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化学と生物 Vol. 51, No. 4, 2013
巻頭言
Top Column新技術のインパクトと生命研究新時代の予感
山田 守
山口大学大学院医学系研究科(農学系)Top Column
新技術が開発されるたびに関連分野の研 究は飛躍的に進展するようになると言われ るが,これまでそのような体験を幾度かし てきている.身近なところではDNAシー クエンシングやPCRがあるが,最近では 次世代DNAシークエンス技術に期待する ところが大であり,ここではDNAシーク エンス技術の変遷についてこれまでの体験 や新たな認識(予感)を紹介する.
マクサム・ギルバート法やサンガー法に よってDNA構造解析だけでなく遺伝子産 物の一次構造の推定が容易になったことは ご存知のとおりである.マクサム・ギル バート法を用いて,1980 〜 1981年にかけ てコリシンE1遺伝子の塩基配列を決定し た.ColE1プラスミドDNAの精製に約1 週間,制限酵素処理とDNA断片の調製や
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-32P] ATPの合成に約2週間,その後,約2週間にわたるDNA断片のエンドラベ ル,塩基特異的切断反応,変性ポリアクリ ルアミドゲル電気泳動やオートラジオグラ フィーによって400 〜 600塩基配列を決定 した.制限酵素の選択などに手間取り結局 両鎖をそれぞれ完全にオーバーラップして 約2,000塩基対の配列決定に1年近くを費 やした.この頃,論文投稿にX-線フィル ム上のラダーの写真が要求されたことを記 憶している.
1983年頃からサンガー法の一つである ダイデオキシ(ターミネーター)法を用い るようになった.目的の遺伝子断片を導入 したM13ファージの一本鎖DNAを鋳型と して,プライマーをアニーリングした後,
自前で調合した反応試薬とDNAポリメ ラ ー ゼ(Klenow断 片) を 加 え て 反 応 を 行った.しばらくはマクサム・ギルバート 法ほどに正確ではなかったことからデータ を不安視していたが,桁違いの解析速度や その後の改良や反応過程のロボット化など により,サンガー法が一般的になった.
1991年頃から蛍光式DNAシークエンサー が導入され,つづいて,PCR法の原理を 取り入れて少量の二本鎖DNAを直接解析 できるサイクルシークエンス法を用いるよ うになった.さらに,蛍光色素を用いたダ イターミネーター法が開発され,1996年 頃から4塩基を識別できる蛍光式自動シー ク エ ン サ ー が 導 入 さ れ,1999年 頃 か ら キャピラリー電気泳動が導入されて,一気 にDNAシークエンシングが手軽になっ た.これによって,マクサム・ギルバート 法に比べて3桁程度迅速になった.その昔 制限酵素マッピングをやっていたことが嘘 のように,シークエンシングによって組換 え部位を確認するようになり,また, PCR 法と組み合わせたダイレクトシークエンス も一般的になった.この頃から,巷では ショットガンシークエンスなどによって多 くの生物の完全ゲノム配列決定が進んでき た.
2005年頃から次世代シークエンサーが 登場し,その超高速な大量解読能力は革命 的であり,生命研究は新たな時代を迎え る.ヒトゲノム解読完了頃まではゲノム情 報がわかれば生命活動が理解できるとの考 えで進められてきたようであるが,徐々に 生命情報のダイナミックな発現やその制御 を細胞や個体レベルで知る必要があること が認識されるようになるが,次世代シーク エンスがそれらを一挙に可能にすると予感 される.おそらくそれだけにとどまらず,
個体間の相互作用や生態系の形成,環境応 答や環境適応,生物進化などの経時的変動 を追跡することが可能になるであろう.一 方で, 人間の把握能力をはるかに超えるそ の膨大な情報を処理する必要が求められ,
次世代シークエンスによる生命研究はバイ オインフォマティクスと相まって大きく加 速されると期待される.