化学と生物 Vol. 50, No. 2, 2012
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今日の話題
小胞体から出芽する輸送小胞に輸送基質が濃縮される仕組み
積み荷タンパク質の選別や輸送に関わる COPII と Sar1 の役割
真核細胞内のオルガネラ間は,主として直径50 〜100 nmの「輸送小胞」と称される小さな膜小胞を介した小 胞輸送によって盛んに物質のやりとりを行なっている.
特に細胞内膜系の半分以上を占める小胞体では,各オル ガネラで機能するタンパク質や分泌タンパク質の合成が 行なわれるため,細胞内の全タンパク質の実に約30%
が小胞体から下流のオルガネラへと送り出されている.
そのため,小胞体ではさまざまな機能や構造をもったタ ンパク質が選別を受けて輸送されていく.輸送小胞は,
コートタンパク質複合体が低分子量GTPaseによって制 御されながらオルガネラ膜上に集合し,膜を変形させる ことによって形成される.小胞体からの輸送は,COPII
(coat protein complex II) と呼ばれるコートタンパク質 と 低 分 子 量GTPaseで あ るSar1に よ っ て 形 成 さ れ る COPII小胞が担っている(1).
COPII小胞の形成について図1-Aを参照しながら解説 しよう.グアニンヌクレオチド交換因子Sec12により GTP結合型となって膜に結合したSar1は,Sec23/24複 合体中のSec23サブユニットに結合し,Sec23/24を小胞 体膜にリクルートする.このとき,Sec24サブユニット は積み荷タンパク質が細胞質側に呈示する「輸送シグナ ル」と呼ばれる特定のアミノ酸配列に結合する.小胞体 内腔の可溶性の積み荷タンパク質の場合は,膜貫通型積 み荷タンパク質レセプターを介してSec24と結合する.
このSar1-Sec23/24 -積み荷タンパク質からなる出芽前 駆複合体をSec13/31が架橋していくことによってCOP II小胞の形成と積み荷タンパク質の取り込みが同時に起
こる.このように,積み荷タンパク質がもつ輸送シグナ ルとCOPIIコートとの特異的な相互作用によって積み 荷タンパク質の選別が行なわれる.このとき同時に,積 み荷タンパク質は数倍から20倍程度COPII小胞に濃縮 されることが示されている(2).ところが,Sec23/24の 小胞体膜への結合はGTP結合型のSar1のみに依存し,
積み荷タンパク質は必須ではない.そのため,小胞体膜 上 に は 積 み 荷 タ ン パ ク 質 と 結 合 し て い な いSar1- Sec23/24複合体も形成されてCOPII小胞へと取り込ま れてしまうため,積み荷タンパク質がCOPII小胞に濃 縮されるメカニズムについては不明であった.
以前,筆者らのグループは,プロテオリポソームを用 いたCOPII小胞形成の試験管内再構成系による解析か ら,Sar1のGTP加水分解サイクルが,積み荷タンパク 質と結合していないSec23/24のみを選択的に膜から解 離させることにより,積み荷タンパク質が効果的に COPII小胞へと濃縮されるというモデルを提唱した(3). このモデルを直接検証するためには,COPII小胞1個あ たりに取り込まれた積み荷タンパク質の分子数を定量す る必要がある.しかし,そのための実験系がなかったた め,細胞内のどの小胞輸送経路においても輸送小胞1個 あたりに取り込まれる積み荷タンパク質の数は何分子な のかというごく素朴な問いに答えられていなかった.そ こで筆者らは,1分子観察用の顕微鏡下に形成させた人 工 脂 質 平 面 膜 にCOPII小 胞 の 形 成 反 応 を 再 構 成 し,
COPII小胞形成過程における蛍光標識した積み荷タンパ ク質のダイナミクスを定量的にイメージングする実験系
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を構築した(4) (図1-B).
ヌクレオチド交換因子Sec12と蛍光標識した積み荷タ ンパク質を人工脂質平面膜に再構成し,GTP存在下で Sar1とCOPIIコートを添加すると,積み荷タンパク質 が集合してCOPII小胞が形成される.このとき,平面 膜の膜厚を生理的条件下のものと比べて2倍程度にして おくと,形成されたCOPII小胞が膜からくびり切られ るのが防がれるため,膜から脱離する直前の状態の COPII小胞が膜上に蓄積し,積み荷タンパク質由来の蛍 光輝点として観察される(図1-B).これらの輝点の蛍 光強度からCOPII小胞1個あたりに取り込まれた積み荷 タンパク質の分子数を見積もることができる.
形成される輝点の蛍光強度は,あらかじめ平面膜に再 構成しておく積み荷タンパク質の濃度に比例して強く なっていくものの,ある濃度で飽和してしまう.つま り,COPII小胞1個あたりに取り込まれる積み荷タンパ ク質の数には上限があり,その数は蛍光強度から約70 分子と見積もられた.積み荷タンパク質はSec23/24と の結合によってCOPII小胞に取り込まれるため,COPII 小胞上のSec23/24の数が取り込む積み荷タンパク質の
数を規定していることになる.COPII小胞は1個あたり 48 〜 120分子のSec23/24を含むことがクライオ電子顕 微鏡による観察で示唆されていることから(5),取り込ま れる積み荷タンパク質の数の最大値もこの範囲内である と考えられ,筆者らの実験結果とよく一致する.
