. 分析対象 事後感想調査の結果と考察 自己受容性尺度について・. 20 20 22. LOC尺度について. 24. 自己受容およびbcus of controlの変化および,感想調査との関連・. 24.

(7) 第4節 プログラム作成に向けての考察. 30. 32. 第3章カウンセリングプログラムの開発 第1節. 目的と方法. 1目的 2方法 第2節 1. 背景となる理論 自己受容を高めるプログラム. 2bcus of contro1を内的統制方向に高めるプログラム. 第3節 1. 自己受容を高めるプログラムの作成・. 32 32. 33 35. 35 36 37. 作成にあたって. 37. 2プログラムの実際. 37. 第4節 1. locus of controlを内的統制方向に高めるプログラムの作成. 作成にあたって. 2プログラムの実際. 41. 41 41. 45. 〈研究互〉グループカウンセリング・プログラムによる実践. 第4章 第1節. 実践の目的. 45. 第2節. 実践の方法. 45. 1. 実践の対象. 45. 2実践に用いた尺度一 3調査用紙の構成. 46. 4実践の手続きと時期. 46. 5職業体験について一. 47. 46. 第3節. 実践の経過. 47. 第4節. 効果測定の結果および考察1. 49. 1. 2. 分析の対象 自己受容性尺度の項目. 49 49.

(8) 3自己受容性尺度の変化. 51. 410cus of control尺度の項目. 53. 510cus of control尺度の変化. 53. 6面接効果についての考察一. 53. 効果測定の結果および考察皿. 55. 1自己認知タイプによる分析 2自己認知タイプによる面接の効果. 55. 第5節. 65. 75. 第5章プログラムの効果についての質的分析 第1節 面接グループからの分析・. 1分析の目的と方法 2 自己受容面接について. 3LOC面接について 4 グループ面接の意義 第2節 インタビューによる分析. 1面接した生徒へのインタビュー. 75 75. 76 83. 90 92 92. 2面接効果について. 94. 3得点変化の理由が分からなかった生徒の追跡 4特別な事情があった生徒について. 98 100. 104. 第6章総合考察 第1節プログラム作成について 1調査と実践の結果から 2結果を受けての全体的な考察 第2節 今後の課題. 謝辞 引用文献・参考文献. Appendix. 104. 104 106. 110. 112 113.

(9) 第1章問題の所在と研究の目的 第1節中学校における進路指導の現状と課題 1中学校の現状 中学校における進路指導のあり方について文部省(1994a)は,「教. 師の計画的,組織的,継続的な指導・援助」に基づいて,「生徒自. らが,将来の進路の選択,計画をし,就職または進学して,将来の 生活における職業的自己実現に必要な能力や態度を育成する。」も. のであるとしている。これは従来の指導が,ともすると第3学年で の成績データを中心とする教師主導の高校選択(輪切り)指導に終始. しがちであったという反省に立つものである。学校現場では,そう した反省に基づいて,「将来の生き方」を中心に据えた進路学習や. 啓発的体験が取り入れられてきている。文部省が1999年1月に行 った「中学校における進路指導に関する総合的実態調査」でも,生徒. に進路に関わる体験を得させる活動の実施状況をまとめている。そ の中で,「上級学校への体験:入学」で約 90%,「職場・福祉施設等に. おける体馬剣で約60%の学校が取り組んでいると報告している。. 兵庫県では,1998年から「トライやるウィーク」という1週間の 啓発的体験活動が実施されている。実施校における「トライやるウ ィーク」に対する生徒の感想(三田市立上野台中学校他,1998)は 概ね良好であり,「大変だったけどおもしろかった」「やりがいのあ. る充実した1週間だった」等の報告がなされている。また,教師側 も「生徒は以前より大きく成長した」「生徒にとって将来の夢や希. 望への指針として参考になった」等の感想を寄せている。これは筆 者自身にも経験があることであるが,啓発的体験でいつもと違う生 徒の顔の輝きを発見し,喜びを覚える。そしてその体験で得た感動 が生徒の心の中で育ちつづけ,やがては大きく実を結ぶのではない かとの期待がふくらむのである。. 1.

(10) しかし,現実にはそれらの活動が生徒の進路発達に直接影響を与 えているとは必ずしも言えない。上記の文部省(1999a)の報告によ. ると,中学生が,進学の選択にあたって特に参考になった事柄とし て14項目から選択したものをみていくと,「学校でのテストの結果 や各教科の成績」が最も多く41%である。次は,「学外で受けた模 擬テストの結果」で,22.2%,そして「両親などの家族との相談」 が21.9%,と続き,「上級学校の見学や体験入学」は, 14項目中6 位の15%,「職業体験:や社会人の講話」に至っては、最下位の2.7%. にすぎない。進学と職業とは直接の関わりが薄いという考え方もあ ろうが,該当するものを2つ選択できるという条件の中で,「適性 や興味などに関する検査の結果」(順位,選択割合:9位,6.7%),「学. 級活動での生き方や進路に関する学習」(12位,3.2%)などの項目は,. 下位に位置づけられている。そして,「学級担任教員の進路指導に ついての悩みゴの調査項目では,39.5%の教員が「生徒の進路意識 や進路選択態度に望ましい変容が見られない」を選択している。. 啓発的体験で生き生きとして未来への思いを語っていた生徒たち が,3年越での進路選択の場に立つと,「自分にあった高校がわか らない。とりあえず公立高校普通科へ進学したい。」,「将来の希望. は特にない。とにかく高校に進学したいので,自分の成績で合格可 能な高校を教えて欲しい。」,などという訴えをはじめることは筆者. 自身も経験している。これに対して「あの時の輝きは何だったのだ ろうか」と悩むことも度々あった。. 2進路指導の課題 なぜ,進路選択時になると自分の生き方に対する考えや,生徒自 身の興味や適性を生かした進路選択はできないのだろうか。この問 題の前に大きく横たわるものが高校入試制度そのものであることは 言うまでもない。しかし、それだけではないと筆者は考える。. その1つは,現在の中学生は自己の長所に対する理解が不充分で 2.

