化学と生物 Vol. 50, No. 4, 2012
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今日の話題
植物 26S プロテアソームの多様な機能
「品質管理」にとどまらず器官サイズや遺伝子サイレンシングなど様々な現象を制御
タンパク質分解 という言葉からどのような機能を 連想されるだろうか? これまで,タンパク質分解は品 質管理とほとんど同義語として扱われてきた.タンパク 質の翻訳時には常に3割程度の不良品(すなわちミス フォールドした翻訳産物)が生産され,またその後の細 胞内の環境変動により変性や分解したタンパク質が出現 する.これらを適切に処分し,細胞機能を維持すること が,いわゆる細胞内タンパク質の「品質管理」といわれ る所以である.しかし,近年,品質管理はタンパク質分 解の多彩な機能の一端にすぎず,生物はタンパク質分解 機能を用いて様々な現象を制御していることが明らかに
なってきた.中でも,ユビキチン・26Sプロテアソーム システム(以下UPSと略)は,真核生物に広く保存さ れ,ユビキチンがつけられた標的タンパク質を能動的に 分解することで,細胞周期をはじめ,免疫応答やシグナ ル伝達など様々な生命現象に関与している.
26Sプロテアソームは,分解の実行因子である20S活 性複合体 (20S CP) と,その両端に結合して20S CPの 活性調節やポリユビキチン鎖の認識に機能する19S調節 複合体 (19S RP) からなる(図1)(1).19S RPを構成す るサブユニットは,ATPase活性をもつ6種のRPTタン パク質群とATPase活性をもたない13種のRPNタンパ
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図1■26Sプロテアソームの構造 26Sプロテアソームはタンパク質分解 活性をもつ20S CPと,ユビキチン
(Ub) 化されたタンパク質の認識や 20S CPの活性調節を行なう19S RP からなる.19S RPはさらに,ATP- ase活性をもつRPTタンパク質群と ATPase活性をもたないRPNタンパ ク質群から構成される.RPN : Regu- la to ry Particle Non-ATPase subunit.
RPT : Regulatory Particle Triple- ATPase subunit
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ク質群に分類される.RPNおよびRPTタンパク質群 は,それぞれが固有の機能をもつことが示唆されてい る.一例を挙げると,RPN10およびRPN13は標的タン パク質に結合したポリユビキチン鎖を認識し,捕捉する 機能をもつ(2).また,RPN11は脱ユビキチン化活性を もち,標的タンパク質に付加されたポリユビキチン鎖を はずすことで,標的タンパク質を分解できるよう導くと 考えられている(3, 4).これまでに,高等植物では,プロ テアソームサブユニットと植物ホルモンシグナルとの関 連性が報告されている.RPN10はアブシジン酸シグナ ルに,RPN12aはサイトカイニンシグナルに関与するこ とが報告されている(5).しかし,その他のサブユニット の機能はほとんど不明のままであった.
筆者らは19S RPを構成するサブユニットRPT2に着 目し,その機能の解明を目的として逆遺伝学的な解析を 行なった.シロイヌナズナ 遺伝子は,
と の2つのパラログ遺伝子からなる.これら 遺伝子のノックアウト変異体を観察したところ,
変異体のみが葉器官の巨大化を示し, 変異体は巨 大化を示さなかった(6).表皮細胞の観察から, 変 異体でみられた器官の巨大化は,細胞サイズの増大に起 因しており,細胞数は変化しなかった.この細胞サイズ の増大は, エンドリデュプリケーション と呼ばれる 細胞質分裂を伴わないDNA複製が過剰に促進されたこ とが原因であった.さらに,発現解析の結果, 変 異体でみられたエンドリデュプリケーションの過剰促進 は,DNA複製因子の発現上昇が要因であることが示唆 された.以上の結果から,AtRPT2aを構成因子にもつ 19S RPは,エンドリデュプリケーションを負に制御す ることで,細胞サイズを制御していることが示された
(図2).
さらに,最近の筆者らの解析から,RPT2aが 遺伝 子サイレンシング を負に制御することが明らかになっ た. 変異体に外生遺伝子の形質転換を試みたとこ ろ,ほとんど形質転換体が得られないという現象に遭遇 した.この現象を解析したところ, 変異体では,
外生遺伝子のプロモーター領域が過剰にDNAメチル化 されたため,遺伝子発現が抑制されたことが示された.
また, 変異体では,外生遺伝子のみならず,トラ ンスポゾンも過剰なDNAメチル化を受けることが明ら かになった.一方,パラログ分子である 変異体で は,このようなDNAメチル化の促進はみられなかっ
た.これらの結果から,RPT2aを構成因子にもつプロ テアソームは,DNAメチル化を負に制御することが示 唆された(図2).
DNAメチル化は,塩基配列を変化させることなく,
遺伝子機能を変化させるエピジェネティック制御の一つ である.同一ゲノムをもつ細胞が,幹細胞からそれぞれ 異なった細胞へと分化,機能できるのは,それぞれの細 胞で異なった発現パターンをもつことによる.DNAメ チル化は,こうした発現パターンを記憶し,娘細胞へ伝 達する 細胞記憶 として機能する.近年,環境要因が DNAメチル化を変化させ,情報として記憶されること が明らかになってきた.たとえば,母ラットに毛繕いさ れる頻度が高い仔は,そのグルココルチコイド受容体遺 伝子 (GR) のプロモーター領域のDNAメチル化が低下 する.これによって,GRの発現量が増加し,高いスト レス応答を示すことが報告されている(7).同様に,動く ことのできない植物においても,ストレスなどの環境情 報を,DNAメチル化をはじめとしたエピジェネティッ ク制御によって記憶し,適応していると考えられてい る.しかし,環境要因をどのように細胞記憶へと変換す るかはよくわかっていない.筆者らの研究から,プロテ アソームがDNAメチル化を制御している可能性が示唆 された.UPSによるタンパク質分解は,植物ホルモン によるシグナル伝達など素早く環境情報を伝達すること に利用されている.これらのことから,植物はUPSに よって得られた一過的な環境情報を,DNAのメチル化 情報に変換することにより,長期的な細胞記憶として利 用し,環境変動に適応しているのかもしれない.植物プ
図2■RPT2aを構成因子にもつプロテアソームの機能
RPT2aを構成因子にもつプロテアソームは,エンドリデュプリ ケーションならびにDNAメチル化を負に制御する.
