推 奨 膵癌切除不能例による閉塞性黄疸に対しては,プラスチックステント(plastic stent;PS)よりも開存期間の長い自己拡張型メタリックステント(self─ex-pandable metallic stent;SEMS)が推奨される(グレードC1)。SEMSのなか では被覆型(covered type)の開存期間がuncovered typeより長いことが報告 されている(グレードC1)。施設ごとの技術,診療体制,患者の状態によって uncovered typeやPSの選択を考慮してもよい。
■エビデンス 1.ステントの種類
ステントの種類には大きく分けてプラスチックステント(plastic stent;PS)と自己拡 張型メタリックステント(self─expandable metallic stent;SEMS)がある(図 2〜5)。
SEMSは金属ワイヤーで編んだ網目状の構造をしており,細く畳んだ状態での収納が可 能であり,内視鏡の鉗子チャンネルを通過可能で,かつ胆管閉塞部において拡張すると 10mm程度の内腔が確保できる(図3〜5)。しかし,SEMSは網目状のため,閉塞部で 癌組織が侵入して再閉塞することが知られており,これを防ぐために被覆型のcovered typeが開発された(図4)。このため従来型の網目状のSEMSはuncovered typeと呼称 されている。
ステントの臨床試験は通常中部胆管閉塞例と肝門部胆管閉塞例は区別されて施行され ているが,原発巣を特定して検討した臨床試験は極めて少ない。中下部胆管閉塞に対す る臨床試験の多くは膵癌が60〜80% を占めているが,試験ごとにその比率は異なる。
原発巣を限定していない切除不能悪性中下部胆管閉塞に対するRCTはいくつか報告さ れている。まず,uncovered typeのSEMSとPSの比較では,uncovered SEMSのほう が有意に成績良好とするRCTが報告されており 1, 2)(レベルⅡ),covered SEMS vs PS も2編ある 3, 4)(レベルⅡ)。いずれもSEMSの開存期間が長く,非切除悪性中下部胆管 閉塞では合併症,コストの面からもSEMSのほうが推奨される。このうち膵癌に限定し た報告はcovered SEMS vs PSの1編であった 4)。しかし,SEMSの留置には専門的な 知識と技術が要求され,特に閉塞時,合併症発生時やその対策には難渋することもある。
そのため,専門的な知識や技術を有さない術者では,開存期間よりも安全性を優先して PSを選択肢のひとつとして考慮することもやむを得ない。そのため,PSとSEMSの選 択に関しての推奨度をグレードC1とした。また,SEMSのタイプに関しても,膵癌に 限った比較試験が少なく,エビデンスがやや不足していると考えられ,現在の推奨度を
グレードC1とした。初回ドレナージ時にはPSを使用し,二期的にSEMSを留置してい る施設もあるので,あくまでも長期留置を念頭に置いた選択であることを追加してお く。
SEMSのなかではcovered typeとuncovered typeがあり,これらを比較したRCTは 6編あり,covered typeの優位性を統計学的に示したものは4編ある 5─10)(レベルⅡ)。
膵癌に限定したRCTは2編しかなく,いずれもcovered SEMSの成績が良好であった 6, 7)。 疾患別の層別化がなされているRCTが1編あり,サブグループ解析で膵癌では有意に covered SEMSの開存期間が長いという結果であった 5)。また,メタアナリシスが2編 報告されており,covered SEMSの開存期間が有意に長いというものと,差がないとい う解析であったが,いずれも疾患を膵癌に限定していない報告である 11, 12)(レベルⅠ)。
Kitanoらは,対象を膵癌に限定した多施設共同RCTの成績を2012年のASGEで発表し た 7)。わが国の22施設で行われたRCTであり,現在国内で使用可能なステントを用い て統計学的にcovered typeの開存期間がuncovered typeよりも長いことを示しており,
現状に最も即したエビデンスを提供しているものと考えられる。以上より,SEMSの種 類では,膵癌に限定した報告は少ないものの,開存期間の長いcovered typeが推奨さ れる。
ステントを使用する際に重要なのは閉塞・開存期間だけでなく,合併症を含めた安全 性である。主な合併症は逸脱,胆嚢炎,膵炎である。PSではステント閉塞が多く,次 いで逸脱が多い。SEMSでは胆嚢炎,膵炎,covered typeでは逸脱が危惧される。胆嚢 炎,膵炎はcovered typeで多いとされていたが,メタアナリシスでは差がないことが 示された 11)(レベルⅠ)。また,胆嚢炎高危険群についての研究が2編報告されている 13, 14)
(レベルⅣb)。いずれの報告でも胆嚢管が総胆管に合流する部位に癌性狭窄,癌浸潤が あるものが高危険群と考えられており,1編では胆嚢結石も高危険群であると報告され ている。しかし,予防法に関しての有用な報告はない。膵炎に関しては膵癌では少ない ことが示されている 15)(レベルⅣa)。予防法としては乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy;EST)が有用という報告もあるが 16)(レベルⅣb),RCTによる検討は なく,後ろ向きの解析では,必ずしもその有用性は示されていない 17)(レベルⅣb)。
SEMSの物理学的特性であるradial forceとaxial forceが検討されており 18)(レベルⅢ),
