2.3 フラグメント A の合成
2.3.1 フラグメント A-1 の合成
フラグメント A-1 11 の合成にあたっては、β-マンノシド結合の立体選択的合成を第一 に行わなければならない。β-マンノシド結合は、1,2-cis 配置のグリコシド結合であり、
1,2-trans 配置のグリコシド結合のように、隣接基関与を用いて立体選択的に構築すること
は困難である。この問題を解決するために、これまでに様々な方法論が提唱されてきた。
例えば近年 Crich らは、低温条件下で安定に存在するα-マンノシルトリフレートを系内で 形成させた後、グリコシルアクセプターとのグリコシル化反応を行うことで SN2 型の置 換反応が進行して、β-マンノシド結合が得られると報告している(Figure 2-3)45)。
また、グリコシルアクセプターをマンノシルドナーの 1 位のβ面に一時的に固定させ、
続く活性化により分子内でグリコシルアクセプターを転移させて望みのβ-マンノシドを得 るという、分子内アグリコン転移反応と呼ばれる反応も著名である(Figure 2-4)16)。この反 応において鍵段階となる、両者を一時的に連結させてグリコシルアクセプターをβ面に固 定する方法としては、マンノシルドナーの2位を介した混合アセタールを合成する手法が よく知られている。Barresi と Hindsgaul はイソプロピリデンアセタール46)を、Kim と
BSP, TTBP Tf2O
β-Manoside α-Glycosyl Triflate
O O
BnO O O
SEt Ph OBn
O BnO
O O
OTf
Ph OBn AcO O
AcO AcO
OMe
HO O
BnO O O Ph OBn
O AcO
AcO
AcO OMe
Figure 2-3. β-Mannosylation Developed by Crichet. al.
O PO
Y O XR PO
PO
O PO
Y O X PO
PO O
PO OH PO
PO
β-Manoside R
HO O
O O O O
Mixed Acetal
Figure 2-4. Intramolecular Aglycon Delivery (IAD)
Stork はシリルアセタール47)をそれぞれ用いた例を過去に報告している。また近年では、
Fairbanks らがビニルエーテルやアリルエーテルを介した混合アセタールの合成法を確立
している48)。
著者は、共同研究者の伊藤らにより開発された p-メトキシベンジリデンアセタールを 経由する、分子内アグリコン転移反応49)を用いて立体選択的にβ-マンノシド結合を構築し た。本法では、既知のマンノシルドナー1349c)とグルコサミン誘導体1450)をDDQで処理し て混合アセタール 15 を合成し、グリコシルアクセプターをマンノシルドナーのβ面に固 定させている。しかる後に、マンノシルドナーを MeOTf で活性化し、グリコシルアクセ プターを分子内で転移させてβ面からのみの選択的なグリコシル化反応を実現し、2 糖 16 の立体選択的合成を達成した(Scheme 2-1)。
このように、本反応を用いることにより、効率よくβ-マンノシド結合を構築することが 可能であったが、本法をフラグメント A-1 11 の合成に採用することで得られる利点はこ れのみではない。反応前にマンノシルドナー13の2位水酸基を保護していたPMB基は、
反応後の後処理で脱保護されるため、得られた2糖16においては、マンノースの2 位水
O TBDPSO
O O
SMe OPMB
O TBDPSO
O OH O
O OBn O
OBn PhthN BnO HO O
BnO
NPhth OBn
OBn
O TBDPSO
O O O
O OBn OBn PhthN BnO OMe
O
SMe +
MeOTf DTBMP
DDQ MS 4A CH2Cl2
MS 4A (ClCH2)2
45 °C 63%
14
15
16 13
MS 4A CH2Cl2 -40 ℃ promoter O
TBDPSO O OH O
O OBn O
OBn PhthN
BnO O
TBDPSO O O
O OBn O
OBn PhthN BnO
O OAc
OAc AcO
O
entry 1 2 3 4 5 6 7 8
time (h) 27
3 1.5 1.5 1 1 2 15
promoter (vs acceptor) MeOTf (2.5 eq.), DTBMP (3.0 eq.)
NIS (2.0 eq.), TfOH (0.15 eq.) TMSOTf (0.2 eq.) TMSOTf (2.0 eq.) TMSOTf (3.0 eq.) TMSOTf (2.0 eq.) TMSOTf (3.0 eq.) BF3·OEt2 (2.0 eq.)
yield (%) 32 12 41 62 48 67 66 11 AcO O
AcO
OAc X
Table 2-1. Optimization for Xylosylation
16 19
17 : X = SMe (β) 18 : X = O CCl3
NH donor (eq.)
