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270 化学と生物 Vol. 53, No. 5, 2015

セ氏 425 度という高温に耐えられるバイオプラスチックを開発

微生物と光化学反応によるポリイミド合成

バイオプラスチックは持続可能社会の実現に必須であ るため農芸化学だけではなく,合成化学の分野において も注目度の高い材料である(1).なかでもポリ乳酸は最も ポピュラーかつ産業的に成功しているバイオプラスチッ クの一つであり,医学的な分野からも注目されている.

そのほかに,植物由来セルロース類やそのほかの多くの 微生物産生高分子からなるバイオプラスチックがあ る(2).しかし,現存のバイオプラスチックのほとんどは 柔軟なポリエステルからなり,耐熱温度が低く,主に使 い捨て材料として使用されてきたに過ぎない.たとえば ポリ乳酸のガラス転移温度は60 C程度であり,工業用 プラスチックであるポリカーボネートのガラス転移温度

(おおよそ150 C)と比較してもはるかに低い.一般に 耐熱性を向上させるためには,芳香環などの剛直な成分 を導入する方法がとられる.高耐熱性であるエンジニア リングプラスチック(エンプラ)には,ポリカーボネー トの構造からもわかるように,そのほとんどすべてが芳 香族系の物質から構成されている.

もし高耐熱で軽量なバイオプラスチックが得られれ ば,自動車などの運送機器の部品などの用途が想定さ れ,車体軽量化や温室効果ガス排出量削減につながる材 料として注目されている.こうした背景から,筆者らは 超高性能ポリマーの特徴である芳香環に注目し,バイオ 分子を出発物質としてポリマーを得る方法を数年かけて 検討してきた.これまでに,筆者の一人は,植物の細胞 壁などの構造材料として活用されているポリフェノール 系の芳香族系多官能性物質に注目し,その重合法の開発

にも成功した(3〜5).本報では,科学技術振興機構 (JST)

戦略的創造研究推進事業・先端的低炭素化技術開発

(ALCA) の助成の下で行った「微生物バイオ分子を用 いた超高性能バイオプラスチックの開発」に関する研究 成果の一部を紹介する.

ポリイミドは極めて剛直な構造をもち,最も高耐熱な プラスチックの一群である.また,ポリイミドを直接成 型するのは高耐熱かつ難溶解性であるために極めて困難 である.一方,ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸 はほとんどの極性溶媒に溶解しキャスト可能であり,か つ加熱するだけでポリイミドへと変換できる.この手法 がポリイミドの用途を広げた.ポリイミドのモノマーの ほとんどは芳香族ジアミンである.筆者らは当初,この 芳香族ジアミンを微生物に作らせようと考えたが,あら ゆる角度から生合成経路を探索しても芳香族ジアミンの 生合成に関する論文はなく,アイデアを出すことはでき なかった.おそらく微生物にとって芳香族ジアミンは極 めて相性が悪い化合物なのであろう.一方,アミノ基を 一つ有する芳香族アミンとしてはいくつかの生体分子が 知られている.たとえば,核酸塩基として有名なアデニ ンは芳香族アミンを含むものの,これらを効率よく二量 化し芳香族ジアミンへと変換させる手法は見いだされて いなかった.われわれは,放線菌

と が作る抗生物質であるPris- tinamycin Iとchloramphenicolの生合成中間体である4- アミノフェニルアラニン (4APhe)に着目した.

これを4-アミノ桂皮酸へと生物変換できれば,芳香環

今日の話題

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化学と生物 Vol. 53, No. 5, 2015

の側鎖の二重結合の光二量化という最も効率の良い二量 化方法を用いて芳香族ジアミンを作り出すことが可能で ある.実際,4APhe生産にかかわる 遺伝子を 発現させた組換え大腸菌を作製したところ4APheの発 酵生産が可能となり,phenylalanine ammonia lyaseを 利用することによって,これを4-アミノ桂皮酸へと変換 することもできた(6)

実施に,4-アミノ桂皮酸の粉体に高圧水銀灯照射して みると,光二量化しなかった.しかし,その塩酸塩は速 やかに光二量化し4,4′-ジアミノ-

α

-トルキシル酸塩酸塩が 得られた.これは,各粉体の結晶構造の相違によるもの と考えられる.光二量化が起こるには,隣接分子のお互 いのビニレン基の

π

電子のオーバーラップが必須条件と なる.したがって,塩酸塩状態でこの条件が初めて成立 したものと考えられる.つづいて,二量化体をトリメチ ルシリルクロリドの存在下でメタノール中に分散し,数 時間撹拌することで4,4′-ジアミノ-

α

-トルキシル酸ジメチ ル塩酸塩が得られることがわかった.いずれも反応は定 量的に進み,かつ分散系であるため回収も容易であり無 駄のほとんどない優れた反応系であった.最後にエステ ル化物を中和すればモノマーである4,4′-ジアミノ-

α

-トル

キシル酸を得ることができた.これは,初めてのバイオ ベース芳香族ジアミンであると言える.この芳香族ジア ミンと種々のテトラカルボン酸二無水物を反応させるこ とでさまざまな構造のポリイミドを得た.特に,シクロ ブタンテトラカルボン酸二無水物は生体分子であるフマ ル酸の光二量化により得られるものであり,この組み合 わせで得られるポリイミドは完全バイオベースである.

