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化学と生物 Vol. 55, No. 9, 2017

分析機器と「見える化」

松本 清

九州大学名誉教授

近年,「見える化」という言葉がいろい ろな分野で使われ重要視されています.こ の言葉はもともとビジネスの世界におい て,日常業務の改善や効率化を目的とした 業務内容やプロセスを定量化・ビジュアル 化する試みとして使われ始めたようです.

今日では「可視化」全般に対して用いられ ているようです.科学の世界でも従来見え てなかったものを「可視化」

「見える化」

することは極めて重要であると言えます.

医用・医療の分野ではすでに各種病気の診 断にMRI・CT・PETが用いられ治療への 心強い武器となっています.最近では新た な測定原理や検出試薬などの開発に加え,

分析機器開発やコンピューター解析技術の 向上により医療のみならず生命科学分野に おけるイメージングや気象や環境科学分野 における大気・海流などの可視化技術も大 きく発展しています.

筆者が関心をもち続けている食品科学分 野においても,食品の産地偽装,粉ミルク へのメラミン混入など偽和物,残留農薬,

環境ホルモン,遺伝子組換え食品,食品微 生物汚染など食の安全・安心を脅かす問題 の解決,さらには最近発展著しい機能性食 品成分の動態解析などには可視化技術の発 展が必須のように感じられます.このよう な状況のなかで,質量分析イメージング 法,免疫組織学的解析,蛍光指紋イメージ ング,蛍光標識化によるイメージングなど が食品分野に応用され着実に発展を遂げて いるようです.

なかでも,質量分析イメージング法はマ トリックス支援型レーザー脱離イオン化

(MALDI)法と質量分析(MS)を組み合

わせたもので,一度の測定で,1枚の切片 から抗体や染色剤を必要とせず,複数の標 的物質群の局在を解析できる特徴をもって いるといわれています.すでに食品分野に も応用されコメの代謝物成分の局在や経口 摂取したエイコサペンタエン酸の体内動態 なども調べられています.筆者の所属して いた研究室でも血管弛緩機能を有するジペ プチドの腸管吸収動態の可視化が試みられ ています.低分子ペプチドのMALDI-MS 検出は困難であるため,キレート作用を有 するフィチン酸をマトリックス補助剤とし て添加することにより可視化に成功したと 聞き,誠に喜ばしいことと思っています.

思えば50年ほど前,研究室へ入ったこ ろは新設の研究室ということもあり部屋に は分析機器らしいものはほとんどない状態 でした.地方大学では機器の充実も遅々と して進まない状況でしたが,それでも概算 要求や科学研究費などへの申請を根気強く 続け少しずつ充実していきました.「思え ば遠くへ来たもんだ」というのが実感で す.機器管理についても,最近では幸い高 度な実験技術を習得した技術補佐員の一元 配置が模索され教育研究支援センター

(バーチャル)による集中化が試みられて いるようで心強く感じています.

農芸化学は「生命・食・環境」をキー ワードとする広い範囲の実学を実践する学 問です.今後,最先端分析機器の性能を十 分に発揮して可視化の効果を上げ質の高い 研究が行われることを期待しています.

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.581

日本農芸化学会

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プロフィール

松 本  清(Kiyoshi MATSUMOTO)

<略歴>1969年九州大学農学部食糧化学 工学科卒業/1974年同大学大学院農学研 究科農芸化学専攻修了/同年九州大学農学 部助手/1978年同大学助教授/1989年同 大学教授/2000年同大学大学院農学研究 院教授(改組)/2010年同大学定年退職,

名誉教授,崇城大学生物生命学部教授/

2015年 崇 城 大 学 定 年 退 職,現 在 に 至 る

<研究テーマと抱負>食品の品質測定技術 の開発,機能性食品成分の探索<趣味>家 庭菜園,テニス,バドミントン

日本農芸化学会

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