17 (1.5) 17 (1.5) 18 (2.0) 18 (2.0) 18 (2.0) 18 (3.0) 18 (3.0) 18 (2.0)
酸基のみが遊離することとなる。これにより、反応生成物に対して特別な官能基変換を施 すことなく、この水酸基に対して選択的な糖鎖伸張が可能となる。そこで、得られた2糖 16 とキシロース誘導体との間でグリコシル化反応を行って、フラグメントA の 3 糖部分 を構築することとした(Table 2-1)。2糖16とチオメチルグリコシド1751)との間でグリコシ ル化反応を行い、3 糖 19 の合成を試みたが、活性化試薬として MeOTf を用いた場合
(entry 1)、NIS/TfOHを用いた場合(entry 2)共にほとんど反応は進行せず低収率に終わって
しまった。そこで、グリコシルドナーをトリクロロアセトイミデート 1852)へと変更し、
反応条件を種々検討した(entry 3〜8)。TMSOTfを触媒量用いてグリコシル化反応53)を行っ たところ、反応は進行するものの完結することなく目的の 3 糖19の収率は41%にとどま
った(entry 3)。そこで、更なる反応の進行を期待してTMSOTfをグリコシルドナーと等量、
すなわちグリコシルアクセプターに対して2当量加えた結果、期待通りに反応が進行して
収率は62%にまで向上した(entry 4)。さらに、TMSOTfを3当量まで増やしたところ、強
力なLweis 酸性が災いしてか、逆に反応収率は 48%に低下してしまった(entry 5)。これら
の反応条件においては、反応は完全に完結することがなく、グリコシルアクセプターが残 存してしまったことが反応収率の向上を妨げる要因になっていると考え、グリコシルドナ
ーの当量をさらに増やして反応を試みることとした。entry 6のように、2当量のTMSOTf と3当量のグリコシルドナーを用いてグリコシル化反応を行ったところ、わずかながらで はあるが反応収率の向上がみられ、収率 67%で目的の3糖 19を得ることができた。また、
TMSOTfをグリコシルドナーと同様に3当量加えても、反応収率に顕著な相違を与えるこ
とはなかった(entry 7)。entry 8には、TMSOTfと同様にトリクロロアセトイミデートの活 性化試薬として汎用される BF3·OEt2を用いて行ったグリコシル化反応の結果を示すが、
その収率はわずか11%にとどまった。
続いて、得られた3糖19をフラグメントA-1 11へと導くべく、マンノースの3位水酸 基を保護しているTBDPS基の脱保護を試みた(Table 2-2)。一般的なTBDPS基の脱保護条
件であるTBAF/AcOH を用いて脱保護を試みた結果、望みのフラグメントA-1 11 が75%
の収率で得られたものの、アセチル基が転位したことによって生じる異性体の副生も同時 に確認された(entry 1)。そこで、この副反応を抑制するために、共同研究者の松尾らによ り開発された超高圧条件下における脱シリル反応を採用することとした54)。すなわち、反
応基質を10% HF·PyのDMF溶液に溶解させ、一万気圧(1 GPa)という超高圧条件下で脱保
護反応を行うという手法である。本反応を用いたところ、過去の報告と同様にアセチル基 の転位が全く見られず、望みのフラグメント A-1 11 のみを収率 88%で得ることができた
(entry 2)。また、entry 1の条件では脱保護の進行に70 ˚Cという高い反応温度と二日間と
いう長い反応時間を要したが、超高圧反応条件においては、反応は 12 時間で終了し、加 熱する必要もなかった。なお、entry 3 に示すように、同様の反応を常圧下で行っても全 く反応は進行しない。
O TBDPSO
O O
O OBn O
OBn PhthN BnO
O OAc
OAc AcO
O
O HO
O O
O OBn O
OBn PhthN BnO
O OAc
OAc AcO
O
yield (%) 75 88 reagent
TBAF - AcOH = 1 : 1 10% HF·Py entry
1 2
time 2 days
12 h
pressure atmosphere (70 °C)
1 GPa reagent
DMF
19 11
Table 2-2. Desilylation under High Pressure