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ロテアソームの機能解析がブレークスルーとなり,植物 のもつ優れた環境適応能力の実態が明らかになることが 期待される.
1) D. Voges, P. Zwickl & W. Baumeister : , 68, 1015 (1999).
2) S. Bar-Nun & M. H. Glickman : , 1823, 67 (2012).
3) R. Verma, L. Aravind, R. Oania, W. H. McDonald, J. R.
Yates III, E. V. Koonin & R. J. Deshaies : , 298, 611
(2002).
4) T. Yao & R. E. Cohen : , 26, 403 (2002).
5) R. D. Vierstra : , 10, 385
(2009).
6) Y. Sonoda, K. Sako, Y. Maki, N. Yamazaki, H. Yamamoto, A. Ikeda & J. Yamaguchi : , 60, 68 (2009).
7) I. C. Weaver, N. Cervoni, F. A. Champagne, A. C. D′Ales- sio, S. Sharma, J. R. Seckl, S. Dymov, M. Szyf & M. J.
Meaney : , 7, 847 (2004).
(佐古香織,北海道大学大学院理学研究院)
オルガネラ膜融合の 完全再構成
SNARE シャペロン複合体が膜融合の中心的な機構であることを証明
出芽酵母をはじめとする単細胞生物からヒトなどの高 等動物に至るまで,すべての真核細胞は,形態的にも生 理機能的にも多種多様な細胞内小器官「オルガネラ」を もつ.個々のオルガネラは,特有の脂質組成から構成さ れる脂質二重膜に囲まれ,特異的で多様な膜タンパク質 群が存在する.今回取り上げる「オルガネラ膜融合」
は,小胞輸送などの細胞内膜交通(メンブレントラ フィック)やオルガネラ形成・継承に必須の過程であ り,細胞の生育に必要不可欠な生体反応である.たとえ ば,シナプス伝達,ホルモン分泌,そしてエンドサイ トーシス・エキソサイトーシスなどはすべて膜融合が必 要となる細胞内膜交通の一つである.ここでは,これま で主に遺伝学・細胞生物学・生化学的手法で同定されて き た,SNAREタ ン パ ク 質 (soluble -ethylmaleimide- sensitive factor attachment protein receptor) などの膜 融合の必須因子について概説し, 完全再構成系 による近年の膜融合研究の進展について紹介する.
真 核 細 胞 の「膜 融 合 」 研 究 は,1980年 代 か ら,
NovickとSchekmanらによる出芽酵母温度感受性 変 異株スクリーニングなどの遺伝学的解析や,Balchと Rothmanらによる哺乳動物ゴルジ体間膜輸送アッセイ をはじめとした生化学的解析により大きく進展し,これ までに数多くの必須タンパク質因子が同定されてき た(1).その中でもSNAREタンパク質は,膜融合をひき 起こす上で最も重要な分子であり(2),SNAREの特異的 シャペロンタンパク質であるNSF ( -ethylmaleimide sensitive factor),
α
-SNAP (soluble NSF attachment protein), そ し てSM (Sec1/Munc18) タ ン パ ク 質 は,SNAREタンパク質複合体の解離会合を制御すると考え
られている(3).近年,さらに上記のようなタンパク質因 子群に加え,ホスホイノシチド(イノシトールリン脂 質),ステロール,ジアシルグリセロール,ホスファチ ジン酸などの脂質が,膜融合で重要な役割を果たしてい ることが明らかになってきている(4).
Rothmanら は,1993年 にSNAREを 発 見 し(2),1998 年には,精製SNAREタンパク質と人工脂質二重膜リポ ソームから,SNARE依存性プロテオリポソーム膜融合 を で完全再構成することに初めて成功した(5). シ ナ プ ス 伝 達 に 関 わ るQ-SNAREタ ン パ ク 質 (t- SNARE) とR-SNAREタンパク質 (v-SNARE) を別々 のリポソームに再構成し,リポソームの脂質は,ホス ファチジルコリン (PC) とホスファチジルセリン (PS)
のシンプルな脂質組成を用いた.これらのQ-SNAREプ ロテオリポソームとR-SNAREプロテオリポソームは,
他の膜融合因子の非存在下にもかかわらず,トランス SNARE複合体の形成を介して,自発的な膜融合をひき 起こした.この結果により,「SNAREタンパク質は膜 融合に必須かつ十分であり,膜融合の分子マシナリーそ のものである」という考えが広く受け入れられた.
しかし一方で,遺伝学・細胞生物学的手法の
研究や,単離オルガネラを用いた 研究では,
SNARE以外の他の膜融合因子群の重要性も数多く報告 されてきた(3).このように,実験手法の違いで大きな結 論のギャップが存在する中,酵母液胞(動物細胞のリソ ソームに相当するオルガネラ)をモデルに,90年代よ り膜融合研究を進めてきたWicknerらは,SNAREだけ でなく他のタンパク質因子や脂質因子も含んだ,より生 理的条件に近い再構成プロテオリポソーム系の構築を試