(11) 自分に自信が持てないことがあげられるのではないだろうか。その 理由としては次のようなことが言われている。 (1)中学生の意識の中で,低い成績評価が,成績だけにとどまら. ず,「つまらない自分,価値のない自分」というような自分 に対する全体的な低い価値付けを生み出している。 (瀬尾,1991,p.35). (2)「自分は普通ではない」と語る中学生に『普通』の内容につ. いて聞くと「勉強やスポーツが良くでき,かっこ良く,明 朗快活で誰にでも好かれる…」というような答えが返って. くる。本来理想自己であるはずの自己像を『普通』だと考 えているのである。(辻,1992,p.3). つまり,これまでの生活経験や他者との比較から自分に対する低 い評価しか持てなかったり,自信が持てなくなっているのである。. しかし,彼らの抱く自己像は,むしろ不確かなものであることが多 い。その理由として,思春期という,自己変容の過程の真っ只中に いることが大きく影響している。思春期には,「自我の目覚めとと. もに独立の欲求が高まるとともに,自己を内省し始める。性的な発 達に伴い,異性への関心が高まり,感情の起伏が激しくなる。(文 部省,1989,pp.31−32)」からである。. 竹内(1988)は,進路成熟と自己理解の関連に着目し,特に職業的. 進路成熟度に大きく関連している自己の長所に対する理解が中学生 に欠けている点を指摘し,進路指導では,あらゆる教育場面で自己 理解を深めさせる指導が必要であるとしている 次に,前掲の文部省の報告(1999a)で,生徒が「中学校在学時に指. 導して欲しかった事柄」として第1位に「自分の個性や適性を考え る学習」(51.9%)をあげているにもかかわらず,「将来の生き方や. 進路に対する学習状況」では67.8%が「学習している」と回答して. いることがあげられる。このことについて文部省は,次のように考. 3.

(12) 察している。. 生徒に自己の個性の理解を促す学習が取り上げられていながら,. それが必ずしも生徒自身の個性理解に結びついていないということ である。(文部省,1999a, p.86). さらに,先述の報告(文部省1999a)で,学級の生徒に対して進路 指導を行う際,学級担任がどのような「生徒理解のための個人資料」. を利用しているかという質問項目に対して,「定期テストなど日常 の学習の成績」が70.7%と最も多く,次いで,「進路希望調杢の回 答」(60.5%),「進路相談の記録」(48.8%)となっており,「生徒会活. 動や部活動など諸活動への参加状況」,「進路学習の記録や成果」あ るいは「進路に関わる啓発的体験活動」はあまり利用されていないと. いう結果が示されている。相談を受け,指導をする立場にある教師 の生徒理解が多面的になっていないことが,生徒の進路選択にも影 響を与えていることも想像に難くない。. 以上のことから,生徒が自分の生き方に対する考えや生徒自身の 興味や適性を生かした進路選択をしていくには,. (1)自己理解を発達させることにより職業的進路成熟度を高め. ていくこと (2)個性や適性を考えさせる指導の再検討をすること (3)生徒理解の資料として多面的な理解ができるよう,「進路 学習の記録や成果」などの活用に努めること が必要であろう。 また,自己理解の具体的方法としては内藤(1982)が,. (1)自己分析表を用いて自己評価する。. (2)各種検査・調査等の個人資料を利用して,適当な内容を生. 4.

(13) 徒にフィードバックする。 (3)面接相談を通して,客観化,現実化した自己認知を深める。. (4)勤労体験学習や啓発的経験を通して客観化,現実化した自 己認知を深める。 の4点をあげているが,これまでの進路指導では,特に(3),(4). の項目を自己理解に関係づけて行われることが少なかったと思われ る。また,面接相談を行なうことで教師側の生徒理解の深まりを期 待できるであろうし,加部(1992)も指摘しているうに,啓発的体験 は,生徒の自己理解や進路情報の理解をより具体的現実的なものに させることが可能であろう。. 本研究では,この2つの項目,面接相談と啓発的体験によって自 己理解を深めることを実践していきたい。なぜならば,これまで検 討してきたことから,進路成熟のために必要な自己理解を深めるこ とが生徒のニーズに答えることにもなり,「生き方」を中心に置い た進路選択を可能にすると考えるからである。. 第2節進路についての自己理解 1自己理解についての先行研究から 「自己理解」の概念は,非常に幅が広い。そこで,本研究では, 「進路探索のための自己理解」に限定して考えていくことにする。. これまでの研究の中で,「自己理解」は進路指導の重要な柱の1つ としてi数多くの言及がなされている。その主なものをTable.1−1に まとめた。. 5.

(14) Table.1−1 自己理解の定義. 出 典. 内容. 1 中西信男(1983). 生徒がどんなふうに自分の能力・適. これからの進路指導. 性等を知覚しているかを明らかにし,. の進め方p.31. 進んで客観的な姿との問のズレを洞察 させ,それを受容しながら,真実の自. 己を発見し,その自己の中に新しい視 点から見た可能性を見出し,能力・適 性や興味,価値観などを発展させる。 2 内藤勇次(1991). 自己の能力や適性,その他の特性を. 生き方教育としての. どのように認識しているかという生徒. 学校進路指導p.82. う生徒自身の自己概念の問題を考えに 入れつつ,自己を修正し統合しながら 自分で納得し自己受容できるようにな ること。. 3 i菊地武剋(1992). 生徒が,自分の身体的特徴,能力・適. 学校進路指導の運営・. 性・性格等に理解し,自分の周囲の状. 手支川 ・評イ亜p.283. 況をも含めて考える中で,自分はどのよ. うな人間なのか,何がしたいのか,将. 来どのような生き方がしたいのかなど について吟味し,より客観的で,現実的 なしかも,肯定的な自己概念を形成する こと。. 4 文部省(1994b). 将来の進路との関連において自己. 中学校・高等学校進路. の能力・パーソナリティーや身体的. 指導の手引き. 特徴,家庭や社会の状況などを正し. 一中学校学級担任編一pp.17−18. く把握する。. 6.

(15) さらに,仙崎ら(1998)の「進路指導構造化モデル」では,今後. 必要な能力領域を4つ設定している。その1つとして人間関係能力 をあげ,その中で「自己理解・人間関係能力」を次のように説明し ている。. ・自分の良さや成長が理解できる。. ・自分の非を認めたり受け入れたりできる。. ・自分のことを他人に表現したり,他人を尊重できる。 ・自分の言動が他人に及ぼす影響を理解できる。. つまり,自己理解を他者との関係の中で考えることの必要性を打. ち出しているのである。その上で,「自己理解は自分1人が納得す ればそれでよいというものではなく,自己を表現する能力も必要で ある」としている。. こうして先行研究を概観してみると,進路指導における自己理解 は,単に「自分のことがわかる」ということに留まらず,「自分を知 った上で自己を受容する」という点まで言及されていることがわか る。. 2 自己受容性. 心理学の立場からの自己受容に関する研究は,青年期に関する研 究として位置付けられており,「自己受容野」(self acceptance)と して定義されている。Rogers, C.R.は「自己受容性」(self. acceptance)について「価値あるひとりの人間,むしろ尊敬に価す るものとして自分自身を知覚することである(Rogers,友田(編 訳)1966,P.189>」と定義している。そこから自己受容は,わが国. でもカウンセリングにおいて重要な意味を持っているとされ,1970. 年代から1990年代前半にかけて種々の研究がなされてきた。概念 や測定法に始まり,他者受容との関係(川岸,1972),自己概念との. 7.

