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平成 30 年度 修士論文

首都大学東京大学院

システムデザイン研究科 博士前期課程 知能機械システム知能機械システム学域

学修番号 17889502

伊藤 慶

指導教員 藤江 裕道 教授

平成 31 年 2 月

関節軟骨の潤滑特性に及ぼすコラーゲン

線維配向の影響

(2)
(3)

目次

1. 緒言---1

1.1. 生体関節---2

1.2. 関節軟骨の構造---2

1.2.1. 関節軟骨の構成要素---2

1.2.2. 関節軟骨のコラーゲン線維構造---4

1.3. 関節軟骨の力学特性---6

1.4. 関節軟骨の潤滑特性---7

1.5. 関節軟骨の透水性---8

1.5.1. 透水率の測定手法---8

1.5.2. コラーゲン線維構造と透水性---9

1.6. 関節軟骨の力学・潤滑特性に関する解析学的検討---10

1.7. 研究目的---11

2. 実験方法---17

2.1. 試料---18

2.2. コラーゲン線維構造の観察---19

2.2.1. 走査型電子顕微鏡を用いたコラーゲン線維構造の観察---19

2.3. 透水性試験---21

2.3.1. 透水性試験機---21

2.3.2. 透水率の定義および算出方法---26

2.3.3. 透水性試験の手順---27

2.3.4. 試験機の信頼性試験---28

2.3.5. 試験機の測定径の依存性の校正---30

3. 関節軟骨のモデリングと解析手法---33

3.1. 線維強化多孔質弾性体モデル---34

3.2. 軟骨モデルの材料特性---37

3.2.1. Confined 圧縮試験による材料特性算出---37

3.2.2. 引張試験,引張解析による材料特性算出---39

3.3. 摩擦解析---42

3.4. 軟骨モデル表面における水分流出入制御が及ぼす影響---43

3.5. サブルーチンを使用した軟骨モデル表面における水分流出入制御---44

(4)

4. 関節軟骨平行断面の構造・透水性---49

4.1. 関節軟骨平行断面のコラーゲン線維構造の観察---50

4.2. 関節軟骨平行断面の透水性---52

4.2.1. 試験片作製---52

4.2.2. 試験条件---52

4.2.3. 試験結果---53

4.3. 考察---55

4.3.1. 関節軟骨平行断面の透水率---55

4.3.2. 関節軟骨最表層の透水率---56

5. 関節軟骨平行断面の線維配向が潤滑特性に及ぼす影響---59

5.1. 摩擦解析モデルの構築---60

5.2. 摩擦解析---61

5.2.1. 摩擦速度の影響---61

5.2.2. 接触面圧の影響---61

5.3. 解析結果---62

5.3.1. 摩擦速度の影響---62

5.3.2. 接触面圧の影響---64

5.4. 考察--- 66

5.4.1. 摩擦速度の影響---66

5.4.2. 接触面圧の影響---71

5.4.3. 線維配向の影響---77

5.4.4. 圧子通過領域の変形回復が摩擦特性に及ぼす影響---78

5.5. Limitation---79

6. 結言---81

6.1. 結言---83

(5)

1

第 1 章

緒言

(6)

2

1. 緒論

1.1 生体関節

人間の身体には関節と呼ばれる器官が多数存在し,それらの働きによって日常生活や運 動の中でのスムーズな動きが可能となっている.関節は骨と骨の結合部であり,関節包と呼 ばれる袋に包まれ,その内部は内張に存在する滑膜から分泌される関節液で満たされてい る.関節の摩擦・摺動部分である骨端部は水分やコラーゲン,プロテオグリカンなどの糖タ ンパク質から構成される関節軟骨で覆われている.Fig. 1-1に示した膝関節は人体中で最も 大きな関節であり,大腿骨の遠位および脛骨の近位端の蒼白色の部分が硝子軟骨と呼ばれ る軟骨である.関節軟骨は優れた潤滑特性,荷重支持能力を有しており,歩行等の運動時に は最大で体重の数倍もの負荷が繰り返し作用しながら摺動するにも関わらず,スムーズな 運動を生涯にわたって維持するという優れた耐久性も有している.特に潤滑特性に関して は大腿骨,脛骨間の形状適合性が悪いにも関わらず,摩擦係数 1/1000~1/100 オーダーの低 摩擦状態を,様々な荷重速度条件のもとで実現する1-4).これまでにも,関節軟骨の潤滑メ カニズムに関する研究は数多く行われてきたが,その優れた潤滑特性を大系的に説明する に至っていない.

