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今日の話題

276 化学と生物 Vol. 52, No. 5, 2014

ニホングリ渋皮剥性の DNA マーカーの開発

ニホングリは渋皮のむける遺伝子を隠しもっていた

世界で経済栽培されるクリには,日本と朝鮮半島で栽 培されるニホングリ (  Siebold et Zucc., 

中国の河北・華中に分布しているチュウゴクグリ (  Bl.),南欧や小アジアで栽培されるヨーロッ パグリ (  Mill.) がある.ニホングリはチュウゴ クグリやヨーロッパグリと比べて果実が大きいという性 質で優れている半面,渋皮(クリ果実内側の柔らかい皮 のこと.外側の硬い皮は鬼皮という)が果肉から剥がれ にくいという大きな欠点をもっている.この欠点が,家 庭消費や加工利用への障害となっており,近年は天津甘 栗などのチュウゴクグリ加工品の輸入が増加する一方,

ニホングリの消費は大きく減少している.このため,渋 皮剥皮性を改良することがニホングリの最大の育種目標 とされてきた.農業・食品産業技術総合研究機構果樹研 究所では,50年以上前からチュウゴクグリを用いて渋皮 剥皮性の改良を試みてきたが,チュウゴクグリの易渋皮 剥皮性が量的形質であることや,両者の雑種の結実がニ ホングリに比べて劣ることなどから,チュウゴクグリの 易渋皮剥皮性をニホングリに導入することは困難であっ た(1).このようにチュウゴクグリ由来の易渋皮剥皮性の 導入が進展しない中で,2007年にニホングリ品種の交 雑組合せから渋皮の剥皮が優れる「ぽろたん」が出現し た(図1「ぽ ろ た ん」 は550-40(290-5(「森 早 生」×

「改良豊多摩」×「国見」))×「丹沢」の交雑から育成され ており,両親はいずれも渋皮の剥皮が困難な品種・系統 であった(2).育成された際はその遺伝様式や由来につい ては不明であった.そこで,易渋皮剥皮性品種の育成を

加速させるために,「ぽろたん」の易渋皮剥皮性の遺伝 様式および易渋皮剥皮性に連鎖するDNAマーカーの獲 得を目的として研究が行われた.

「ぽろたん」易渋皮剥皮性の遺伝様式を明らかにする ために,「ぽろたん」が出現した交配組み合わせである,

550-40×「丹沢」のF1 59個体,および「ぽろたん」,「丹 沢」,「筑波」を用いた交配により育成した3組合せF1 99 個体について,渋皮剥皮性の形質評価を行った.その結 果,後代実生の渋皮剥皮性の分離は3 : 1,1 : 1および1 : 0 となり(図2「ぽろたん」の易渋皮剥皮性は劣性の主 動遺伝子 によって決定されることが明らかになった(3)

「ぽろたん」はこれをホモ ( ) にもつことから易渋皮 剥皮性であり,「丹沢」および550-40はこの劣性遺伝子 と,優性の難渋皮剥皮性遺伝子をヘテロ ( ) にもつた めに渋皮がむけにくいことが推定された(図2).

次に,公開データベースに登録されている378種類の クリのSSRマーカーを用い,渋皮剥皮性の分離する集 団550-40×「丹沢」の連鎖解析を行った結果,11種類の

図1鬼皮にナイフで傷を入れた後,電子レンジ(700W)で2 分間加熱したクリ果実

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DNAマーカーが易渋皮剥皮性と連鎖することが明らか となった(4).これらのDNAマーカーを用いて「ぽろた ん」の祖先品種・系統について易渋皮剥皮性の遺伝子型 を調査したところ,「ぽろたん」の易渋皮剥皮子はニホ ングリ在来品種の「乙宗」に由来した(図3「乙宗」

そのものは難渋皮剥皮性であるが,易渋皮剥皮性遺伝子 をヘテロ ( ) に隠しもっており,果樹研究所における 育種の過程で「丹沢」,「国見」,550-40がこの遺伝子 を 引き継ぎ,最終的にこの遺伝子がホモ化 ( ) したこと により,渋皮がむけやすいという形質が「ぽろたん」に 現れたことが明らかとなった.

従来の育種選抜における渋皮剥皮性の評価は,交配し て得た種を播き,樹を大きく育てて結実させた果実を用 いて行っていた.このため育種圃場には,多数の渋皮が むけにくい個体を含んだ結実前の未評価樹が3年以上の 間植わっていた.これに対し,今回開発したDNAマー カーを利用すると,交配して得た種子の一部分より抽出 したDNAを用いて遺伝子型を判定することが可能と なった.このため,渋皮がむけにくい個体を播種する必 要がなくなり,圃場には渋皮のむけやすい樹だけを植え ることができるようになった.今後は本研究で得られた 成果を利用することで,育成期間の短縮や,園地の有効 利用が可能となり,効率的な品種育成が行われることが 期待される.

  1) K. Tanaka & K. Kotobuki : , 60

811 (1992).

  2) T. Saito, K. Kotobuki, Y. Sawamura, K. Abe, O. Terai, M. 

Shoda,  N.  Takada,  Y.  Sato,  T.  Hirabayashi,  A.  Sato 

: , 9, 1 (2009).

  3) N. Takada, S. Nishio, M. Yamada, Y. Sawamura, A. Sato,  T. Hirabayashi & T. Saito : , 47, 845 (2012).

  4) S.  Nishio,  N.  Takada,  T.  Yamamoto,  S.  Terakami,  T. 

Hayashi, Y. Sawamura & T. Saito : ,  9, 723 (2013).

(西尾聡悟,農業・食品産業技術総合研究機構果樹  研究所)

プロフィル

西尾 聡悟(Sogo NISHIO)   

<略歴>2006年東北大学大学院農学研究 科(農学修士)/農業・食品産業技術総合 研究機構果樹研究所品種育成・病害虫研究 領域<研究テーマと抱負>ニホンナシとニ ホングリの品種育成<趣味>読書 図2渋皮剥皮性の難易の分離と推定遺伝子型

図3「ぽろたん」の家系図および渋皮剥皮性の遺伝子型

参照

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