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化学と生物 Vol. 55, No. 6, 2017
リオ五輪と大学教員
吉川博文
東京農業大学生命科学部日本農芸化学会
● 化学 と 生物
巻頭言 Top Column
Top Column
リオデジャネイロオリンピックでの日本 選手の活躍はまだ記憶に新しい.正直言っ て,オリンピックでの活躍を期待している とがっかりすることのほうが多く,「いや 出ることに意義があるのだ」「ここまで頑 張ったのだから褒めてあげよう」と敢えて 自分を説得して終わるのが近年のオリン ピック観戦であった.ところが何気なく見 始めたリオでは幾度となく素晴らしい粘り と諦めないプレーに感動させられた.体 操,柔道,卓球,バドミントン,水泳,陸 上,テニス,レスリング,重量挙げ等々,
日本選手はこんなにもたくましい精神力を もっていたんだっけ.
このような活躍の背景には,さまざまな スポーツ選手育成の取り組みが続けられて きたことがあることは間違いないだろう.
オリンピックを目指す選手だけでなく,文 部科学省が広く国民一般に対し,ライフス テージに応じたスポーツ機会の創造など5 つの重点目標を掲げたスポーツ立国戦略を 掲げたのは平成22年である.こうした幅 広い下地ができ,社会全体が支える青少年 の育成環境が整ったなかから,多くの有能 な選手が生まれてくるに違いない.
一方で,われわれが属する教育・研究の 分野はどうであろうか.大村 智博士,大 隅良典博士と「金メダリスト」は輩出する ものの,スポーツのような裾野の広がりを 見せているであろうか.国立大学では 1990年代に大学院重点化政策の名の下,
博士課程の定員や教員採用数も増加した が,2001年からの国家公務員削減計画,
さらに人件費改革の一環として毎年1%の 人件費削減を要請されてきた.2015年度 には国立86大学のうち,33大学で定年退 職した教員の後任補充が凍結された.北海 道大学が「運営費交付金」の減額などによ る財政悪化を理由に,教授205人分相当の 人件費削減を各部局に求めたことは大きな
ニュースになった.競争的資金は増えてい ても期限付きプロジェクトの雇用であり,
恒久的なポストにはつながらない.拡大期 に採用した若手教員が高齢化し,増加した ポスドクが正規雇用の教員ポストを目指す 待機群として累積している.こうして少子 化の波を待つまでもなく,日本の人口分布 の高齢化よりも早く,大学教員層は逆ピラ ミッドになりつつある.
約20年間ずつ国立大学と私立大学に在 籍した身としてさまざまな教育・研究の特 徴の違いを感じている.私立大学は講義が 主たる業務と言えるため定年教員の補充は 速やかに行われるが,慢性的に教員一人当 たりの学生数が多く,研究活動に充当でき る時間が限られている.それでも私の経験 からすると,私立大学こそ研究の裾野を拡 げる点では大きな可能性を秘めていると思 う.私学の学生は決してオールマイティ型 ではないが,時としてユニークな発想で独 創的なサイエンスを展開することがある.
一方,就職戦線では国立大生に負けて討ち 死にしてくることが多く,結果として基礎 研究とはあまり縁のない企業へ就職する ケースが目立つ.しかし,こういう学生た ちが活躍する場を拡げることが,サイエン スの裾野を拡げ,ひいては日本の科学力を 底上げすることにつながるのだと思う.
国立も私立も状況はたいへんである.お 金をかければ良いというものではもちろん ないだろう.しかし,スポーツ選手の育成 策が功を奏したように,20年後の金メダ リストをサイエンスの分野から輩出するた めには,一公務員としか見ない,あるいは 一授業担当者としか見ない若手の教員ポス トに対する考え方を根本的に変える必要が あると痛感する.
Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.365
プロフィール
吉川 博文(Hirofumi YOSHIKAWA)
<略歴>1975年東京大学農学部農芸化学 科卒業/1983年同大学大学院農学系研究 科 農 芸 化 学 専 攻 博 士 課 程 修 了(農 学 博 士)/1984年同大学応用微生物研究所助 手/1987年カリフォルニア大学デービス 校博士研究員/1995年東京大学分子細胞 生物学研究所助教授/1997年東京農業大 学農学部教授/1998年同大学応用生物科 学部教授/2017年同大学生命科学部客員 教授,現在に至る<研究テーマと抱負>増 殖停止期の生存戦略,ゲノムと一塩基の意 味を探ること,試験管内進化実験,合成生 物学的手法による微生物育種,バクテリア の種とは何か考えること<趣味>音楽鑑賞
(クラシックからメロスピまで),写真,ド ライブ,ゴルフ,美味しい地酒を探すこと
日本農芸化学会