今日の話題
2 化学と生物 Vol. 52, No. 1, 2014
コレステロール , スフィンゴミエリン , ホスファチジルイノシトール 4 モノリン酸代謝の交差点
オキシステロール結合タンパク質 ( OSBP ) を介した調節機構
細胞質膜上には脂質ラフトと呼ばれる領域が存在し,
その脂質構成が変化すると,さまざまな膜タンパク質の 活性が変化することが知られている(1).脂質ラフトの主 要な構成成分の一つである非エステル体コレステロール は,エネルギー貯蔵に用いられるエステル体コレステ ロールと異なり疎水性が高く,単独では膜に維持されに くい.そのため,脂質ラフトにおいては,コレステロー ルが親和性の高いスフィンゴミエリン (SM) とともに 一定の存在比率で保持されることが重要とされている.
一方,細胞質膜上のSMが欠乏すると,細胞質膜から非 エステル体コレステロールが遊離して小胞体へ輸送さ れ,そこでエステル化を受けるが,この輸送経路はまだ はっきりしていない(2).
それでは脂質ラフトのコレステロール/SM存在比の 恒常性は,どのように保たれているのであろうか.1980 年代末に,初の酸化コレステロール(オキシステロー ル)およびコレステロールの細胞内レセプターとして発 見されたオキシステロール結合タンパク質 (OSBP) が 1990年代末に,2つの脂質の代謝をつなぐキー因子とし ての役割を果たしていることが示された(3) (以下ステ ロールとは,オキシステロールとコレステロールの両方 を指す).OSBPは,リガンドであるステロールをステ ロール結合ドメイン (SBD) によって検知・結合し,ゴ ルジ体へ輸送小胞 (transport vesicle) 非依存的に輸送 する脂質結合タンパク質である.OSBPのゴルジ体移行 に は,小 胞 体 膜 タ ン パ ク 質 Vesicle-associated mem- brane protein-associated protein (VAP) と 結 合 す る
FFATモチーフ,およびゴルジ体のホスファチジルイ ノシトール4モノリン酸 (PI-4P) と結合する Pleckstrin homology domain (PHD) の両方が必要であることか ら,小胞体膜とゴルジ体膜間にOSBPのリガンド結合依 存的にメンブレンコンタクトサイト (MCS) が形成され るという仮説が支持されている(図1(A), (B)).本稿 では,最近明らかになったOSBPによるSM生合成の調 節の仕組みと,それに必須なリン酸化によるOSBPの細 胞内局在の制御機構について紹介する.
SMの生合成は,前駆体であるセラミドがセラミド輸 送タンパク質 (CERT) によって,小胞体からゴルジ体 のSM合成酵素 1 (SMS1) のもとへと transport vesicle 非依存的に輸送されて開始する(図2).定常状態にお けるSMの生合成はOSBPに依存しないことが知られて いるが,コレステロールに対してSMが不足した状態に 陥ると,定常状態において主に細胞質に分布するOSBP のゴルジ体移行が強く促進され,その結果SMの生合成 が2 〜3倍亢進する現象が見られる.これは,リガンド であるコレステロールを結合したOSBP が移行するこ とでゴルジ体膜上にコレステロールリッチな領域が形成 され,そこへCERTのゴルジ体局在化に必要なPI-4Pを 生合成する PI-4 kinase (PI4K) がリクルートされて活 性化し,セラミド輸送が促進されるためであると考えら れる(4, 5) (図2).こうした一連の反応において,OSBP のステロール結合活性と細胞内局在はどのように制御さ れているのだろうか.
OSBPの細胞内局在変化に伴って複数のリン酸化サイ
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トにおけるリン酸化状態が変化することから,OSBPの 細胞内局在とそれに深くかかわるステロール結合活性の リン酸化による制御機構が示唆されていたものの(3), Protein kinase D (PKD) によってリン酸化を受ける PKDサイトが同定された報告があるのみで,そのほか のリン酸化サイトやOSBPのリン酸化自体の生理的意義 は不明であった.しかし最近,図1(A) に示したサイト
1および2のリン酸化について,その役割の一端が明ら かにされた.リン酸化変異体の解析から,サイト1の最 上流に位置するセリン残基のリン酸化がトリガーとな り,その下流のセリン/スレオニンクラスターのリン酸 化カスケードが活性化され,最終的にSBDにおけるス テロールの結合が促進されることが示された(6).また,
2重リン酸化変異体の解析から,サイト1と2のリン酸 化状態の組み合わせでVAPとの結合親和性が決まるこ とがわかった.すなわちサイト1が脱リン酸化,そして サイト2がリン酸化状態になるとOSBPのVAP結合親 和性は6 〜7倍にも上昇したのである(6).さらに,電子 顕微鏡観察により,OSBPとVAPの高親和性複合体に よって小胞体膜の異常な凝集が引き起こされていること も明らかになった(6).これらのことから,リン酸化状態 の組み合わせにより,OSBPのステロール結合依存的ゴ 小胞体
VAP
OSBP
ゴルジ体
PHD SBD
FFAT
PI-4P コレステロール
リン酸化サイト1 リン酸化サイト2
PKDサイト
小胞体 VAP
ゴルジ体
PHD SBD
FFAT (A)
(B)
図1■OSBPの構造とセリン/スレオニンリン酸化サイト
(A) OSBPはゴルジ体のPI-4Pと結合するPHD,小胞体のVAPと 結合するFFATモチーフ,そしてリガンドであるステロールおよ びPI-4Pと結合するSBDからなる構造をもつ.本稿で触れた3つ のリン酸化サイトの位置を示す.(B) ステロールを結合した OSBPは,小胞体膜およびゴルジ体膜間に形成するMCSを経てゴ ルジ体へ移行すると考えられている.