(16) 関係(梶田,1980),自己認知との関係(沢崎ら,1981a,1981b,1982;柏. 木,1983;大出ら,1988)などである。その中で青年期の自己受容性の 発達に関する研究としては,加藤(1962,1977),加藤ら(1980)一連 の横断的な研究や,宮沢(1980,1982a,1982b,1988)藤土(1985a,. 1985b)による縦断的な研究があげられる。. 宮沢(1980)は,自己受容性を「自己の諸側面をあるがままに受け 入れること」と定義し,中高生を対象とする尺度を構成した。この尺. 度は,自己信頼,自己承認,自己価値,自己理解の4つの下位尺度 を含み,27項目から成っている。そして下位尺度項目については, 次のように規定している。. 自己信頼:現在の自己及び将来の自己の可能性に信頼をよせ,人 生や物事に対する自己の対処能力に自信を持っていること 自己承認:現在の自己を嫌悪否定せず,自分を「投げてしまう」こと. なく,現在の自己をそのまま承認して受け入れること 自己価値:自己を無価値な存在としてみたり,自己の存在について 無意味感を持つことがなく,自己の人間的価値を疑わない. こと 自己理解:自己の諸側面をあるがまま受け入れようとすることであ り自己に冷静な目を向け,自分のことがよくわかっている と自己認識していること この研究を受けて藤土(1985b)は,自己受容性について「青年の 自己受容性は,児童期以来の自己(自我)を新たに捉えなおし,自分. はこういう人間であると同定してゆくことである」とし,「実証的 研究において自己受容性は,自己に対して肯定的な態度を示す概念 として使用する」としている。そして,藤土(1985a>は,中学生,. 高校生,大学生を対象に宮沢(1980)の尺度を再検討し,5項目の信 頼性尺度をつけ,32項目の尺度を構成した。. 8.

(17) 3肯定的な未来展望のために 一方将来の生き方について考えていくためには,肯定的な自己概 念を持ち,未来に対して前向きに考えることが必要である。ここで,. 考えなくてはならないのは,不安定な時期である中学生にとって, 現時点での自分への自己受容が,否定的なものになる危険性である。. したがって,自己受容をした上で,未来に対する自己像を肯定的な ものにすることを考えていく必要がある。自己概念の肯定と未来展 望に関しては,時間的展望とRotter(1966)の10cus of contro1と. の関連で研究がなされている(水口,1975;杉山・神田,1995;杉 山,1993,1994a,1994b,1995a,1995b)Q. Iocus of contro1とは, Rotter(1966)が認知的社会学習理論. の立場から提唱したもので,一般に「統制の位置」「統制期待」等 と訳されている。その理論とは,次のようなものである。. 物事が起こる時に関与する要因が不確実な時に,その結果の成 否に関する期待として,自分の能力や努力によって可能になるとす る考え方(内的統制型)と自分以外の何者かの力によって可能になる という考え方(外的統制型)とがある。 これをわかりやすく,Fig.1−1に示した。. 成果を生み出す力 自分以外の. 自分にあるこ. 外部の力に. と期待する. (内的統制). 期待する. (外的統制〉. Fig.1−1. どこに位置するか. 10cus of contro1. 9.

(18) Rotter(1966)はこの10cus of controlを内的統制と外的統 制を両極とする1次元連続体であるとし,統制の位置がわかると 行動の予測が成り立つと考えた。わが国でも,1970年代後半から 尺度作成(樋口ら,1978,1982桜井1986)に始まり,それに基づい たlocus of controlの発達的変化(鎌原ら,1987),親の養育的態. 度や教育環境との関連(樋ロら,1983),前述の時間的展望との関. 連などの研究がなされてきた。時間的展望と10cus of controI との関連についての研究の中で杉山は,「個人の未来に対する認 知や態度である時間的展望がその個人の10cus of contro1に強 い影響を受けることは想像に難くない(杉山,1993,P.158)」と述 べている。. つまり,肯定的な自己概念を持ち未来に対して前向きな考えを 持つためには,locus of controlを内的統制方向に向ける必要が あるということである。. 4進路探索のための自己理解 以上の先行研究をまとめ,本研究における自己理解は,次の4つ のステップからなるものとする。. ステップ1:自分について知る(自分の能力・適性・興味・関心 について知る)。. ステップ2:自分をより深く見つめる(周囲の状況をも含めて 知っている内容について吟味する)。 ステップ3:自分を受け入れる(自己をありのまま受け入れる)。. ステップ4:肯定的な未来展望を持つ(新しい視点から見た自分 の可能性を見出す)。. 「自己受容」をした上で,未来に対する自己像を肯定的なもの にするには,どのような働きかけをしたらいいのだろうか。菊地. 10.

(19) (!992)は,次のように述べている。. ある時点での能力・適性に関する評価や判断が将来にわたって その生徒に不変であると考えるのは危険である。…中略…自己の持 つ様々な側面は変化・発達してくるということを認識しておくこと が必要である。(菊地,1992,pp.268−269). 人間の能力・適性は不変ではなく,変化・発達していくという考え は,生徒たちに自らの能力・適性についての可能性を知らせる体験. の必要性を示唆していると言えよう。自己を受容し,locus of contro1を内的統制方向に高める方法を検討していくことが中学生 の進路発達の上で重要なことである。. 第3節進路指導における自己理解を深める方法 1進路指導における啓発的体験 従来,中学校では進路指導というと,将来を見通した指導という ことから,職業観や勤労観を育てていこうという考えが主流であっ. た。しかし,第1節で述べたように,職業観,勤労観育成の指導を 進めていく土台として生徒自身が自己理解を深めておくことが必要 であろう。今回の新指導要領で文部省(1999b)は,特別活動領域に おいて,自己及び他者の理解と尊重について言及している。また, 中教審の中間…報告(1999)でも,中学校教育段階の目標として,次の. ような記述がなされている。. 特に進学や職業選択の準備のため,自らの生き方を考えて行動す る能力や態度及び主体的に進路を選択する能力を身につけるととも に,その後の学習や職業生活を通じていっそう伸張されるべき自己 の個性を見出しておくことが重要である。(インターネット文部省ホーム. 11.

