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74 化学と生物 Vol. 55, No. 2, 2017

アレスチン様輸送アダプターを介した酵母膜タンパク質の品質管理

基質を識別しているのは何か?

細胞膜は外界の情報を細胞内に伝達するインターフェ イスで,その担い手は細胞膜タンパク質(以下,単に膜 タンパク質とする)である.微生物の環境適応や高等生 物の発生・分化など,細胞が運命の舵を大きく切ると き,膜タンパク質が分解されダイナミックにリモデリン グされるのは合理的だ.しかし,細胞が内外の環境に合 わせ膨大な膜タンパク質をどうやって分解制御している のか,その選別のしくみがよくわかっていない.エンド サイトーシスによる内在化は膜タンパク質分解の開始点 で,ユビキチン化が引き金となる.ユビキチン化された 膜タンパク質は,初期エンドソーム,後期エンドソーム を経てリソソーム(酵母の場合は液胞)で分解される.

ほ乳類上皮細胞のNaチャネルENaCは,C末端側の細 胞質ドメインにPYモチーフ(Pro-Pro-X-Tyr配列)を もつ.このPYモチーフがHECT型ユビキチンリガーゼ Nedd4のWWドメインと相互作用するため,Nedd4に よるENaCの選別は一義的に決まる(1).しかし,多くの 膜タンパク質はPYモチーフをもっていない.ではいっ たい何が基質とユビキチンリガーゼを介在しているのだ ろうか? 注目されている

β

-アレスチンについて見てみ よう.

身の安全がおびやかされるほどのストレスを感じる と,ヒトはアドレナリンを放出する.アドレナリンは 7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体(GPCR)の一 つ

β

2アドレナリン受容体を刺激する.刺激を受けて活 性化した

β

2アドレナリン受容体はGタンパク質を活性 化し,プロテインキナーゼAを介した細胞内代謝の増

大を引き起こす.だが活性化状態が長く続くと有害なの で,受容体は脱感作されなければならない.このとき重 要 な の がGPCRキ ナ ー ゼ と

β

-ア レ ス チ ン で あ る(2). GPCRキナーゼは活性型の受容体を認識し,そのC末端 や細胞質側ループ領域のSer/Thr残基をリン酸化する.

リン酸化された受容体は

β

-アレスチンとの相互作用が強 化され,その立体障害によりGタンパク質との結合が減 弱する.こうして脱感作が成立する(図1.注目すべ きは,ユビキチン化における

β

-アレスチンの役割だ.受 容体に結合した

β

-アレスチンは,次にユビキチンリガー ゼMdm2とNedd4,およびエンドサイトーシスを担う クラスリンやAP2などのタンパク質のスキャッフォル ド(足場)として働く.Mdm2が

β

-アレスチンをユビキ チン化すると受容体はエンドサイトーシスされる.つづ いて初期エンドソーム上でNedd4がユビキチン化する と,受容体はリソソームに運ばれて分解される(図1). なおNedd4による受容体のユビキチン化は,エンドサ イトーシスには必須でないとされている(3).2011年,X 線結晶構造解析によりGタンパク質と結合した活性型の

β

2アドレナリン受容体の構造が明らかとなり(4),2014年 には電子顕微鏡を用いた単粒子解析によって,

β

2アドレ ナリン受容体に結合した

β

-アレスチンが映し出された(5). GPCRはヒトゲノムの約3%を占め,少なくとも30%の 薬剤のターゲットと考えられている.GPCRの構造と機 能解明は医薬品開発にとって大きな恩恵となり,中心的 役割を果たしたR. Lefkowitz博士とB. Kobilka博士に 2012年ノーベル化学賞が授与されたことは記憶に新し

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今日の話題

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化学と生物 Vol. 55, No. 2, 2017

い.そして,GPCRのみならず

β

-アレスチンも創薬ター ゲットとして位置づけられるようになった.なお紙面の 都合上触れることはできないが,出芽酵母

ではGPCRである

α

因子受容体Ste2とa因子受 容体Ste3においても類似の制御機構が働いている(6, 7)

こうしてGPCRの脱感作とユビキチン化を中心に研究 されてきた

β

-アレスチンだが,そのほかにもTGF-

β

受容 体やIGF1受容体,電位依存性Ca2+チャネルなど多様な 膜タンパク質のユビキチン化とエンドサイトーシスを制 御することがわかってきた.さらに酵母では,アレスチ ン様輸送アダプター(arrestin-related trafficking adap- tors,以下,ARTsと呼ぶ)として,アミノ酸輸送体の ユビキチン化とエンドサイトーシスにかかわることが明 らかになってきた.したがって,アレスチンは膜タンパ ク質のグローバルな制御因子として進化の過程で重要な 役割を演じてきたに違いない.そこで次に酵母のARTs について見てみよう.