そのほか,部分バイオベースとなるものも含め,図1 示す6種類のポリイミドを合成した.

分子量は前駆体ポリアミド酸を用いた測定により数平 均で1.7×105〜4.6×105 g/mol,重量平均で2.1×105〜4.0×

105 g/molであり十分に高いと言える.また gは240 C 以上, d10は390 C以上であり極めて高い耐熱性を示し た.フィルムをキャスト法により成型し,その力学物性 を 引 張 試 験 に よ り 調 べ た と こ ろ,破 断 強 度 は71〜

98 MPa, ヤング率は4.2〜13.4 GPaであり比較的高い値で あった.図1中の写真に示すように透明性の高いポリイ ミドが得られたが,特に4,4′-ジアミノ-

α

-トルキシル酸と シクロブタンテトラカルボン酸二無水物由来のポリイミ ドは無色透明となった.そのほかピロメリト酸二無水 物,ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物,または 図1微生物由来原料から得られた芳香族アミン(A),芳香族ジアミン(B),および一連のバイオポリイミドの構造と透明フィルム の写真(C

今日の話題

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272 化学と生物 Vol. 53, No. 5, 2015

ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物を用いて 得られた4種のポリマーフィルムは450 nmの波長の光 を80%以上透過する透明ポリイミドであった(6).上記の 耐熱温度はバイオベースに限らず透明プラスチック全体 で見ても最も高い部類であった.最後にL929マウス線 維芽細胞を用いて当該ポリイミドの細胞適合性を調べた 結果,一般のポリイミドと同様に高い細胞適合性を示す ことがわかった.したがって,当該プラスチックは使用 時に急性毒性を示すことがなく一般ユーザーも安全に使 用できる.今後,輸送機器や電装材料を視野に入れ,社 会実装を目指して鋭意研究を進める所存である.

  1)  R. T. Mathers & M. A. R. Meier:  Green Polymerization  Methods:  Renewable  Starting  Materials,  Catalysis  and  Waste Reduction,  Wiley-VCH, 2011

  2)  白石信夫,谷 吉樹,工藤謙一,福田和彦編著: 実用化

進む生分解性プラスチック ―持続・循環型社会の実現に 向けて,工業調査会,2000.

  3)  T. Kaneko, H. T. Tran, D. J. Shi & M. Akashi: 

5, 996 (2006).

  4)  M. Chauzar, S. Tateyama, T. Ishikura, K. Matsumoto, D. 

Kaneko, K. Ebitani & T. Kaneko:  , 22,  3438 (2012).

  5)  S. Wang, D. Kaneko, M. Okajima, K. Yasaki, S. Tateyama 

& T. Kaneko:  , 52, 11143 (2013).

  6)  P.  Suvannasara,  S.  Tateyama,  A.  Miyasato,  K.  Matsu- mura,  T.  Shimoda,  T.  Ito,  Y.  Yamagata,  T.  Fujita,  N. 

Takaya & T. Kaneko:  , 47, 1586 (2014).

(金子達雄*1,高谷直樹*2,*1 北陸先端科学技術大学院 大学,*2 筑波大学生命環境系)

プロフィル

金子 達雄(Tatsuo KANEKO)

<略歴>1993年東京工業大学工学部有機 材料工学卒業/1997年同大学大学院理工 学研究科博士後期課程中途退学,北海道大 学助手,鹿児島大学助手,大阪大学助手を 経て,2006年より現職,その間UCLAに て客員准教授を務める.博士(工学)<研究 テーマと抱負>微生物が行う分子設計は人 間にはとても思いつかないレベルの奇抜さ と美しさをもっています.現在,このナ チュラル分子デザインにとりつかれ,天然 高分子および合成系生体高分子を用いてさ まざまな先端材料を開発する研究を進めて います<趣味>自然鑑賞<所属研究室ホー ムページ>http://www.jaist.ac.jp/~kaneko/

高谷 直樹(Naoki TAKAYA)

<略歴>1991年東京大学農学部農芸化学 科卒業/1996年同大学大学院農学生命科 学研究科博士課程修了,筑波大学助手,同 講師,同准教授を経て,2011年より現職.

博士(農学)<研究テーマと抱負>微生物 が行うユニークな化学反応を見いだし,そ のメカニズムを順次解明していきます.

また,役立つ反応や化合物が見つかった ら,その利用を目指します<趣味>生け花

<所属研究室ホームページ>http://www.

microbes.agbi.tsukuba.ac.jp/takaya/

Copyright © 2015 公益社団法人日本農芸化学会

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