(20) ページhttp://www.mOnbU.90.jp/より). また,社会の中では,高校卒業者の約9%が進学も就職もしてい. ないことや新規高卒者で約47%,新規大卒者で約32%が就職後3 年以内に離職していることが大きな問題としてクローズアップされ はじめている(文部省,1999c;労働省,1997)。こうした新規学卒者. のフリーター志向の広がりや就職後3年以内の離職は経済状況や労 働市場の変化などの問題とも関係していることは言うまでもないが r学校教育と職業生活との接続に課題があることは確かである。」 と中教審(1999)は報告している。そして,社会及び学校間の円滑な. 接続を図るために小学校段階からのキャリア教育(望ましい職業 病・勤労観及び職業に関する知識や技能を身につけさせるとともに,. 自己の個性を理解し,主体的に進路を選択する能力・態度を育てる 教育)を実施することが必要であるとし,そのために体験活動を重 視するように述べている。. 前述のように,近年中学校では,進路指導の1つとして職業体験. が広がりつつある。その最も代表的な例として兵庫県が1998年か ら全県で実施を始めた「トライやるウィーク」があげられる。「トラ イやるウイーク」の効果については上地(1998),小林(1999)による 報告がなされている。小林(1999)は,「トライやるウィーク」の事前・. 事後の調査の結果,「トライやるウィーク」の体験が中学生の自己効 力感,勤労観などの「生きる力」を高めることがわかったとしている。. 職業体験が学校では知ることのできない「新たな自己発見の場」と なり,中学生に大きな影響を与えることは想像に難くない。しかし,. 職業体験についての実証的な研究はまだ始まったばかりであり,そ の報告も,前述の上地(1998),小林(1999)の他には,大阪府の中学 生を対象にした安達・平尾(1999)の研究があるだけである。. 12.

(21) 2 キャリアカウンセリング. 学校教育の中に心理的な援助が求められるようになってきている ことは前述の中教審の報告(1999)からも明らかである。. そうした流れの中で,石割(1994)は,学校心理学の立場から,学. 校における児童・生徒に対する援助の3領域として,「学習面」「心 理・社会面」「進路面」をあげている。また,国分(1994)も学校教育. における「育てるカウンセリング」の第1にキャリアガイダンス(あ. るいはキャリアカウンセリング)をあげている。これは,学校教育 の中で,心理面の援助を考えた時に進路に対する援助は重要な領域 であることを示唆する発言である。. しかし,学校教育の中で実践的に使われる進路関係のプログラム やカウンセリングに関する実証的な研究は少ない。プログラム関係 は,長谷川(1994)の自己効力理論を用いた中学生に対する進路学習 に関する研究,川崎(1994)による中学生に対する構成的グループエ ンカウンターの実践的研究,高工(1997)の高校生を対象に進路学習. プログラムとして構i成的グループエンカウンターを用い,その効果 について検討した研究と吉田(1997)のグループワークを用いた中学 生の自己理解プログラムに関する研究があげられる。吉田(1997)の. 研究では,進路学習の授業向けに中学1年生から3年生までの各学 年それぞれ6時間のプログラムを作成し,実践の効果測定をおこな っている。しかし,自己理解の手段として用いられているのは,従 来どおり特別活動の授業であり,面接や啓発的体験を取り入れるこ とはなされていない。. カウンセリング関係では,山口ら(1988)の大学生へのキャリアグ ループによる実践や定金(1996)の高校生を対象にブリーフカウンセ. リングを進路カウンセリングに用いた報告がみられるが,中学生に ついての研究はまだ見当たらない。 そして,これらの研究では,実践の前後の効果測定を中心にした量. 的分析を行っているものと実践過程から生徒の変容を考察すること. 13.

(22) を中心にした質的分析を行っているものに分けられ,双方の観点か らの研究は長谷川(1994)と吉田(1997)のものだけである。. 臨床心理学の立場から下山は,心理学研究のデータ収集を扱う場 の型として「実験」「調査」「実践」という3種類の分類をし ,「実践型研. 究」について言及している。そしてその中で次のように述べている。. 学校現場で心理学を活用する場合には,実験型研究で得られた成 果を単に適用すればよいというのではなく,学校現場に関与し,そこ. でのかかわりを通して実践的に有効な仮説を生成するといった実践 型研究を併用することが必要となる。(下山,1997,p.21). これは,今まさに学校現場が学問的研究に求めているいるもので. ある。一方学校現場でも,生徒自身が進路を切り開く力を培って欲 しいという願いから進路学習という形で様々な実践が行われている ことは事実である。しかし,それらの成果が単に実践として埋没し てしまい,実践の成果を研究の成果として実証的に示し,他の実践者. や研究者と共有できるものになっていないこともまた事実である。. 第4節研究の目的 本研究の主な目的は,中学生を対象に進路探索のための自己理解 を発達させる方法を提起することである。 第ユ節で述べたとおり,現在の中学生は,自己に対する理解が不充. 分である。そこで,進路を考える上での土台作りとして自己理解を 発達させる体験を積むことが必要となる。. 第2節で先行研究を概観し,まとめたように,本研究での自己理 解の定義は,単に自分のことがわかるというだけのものではなく,. 自分について知り,ありのままの自分を受け入れ,未来に対して前 向きな考えを持つというものとする。. また,第3節でふれたように,中学校での進路指導において自己 14.

