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448 化学と生物 Vol. 54, No. 7, 2016

希少な不飽和脂肪酸と高度不飽和脂肪族アルコールの微生物生産

皮膚菌叢の健全化を通じた健康維持への応用

魚油などに含まれるドコサヘキサエン酸とエイコサペ ンタエン酸,天然油脂中に希少なアラキドン酸(AA)

は優れた生理活性を保持する脂肪酸である.これらの機 能性脂肪酸を微生物や藻類で生産する研究が以前より盛 んである.その手法は,糖などのバイオマスを基質とし た培養により生産する培養法である.代表例は,京都大 学の清水・小川らによって見いだされた糸状菌

が生産するAA含有微生物油脂であり,すで に産業化されている.培養法と区別される方法として,

脂肪酸などの構造を微生物で改変する微生物変換法があ る.たとえば,リノール酸の二重結合の位置と幾何配置 の改変による共役リノール酸への変換,二重結合への水 酸基の導入によるヒドロキシ脂肪酸への変換など,多数 の研究が行われている.筆者も,独自に見いだした微生 物変換法による希少な不飽和脂肪酸と高度不飽和脂肪族 アルコールの生産について報告した.

細菌  subsp.  は,植

物油を基質として,脂肪酸と脂肪族アルコールのモノエ ステル体(ワックス)を菌体内に蓄積する(図1.こ のワックス内の脂肪酸は,

β

-酸化の作用により,基質の 構成脂肪酸よりも炭素数が2または4個少ない脂肪酸を 含んでいた(1, 2).たとえば,オレイン酸(9- -C18:1,

“C” に続く数値は炭素数, : に続く数値は二重結合 数)を含む菜種油を基質としたとき,パルミトオレイン 酸(7- -C16:1, 7 -POA)とミリストオレイン酸(5- - C14:1)などの天然油脂中に希少な不飽和脂肪酸に変換 された.同時に生産される不飽和脂肪族アルコールも希 少な脂質である.これらの物質は,希少であるがゆえに その機能性は不明であるが,筆者の最近の研究では,後 述のPOAの機能性を見いだした.

細菌  sp. は,前記と同様にワックスを菌 体内に蓄積するが, と比べて脂肪酸の炭

図1  subsp. 

による植物油からの希少不飽和脂 肪酸と不飽和脂肪族アルコールの生産

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化学と生物 Vol. 54, No. 7, 2016

素数を短くする活性が弱い.AA含有微生物油脂を基質 としたとき,炭素数と二重結合の位置・幾何配置を変え ることなく,AAのカルボキシル基を水酸基に還元して アラキドニルアルコールに変換した(3)(図2.この反応 にはATPとNADHが必要である.化学法でも同様の反 応は可能であるが,禁水性試薬と高引火性溶媒を用いる ため,工業化困難である.生成物をグリセリンの -2位 にエーテル結合させたアラキドニルグリセロールエーテ ルは,エステル結合型であるアラキドニルグリセロール エステルよりも結合が安定である.後者のエステル型物 質は,生体内でカンナビノイドレセプターに結合する機 能性脂質である.エーテル型物質も同じ活性をもち,ウ サギの眼圧を低下させる機能性が報告され,緑内障治療 薬などとして期待されている.

限定的な植物油に存在する9- -C16:1(9 -POA)な どのモノエン酸(二重結合が1個の脂肪酸)は,目立っ た機能性がない物質として注目されてこなかった.しか し,2008年に9 -POAの脂肪肝抑制作用が報告されたこ とを契機として,POAの機能性に関する研究が欧米で 盛んである.一方,ヒトの皮脂中に存在する6- -C16:1

(6 -POA,サ ピ エ ン 酸 と も 言 う) は,

に対する抗菌活性を保持し,アトピー性皮膚炎

(Atopic dermatitis; AD)と密接に関係している.健常 者の皮膚の6 -POA含量は平均2 µg/cm2であり,

がほぼ抑制され,健全な皮膚菌叢(スキンマイクロ バイオーム)が維持されている.しかし,ADの炎症部 では6 -POAなどの皮脂量が減少して 抑制の タグが外される.その結果,皮膚菌叢のバランスが崩 れ, sが顕著に増加してADの炎症悪化に関与 する.6 -POAを皮膚に供給すれば良いと考えられる が,この物質は天然油脂に有効な供給源がない.そこ で,筆者は最近,9 -POAおよび7 -POAが に 対する抗菌活性を保持すること,しかも有害菌だけに選 択的に作用する抗菌活性を利用し,皮膚菌叢を健全化さ せ,ADなどの疾患の予防を目指す研究を開始した(4)

最後に,人によって意見が異なることであるが,筆者 の考えを述べたい.現代人,特に日本人は,過度の綺麗 好きではないだろうか.石鹸で体をゴシゴシと洗い,殺 菌・除菌剤,抗菌グッズで皮膚菌叢をトコトン排除する ことは,本当に良いことだろうか.洗い過ぎることは,

有害物質を遮断する機能をもつ皮脂を取り除くことであ り,アレルギー物質や有害微生物が侵入しやすくなる.

皮膚菌叢をすべて排除した場合,ここに など の有害菌が入ってきたとしたら,それが顕著に増加し,

疾病を引き起こさないだろうか.もちろん,体の汚れや 臭いを排除するために石鹸で体を綺麗に洗うこと,およ び食中毒菌や病原菌を除去するための殺菌・除菌は必要 不可欠である.しかし,それが過度になってはダメであ ると考えている.適度な洗浄で皮脂量を健全な状態に保 たせ,適度で選択的な殺菌・除菌で皮膚菌叢を健全な状 態に保たせておくことが肝要であると考えている.読者 の皆さんのご意見はどうでしょうか.

  1)  T. Nagao, Y. Watanabe, K. Hiraoka, N. Kishimoto, T. Fu- jita & Y. Shimada:  , 86, 1189 (2009).

  2)  T. Nagao & Y. Shimada:  , 22, 250 (2010).

  3)  T. Nagao, Y. Watanabe, S. Tanaka, M. Shizuma & Y. Shi-

mada:  , 89, 1663 (2012).

  4)  T. Nagao, S. Tanaka, A. Kurata, H. Nakano & N. Kishi- moto:  106回アメリカ油化学会講演要旨集,BIO部門,p. 

4, 2015.

(永尾寿浩,大阪市立工業研究所生物・生活材料研究部)

図2  sp. によるアラキドン酸含有微生物油脂

からのアラキドニルアルコールの生産 点線内が微生物による反応.

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450 化学と生物 Vol. 54, No. 7, 2016 プロフィール

永尾 寿浩(Toshihiro NAGAO)

<略歴>1989年大阪大学大学院工学部醗 酵工学科卒業/1991年同大学大学院工学 研究科醗酵工学専攻修士課程修了/同年大 阪市立工業研究所生物化学課研究員/2001 年大阪大学大学院工学研究科応用生物工学 専攻にて博士(工学)の学位取得/2002年 大阪市立工業研究所生物化学課研究主任/

2012年大阪市立工業研究所生物・生活材 料研究部研究主任/2015年同研究所生物・

生活材料研究部研究室長<研究テーマと 抱負>応用微生物学,酵素工学(リパー ゼ),脂質工学.他人が思いつかない視点 と発想での研究を心掛けている<所属研究 室ホームページ>http://www.omtri.or.jp/

research/bio/lit/<趣味>ガーデニングで 野菜や果物を作ること.植物栽培は実験と 共通する部分が多いと感じている

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.448

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