axial forceが膵炎発生 19)(レベルⅢ)に関係していることが最近の論文で示唆されてい る。逸脱はcovered typeに特有の合併症であり,finを装着したcovered SEMSで少な いことが報告されている(図5) 6)。また,axial forceの違うcovered SEMSの比較から,
逸脱への関与を臨床試験の結果から示唆している論文も発表されており 20)(レベルⅢ),
逸脱の防止にはSEMSの物理学的特性の改良とfinに代表される防止装置の工夫が求め られる。以上のことから,合併症の面からもSEMSおよびcovered typeの推奨は妥当 と考えられる。
6ステント療法 2.化学療法,化学放射線療法施行例に対するステント療法の安全性
化学療法施行中のステント療法の成績は十分に検討されているとはいえない。
Hoffmanらは膵癌に対する術前化学放射線療法の前向き試験において,減黄手技に関連 した重篤な合併症が高率に認められたと報告 21)(レベルⅣa)している。その後Pistersら は術前化学放射線療法の前向き試験において,ステントに関連した有害事象の発生頻度 はむしろ低かったと報告 22)(レベルⅣb)している。Nakaiらの後ろ向きの検討では,メ タリックステント留置はゲムシタビンによる毒性発現や胆道感染を除く感染症の頻度に 影響しなかったと報告 23)(レベルⅣb)している。化学療法がステントの成績に与える影 響は明らかではなく,今後症例の集積が必要と考えられる。
■明日への提言
現在まで報告されている多くの臨床試験は病態が異なる原疾患(膵頭部癌,胆管癌,
リンパ節転移など)を限定せずに施行されており,また,その評価の方法も異なる。そ のためRCT自体の評価・解釈には限界があり,そうしたRCTをもとにしたメタアナリ シスの結果の評価・解釈にも注意を要する。今後,膵癌による閉塞性黄疸のみに対象を 絞った臨床試験が必要である。化学療法,化学放射線療法の進歩とともに膵癌切除不能 例の予後も延長してきているが,これらの治療がステントの成績に与える影響の研究も 十分ではなく,また,延長した予後に対するステント療法の改良すべき点も明らかには なっていない。
Uncovered SEMSとcovered SEMSの比較評価に関して,前述の限界のなかではある が,2012年のASGEで発表された(今回の改訂では慎重な査読がなされた学会の抄録は 引用文献として採用)北野らの論文は,わが国の30を超える多施設で膵癌を対象に限定 し行われた多施設共同研究であることと,わが国で最も多く使用されているステントを 使用していること等より,現在のわが国の臨床の実情に最も即したRCTと考えられる。
その結果は covered SEMS が uncovered SEMS よりは開存期間が長いというもので あった。しかし,ひとつのRCTのみで強力なエビデンスとは言い切れず,膵癌とほか の癌種が混じた海外の臨床試験では有意差が出ていないことなどより,弱い推奨にとど めておくのが現時点では妥当と考え,改訂委員会では推奨度をC1とした。今回の改訂 過程において,このuncovered SEMSとcovered SEMSの問題に関しては,RCTやメ タアナリシスの評価・解釈の違いから,公聴会やpublic commentsにおいてcovered SEMSに対して否定的な見解の意見もあった。そのため,わが国での実診療に支障が生 じないように推奨内容,推奨度にも数度の修正が加えられた。Covered SEMS と uncovered SEMSの問題に関しては,次回のガイドライン改訂において再検討をするた めに,化学療法,化学放射線療法の進歩を踏まえてのエビデンスレベルの高い結果の報 告を期待したい。
a b c
図 2:プラスチックステント(plastic stent;PS)。ステントの推奨については本文を参照のこと a:ストレート型(アムステルダム型ともいう),Flexima:Boston Scientific 社製
両端にフラップを有し,フラップ作成部位にも孔が開いている。
b:ダブルピッグテール型,クック社製
両端がピッグテール状になっており,逸脱を防ぐ構造になっている。通常丸まった部分の内側に側 孔を有している。
c:タネンバウム型,Double Layer stent:Olympus 社製 両端にフラップを有しているが側孔がない。
図 3:自己拡張型メタリックステント(self─expan- dable metallic stent;SEMS)の非被覆型(un- covered type),WallFlex stent:Boston Sci-entific 社製
網目状の構造で,細く折りたためる。自己 拡張力を有しており,閉塞部で拡張すると 10mm 位の内腔確保が可能である。
図 5:Viabil biliary stent(Gore, Flagstaff, AZ)
現在わが国では販売されていないが,海外で は販売されている。Covered type でステント の外側に逸脱防止のための fin が装着されてい る。現在のところわが国での販売予定はない。
図 4:自己拡張型メタリックステント(self─ expand-able metallic stent;SEMS)の被覆型(covered type),SUPUREMO stent:TaeWoong 社製,
Century Medical 社販売
被覆されているため癌組織の網目から侵入に よる再閉塞が防げる。抜去が可能な利点を有 する。