(23) 理解を発達させることも,職業体験の効果的な指導のあり方もその 必要性が指摘されているにもかかわらず,実証的な研究にはほとん ど手がつけられていないと言ってよい現状である。今後望まれるの は,学問研究の場で蓄積されてきた先人の有効な理論を学校の実践 にどう生かし,それをどう発展させていくかということである。. 以上のことをふまえて,本研究では,自己理解を発達させる進路 プログラムを作成し,中学校における実践を通して,その有効性と 効果を検証し,修正を加えて学校で実践的に使用できるものとする ことを目的とした。. あわせて,自己理解発達の機会として職業体験を想定し,プログ ラムのセッションの問に職業体験を組み入れる。そして職業体験を より効果的なものにすることをねらいとする。 具体的には,次の3点を研究の骨子とする。:Fig.1・2に研究の大 まかな流れを図示した。. (1) 職業体験を受けた中学生を対象に,質問紙によって自己受容 とlocusof controlの事前・事後の変化を調査する。また,職業体. 験についての感想も同時に調査する。これによって職業体験が 進路探索のための自己理解に及ぼす効果について検討し,職業 体験のためにカウンセリングプログラムには何が必要なのかを 明らかにする。 (2) 文献研究と(1)の調査研究に基づき,学校現場での使用可能な. カウンセリングプログラムを作成する。 (3) 作成したカウンセリングプログラムを実践し,その効果につ. いて量的分析,質的分析の両面からの検討を通してプログラム を修正し,改訂版を作成する。. 15.

(24) 《研究1》職業体験による自己受容. グループカウンセリング. とLocus of Controlの変化を調べる. @プログラムの作成. プ リ テ ス. ト. 調査 ポ ス. ト テ ス. ト. グループカウンセリングプログラムの作成. 《研究1》 プログラムを用いた実践と効果の検証. プ リ テ ス ト. 実践. プログラムによる実践. フォローアップテスト 量的分析. [亘=壷コ. 改訂版プログラムの作成 Fig」一2 研究の流れ. 16.

(25) 第2章く研究1>職業体験が自己受容と locus of controlに及ぼす影響. 第1節 研究1の目的 本調査の主な目的は,職業体験が中学生の自己受容と10cus of controlにどのような影響を及ぼすかを検討することである。また,. その結果を分析することによって,カウンセリングプログラムの作 成に役立てることも目的とした。具体的には,次の3点である。 (1) 職業体験を通して,中学生の自己受容とIocus of control. がどのように変化したかを量的分析によって明らかにす る。. (2) 自己受容や10cus of controlの違いによって,職業体験. に向けての事前指導に取り組む考え方や,体験後の感想 にどんな点で差が出るのかを明らかにする。 (3) 上記の分析に基づき,プログラム作成の際に取り入れ. ることのできることを整理し,まとめる。. 第2節調査方法 1調査対象 調査対象は,A県T市立B中学校2年生235名(6クラス,男子 114名,女子121名)であった。職業体験:の前後で質問紙による調 査を行った。. 2使用する尺度について 自己受容の変化を調べるための尺度として宮沢(1980)の自己受容 17.

(26) 性尺度を,locus of controlの変化を調べるためには神田(1993)の. 子ども用一般主観的統制感(10cus of control)尺度を用いること にした。. 自己受容性尺度は,宮沢が1980年に作成したスケールで,その 後,藤土(1985b)によって検討がなされ,藤土は,従来の27項目 の他に5項目からなる信頼性項目をつけている。本調査では,神田 (1993)の子ども用一般主観的統制感(10cus of control)尺度26項. 目と同時に調査を実施することから,調査項目が多くなりすぎるこ とを懸念し,宮沢(1980)の27項目を使用することにした。中学生 に用いることについては,藤土(1985a),宮沢(1988)と検討がなさ. れており,適当であると判断した。. また,この尺度は自己信頼・自己承認・自己価値・自己理解の4 つの下位尺度からなっている。各下位尺度の名称についての定義は,. 第1章第2節で述べているので参照されたい。 神田(1993)の子ども用一般主観的統制感(locus of contro1)尺度は,. 小中学生を対象に作成されたものであり,項目の内容からも10CUS of contro1をはかる尺度としては中学生に実施するのに最も適して いると考えた。. 3調査用紙の構成 事前調査では,「今の自分をみつめて」という題をつけ,クラス,. 番号、性別の3項目からなるフェイスシートとともに、「職業体験 学習を控えて,期待すること,不安に思っていること,その他なん でも今の気持ちをありのままに書いてください」という質問項目の 自由記述欄を設けた。それと宮沢(1980)の自己受容三尺度27項目, 神田(1993)の子ども用一般主観的統制感(locus of contro1)尺度(以. 下:LOC尺度とする)26項目構成した。なお,宮沢(1980)の自己受. 容性尺度の4つの下位尺度項目のうち,自己価値6項目中4項目 は,中学生に回答させるのに不適切と考え,表現を逆転させた。 18.

(27) 事後調査は,「今の自分をみつめて」という題をつけ,クラス,. 番号,性別のフェイスシート3項目と,体験した職種,人数と7 項目からなる感想調査(Table2−1),「職業体験について,よかった. こと,悪かったこと,楽しかったこと,つまらなかったことなど自. 由に書いてください」という自由記述欄を設けた。それに事前調査 と同様,宮沢(1988)の自己受容性尺度27項目,神田(1993)のし,OC. 尺度26項目で構成した。. なお,自己受容性尺度と:LOC尺度については, APPENDIXを 参照されたい。. Table2−1感想調査の項目 (1)あなたは,自分が職業体験をする職業をどうやって選びましたか。 (2)今,あなたは,その職業にしてよかったと思っていますか。 (3)一1 (2)で1と答えた人だけに聞きます。どんな所がよかったですか。. (3)一2 (2)で2と答えた人だけに聞きます。どうしてですか,そのわけ を. 教えてください。 (4) あなたにとって仕事の内容は予想通りでしたか。. (5)あなたが,職業体験をして一番よかったと思うことはなんですか。 (6)職業体験をふりかえって,体験前にしたことで,一番役に立ったのは どんなことでしたか。. (7)職業体験をふりかえって,体験の前に事前に知っておきたかったこと は何ですか。. 4調査手続きと調査時期 職業体験を行う生徒全員に対して学級活動の時間に各学級担任の 教示で実施した。調査時期と職業体験の期日は次の通り。 19.