酵母のARTsとして報告された最初の遺伝子は

(canavanine supersensitive 7)で,カナバニン(アル ギニンのアナログ)感受性変異株のスクリーニングから 分離された(8). 遺伝子の欠損株では,アルギニン 輸送体Can1の分解が遅延して細胞膜に蓄積し,カナバ

ニンを過剰に取り込むため感受性を示す.Cvs7のC末 端側には2つのPPxYモチーフがあり,酵母のNedd4ホ モログであるRsp5ユビキチンリガーゼと相互作用する.

Cvs7で はK486残 基 が ユ ビ キ チ ン 化 さ れ る の だ が,

PPxYモチーフのアラニン置換体ではこれが起こらず,

結果としてCan1は分解されなくなる.したがって,Rsp5 によるCvs7のユビキチン化がCan1の分解に不可欠と言 える.衝撃的だったのは,Cvs7がヒトの

β

-アレスチン と相同だったことだ.Cvs7は2つの

β

-サンドイッチドメ インが,柔軟なリンカーで連結したいわゆるアレスチン フォールドをもっていたのである.Linらは論文内で Cvs7をArt1と改名したので,以後,Cvs7をArt1と呼 ぶことにする(8).Can1の分解にArt1のユビキチン化が必要 である点は,

β

2アドレナリン受容体の分解に

β

-アレスチン のユビキチン化が必要であることとよく似ている.彼ら は酵母ゲノムに9個の遺伝子 〜 を見いだし た.しかし,私たちを驚かせたのはこの先の展開だ.

ARTsは,細胞が置かれた環境に応じて使い分けられ,

アミノ酸輸送体の分解を制御していたのである(図1). たとえば,リジンの輸送体Lyp1は定常状態で細胞膜か ら液胞へと運ばれ分解される.一方,高濃度のリジンを 培地に添加するとLyp1の分解は加速する. を欠 図1膜タンパク質のユビキチン化とエンドサイトーシスにおけるβ-アレスチンおよびARTsの役割

ヒトのGタンパク質共役型受容体(GPCR)の一つであるβ2アドレナリン受容体は,アドレナリンが結合するとGタンパク質を介して細胞 内にシグナルを伝達する.脱感作の際,受容体がGPCRキナーゼ(GRKs)によりリン酸化されると,β-アレスチンがリクルートされる.

β-アレスチンのリクルートにはMdm2によるユビキチン化が必須である.β-アレスチンにはAP-2やクラスリンが結合しており,受容体の エンドサイトーシスを引き起こす.つづいて,初期エンドソームで受容体はNedd4によりユビキチン化され,やがて分解される.出芽酵 母のアミノ酸輸送体はプロトンとの共輸送により細胞外からアミノ酸を取り込む.過剰量の基質アミノ酸が投与されたり,細胞が何らかの 環境ストレスに置かれたとき分解されるアミノ酸輸送体が知られている.その際,まずアレスチン様輸送アダプター(ARTs)とRsp5複 合体が細胞膜上のアミノ酸輸送体にリクルートされる.ARTsとRsp5はPPxYモチーフとWWドメインの相互作用を介して結合しており,

それら複合体のリクルートにはARTsのユビキチン化が不可欠と考えられている.Rsp5は輸送体をユビキチン化することでエンドサイ トーシスを引き起こす.酵母には少なくとも11種類のARTsが知られている.図では単にARTと一括りにしているが,実際にはそれぞれ のアミノ酸輸送体に応じて,あるいは同じアミノ酸輸送体でも細胞が置かれた状況に応じて使い分けられている点に注意しなければならな い(本文参照).図は文献14を改変して用いた.

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76 化学と生物 Vol. 55, No. 2, 2017

損しても定常状態でのLyp1分解は正常に行われるのに 対し,高濃度リジンを添加したときの分解促進は見られ ないのである.一方,ホモログの を欠損しても リジン投与による分解に影響はないが,定常状態での Lyp1分解は起こらなくなる.このように同じ輸送体で あっても状況に応じてARTsが使い分けられ,Rsp5に よるユビキチン化が生じていたのである(8).Nikko & 

PelhamはさらにArt10を同定し,Rsp5結合タンパク質 のBul1とBul2もARTsの一員であることを報告した(9). 彼らは,高親和性トリプトファン輸送体Tat2,ウラシ ル輸送体Fur4,グルコース輸送体Hxt6,およびイノシ ト ー ル 輸 送 体Itr1に 関 し て も,さ ま ざ ま なARTsが Rsp5のアダプターとして働くことを示した(9).基質投 与による輸送体の分解促進についてはアスパラギン酸/

グルタミン酸輸送体Dip5でも報告されており,この場 合Art3がアダプターとして機能する(10).低親和性トリ プトファン輸送体Tat1は半減期6時間の非常に安定な 膜タンパク質だが,筆者らは以前,酵母を非致死的な 25 MPa(約250気圧)の静水圧にさらすとTat1が速や かに分解されること,その分解がRsp5依存的であるこ とを示した(11).そこでARTsの関与を調べたのだが,

それらの単独破壊はTat1の分解に何ら影響せず,驚い たことに,Art1〜8およびArt10を欠損する

株(Art9は典型的なPPxYモチーフをもたないため除 外している)でもTat1は分解されたのである.そして Bul1とBul2をも欠く Δ Δ株(11遺伝 子欠損株)でようやくTat1の分解が抑制された(12).し たがって,細胞が高水圧環境にさらされたときのTat1 分解には機能重複した11種類のARTsが関与しており,

それらのうちどれか一つあれば十分と言える.生物が示 す冗長性の極端な例かもしれない.

