化学と生物 Vol. 50, No. 10, 2012
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今日の話題
トコトリエノールの代謝とその調節
トコトリエノールの機能性は生体内において期待できるか?
ビタミンEにはトコフェロールとトコトリエノールが ありトコトリエノールは側鎖に3つの二重結合をもつタ イプのビタミンEである(図
1
).クロマン環の構造の
違いによって,さらにそれぞれのα
-,β
-,γ
-,δ
-体が天然に 存在する.私たちが日常摂取しているビタミンEは,α
- トコフェロールとγ
-トコフェロールが大部分である.トコトリエノールは米ぬか油とパーム油以外にはほとん ど含まれないため,その摂取量はトコフェロールに比べ て圧倒的に少ない.
ビタミンEの抗酸化活性はクロマン環に結合する水酸 基に由来するため, ではどのビタミンE同族体 でも抗酸化活性を示す(図1)
.ところが,ラットの胎
児吸収試験や溶血試験の結果から得られる生物活性はα
-トコフェロールが最も高く,それ以外の同族体の生物 活性は, の抗酸化活性から期待されるほど高く ないことが以前から知られていた.これは,α
-トコフェ ロール以外の同族体の体内濃度が低いためであると考え られたが,その理由は不明であった.1991年にα
-トコ フェロール輸送タンパク質 (α
-tocopherol transfer pro- tein,α
TTP) が発見され,同族体による体内動態の違い が明らかになった.α
TTPは肝臓に存在するビタミンE 結合タンパク質で,肝臓から血中へのビタミンEの放出 に必要である(図2
). α
TTP遺伝子の変異によって起こ る先天性単独ビタミンE欠乏症の患者や,α
TTPノック アウトマウスでは,血液中のビタミンE濃度が著しく低 い.そして,ビタミンE同族体に対するα
TTPの親和 性はα
-トコフェロールが最も高く,γ
-トコフェロールやα
-トコトリエノールはその10分の1程度と低い(図1).
これらの親和性と,胎児吸収試験による生物活性の間に 正の相関が見られたことから(2), α
TTPとの親和性がそ の同族体の体内濃度(≒生物活性)を決定することが明 らかになったのである.したがって,摂取したビタミン Eのうち,α
TTPとの親和性が最も高いα
-トコフェロー ルが優先的に肝臓からさまざまな組織に運ばれてビタミ ンEとして機能する一方で,トコトリエノールのほとん どは肝外組織に運ばれることなく,カルボキシエチルヒ ドロキシクロマン (CEHC) に異化されて排泄されると今日の話題
図1■ビタミンEの構造と生物活性 αTTP, α-トコフェロール輸送タンパク質
化学と生物 Vol. 50, No. 10, 2012 701
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考えられた.このように,トコトリエノールは摂取する 機会が少ないうえに,摂取しても素早く異化されてしま うため,ビタミンEとしては長らく注目されることがな かった.
ところが,1986年にQureshiらは,大麦に存在する HMG-CoAレダクターゼ阻害活性物質を単離精製し,そ れが
α
-トコトリエノールであったと報告した(3).これ
をきっかけに,トコトリエノールはビタミンEというよ り機能性食品成分として注目を集めるようになった.そ の後,トコトリエノールの機能として動脈硬化抑制作 用(4),細胞増殖抑制作用
(5) や血管新生抑制作用(6),神
経細胞保護作用(7) などが次々と報告されている.ところで,培養細胞にはトコフェロールよりもトコト リエノールのほうが取り込まれやすいことが知られてい るが,前述のように体内のビタミンE濃度が
α
TTPと の親和性によって決定するならば,トコトリエノールの 機能性は個体レベルではほとんど期待できないことにな る.そこで,私たちはラットを用いてトコトリエノール の体内分布を調べてみた.ラットにトコフェロールとト コトリエノールの混合飼料を8週間摂取させたところ,やはりほとんどの組織では
α
-トコフェロール濃度が最 も高く,トコトリエノール濃度は極めて低かった.とこ ろが,驚いたことに脂肪組織にはトコトリエノールがα
-トコフェロールと同程度蓄積していた(8).脂肪組織
は,いったん取り込んだビタミンEを長期間保持しやす い特徴をもち,継続的なトコトリエノールの摂取によっ てトコトリエノールが少しずつ蓄積すると考えられ た(9).一方,トコフェロールとトコトリエノールはいず
れも側鎖の末端が水酸化され,つづいて起こるβ
酸化 によってCEHCとなる(図2).シトクロームP450活性
阻害剤によってビタミンEの水酸化を阻害したところ,CEHC排泄量の低下とともに体内のトコトリエノール濃 度が一様に上昇したことから,
α
TTPとの親和性だけで はなく,ビタミンEの異化も体内濃度を調節する重要な 要因であると考えられた(10).また,トコトリエノール
をγ
-シクロデキストリンで包接することによって,ト コトリエノールの吸収が促進されることも明らかになっ た(11).
このように,ビタミンEとしては従来注目されてこな かったトコトリエノールであるが,組織によっては
α
- トコフェロールと遜色ないレベルで存在することや,そ の濃度の調節機構が少しずつ明らかになってきた.トコ トリエノールの存在する組織では過酸化脂質の生成抑制 が認められるため,組織に取り込まれたトコトリエノー ルはビタミンEとして十分機能すると考えられる.ま た,副腎や皮膚,心臓,血管などにもトコトリエノールは 検出されるため,このような組織でも機能性成分として のトコトリエノールの作用が期待できるかもしれない.1) 日本ビタミン学会編: ビタミン総合事典 ,朝倉書店,
2010, p. 84.
2) A. Hosomi, M. Arita, Y. Sato, C. Kiyose, T. Ueda, O. Iga- rashi, H. Arai & K. Inoue : , 409, 105 (1997).
3) A. A. Qureshi, W. C. Burger, D. M. Peterson & C. E.
Elson : , 261, 10544 (1986).
4) A. A. Qureshi, W. A. Salser, R. Parmar & E. E.
Emeson : , 131, 2606 (2001).
5) K. Nesaretnam : , 269, 388 (2008).
6) T. Miyazawa, A. Shibata, P. Sookwong, Y. Kawakami, T.
Eitsuka, A. Asai, S, Oikawa & K. Nakagawa : , 20, 79 (2009).
7) C. K. Sen, C. Rink & S. Khanna : , 29, 314S (2010).
8) S. Ikeda, K. Toyoshima & K. Yamashita : , 131, 2892 (2001).
9) T. Uchida, C. Abe, S. Nomura, T. Ichikawa & S.
Ikeda : , 47, 129 (2012).
10) C. Abe, T. Uchida, M. Ohta, T. Ichikawa, K. Yamashita
& S. Ikeda : , 42, 637 (2007).
11) S. Ikeda, T. Uchida, T. Ichikawa, T. Watanabe, Y. Uekaji, D. Nakata, K. Terao & T. Yano :
, 74, 1452 (2010).
(池田彩子,名古屋学芸大学管理栄養学部)
図2■α-トコフェロールの代謝
αCEHC, 2,5,7,8-tetramethyl-2(2′-carboxyethyl)-6-hydroxychro- man ; CYP4F2, シトクロームP450 4F2 ;αT, α-トコフェロール;α TTP, α-トコフェロール輸送タンパク質