(28) 事前 1999年1月30日 職業体験 1999年2月 4日 事後 1999年2月 6日 5職業体験について 本調査における職業体験は本人の希望する職場での1日体験であ. る。調査校では,市内22の中学校に先駆けて,7年前から職業体 験:学習を実施している。啓発的体験を柱とし,特別活動,道徳の時. 間を連動させた学年ごとのカリキュラムが作られている市内でも先 駆的な学校である。調査対象者となった生徒たちも,1年生では,. 老人ホームや養護学校との交流体験を通して福祉について学んでお り,啓発的な体験活動は今回で2回目である。また,特別活動や道 徳の時間を使った「働くこと」をテーマにした事前事後学習も,事前. 8時間,事後2時間が行われている。本調査は,事前調査が事前学 習終了後に,事後調査が事後学習に入る前に行われた。. 第3節結果と考察 1分析対象 本調査の分析対象は,調査対象者235名のうち欠席者を除く 222名である。男女の内訳は,男子107名,女子115名である。 2事後感想調査の結果と考察 職業体験後の感想を質問し,その結果を男女別にクロス集計をし た。その結果(Table2−2∼2−7)から次のようなことが考察される。. 職場を選んだ理由は,仕事の内容を考えた者が4割強で最も多く, 20.

(29) 全体の次に多いのが,将来の職業を考えた者だった。(Table2−2) Tab[e2−2「あなたは職業体験をする職業をどうやって選びましたか」の集計結果 将来の職業. 仕事の内容 24 33 57. 男子 女子 合計. 仕事が楽. 大人の勧め. 友達と同じ. その他. 14. 52 46. 8. 6. 3. 12. 6. 0. 18. 98. 20. 12. 3. 32. 次にTable2−3,2−4より,選んだ職業については,満足している. 者が多い。しかし,実際の仕事内容が予想とは半数の者が違ってい たと答えている。その理由として, 企業側が1日だけの「お客さ ん」である生徒たちにそれなりに考えて仕事を与えているというこ とと,生徒たちが,その職業に持っていたイメージと実際の仕事内. 容にズレがあったことが考えられる。また,当日の天候が悪く,そ れで予定を変更した職場もあったようだ。事後調査の自由記述にも,. 「ペットショップに行ったけど,当日は天気が悪かったので,予定 していたペットの散歩ができなかった。仕事が少なかったのでつま らなかった。」という回答がみられた。. Tabie2−3「今あなたはその職業にしてよかったと思っていますか」の集計結果 いいえ. はい. 89 104 193. 男子 女子 合計. 18 11. 28. Table2−4「あなたにとって仕事の内容は予想通りでしたか」の集計結果 いいえ. はい. 52 52 104. 男子 女子 合計. 55 63 118. Table2−5「あなたが,職業体験をして一番よかったと思うことは何ですか」. の集計結果 進路の目標 睾. 15. 享. 15. 壽. 30. 仕事内容知る 働くことの喜びつらさ お客に感謝. 自己発見. チームワーク. その他. 26. 51. 1. 9. 3. 2. 30 56. 50. 3. 9. 3. 5. 101. 4. 18. 6. 7. 21.

(30) 次に,職業体験のよかったこととしては,働くことの喜びやつら さについてわかったことと仕事内容を知ることができたことを挙げ た者が多い。(Table2−5). Table2−6「Table2−3で「はい」と答えた人だけに聞きます。. どんなところがよかったですか」の集計結果 仕事の内容. 自分のために. 25 10 53. 男子 女子 合計. 自分に向く. 24 28 52. その他. 友達と仲良く. 職場の人と 3. 32. 4. 2. 8. 41. 0. 3. 11. 73. 4. 5. また,Table2−6から,職場の人や一緒に行った友達との人間関 係についてよかったと感じた生徒が全体の3割を占める。事前に知 っておきたかったことの中でも,職場の人やお客さんとの接し方を 挙げている者も少なくない。(Table2−7). Table2−7「職業体験をふりかえって事前に知っておきたかったことは何ですか」. の集計結果 向く職種. 男子 女子 合計. 26. 仕事内容. 職場の規模. 21. 5. 47. 17. 職場の人と. 38 38 76. 12. その他. 特になし. 12. 0. 19. 22 34. 2. 27 46. 2. 3自己受容性尺度について 宮沢(1980)の自己受容性尺度を主因子法で因子分析し,バリマッ. クス回転を行い,宮沢と同じく4因子を抽出した。しかし,項目が 宮沢の下位尺度と一致しなかった。信頼性係数であるα係数は,自 己受容合計得点で.827で項目間の斉一性は高いといえる。また, この下位項目合計ごとのα係数を求めたところ,それぞれ.681(自 己信頼),.725(自己承認),.786(自己価値),.648(自己理解). 22.

(31) であった。したがって,下位尺度の信頼性も一応保証されていると. 考えられる。そこで,分析は,各下位尺度の中から因子負荷量の高 かった項目(Table2−8の四角で囲んだ項目)を取り上げて集計し たものを使用することにした。Table2−8に因子分析の結果を示す。 Table2−8自己受容性尺度の因子分析の結果 審督度の下第1因子. 1. 自己信頼. 信頼22私は目標に向かって生活していける 信頼18私は将来何が起ころうと自分なりにやっていける 信頼14私は困難にぶつかってもそれを克服できる 信頼24私は自分の才能を生かした人生を送ることができ. 11. w. 皿. .62. 一.06. .10. .20. .59. 一.15. .15. .17. .59. 一.14. .09. .07. .53. 一.08. .08. .11. .53. 一.14. .39. 一.04. .49. 一.12. .07. .16. .41. 一.12. 一.13. .39. 一.14. .67. ∴15. .13. 一.11. .62. 一.22. .04. 一.17. .53. ∴26. 一.06. 一.10. .50. 一.30. .01. 一.16. .49. 一.07. 一.33. 一.04. .47. 一.05. 一.18. ∴12. .44. 一.07. 一.42. 一.22. .42. .03. .08. 一.19. .41. .09. .12. .11. 一.06. .88. 一.08. .20. 一.14. .79. 一.04. .30. 一.14. .46. .20. 理解1私は自分の性格を知っている 理解5 私は自分の短所がわかる 理解26私は自分の特徴がわかる. .08. .07. .08. .72. .13. .13. .14. .57. .36. 一.03. .04. .55. 説明率 (%). 11.06. 10.63. 8.56. 8.03. @ る. 価値25私は生きる価値がある人間だとと思う 信頼10私は自分のことは自分で解決する 理解9 私は自分の能力や才能を冷静にみることができる. 第2因子 自己承認 承認7私の容姿には変えたいところが多い# 承認3私は今の自分に不満である# 承認15私は自分と違うだれか別の人になりたい# 承認23私は性格をまったく別の性格に変えたい# 理解21私は自分の長所がわからない# 価値12私には,人に誇るものが何もない# 理解13私には自分の得意なことが何かわからない# 信頼6私は自信がないため物事をあきらめがちである# 価値8まわりの人はみな私より立派な人間である#. 第3因子. 自己価値. 価値16私は生まれて来てよかった 価値20私は生きていてよかったと思う 承認11私は今の自分を大切にしたい. 第4因子. 自己理解. 注#は反転項目. なお,次のTable2−9にあげる5項目については,どの因子にお いても負荷量が低かったので分析の対象から除外した。. 23.