Merhi & Andreは総アミノ酸輸送体Gap1の分解にお けるBul1の関与について詳しく報じている(13).Gap1は 貧栄養のプロリン培地で酵母を培養すると高発現し,ア ンモニウムイオンなどのリッチな窒素源を投与すると,

Rsp5に依存し速やかに分解される.このときARTsと して重要なのがBul1である.プロリン培地でBul1は Npr1キナーゼによってリン酸化され,リン酸化された Bul1には酵母の14-3-3タンパク質Bmh1とBmh2が結合 している.アンモニウムイオンが培地に投与されると,

Sit4フォスファターゼによりBul1は脱リン酸化される.

つづいてBmh1とBmh2が解離し,Bul1はRsp5により

ユビキチン化される.Rsp5によるGap1のユビキチン化 には,Bul1のユビキチン化が不可欠である.Bul1のア レスチンモチーフに変異を導入するとGap1がユビキチ ン化されなくなることから,この領域がGap1の認識に 関与しているのは確かなようだ(13)

ひとたびブレイクスルーがあると,関連因子もろとも 根こそぎ同定し,最速で全容解明に接近できるのが,酵 母分子遺伝学の圧倒的な魅力だ.アレスチン様輸送アダ プターを介したアミノ酸輸送体のユビキチン化もその例 にもれない.ではいったい無数のタンパク質の海の中 で,輸送体とARTs, Rsp5はどうやって相手方を見つけ 出し相互作用して,それぞれの役割を果たしているのだ ろうか? 今後は,生物物理学や構造生物学を融合した アプローチが存在感を増していくであろう.

  1)  P. M. Snyder:  , 2, pe41 (2009).

  2)  S.  K.  Shenoy,  P.  H.  McDonald,  T.  A.  Kohout  &  R.  J. 

Lefkowitz:  , 294, 1307 (2001).

  3)  S. K. Shenoy, K. Xiao, V. Venkataramanan, P. M. Snyder,  N. J. Freedman & A. M. Weissman:  , 283,  22166 (2008).

  4)  S. G. Rasmussen, B. T. DeVree, Y. Zou, A. C. Kruse, K. 

Y. Chung, T. S. Kobilka, F. S. Thian, P. S. Chae, E. Pardon,  D. Calinski  :  , 477, 549 (2011).

  5)  A.  K.  Shukla,  G.  H.  Westfield,  K.  Xiao,  R.  I.  Reis,  L.  Y. 

Huang, P. Tripathi-Shukla, J. Qian, S. Li, A. Blanc, A. N. 

Oleskie  :  , 512, 218 (2014).

  6)  D. R. Ballon, P. L. Flanary, D. P. Gladue, J. B. Konopka, H. 

G. Dohlman & J. Thorner:  , 126, 1079 (2006).

  7)  C.  G.  Alvaro,  A.  F.  O Donnell,  D.  C.  Prosser,  A.  A. 

Augustine,  A.  Goldman,  J.  L.  Brodsky,  M.  S.  Cyert,  B. 

Wendland & J. Thorner:  , 34, 2660 (2014).

  8)  C.  H.  Lin,  J.  A.  MacGurn,  T.  Chu,  C.  J.  Stefan  &  S.  D. 

Emr:  , 135, 714 (2008).

  9)  E. Nikko & H. R. Pelham:  , 10, 1856 (2009).

10)  R.  Hatakeyama,  M.  Kamiya,  T.  Takahara  &  T.  Maeda: 

30, 5598 (2010).

11)  F. Abe & H. Iida:  , 23, 7566 (2003).

12)  A. Suzuki, T. Mochizuki, S. Uemura, T. Hiraki & F. Abe: 

12, 990 (2013).

13)  A. Merhi & B. Andre:  , 32, 4510 (2012).

14)  S. Polo & P. P. Di Fiore:  , 135, 590 (2008).

(阿部文快,青山学院大学理工学部化学・生命科学科)

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化学と生物 Vol. 55, No. 2, 2017 プロフィール

阿部 文快(Fumiyoshi ABE)

<略歴>1989年東北大学理学部生物学科 卒業/1994年同大学大学院理学研究科博 士課程修了/同年海洋科学技術センター

(現・海洋研究開発機構)深海環境プログ ラム研究員/2003年同極限環境生物フロ ンティア研究システムグループリーダー/

2010年青山学院大学理工学部化学・生命 科学科准教授/2015年同教授,現在に至 る<研究テーマと抱負>酵母アミノ酸輸送 体の機能と制御の解析,高水圧下における 微生物の適応機構の解明<趣味>ドライ ブ,映画鑑賞

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.74

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