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巻頭言 Top Column - J-Stage

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化学と生物 Vol. 53, No. 7, 2015

ゆく河の流れは絶えずして…:カヌーと研究

小林達彦

筑波大学大学院生命環境科学研究科

巻頭言 Top Column

Top Column

たまに出張先で列車から清流を見るとうれしく なる.もともと,わが国は海に囲まれているの で,水にかかわるスポーツをやりたいと思い,学 生時代にアウトドアでワイルドなカヌーをやり始 めた.一年中,真っ黒に日焼けしながらスラロー ム競技の練習や試合に明け暮れたが,四季折々の 風情を楽しみつつ,あちこちの川へツーリングに も出かけた.春の保津川で,ウグイスの鳴き声に 合わせ口笛を吹きながら下ると,川下の途中まで ついてきたりする.潺の音に耳を傾け,流れを感 じ,迸る水を浴びながら渓流をパドリングするの は最高である.一方で,映画「黄昏」のように,

静かな湖にカヌーを浮かべ,ゆったり漕ぐのも気 持ちがよい.

今でこそ,川の浄化に微生物が大きな役割を果 たしていることがわかっているが,川や湖の水に 微生物がいるなんて,レーウェンフック(レーベ ンフック)が趣味でお手製の顕微鏡で見るまでは 誰も知らなかった.教科書で,その顕微鏡の挿絵 を見ても,現代のそれとは似ても似つかない形を しているので,顕微鏡とは思えないのが率直な感 想ではないだろうか? そして,その使い方を知 ろうともせず,そのまま何気なく教科書の頁を進 めていった方が多いのではないだろうか? 平 べったい小さな真鍮製の板の中央に空いている穴 に埋め込んだ(直径1 〜 2ミリ程の)小さなガラ ス球にわが目をぎりぎりまで近づけ,板を挟んで 反対側の針の先端につけたサンプルをそのガラス 球を通して見ることで初めて拡大できるのであ る.しかし,レプリカを借りて実際,針の先端に 水滴を載せようとしてもうまくいかない.腑に落 ちないので関連書籍で調べると,レーウェンフッ クはまずタルク板あるいはガラス板の上に水滴を 載せ,さらにその板を針先に糊付け固定し,ネジ でフォーカスを調整しながら観察したようであ る.教科書にしても,また実験で何か不思議な現 象に出くわしても,そのまま素通りせずに注意深 く調べることは重要である(もちろん,さまざま な実験用キットが利用できる今日,原理をしっか り理解して研究を進めることも大切である).

以下に,カヌーと研究について日頃意識してい ることを記載させていただく.

(i)カヌーはいくら腕力があっても流れをうま く渡れるわけではない.やはり流れを読むことは 大切で,研究にしても,どういう風に展開して いったらいいか考えることは重要.(ii)スラロー ムでは激流や逆流での転覆はしばしばで,人生や 研究でもいろいろと逆境に陥ることがあるが,そ

れにもめげず何事も諦めずに粘り強くやっていく ことは重要.(iii)カヌーは一人でやっているよう に見えるが,周りには救助したり,タイムを取っ たり,フォームやコース取りをチェックしてくれ る仲間が傍にいる.研究も同じで,皆が協力して 仕事を進めているという意識をもつことや,どん どん海外の学会や研究機関に他流試合に出かけ,

いろいろな人と交流することは重要.(iv)本流に 限ることなく,傍流を進むのもよし.流行を追わ ず,新しい流れを起こして,傍流を本流にもって いくほどの気概をもつことが望まれる.

「ゆく河の流れは絶えずして,しかも,もとの 水にあらず.淀みに浮かぶうたかたは,かつ消え,

かつ結びて,久しくとどまりたる例なし」の方丈 記の冒頭は高校の古文で習った当時は深い意味を 理解できていなかったが,50を超えた今は心に響 く.無常 が感じられる泡沫そして船の航跡はた しかにすぐに消えて跡形は残らない.しかし,そ れらの風情が良き思い出となることもある.先日 は,私大に勤める後輩から「夢を描くことをしに くい時代になった」と言われたが,少なくとも人 を育てることと研究は,残し4 4得ることであり,ま た夢を描けることだと思う.1滴の水はやがては 大河をも形成する.若い人が一回りも二回りも大 きくなることはうれしいもので,人が育つことは 残る4 4ことであり,さらに彼ら彼女らによって,よ り多くの若い人の力が育まれるであろう.そして 何よりも,未知なる扉が開けられるチャンスがあ る.小さなことに惑わされず,レーウェンフック のような後世にも残る4 4仕事ができれば本望である.

水面ぎりぎりから見える世界は,川の上からの 眺めとは異なる.また,豪華客船やモーターボー トとは違って,それらでは行けない,人力 のカ ヌーであるがゆえに見える世界がある.視点や ターゲットを変えると,それまで見えなかったもの が見えてくる.トップダウン研究や大規模オーム 的・網羅的解析とは違い,地道で進みは遅いもの の,ボトムアップ研究でこそ開拓できる研究はま だまだある.幸いにも農芸化学は,微生物・動物・

植物・食品・生物有機化学など,(酵素/タンパク 質・遺伝子,低分子化合物といった生体分子を含 め),基礎から応用まで幅広い分野をカバーするの で,その気になれば何にでもチャレンジできる学 問だと思う.助教や講師のポストが少ない今日,

若手が夢を描けるような支援がぜひ,必要である.

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.53.417

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化学と生物 Vol. 53, No. 7, 2015 プロフィル

小林 達彦(Michihiko KOBAYASHI)

<略歴>1985年京都大学農学部農芸学科 卒業/1990年同大学大学院農学研究科博 士後期課程研究指導認定,退学/1991年 同大学農学部助手.以後,同大学講師,助 教授を経て,1999年筑波大学応用生物化 学系教授/2000年同大学大学院生命環境 科学研究科教授,現在に至る.その間,

1997〜1999年 米 国Carnegie Institution of  Washington (Stanford) Senior Visiting Sci- entist<研究テーマと抱負>卒業時には学 生が一回りも二回りも大きくなっているこ とを願っています<趣味>カヌー(スラ ローム)

参照

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