(32) Table2−9因子分析から除外した項目 宮沢の下位尺度 質問紙番号. 項. 目. 信頼. 2. 私は自分で決めたことには責任を持つ。. 価値. 4. 私は価値のある人間である。. 理解. 17. 私は自分のことがわからない。#. 承認. 19. 私は自分にあった生活をしている。. 理解. 27. 私は容姿(すがたかたち)の悪い面がわかる。. 注#は反転項目. 4 LOC尺度について Rotterの理論から10cus of controlは,高In.terna1(低External). 一低Internal(高External)を両極とする1次元連続体であると考 えることが妥当である。そこで,子ども用一般主観的統制感尺度に. ついても1因子であると考えた。α係数を求めたところ,.729と 一定の水準を満たしていた。 5 自己受容およびlocus。f oontolの変化および,. 感想調査との関連 (1)自己受容性尺度の変化. 事前調査における自己受容性尺度の合計得点(自己受容得点)によ って全体を3群に分け(高中低得点群;約1/3ずつに全体を分割), 得点群(3)×時期(2)の分散分析を行った。. その結果,群及び時期の主効果が有意であった(群:F(2,175)= 225.29,p〈.01,時期:F(1,175)=26.05,p<.01)。なお,群×時期の. 交互作用も有意な傾向がみられた(F(2,175)=2.88,p<.10)。. 24.

(33) 87. 82 77. 十高得点群 川中得点画. 72 67. 一論F−r低得点群. 62. 前平均. 後平均. Fig.2−1自己受容の変化. Fig.2−1にあるように,職業体験の前に比べ後では低得点群と中. 得点群のみ,自己受容得点が増加した。有意傾向のあった交互作用 について下位検定したところ,中得点群と高得点群の時期による単 純主効果が有意であり,職業体験の前後で自己受容得点が増加する が,高得点群では,有意な差がみられないという結果が得られた。 このことから,特にあまり自己を受け入れていない生徒では,職業. 体験によって,ともすれば,学業中心になりがちの学校生活では見 出しにくい「新たな自己」を発見することができたのではないだろ うか。事後調査の自由記述の中にも次のような記述がみられた。. ・人見知りすると思っていたけれど,恥ずかしがらずにお客さん と話せ,自信がついた。(自己受容低得点群動子). ・働きに行ったところで『器用だね』と言われてうれしかった。 みんな優しかった。(自己受容中興紅熟男子). (2)自己受容性尺度の下位尺度の変化. 職業体験における自己受容の変化をさらに詳しく調べるために,. 事前調査での自己受容性尺度の下位尺度ごとの合計得点によって全 体を3群に分け(高中低得点群;約1/3ずつに全体を分割),得点群 (3)×時期(2)の分散分析を行った. その結果,当然ながらすべての下位尺度で得点群の主効果が有意 であった(自己信頼:興1,175)=47.70,.ρ<.001,自己承認:’勲1,175)ニ. 25.

(34) 48.27,.ρ<.001,自己価値:取1,175)=42.79,」ρ<.001,自己理解:取1,175)= 18.74,」ρ<.001)。 (Table2−10). Table.2−10自己受容性尺度の下位尺度ごとの変化 自己信頼(4). 自己承認(4). 自己理解(3). 自己価値(3). 高得点 中得点 低得点 高得点 中得点 低得点 高得点 中得点 低得点 高得点 中得点 低得点. 事前. 12.0 10.6 9.0 12.3 10.0. S.D. 1.4. 2.0. 事後. 9.5 11.3 12.1 12.0 10.8. S.D. 1.8. 2.0. 1.4 1.5. 2.4 2.2. 7.9 11.0. 9.9 2.4. 2.2 2.1. 8.4. 9.7. 1.1. 1.5. 9.0 10.3. 9.3. 8.2. 2.4. 1.4. !.8. 1.3. 2.3. 8.9. 8.2. 1.6. 1.5. 9.9. 8.8. 8.5. 1.2. 1.7. 1.7. 1.3. O内は項目数. n:高得点=73,中得点=75,低得点=74. 自己信頼では,時期の主効果も有意であった(双1,175)=11.89,. p<.001)。Table2−10からもわかるように,事後,得点が上昇して. いる。自己承認では,時期の主効果と得点群×時期の交互作用が有 意であった(時期:興1,175)ニ11.91,ρ<.001,得点群×時期:双1,175). =7.70,p<.oo1)。交互作用の下位検定の結果, Fig.2−2にあるよう. に低得点群と中得点群は,職業体験の前後で自己承認得点が増加し ていた。自己価値では,時期の主効果も有意であった(双1,175)ニ 17.80,.ρ<.oo1,)。 Fig.2−3に示されているように,事後,得点が減. 少していることがわかった。. 10. 13.00. 12,00. 1tOO. 9.6. 10,00. 92. 9,00 8.00 7.00. 事前. 事後. 8.8. +高得点. 尋中得点. Fig.2−2自己承認得点の変化. 事前. 事後. Fig.2−3自己価値の変化. 一か低得点. 以上の結果をまとめると,次のようにいえる。職業体験によって,. 全体では,自己信頼の領域を促進する効果があった。さらに,低得 点群と中得点群では、自己承認の領域を促進する効果もみられた。. また,自己信頼の領域の得点が上昇したということは,言いかえ. 26.