また,COPII小胞の形成にはSar1のGTP加水分解は 必要ではなく,非加水分解アナログであるGMP-PNP存 在下でもCOPII小胞の形成自体は起こる.実際に,同 様の実験をGMP-PNP存在下で行なったところ,形成さ れる輝点中に含まれる積み荷タンパク質の数がGTP存 在下のときと比べて著しく低くなっていることが明らか となった.つまり,Sar1によるGTP加水分解サイクル が回らないとCOPII小胞への積み荷タンパク質の濃縮 は起こらない.この事実は,試験管内再構成系による実 験から示唆されたモデルを強く支持するものである.さ らに最近,筆者らのグループは,小胞体に局在する膜内 在性因子Sed4が,Sar1のGTPase活性を促進させて積 み荷タンパク質と結合していないSec23/24の解離を早 め,COPII小胞への積み荷タンパク質の濃縮をさらに促 進していることを明らかにした(6).
図1■小胞体におけるCOPII小胞形 成のモデル (A) およびCOPII小胞 形成のダイナミクス解析系 (B)
スケールバー:2 μm
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以上述べてきたように,試験管内再構成系や蛍光イ メージングを用いたアプローチにより,COPII小胞形成 過程における積み荷タンパク質の選別や濃縮のメカニズ ムが徐々に明らかとなってきた.小胞体からの輸送に限 らず,細胞内のすべての小胞輸送経路において,輸送小 胞の形成は低分子量GTPaseによって制御されているた め,その基本メカニズムは共通していることが予想され る.他の輸送経路における制御メカニズム解析において も,小胞体からのCOPII小胞形成が良いモデルとなる のではないかと考えている.
1) K. Sato & A. Nakano : (review), 581, 2076
(2007).
2) P. Malkus, F. Jiang & R. Schekman : , 159, 915 (2002).
3) K. Sato & A. Nakano : , 12, 167
(2005).
4) K. V. Tabata, K. Sato, T. Ide, T. Nishizaka, A. Nakano &
H. Noji : , 28, 3279 (2009).
5) S. M. Stagg : , 134, 474 (2008).
6) C. Kodera, T. Yorimitsu, A. Nakano & K. Sato : , 12, 591 (2011).
(佐藤 健,東京大学大学院総合文化研究科)
核内タンパク質の品質管理機構
分裂酵母のユビキチン化経路を特定
タンパク質がその機能を発揮するためには適切な立体 構造をとることが必要であるが,環境ストレスや熱 ショックなどにより異常タンパク質や変性タンパク質が 産出されることがある.一方,翻訳時に新しく生産され る全タンパク質のうち約30%のものは本来の立体構造 をとらない変性タンパク質として生産されるという報告 もあり(1),通常状態においても細胞内で変性タンパク質 や異常タンパク質が恒常的に生じている可能性がある.
このように,細胞内のタンパク質は正常型のものだけで はなく,様々なコンフォーメーションをとった分子種が 不安定に混在した状態にあると考えられる.
これら異常タンパク質や変性タンパク質の細胞内での 蓄積は,アルツハイマー病やパーキンソン病で知られる ように,細胞毒性を誘引することがある.そのため,細 胞はタンパク質の品質管理を行なっている.これは,異 常となった立体構造を修復する経路と,修復不可能なも のを分解する経路の2つに大別でき,両経路の協調的な 働きにより細胞内のタンパク質の品質管理が効率よく行 なわれている.前者は主にヒートショックシャペロンな どの分子シャペロンにより,一方後者は非選択的タンパ ク質分解を担うリソソーム/液胞システムや選択的タン パク質分解を担うユビキチン・プロテアソームシステム
(UPS) により行なわれている(2).UPSはすべての真核 生物における選択的なタンパク質分解機構であり,ユビ キチン活性化酵素 (E1)‒ユビキチン結合酵素 (E2)‒ユ ビキチンリガーゼ (E3) から構成されるユビキチンを付 加する反応系とユビキチンで標識されたタンパク質を分
解するプロテアソーム系から構成される.UPSはこれ まで,細胞周期制御因子や癌抑制因子を含む広範囲な細 胞内タンパク質の選択的分解を担っていることが示され ている.
タンパク質の品質管理については,これまで細胞質内 に存在する分子経路が非常によく研究されてきたのに対 して,核内における分子経路についてはその存在自体が 最近までわかっていなかった.しかし,代表的モデル生 物の出芽酵母において「核内タンパク質の品質管理機 構」の存在が初めて報告された(3).すなわち,核内にお いて生じた変異型タンパク質を特異的に認識し,選択的 タンパク質分解の目印であるユビキチンを付加するタン パク質として,San1が同定された.San1はRINGフィ ンガードメインを有するユビキチンリガーゼであり,ミ スフォールディングした核内変異タンパク質(Cdc68や Sir4など)を分解へと導くが,同じタンパク質の正常型 は分解しないことが, と の両面において 示された.
この発見に引き続き,筆者らは最近,分裂酵母での
「核内タンパク質の品質管理機構」に関わる分子種を同 定した(4).すなわち,分裂酵母のヒストンシャペロンで あるAsf1の変異型タンパク質Asf1-30を核内タンパク質 の品質管理を研究するモデル基質として,この核内局在 型変異タンパク質がUPSによって選択的に分解される ことを明らかにした.さらに,11個のE2候補の中から この分解に関わるE2としてUbc4を,またE3として San1を同定した(図1).加えて, において他の