1.2 関節軟骨

1.2.1 関節軟骨の構成要素

関節軟骨は約80%の水分と細胞外基質である約14%のコラーゲン線維,約6%のプロテオ グリカンなどの糖タンパク,軟骨細胞から構成される高含水材料である 5,6).また,血管や リンパ管,神経は存在しない.軟骨厚さは関節部位や個体の成熟度により異なるが,ヒト成

Fig. 1-1 膝関節及び関節軟骨の構成要素

大腿骨 関節軟骨

半月 脛骨

コラーゲン線維 ~14%

水分 ~80%

プロテオグリカン ~6%

(7)

3

人膝関節大腿骨骨端部を覆う軟骨は約3 mmの厚さを有している1)

軟骨の構成要素の一つであるコラーゲンは骨,腱,皮膚などの組織に豊富に含まれ,それ らの組織の力学的な強靭性を担っている.また,含まれる組織により構造が異なり,少なく とも27の型に分類される7).関節軟骨内のコラーゲンの構成は約95%がⅡ型コラーゲン,

5%がⅨ型,Ⅺ型コラーゲンである.Ⅱ型コラーゲンは他のコラーゲンと比較し,水分と

の相互作用を強く受け,糖質との結合を多く持ち,骨や皮膚に含まれるⅠ型,Ⅲ型コラーゲ ンや,滑膜などに含まれるⅣ型コラーゲンよりも強固である.これらのコラーゲンが架橋を 繰り返し束になることで原線維を形成し,その原線維がさらに束になることでコラーゲン 線維を形成している.

軟骨内におけるプロテオグリカンはコアタンパク質にヒアルロン酸,コンドロイチン硫 酸,ケラタン硫酸などのグリコサミノグリカン(ムコ多糖類)が枝のように結合し,プロテ オグリカン凝集体として存在している8-10).このグリコサミノグリカンには解離したカルボ キシル基(-COOH)やコンドロイチン硫酸,ケラタン硫酸等の硫酸基(-SO4)によりマイナ ス電荷が多く存在するため,プロテオグリカンは極めて高い保水性を有している.また,こ れらの電気的特性に起因した反発力により,プロテオグリカンは圧縮荷重を支持すると考 えられている10-12)

このような軟骨特有の組織構造と軟骨内外の水分の複雑な相互作用により,軟骨は粘弾 性特性を有し,優れた潤滑特性,荷重支持能力を発揮することができると考えられている.

Fig. 1-2 関節軟骨内部の組織構造

コラーゲン線維 プロテオグリカン

ヒアルロン酸

(8)

4

1.2.2 関節軟骨のコラーゲン線維構造

関節軟骨は表面に対し垂直な断面において,深さ依存性のある複雑な異方性,階層構造を 有することが知られており,コラーゲン線維の配向方向や軟骨細胞形態の違いにより表層,

中層,深層,石灰化層の4層に分けられる(Fig. 1-3)13).軟骨表層部のコラーゲン線維は軟 骨表面に対し平行方向に高密度で配向し,中層部では三次元的に縦横に配向する網目状配 向となり,更に下の層では軟骨表面に垂直方向に配向するドーム状の構造を有しているこ とが報告されている14)

