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結合型糖アミノ酸の合成

前節で確立したヒドロキサム酸エステル 87b を用いた N-グリコシル化反応には、立体 選択性が乏しく、非天然型のα-グリコシドが主生成物になる、O-グリコシル化反応が進 行するといった欠点が存在し、必ずしも優れた N-結合型糖アミノ酸の合成法であるとは いえなかった。そこで新たに分子内 N-グリコシル化反応を用いた N-結合型糖アミノ酸の 合成法について考案し、反応系の確立を試みたので、以下に述べる。

3.3.1  反応系の設定

前節で確立した N-グリコシル化反応の最大の欠点は、O-グリコシドの生成が見られる ことであり、この点を改善できれば反応収率の向上も期待できる。O-グリコシル化の抑 制を考えた場合、最良の方法であると考えられたのが分子内グリコシル化反応の適用であ った。そこで、Figure 3-7 のように糖誘導体の 6 位に対してアスパラギン残基を導入した ような糖-アミノ酸複合体Aを設計した。

アスパラギン残基を中心にこの複合体を見れば、側鎖はやはりヒドロキサム酸エステ ルの形をとっており、エステル部分が従来のベンジル基ではなく、糖誘導体に置き換わっ ている。この糖-アミノ酸複合体 A を反応基質としてグリコシル化反応を行えば、これま

O R1 O R2O

R2O

NHFmoc O CO2t-Bu HN

X

O O

R1 OR2

OR2

NHFmoc O CO2t-Bu N

A

O O N

NHFmoc Ot-Bu O

OR2 R1 OR2 O

B

C Intramolecular

N-Glycosylation

Intramolecular O-Glycosylation

Figure 3-7. Strategy for IntramolecularN-Glycosylation

でと同様にアスパラギン側鎖の窒素原子と酸素原子からの求核攻撃がそれぞれ起こり、分 子内でグリコシル化が進行すると思われる。望みの反応である窒素原子からの分子内 N- グリコシル化反応が進行すれば、ピラノース環の反転を伴いながら N-グリコシド結合が 生成し、六員環構造を有する化合物 B が生成する一方で、従来起こっている副反応であ る酸素原子からの分子内 O-グリコシル化反応が進行すれば、八員環構造を有する化合物 C が生成する。両生成物を比較すると、より安定な六員環構造を与える N-グリコシル化 反応が優先的に進行すると考えられ、これによって O-グリコシル化反応が抑制される事 が期待される。また、分子内反応を行うことにより、立体選択性も完全に制御可能となり、

β-N-グリコシド結合のみが生成する。これは、N-結合型糖タンパク質の一般的な結合様式

である GlcNAcβ1Asn を構築する際に極めて効果的であるといえる。なお、分子内 N-グ

リコシル化反応によって生成する化合物 BN-結合型糖アミノ酸へと変換するためには、

N-O 結合の開裂が必須になるが、これは従来法と同様に SmI2を用いた一電子還元反応に よって達成できると考えられる(Figure 3-8)。

O O

R1 OR2

OR2

NHFmoc O CO2t-Bu N

B

O R1 OH R2O

R2O

O NHFmoc Ot-Bu H O

N One Electron Reduction

by SmI2

Glcβ1Asn Figure 3-8. Conversion from Cyclic Compound B to N-Linked Glycoamino Acid

3.3.2  化合物の設計と反応の拡張性

N-結合型糖アミノ酸 GlcNAcβ1Asn は N-結合型糖タンパク質の合成において良好な合

成ブロックとなる。ここでは、GlcNAcβ1Asn の合成を目指し、分子内 N-グリコシル化 反応を行う反応基質の設計を行う。大筋の分子設計は前項のFigure 3-7に示したとおりで あるが、糖-アミノ酸複合体の置換基についてここで述べる。この際特に注意しなければ ならないのが、各種置換基の立体的嵩高さである。これは、期待する分子内 N-グリコシ ル化反応が進行する際、ピラノース環の反転が起こるためであり、環の反転を妨げるであ