(35) ると「働くこと」によって自分に対する自信が高まったと言える。 「働くこと」は同世代集団の学校とは違い,大入の中で自分が役に. 立つという体験である。これは,生徒たちにとっては得難い経験と なったのであろう。事後調査の自由記述の中にも,. 勉強なんかでは,わからないことが多くて嫌になつちゃうこと が多いけど,職業体験は違った。普通の大人みたいに本当に働け た。自分にとってとてもよかった。(自己受容低得点群女子) との回答がみられた。. 自己承認では得点群×時期の交互作用がみられた。自己承認は,. 今の自分を変えたいかどうかを聞いている。得点が増加した低得点 群と中得点群では, 職業体験によって自分を変えたいとは思わな くなったということである。これは,自己信頼の上昇により,自分に. 対する自信が高まり,「今のままの自分でよい」と考えるようにな ったのであろう。. 自己価値得点の減少は,上記の自己信頼得点の上昇と併せて考え ると,矛盾する結果である。自己価値は,生きることへの前向きな 思いを聞いている。Table2−10からわかるように,同一項目数の自 己理解と比べて自己価値は,事前得点が高く,その影響が天井効果と なって現れたのかもしれない。. (3)LOC尺度の変化. 職業体験によって10cus of contro1がどのように変化したの. かを調べた。そのために上記と同様,LOC尺度の合計得点によって 3群に分け(高中低得点群;約1/3ずつに全体を分割),得点群(3) ×時期(2>の分散分析を行った。. その結果,得点群の主効果と時期の主効果が有意であった(群: .F(2,175)=145.92,P<.01時期:F(1,175)=50.41,P<.Ol)。また,. 27.

(36) 群×時期の群問の交互作用も有意であった(F(2,175)=6.66,ρ〈.05)。. そこで,各水準ごとに単純主効果を分析した結果,職業体験の前 後で低得点群と中得点群には有意な増加がみられたが,高得点群は 変化がなかった(Fig.2−4). 85 80 75 70. +高得点群. 65. 一鐡一中得点群. 60. 由仁得点群. 前平均. 後平均. Fig.2−4 LOCの変化. 職業体験:を通して,locus of control得点の低い生徒は,自. 分の持つ力に自信を持てるようになり,もともと高かった生徒は,. 社会の厳しさを感じたことにより,伸びが少なかったのではないか と推察される。事後調査の自由記述には,次のようなものがみられ た。. ・職業体験をして本屋の具体的な仕事の内容を知った。今後の将来 に生かせるかもしれないと思った。仕事は大変だったが楽しかっ た。将来,目指す職の一つになるかもしれない。(低得点群男子). ・機械設計をした。コンピューターを使ってものを作ることに興味 を持った。(低得点群男子). ・立ちつぱなしで疲れたけれど,一日音楽に囲まれていて幸せだっ た。私にぴったりだと思った。(中得点群女子). ・コンピューターにあまり触ったことがなかったので,できなかっ. たらどうしょうと思っていたけれど,やってみたらできたので楽 しかった。(中得点群女子). ・ナースの仕事をみれたことがためになった。ナースやドクターの. 仕事がやりたかったけれど,やっぱり大変な仕事で,人の命にか かわることなのでやらせてもらえなかったのが残念だった。 (高得点群女子). 28.

(37) ・病院の患者さんは優しかったし,自分も一生懸命お世話できた。. でも,看護婦さんはなんか忙しそうで怖かった。将来の職業とし て考えていたのでちょっとがっかりした。(高得点群女子). ・働くことの厳しさを知ることができたのはよかったが,それは学. 校で用務員さんの手伝いをしてわかっていたことであり,事業所 では見学が多く,活動時問が少なかったことがちょっと不満だっ た。(高得点群男子). などの回答がみられた。高得点群には,ただ単に勤労体験によって. 手応えを味わわせるというねらいから一歩進んで,具体的な目標を 持って職業体験に取り組んだり,当日の様子についてシミュレーシ ョンをしておくことにより,locus of controlをさらに高めるこ ともできるのではないだろうか (3)感想調査項目との関連. 次に,自己受容とlocus of controlの変化とアンケートで選択し. た項目との関係について調べた。自己受容性尺度と:LOC尺度それ ぞれについて,事前調査と事後調査の問の得点差を求め,平均+ 1/2SD以上を上昇群,平均一1/2SD以下を下降群とした。上昇群と 下降群の得点差の平均値と標準偏差は,Table2−llに示すとおりで あった。. Table2−11 自己受容とlocus of controlの上昇群と下降群の得点差の平均値. 受容変化 上昇群. M S.D.. 8.59 4.37. locus of control変化. 下降二 一5.74. 2.81. 上昇群 5.64 3.79. 下降二 一6.09. 2.84. 職業体験に関する各アンケート項目において,群議に片寄りがみ. られるかを両尺度それぞれについてZ2検定を行ったところ,自己. 29.

(38) 受容の変化による群問に,1項目でのみ有意差がみられた(Z2=7.89, df=2,p〈.05)。. (Table2−12). Table2−12 どうやって職種を選んだかについての回答. 下降 上昇 合計. 18 14. 12 28. 18 23. 32. 40. 41. 48 65 113. 残差分析の結果,「将来の職業」と「仕事の内容」の項目で有意 差がみられた(職業;1残差1=3.80,p<.01,内容;[残差1=3.77,p. <.01)。Table.2−12で示されたように,自己受容の得点上昇群は,. 将来の職業を考えて選んだ者が多く,下降群は仕事内容によって職. 種を選んだ者が多かった。この結果から,職種を選ぶ場合に将来の 職業まで考慮した方が職業体験において自己受容が高まることが示 唆された。. 第4節プログラム作成に向けての考察 本調査の結果から,プログラム作成に向けてのいくつかの留意点 が得られた。感想調査からは,職場選びは,仕事内容を考えた生徒 が多かったが,仕事内容が予想と違ったことをあげた生徒も多かっ. た。良かった点として,働くことの喜びやつらさを知ったこと,職 場の人や友だちとの交流が持つことができたことが,多くの生徒か らあげられた。事前に知っておきたかったこととしては,職場の人 やお客さんとの接し方をあげた生徒が多かった。したがって,プロ グラム作成にあたって,次のようなことに留意して進めていくこと が肝要であると考える。. (1)事前に自分が希望している職業の仕事内容を知り,自分に 向いているかどうかを考える。 (2)働く時の人間関係や入との接し方について,考える機会を 30.

(39) 持つ。. さらに,自己受容とlocus of controlの変化からは,職業体験. で得られた自信を生かすとともに,具体的に「自分のことがわか る」ことや,「前向きな考え方を持つことができる」ような内容を. 考える必要があることなどが示唆された。また,体験に向けて具 体的な目標を持ち,目標に対する達成感を抱くことも必要なこと がわかった。そのためには,次のようなことが必要である。 (1). プログラムを通して自分の特徴や適性を知る機会を作る. (2). 目標設定をセッションの中に組み入れる. (3). 事後セッションを設け,職業体験をふりかえる. 以上のことから,自分に対する自信を深め,生きることへの 肯定感を高めていくことにより自己理解を発達させていくこと にする。. 31.

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