• 検索結果がありません。

今日の話題 - J-Stage

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2023

シェア "今日の話題 - J-Stage"

Copied!
3
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

152 化学と生物 Vol. 55, No. 3, 2017

非酵素的ポリケタイド二量化反応の発見と多様な擬天然物の半合成

多様性指向型半合成による新たな天然物ケミカルスペースの開拓

植物や微生物など,生物は固有の二次代謝経路を使っ てさまざまな有機化合物を創り出す.このような天然の 有機化合物,いわゆる天然物に見られる化学構造は,骨 格レベルと修飾レベル双方で実に多様性に富んでおり,

それにより多様な機能を獲得している.このような化学 構造の多様性は,二次代謝経路の中の生合成反応によっ て生み出される.その中心は生合成酵素による酵素反応 であり,生合成研究の多くは反応にかかわる酵素の機能 解析を中心に発展してきた.一方で,前駆物質の化学的 な特性に依存する非酵素的な反応が,複雑かつ多様な骨 格を生み出すケースも少なくない(1, 2).これら非酵素的 な反応を解明し有機化学反応に持ち込むことができれ ば,反応に必須な化学的性質が保持された基質を自由に デザインすることができ,多様な化学種を生み出すのに 強力なツールになりうるという特典も付いてくる.本稿 では筆者らが偶然発見した糸状菌ポリケタイドの非酵素 的な二量化反応と,その前駆体の反応性を基盤とした半 合成プロセスの開発による多様な非天然型ポリケタイド 分子の創生について概説する.

筆者らは,ケミカルエピジェネティクスを用いて糸状 菌未利用生合成遺伝子に由来する新規物質の探索を展開 してきた.そのなかで,インディゴチドCおよびDやケ トフェノールEといった特徴的な環構造を有するポリケ タイド二量体を取得した(3, 4)(図1.これらの母核の部 分はラセミ体として生合成されていたことから,非酵素 的な二量化反応の存在が予想されるが,単離当時はそこ までは思いが行き届いてはいなかった.一方で,

をヒストン脱アセチル化酵素阻害剤添 加条件で培養するとケトフェノール類の生産が誘導され る現象について,遺伝子レベルの実験を行うためにケト フェノール類の生合成にかかわる非還元型ポリケタイド 合成酵素(NR-PKS)をコードする遺伝子の探索を,麹 菌の異種発現系を用いて行っていた.候補遺伝子である を麹菌で異種発現させた形質転換株の生産物を 解析する際,麹菌の培養に一般的に用いられる培地では なく,筆者らが天然物探索で汎用しているポテトデキス トロースブロス培地で培養したところ,2種のメジャー な生成物の蓄積が確認された.それぞれの構造解析を 行った結果,驚いたことに,それぞれインディゴチドC とDの二量体骨格AとケトフェノールEの二量体骨格B を有する化合物であることが判明した.この発見を契機 に,さらにいろいろな培養条件の検討,代謝物の経時変 化を追跡することで,アルデヒド1からイソクロメン2 を経由して二量体34へと変換されることを突き止め た.なお,麹菌で一般的に用いられる培地の場合,2ま での変換で止まってしまうため,この二量化反応の発見 には至らなかったかもしれない.さらに,12を用い た変換実験から,1から2は麹菌の内在酵素による変換 で,2から3および4への二量化は酸性度に依存した非 酵素反応で進行することを明らかにした(図1).これ が,多様な非天然型ポリケタイドの創生を可能にする新 規カスケード反応の発見の経緯である.