一方,軟骨内のコラーゲン線維の配向性は,軟骨表面に対して平行な断面においても確認 され,その線維配向方向は軟骨表面に垂直に針を刺した際に一方向に裂けるSplit line の方 向とおおよそ一致する(Fig. 1-4)15-17).この平行断面におけるコラーゲン線維とSplit line 方向の関係性は,表面近傍の線維だけでなく軟骨深層の線維においても確認される17)

Fig. 1-3 軟骨垂直断面の階層構造

(i) (ii)

Fig. 1-4 (i)大腿骨軟骨のSplit line15),(ii)Split lineと軟骨平行断面のコラーゲン線維配向17)

表層 中層 深層 石灰化層

下骨

軟骨表面

軟骨細胞 コラーゲン線維

(9)

5

上述した軟骨の垂直/平行断面の複雑な線維構造は力学特性に影響を及ぼすことが考えられ,

これまでに様々な検討が行われてきている.コラーゲン線維は引張荷重に抵抗するとされ ており 18),軟骨垂直断面深層のコラーゲン線維は圧縮荷重に抵抗しないと考えられるが,

この垂直配向するコラーゲン線維が動的な生理学的力学条件において軟骨の高剛性化に寄 与することが報告されている19).平行断面の線維配向を考慮した検討においては,Split line に対し平行方向,45 度方向,直交方向の異なる角度の軟骨試験片を用いて引張試験を行っ た結果,平行方向の引張強度が他の 2 方向の引張強度と比べて高くなることが報告されて いる(Fig. 1-5)20).上述した軟骨内のコラーゲン線維配向により,摩擦中の軟骨の変形挙動 は三軸的であることが予想される.また,軟骨の潤滑においては接触領域の移動を伴う滑り が低摩擦の維持に有効であることが実験的に示されている 21).これらのことからも,コラ ーゲン線維配向は潤滑特性へも多大な影響を及ぼすと考えられる.

Fig. 1-5 Split lineに対して異なる角度で引張試験を行った際の応力-ひずみ線図20)

(10)

6 1.3 関節軟骨の力学特性

関節軟骨は圧縮を伴う荷重条件のもとで優れた潤滑特性を常に発揮することから,潤滑 を検討する上で圧縮特性を理解することは非常に重要であり,これまでに様々な検討が行 われている13, 22-25)

軟骨に対し圧縮試験を行うと,時間に依存しない弾性的挙動と時間に依存する粘性的挙 動が重なり,粘弾性挙動が見られる.この粘弾性挙動の解析のためにクリープ試験や,応力 緩和試験が行われている(Fig. 1-6)13, 22).クリープ試験では,試験片に対し一定荷重を付与 することでひずみの時間変化を測定する.この試験では,初期に大きな変形が生じた後,変 形速度が徐々に小さくなり,最終的に変形が一定になる.応力緩和試験では,試験片に対し 一定変位を付与することで応力の時間変化を測定する.この試験では,初期に大きな応力が 生じた後,徐々に減少し,最終的に応力が一定になる.Mow らにより提唱された,軟骨を コラーゲン線維やプロテオグリカンなどの固相と,内部を流動する液相からなる二相性材 料であると捉える二相性理論 13)に基づくと,軟骨内の液相が圧縮を受けて移動することに より,軟骨の上記のような粘性挙動が現れると考えられる.

軟骨面全体を圧縮する試験方法には,圧縮中の軟骨側方への変形を許容した Unconfined 圧縮試験と軟骨側方への変形を拘束したConfined圧縮試験の 2種類がある23).Unconfined 圧縮試験では,非透水性の圧子を用いることで,軟骨の主要構成物質であるコラーゲン線維,

プロテオグリカン,水分による影響を全て含む軟骨のヤング率を求めることが可能である.