エンドソーム
ゴルジ体
小胞体 細胞膜
OSBP 脂質ラフト
SMS1
Sac1
CERT PI4K
コレステロール グルコシルセラミド スフィンゴ糖脂質 ラクトシルセラミド
セラミド SM
PI-4P PI
図2■OSBPによるステロール依存的なSM生合成の促進 OSBPはコレステロール依存的にCERTによるセラミドのゴルジ 体輸送を促進する.小胞体からゴルジ体へ到達したセラミドは,
SMS1の活性でSMに変換され,グルコシルセラミド,ラクトシル セラミドを経て合成されるスフィンゴ糖脂質やコレステロールと ともにエンドソームによって細胞質膜へと輸送され,脂質ラフト を形成する.
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ルジ体移行に必要な小胞体・ゴルジ体MCSの形成が制 御されていると考えられる.
OSBPがステロール依存的に代謝を制御するのはSM だけではない.OSBPのゴルジ体局在化に伴って,定常 状態で主にゴルジ体に局在化するPI-4Pがポストトラン スゴルジ領域へと分布が変化する現象が見いだされ た(7).小胞体およびゴルジ体においてPI-4Pプールを制 御するPI-4Pホスファターゼ (Sac1) もオキシステロー ル刺激に応答してゴルジ体へ移行することから,PI-4P の分布変化にはOSBPとSac1が恊働的に作用している 可能性があるが,詳細な分子機構は未知である.PI-4P がゴルジ体局在に必要なPHDのみならず,SBDへステ ロール競合的に結合する第2のOSBPリガンドとして同 定されたこと,また 研究で,酵母のOSBPホモ ログがPI-4Pを結合しSac1へ提示することが示されたこ とを考え合わせると,OSBPとPI-4P は小胞体,ゴルジ 体,細胞質膜にわたる広範囲の脂質代謝・輸送において 相互に制御し合うエフェクター同士と言えよう(6, 8).
コレステロール,SM,およびPI-4Pの代謝は小胞体 およびゴルジ体を介してクロストークしており,OSBP はその交差点に位置する分子と捉えられる.この交差点 とは,OSBPがステロール依存的に形成する小胞体膜と ゴルジ体膜のMCSであると考えられる(3).そして,こ のプラットフォームを介してCERTやSac1といった
SM生合成・PI-4P代謝のキー分子の局在が制御されて いると予想される.今後,さらなる研究によってこの仮 説が立証されることが期待される.
1) A. Goto & N. D. Ridgway :“Golgi apparatus : structure, functions and Mechanisms,” Nova Publishers, 2011, pp.
43‒89.
2) J. P. Slotte & E. L. Bierman : , 250, 653 (1988).
3) N. D. Ridgway : , 51, 159 (2010).
4) R. J. Perry & N. D. Ridgway : , 17, 2604
(2006).
5) S. Banerji, M. Ngo, C. F. Lane, C. A. Robinson, S. Mi- nogue & N. D. Ridgway : , 21, 4141 (2010).
6) A. Goto, X. Liu, C. A. Robinson & N. D. Ridgway : , 23, 3624 (2012).
7) A. Goto, X. Liu & N. D. Ridgway :“2012 ASBMB, Fron- tiers in lipid biology,” p. 2354.
8) C. J. Stefan, A. G. Manford, D. Baird, J. Yamada-Hanff, Y.
Mao & S. D. Emr : , 144, 389 (2011).
(後藤麻子,Dalhousie University)
プロフィル
後藤 麻子(Asako GOTO)
<略歴>2007年東京大学大学院農学生命 科学研究科博士課程修了/同年東京医療 センター/2009年ダルハウジー大学(カ ナダ)/2013年国立長寿医療研究センター
<研究テーマと抱負>次世代の応用研究に 繋がる基礎研究に貢献したい<趣味>旅 行,美味しいものを食べること