糖-アミノ酸複合体は、最終的にGlcNAcへと変換が可能でなければならないから、2位 の置換基はアセトアミドへと容易に変換可能な置換基を用いるべきである。多くの場合は グルコサミン誘導体から誘導し、2 位のアミノ基をフタロイル基や各種カルバメート系の 保護基で保護する方法が一般的である。しかしながらそれらの置換基の大きさを考慮した 場合、本反応系では必ずしも有効な選択肢とはいえない。そこで、アセトアミドへと変換 が可能であり、立体障害の小さな置換基としてアジド基を選定した。また、アノマー位に 導入する置換基は、保護基としてもグリコシル化反応の脱離基としても使える利便性の高 いチオメチル基を採用した。3 位と4位の水酸基は、グリコシルドナーとしての反応性を 向上させるために、エーテル型の保護基で保護することとし、一般的に汎用されるベンジ ル基を採用することとした。これらの考えに基づき設計された糖-アミノ酸複合体 95 を Figure 3-9に示す。

O N3 O BnO

BnO

NHFmoc O CO2t-Bu HN

O O

N3 OBn

OBn

NHFmoc O CO2t-Bu Intramolecular N

N-Glycosylation

O NR2 OH HO

O NHFmoc Ot-Bu H O

N One Electron Reduction

by SmI2

GlcNAcβ14GlcNAcβ1Asn Derivative 99

O O

NR2

OH NHFmoc

O CO2t-Bu N

SMe

O O BnO

OBn PhthN BnO

O O BnO

OBn PhthN BnO O

O

NR2

OH NHFmoc

O CO2t-Bu N

OH Deprotection

Glycosylation O

X BnO

OBn PhthN BnO

Figure 3-9. Synthetic Plan of N-Linked Glycoamino Acid by Using Intramolecular N-Glycosylation 95

96

97

98

この糖-アミノ酸複合体95を用いた分子内N-グリコシル化反応が、先のFigure 3-7に示 した合成計画にしたがって進行すれば、環化合物 96 が選択的に生成する事が期待される。

ここで、この生成した環化合物 96 のベンジル基を脱保護して得られるジオール 97 の各 水酸基の反応性に着目したい。3 位との水酸基は、3 位と同方向のアキシャル位に存在す る1位と5位の置換基との間で生じる大きな立体反発の影響を受けるために、反応性が大 きく低下することが予想される。一方、4 位水酸基は、3 位のものと比較すると立体的混 み合いは少ないばかりか、ピラノース環が 1C4配座を取っているために水酸基が環外部に 露出しており、反応性が向上している。このため、ジオール 97 をグリコシルアクセプタ ーとして用いてグリコシル化反応を行えば、4 位水酸基に対してのみ選択的な糖鎖伸長が 進行することが期待できる。これらを踏まえれば、N-型糖鎖の還元末端糖鎖側構造 GlcNAcβ14GlcNAcβ1Asn 99が一挙に合成可能となる(Figure 3-9)。

さらにこれを発展させ、前章で合成したフラグメント A 8 やフコシルドナー31 を用い ることを考えれば、本法の適用により 9 糖 54 の還元末端にアスパラギン残基を導入した

N-結合型糖アミノ酸102 が合成できる可能性もある(Figure 3-10)。すなわち、ジオール97

とフラグメントA 8の間でグリコシル化反応を行い、得られた7糖100をSmI2で還元し て化合物 101 へと導く。この還元により、還元末端のグルコサミン残基の 6 位水酸基は 無保護となるので、3 位水酸基と併せてこれら二つの水酸基に対してフコシルドナー31 を用いたグリコシル化反応を行えば、目的の N-結合型糖アミノ酸 102 を合成できる可能 性がある。

このように、前節で立案した N-グリコシル化反応の欠点を克服するために考案した分 子内 N-グリコシル化反応であるが、本法の確立に成功すれば N-結合型糖アミノ酸の効率 的合成法が確立されるばかりでなく、種々の N-結合型糖鎖の糖鎖伸長を効率化させる可 能性も秘めている。