Confined 圧縮試験では軟骨側方への水分流出を抑制し,圧子には剛性の高い多孔質フィル

タを用いることで,試料上面からの水分流出を許容している.この試験方法においては軟骨 側方への変形が拘束されており,コラーゲン線維は主として引張荷重に抵抗すると考えら

(i) (ii)

Fig. 1-6 (i)軟骨のクリープ試験22),(ii)軟骨の応力緩和試験23)

(11)

7

れていることから8),コラーゲン線維を除く軟骨基質の力学特性が結果に影響を及ぼす.さ らに,この試験の平衡時においては軟骨内の水分が圧縮特性に影響を及ぼさない状態まで 流出しつくすという仮定のもと,水分の影響を除いた軟骨のヤング率を求めることが可能 である.SakaiらやChenらはConfined圧縮試験を行ってプロテオグリカンのヤング率を求 め,ヤング率は深層に近づくほど増加することを報告している24, 25)

1.4 関節軟骨の潤滑特性

生体関節は摩擦係数が 0.005~0.02 程度と優れた潤滑特性を有している

26.その潤滑メカニズムに関しては,

1973年にDowsonらにより提唱され

たバイオトライボロジー26)という学 問領域において,現在に至るまで数 多くの潤滑様式が提唱されてきた.

代表的な潤滑様式には流体潤滑,

境界潤滑,混合潤滑の3様式が挙げ られる.流体潤滑は,軟骨間に挟ま れた流体膜が摩擦面に加わる荷重を 支えることにより,軟骨同士が接触 しない状態を保つことで低摩擦を実 現する潤滑様式である(Fig. 1-7)27)

流体のせん断抵抗は極めて小さく,ある程度の粘度を有する流体であれば,2固体間を完全 に分離可能であり摩擦力は低下する.しかし,静止状態のように荷重が長時間かかる場合,

軟骨間の流体膜が潰され流出し,潤滑機能が低下する 19).境界潤滑は軟骨同士が接触する 際,摩擦面における脂質やタンパク質等の吸着膜が荷重を支え潤滑を行う様式である28, 29) しかし,関節液による境界潤滑作用については様々な研究にて支持されているが,過酷な接 触条件下では潤滑作用を担う吸着膜が破断し,軟骨表面同士の直接接触が生じる恐れがあ る.この場合,摩擦係数が上昇することが考えられるが,摩擦係数の増大は静止状態から起 動する瞬間に生じることはあっても,起動後には低摩擦状態に移行する30).このように,流 体潤滑,境界潤滑のみで生体関節の優れた潤滑メカニズムを説明するのは困難である.混合 潤滑は,流体潤滑と境界潤滑が混在している潤滑様式である.混合潤滑においては,軟骨の 大部分は流体潤滑状態を保つが,流体による荷重支持が困難な部分では境界潤滑状態にな る.荷重が長時間かかるような場合や,繰り返し荷重がかかる場合において,軟骨間の流体 膜が潰され,境界潤滑領域が増加するが,実際の生体関節においてはそのような場合でも起 動摩擦時以外は,低摩擦状態が維持される.このことより,上記の3潤滑様式だけでは軟骨 の潤滑特性を説明しつくすことは困難であると考えられる.

Fig. 1-7 潤滑の3様式27)

(12)

8

Mow らは関節軟骨の物性を記述するため,軟骨がコラーゲン線維やプロテオグリカンな どの固相と,内部を流動する液相からなる二相性材料であると捉え,二相性理論 13)を提唱 した(Fig. 1-8).そして,この理論を基に固相の弾性力と液相の流体圧が外荷重に抗い,せ ん断抵抗の小さい液相による荷重支持の割合が大きくなることで優れた潤滑特性を維持す るという二相性潤滑理論(Biphasic lubrication theory)31-33)が提唱された.また,Sasadaらは 親水性の高いプロテオグリカン凝集体が軟骨表面より突出することで高粘度の層である水 和層を形成し,摩擦面における流体の粘度を上昇させることで摩擦係数を低下させる表面 ゲル水和潤滑理論を提案している 34).このように,関節軟骨の潤滑メカニズムは一つの潤 滑様式で説明することは困難であり,様々な潤滑様式が複雑に作用し合うことで実現され ていると考えられる.