発見した二量化反応は酸性条件下で進行することを明 らかにし,前駆体であるイソクロメン2とその共鳴構造

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

今日の話題

(2)

153

化学と生物 Vol. 55, No. 3, 2017

式の一つである -キノンメチド構造と環化付加反応する ことで形成すると推測した.そして, -キノンメチドの 高い反応性を活用して多様な化学種を生み出すための半 合成プロセスを開拓するに至った(図2.まず,麹菌 の培養システムを利用した多様化を試みた.二量化に必 要な構造を有する基質を麹菌に添加するもしくは異種生 産することで,3および4のアナログ合成に加え,ユ ニークな三量体の生成に成功した.次に有機化学反応を 用いた多様な分子創生を試みた.ここでは,最適条件で 培養すると30 mg/L以上得られる入手容易さと -キノン メチド等価体としての反応性の高さから2を開始基質と して選択した.触媒量の酸条件から過剰量のLewis酸条

件や酢酸‒加熱還流条件など過激なものまでさまざまな 酸性条件で反応させることで,簡単に4種の異なる環構 造を有する二量体を作製することができた.さらに,2 の電子豊富なベンゼン環の反応性を塩基性条件下と酸化 条件下で利用することで,16種のユニークなポリケタ イド分子を創り出した.つづいて,医薬品を連想させる 構造へと近づけるために,インドール‒ポリケタイドハ イブリッド分子の創生を試みた.種々の置換様式を有す るシンプルなインドール化合物で2由来の -キノンメチ ドのトラップを開始とした数段階の反応により,多様な 骨格構造を有する14種のハイブリッド分子を効率良く 合成することに成功した.このように,非酵素的なポリ 図1A)ケミカルエピジェネティクス で発見したポリケタイド二量体,(B)麹菌 異種発現により発見した二量体 化反応の推定生成機構

図2多様性指向型半合成プロセスと非天 然型ポリケタイド分子の例

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

今日の話題

(3)

154 化学と生物 Vol. 55, No. 3, 2017

ケタイド二量化反応の前駆体の生合成による供給と化学 反応を組み合わせた半合成により,20以上の異なる骨 格からなる40以上の非天然型ポリケタイド分子を効率 良く創出することに成功した(5).多くの反応の収率は数 パーセントであったが,生合成により開始基質を効率良 く供給できたことが,新しい化学種の発見を可能にし た.得られた化合物について,抗ウィルス活性試験を評 価したところ,アデノウィルスに対して増殖抑制を示す 化合物を見いだすことができた.アデノウィルスに対し て有効な活性物質がほとんど報告されていないことを考 えると,この半合成により新しいケミカルスペースを開 拓できたと言えるかもしれない.

筆者らは,ポリケタイド生合成中に偶然見つけた非酵 素反応を詳細に解析し,それを基盤とした多様性指向型 半合成プロセスを開発することで,生合成研究の新たな 出口を示した.まだまだユニークな非酵素反応がさまざ まな生合成経路の中に数多く隠されているに違いない.

これらが明らかにされ物質創生研究へと応用されること で,新たなケミカルスペースの開拓,ひいては天然物創 薬の発展につながることが期待される.

  1)  A. W. Robertson, C. F. Martinez-Farina, D. A. Smithen,  H. Yin, S. Monro, A. Thompson, S. A. McFarland, R. T. 

Syvitski & D. L. Jakeman:  , 137, 3271  (2015).

  2)  T.  A.  Colosimo  &  J.  B.  MacMillan:  ,  138, 2383 (2016).

  3)  T. Asai, T. Yamamoto & Y. Oshima:  , 14, 2006  (2012).

  4)  T.  Asai,  T.  Yamamoto,  N.  Shirata,  T.  Taniguchi,  K. 

Monde,  I.  Fujii,  K.  Gomi  &  Y.  Oshima:  , 15,  3346 (2013).

  5)  T. Asai, K. Tsukada, S. Ise, N. Shirata, M. Hashimoto, I. 

Fujii, K. Gomi, K. Nakagawara, E. N. Kodama & Y. Oshi- ma:  , 7, 737 (2015).

