• 検索結果がありません。

巻頭言 Top Column - J-Stage

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

シェア "巻頭言 Top Column - J-Stage"

Copied!
2
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

613

化学と生物 Vol. 54, No. 9, 2016

研究を楽しみ社会に貢献しよう!

今中忠行

立命館大学総合科学技術研究機構

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

巻頭言 Top Column

Top Column

京都大学大学院工学研究科在職中は,毎 年複数の博士後期課程最終年の院生がい た.彼らに博士号を授与するためにはそれ ぞれ複数の学術論文が受理される必要が あったため,年末が近くなると投稿中の論 文の最終結果が気になり,いつもプレッ シャーを感じていた.論文を通す(受理さ れる)ためには,それまでに研究室で蓄積 してきた技術やアイデアを基盤として新し いデータを追加し,議論をするのが常で あった.このほうが確実に論文受理につな がるからである.

2008年3月に京大を定年退職し,引き続 いて新設の立命館大学生命科学部で研究室 を運営することになった.そこで私は3つ の研究方針を立てた.すなわち,①研究を 楽しもう!(論文を出すためにあくせくし ない)

,②世の中に役立つ研究をしよう!

(理屈は後から付いてくる)

,③自然科学の

研究をしよう!(生物,化学,物理といっ た枠にはこだわらない)であった.その結 果,本当に研究を楽しむことができたの で,ここに紹介したい.

① の研究:南極由来の多くの微生物の探 索・同定を行い多数の新属新種を発見し た.なかでも典型的な多形性を示す細菌

( )が得

られた(写真)

.液体培地に植菌すると

初期は球菌であり,やがて桿菌状になり 培養後期になると千手観音のように体が 見えないほど突起物を出していた.ま た,固形培地では長桿菌になり多数の棘 状の突起物が生じた.このようなことは 長い研究生活でも初めてで十分に楽しむ ことができた.

② の研究:ナノバブルを利用して琵琶湖の ヘドロを消滅させることができた.マイ クロバブルとナノバブルは天と地ほどの 違いがある.マイクロバブルは水中を 通ってやがては大気中に逃げていく.そ れに対し,ナノバブルはナノメートルの 気泡径をもつだけあって一段と小さく,

水中に滞留するとともに透明である.い くら水中に溶存酸素があってもヘドロの 内部は嫌気性であり嫌気性菌が発する硫

化水素により好気性菌は死滅する.一 方,ナノバブルを含んだ水がヘドロ内部 に浸透すると,滞留している酸素が供給 され内部から好気性に変化し,

属などの胞子が発芽し有機物を分解して 炭酸ガスとして放出するため,ヘドロが 消滅する.非常に静かで投入エネルギー が少ないナノバブルを,発生装置を使っ て実験室でも琵琶湖でもヘドロ分解を実 証することができた.薬品も微生物も添 加せず空気を送るだけであるから安全で ある.

③ の研究:一番酸化された炭素が炭酸ガス であり,一番酸化された水素が水であ る.この炭酸ガスと水から一番還元され た石油(炭化水素)を化学的に効率よく 合成することに成功した.光酸化触媒を 使って水を活性化し,生じた活性酸素で COや水素を作り,水と油を混合したミ セル内でラジカル反応を起こさせて炭化 水素を作るのである.この場合には,自 然界にある物理的力,化学的力を組み合 わせてみることが極めて重要であった.

地下水がタダだとすれば3円の電気代で 約100円の石油を作ることができる.こ の技術は日本のエネルギー事情に革命的 な貢献をするものと確信している.

結論: 複雑な現象を素直に観察し,自由な 発想で研究を楽しみたい.

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.613

(2)

プロフィール

今中 忠行(Tadayuki IMANAKA)

<略歴>1967年大阪大学工学部醗酵工学 科卒業/1969年同大学大学院工学研究科 修士課程修了/同年同博士課程中退/1970 年同大学工学部助手/1981年同助教授/

1989年同教授/1996年京都大学大学院工 学研究科合成・生物化学専攻教授/2008 年立命館大学生命科学部教授/2015年同 大学総合科学技術研究機構上席研究員,現 在に至る<研究テーマと抱負>炭酸ガスと 水からの化学的石油合成,廃棄物からのバ イオ水素生産などのエネルギー革命<趣 味>囲碁(五段),読書,クラシック音楽 鑑賞,犬とネコ,酒

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

参照

関連したドキュメント

3, 2016 同音異義語―うま味と旨み― 西村敏英日本獣医生命科学大学応用生命科学部 日本農芸化学会● 化学 と 生物 巻頭言 Top Column Top Column 同一言語で,発音が同じで意味の異なる 2つ以上の単語を同音異義語という.英語 の「weak(弱い)とweek(週)」や「bat (こうもり)とbat(バット)」がこれにあ

11, 2012 779 今夏はロンドンオリンピックがあり,連 日深夜遅くまで手に汗握りながら実況中継 を見た人が数多くいたことだろう.「科学 はオリンピックではない」,「科学をオリン ピックにしてはいけない」という言葉は, 私の恩師の一人である岡田善雄先生(阪大 名誉教授)から何度も聞かされた言葉であ り,そのとおりだと思う.だが今回,大学

3, 2012 149 表題は札幌市内の高校で行なった講演の タイトルです.1年生,320名は熱心に最 後まで筆者の話を聞いてくれました.小学 校でも中学校でも,同様なお話をさせてい ただいております. 2004年から,遺伝子組換え技術を正し く理解していただくために,一般市民との 対話あるいは講演を100回ほど行なってき ました.その中で,地球46億年の歴史を1

9, 2017 分析機器と「見える化」 松本 清九州大学名誉教授 近年,「見える化」という言葉がいろい ろな分野で使われ重要視されています.こ の言葉はもともとビジネスの世界におい て,日常業務の改善や効率化を目的とした 業務内容やプロセスを定量化・ビジュアル 化する試みとして使われ始めたようです. 今日では「可視化」全般に対して用いられ

1, 2014 巻頭言 「農芸化学」 is backTop Column 三輪清志味の素株式会社 Top Column 「農芸化学」という言葉が世の中からだ んだん減ってきているように思われる. かねて農芸化学は「実学」として天然物 化学を背景に農業や医療の分野で貢献した り,有用微生物を天然から発掘し発酵や酵 素や遺伝子の技術でバイオテクノロジーの

11, 2016 牡蠣の養殖と宮沢賢治と 西澤直子石川県立大学生物資源工学研究所 日本農芸化学会● 化学 と 生物 巻頭言 Top Column Top Column 東京大学では入学後に教養学部で学んで から進学先を決める.10年近く前,教養 学部の進学情報センター主催シンポジウム 「私はどのようにして専門分野を決めたか」

10, 2014 マイノリティーの立場から 熊谷日登美 日本大学生物資源科学部 refer- ence 巻頭言 Top Column Top Column 巻頭言の執筆依頼のメールが届いたとき,ま ず,事務局が送付先を間違えたと思った.次に, 添付されていた依頼状の宛名が私であることが わかったときには,日本農芸化学会のマジョリ

1, 2017 ボイジャー1号の見る景色 安枝 寿味の素株式会社イノベーション研究所 日本農芸化学会● 化学 と 生物 巻頭言 Top Column Top Column 1977年9月,宇宙探査機ボイジャー 1号 が太陽系外惑星および太陽系外探査のため に打ち上げられた.そして2015年1月時点 で太陽から約195億km離れ,それは光速