O O O

OAc PhthN AcO

O OAc

OAc AcO

O

AcO O AcO

NPhth

O OAc

OAc O OAc AcO

O AcO AcO O

AcO

AcO OAc

O O

O

NR2 OH

OH

NHFmoc O CO2t-Bu N

O NR2

O NHFmoc Ot-Bu H O

N O

O O OAcOAc

OBn O

OAc BnO

AcO

O O

O O

OAc PhthN AcO

O OAc

OAc AcO

O

AcO O AcO

NPhth

O OAc

OAc O OAc AcO

O AcO AcO O

AcO

AcO OAc

O

O O

NR2

OH NHFmoc

O CO2t-Bu N

O

O OAc

OBn OAc

SMe MeOTf DTBMP

O O O

OAc PhthN AcO

O OAc

OAc AcO

O

AcO O AcO

NPhth

O OAc

OAc O OAc AcO

O AcO AcO O

AcO

AcO OAc

O

O NR2

O NHFmoc Ot-Bu H O

N O

HO OH SmI2

MeOH

Figure 3-10. Synthetic Plan of N-Linked Glycoamino Acid Containing Nonasaccharide 31

97

Fragment A (8) TMSOTf

100

101

102

3.3.3  反応基質の逆合成解析とその合成

糖-アミノ酸複合体95は、逆合成解析により糖ユニット103とアスパラギン酸ユニット 85b に分けられるが、両者は各種縮合剤を用いることで容易に縮合させることが可能であ ると考えられる(Figure 3-11)。また、糖ユニット 103 は、6 位がヒドロキシアミノ基とな っている点が特徴的であるが、このものは 6 位水酸基に対してフタロイル基を導入して 104 へと導いた後に、フタルイミドを除去することで合成できる。これらの糖誘導体は、

2-アジド-2-デオキシグルコース 107 より誘導されるが、このものは D-マンノース 108 を 出発原料として、SN2 反転を伴うアジド基の導入反応を経るという既知の方法により合成 可能である90)

O N3 O BnO

BnO

NHFmoc O CO2t-Bu HN

SMe

O N3 ONH2 BnO

BnO SMe

NHFmoc O CO2t-Bu HO

Fmoc-Asp-Ot-Bu 85b

O N3 BnO

BnO O

N O O

SMe

O N3 BnO

BnO OH

SMe O

N3 AcO

AcO OAc

SMe HO O

HO

HO OH

OH

N OH O

O Mitsunobu

D-Mannose 108

Figure 3-11. Retrosynthesis of Sugar-amino Acid Complex 95

103 104

105 106

107 95

以上の逆合成解析を元に、D-マンノース 108 から 5 段階で合成された 2-アジド-2-デオ キシグルコース 109 を出発原料として、分子内 N-グリコシル化反応の基質となる糖-アミ ノ酸複合体 95 の合成を試みた(Scheme 3-4)。活性化試薬として TMSOTf を用いて2-アジ ド-2-デオキシグルコース 109と TMSSMeとの間でグリコシル化反応を行い、アノマー位 のアセチル基をチオメチル基へと変換して、チオメチルグリコシド 107 を得た90c)。αβ両 異性体をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離した後、β体を用いて以下の反 応を続けた。107 のアセチル基を脱保護した後に、トリチル基をその立体的嵩高さを利用 して6位水酸基に位置選択的に導入91)して110とした後、遊離の水酸基をベンジル化して 111 へと導いた。続いて、酸処理によってトリチル基を脱保護して 105 とし、N-ヒドロキ シフタルイミド 106 との間で光延反応を行って 104 を得た。これをヒドラジン水和物で 処理して、6 位水酸基をヒドロキシアミノ基へと変換することにより、103 を得た。最後 にアスパラギン酸誘導体 85b との間で、TBTU を用いた縮合反応92)を行って、糖-アミン 酸複合体95の合成を達成した。