(浅井禎吾*1,大島吉輝*2,*1 東京大学大学院総合文化 研究科,*2 東北大学大学院薬学研究科)

プロフィール

浅井 禎吾(Teigo ASAI)

<略歴>2005年東京工業大学理学部化学 科卒業/2007年同大学大学院理工学研究 科博士前期課程修了/2009年東北大学大 学院薬学研究科助手/2011年同大学院薬 学研究科助教/2016年東京大学大学院総 合文化研究科准教授.現在に至る<研究 テーマと抱負>ポストゲノム型天然物探 索.生物のゲノム上にコードされる未開拓 な生合成遺伝子情報を活用し,独創的な天 然物を発見したい<趣味>スポーツ(する のも観るのも.特にサッカー)

大島 吉輝(Yoshiteru OSHIMA)

<略歴>1975年東北大学薬学部薬学科卒 業/1977年同大学院薬学研究科博士前期 課程修了/同年同大学薬学部助手/1992 年青森大学工学部生物工学科助教授/1996 年東北大学薬学部教授/1999年同大学院 薬学研究科教授.現在に至る.この間,

1982〜1984年イリノイ大学リサーチアソ シエイト<研究テーマと抱負>天然物化 学,植物や微生物から低分子創薬に役立つ 分子を提供したい<趣味>スポーツ鑑賞,

犬の世話

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.152

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

今日の話題

参照

関連したドキュメント

1, 2014 コレステロール , スフィンゴミエリン , ホスファチジルイノシトール 4 モノリン酸代謝の交差点 オキシステロール結合タンパク質 ( OSBP ) を介した調節機構 細胞質膜上には脂質ラフトと呼ばれる領域が存在し, その脂質構成が変化すると,さまざまな膜タンパク質の 活性が変化することが知られている(1).脂質ラフトの主

2, 2017 アレスチン様輸送アダプターを介した酵母膜タンパク質の品質管理 基質を識別しているのは何か? 細胞膜は外界の情報を細胞内に伝達するインターフェ イスで,その担い手は細胞膜タンパク質(以下,単に膜 タンパク質とする)である.微生物の環境適応や高等生 物の発生・分化など,細胞が運命の舵を大きく切ると き,膜タンパク質が分解されダイナミックにリモデリン

7, 2015 魚に効くプロバイオティクス 茨城県霞ケ浦 ・ 北浦におけるコイ養殖業への利用の可能性 近年,水産物は保存技術や流通網の発達,魚食によ る健康志向などにより世界的な需要が高まっている. FAOの2012年統計によると,世界の漁業・養殖業生産 量は約1億5,800万トンであり,このうち養殖業は約

12, 2013 光周期による花成ホルモン FT の発現メカニズム 植物はどのように季節変化を感じるのか 高等植物は,さまざまな外環境を感知し,同種の各個 体が同じタイミングで最適な時期に花を咲かせ,効率良 く次世代へと種子を残すことを可能にしている.植物が 栄養成長から生殖成長へと成長相を移行させる現象を花 成と呼び,特に日長(日照時間)の変化によって花成が

6, 2014 細菌の生育に必須な遺伝子群の発現制御に関する新しい知見 主要シグマ因子の発現を支配する ECF シグマ因子 遺伝子発現の開始段階である転写はDNA依存性RNA ポリメラーゼ(以下RNAポリメラーゼ)によって行わ れる.細菌のRNAポリメラーゼコア酵素は4種類5つ のサブユニット (α2, β, β′, ω) から構成され,DNAを鋳

蛍光ス キャナーを使って蛍光強度を測定,というような手順と なっている.試料や抗体などの濃度,液量に関しても詳 しい設定がなされており,初めて利用する研究者にも簡 便に利用できるように工夫されている.また,レクチン の特異性を測定する際も同様の方法をほぼ用いることが 可能である.このように600種類以上の糖鎖,利用しや

2, 2012 75 今日の話題 を構築した(4) (図1-B). ヌクレオチド交換因子Sec12と蛍光標識した積み荷タ ンパク質を人工脂質平面膜に再構成し,GTP存在下で Sar1とCOPIIコートを添加すると,積み荷タンパク質 が集合してCOPII小胞が形成される.このとき,平面 膜の膜厚を生理的条件下のものと比べて2倍程度にして

6, 2013 伝達されていく. cGMP,一酸化窒素 ──→ ──→気孔閉鎖 これには,いくつかの可能性が考えられる.①cGMP経 路と一酸化窒素経路が並行に走っていて,それぞれの下 流のシグナル分子がともに存在したときに気孔は閉じ る.②cGMPと一酸化窒素とが反応しその産物がシグナ ル分子として機能するなどの可能性が考えられる.