1.5 関節軟骨の透水性

1.5.1 透水率の測定手法

関節軟骨の潤滑様式の一つとして提唱されている二相性潤滑理論に着目した検討におい ては,軟骨内部の流体挙動の把握が重要である.軟骨の内部流体挙動を支配するのは,軟骨 内の水分の透過しやすさの指標である透水性であり,これまでに数多くの研究で透水率の 測定が行われてきた13, 35-44).軟骨の透水率の測定手法としては,大きく分けて間接法と,直 接法の二種類が存在する.

間接法では力学試験の結果から計算式や,解析モデルを用いたフィッティングで透水率 を算出する13, 35-38).Mowらは軟骨試料の側方変形を拘束した状態での応力緩和試験の応力

-ひずみ関係と,軟骨を二相性材料と仮定した解析モデルを用いた圧縮解析の応力-ひず み関係をフィッティングさせることで間接的に透水率を算出している13.しかし,このよう

Fig. 1-8 二相性理論の概要図

荷重

軟骨

軟骨

:境界潤滑領域が担う荷重

:流体潤滑領域が担う荷重

0)

軟骨接触面が担う荷重=

:固相が担う荷重

:液相が担う荷重

(13)

9

な間接法で算出した透水率は,試験条件やフィッティングに使用する解析モデルの構築手 法に影響を受け, それらの条件の微小な変化により,10-16~10-14のオーダーで値が変化し てしまうことが問題である.

一方,直接法では軟骨試料を透過する水分の流速と,透過時の圧力勾配から実測する手法 が広く用いられる39-45)Mansourらは,軟骨試料の上下面を流路のあるホルダーで挟み込ん で固定し,試料に水分を透過させ,透過した水分量と試料上下の圧力差,測定時間から直接 的に透水率を計測している(Fig. 1-9(a)).また,本研究室の中村らが開発した透水性試験機 においては,試験片を生検トレパンで打ち抜きそのまま流路として用いることで,試料側方 からの水分流出を抑制した条件で,透水率を算出している(Fig. 1-9(b))42).これらの直接法 を用いて算出した軟骨の透水率のオーダーは多くの検討において 10-15程度と安定した値と なっている 39-45).間接法と比較して直接法の方が正確な透水率の算出が可能であると考え られる.

1.5.2 コラーゲン線維構造と透水性

関節軟骨の透水性には1.2.2節で述べたような軟骨内のコラーゲン線維配向が影響を及ぼ すことが報告されている.中村らは,組織内のコラーゲン線維配向の異方性がより顕著であ る半月板を用いて透水性試験を行った結果,線維配向方向の透水率が低くなることを報告 している 42).また橋本らは,成熟度の異なる関節軟骨に対して垂直方向の透水率を計測し た結果,成熟軟骨の透水率は未成熟軟骨と比較して有位に低くなることを報告している45) 関節軟骨は個体成熟に伴いコラーゲン含有量が増加することや 46),軟骨表面に対して垂直 に配向するコラーゲン線維が増加することが報告されており 46, 47),これにより成熟軟骨の 透水率が低下したことが示唆されている.このように組織内のコラーゲン線維構造と透水 性には関連があることが示されており,したがって関節軟骨平行断面の透水率は Split line の方向に対して平行/垂直方向で異なることが考えられる.しかし,この平行断面のコラー ゲン線維配向を考慮した透水性試験は行われておらず,これを調査することは軟骨の潤滑 メカニズムの解明に有益であると考えられる.

Fig. 1-9 (i)Mansour40)および(ii)中村ら42)の直接法を用いた透水性試験機

(ii) (i)

(14)

10 1.6 関節軟骨の力学・潤滑特性に関する解析学的検討

Mow らは二相性理論により,関節軟骨の非線形的な圧縮特性を説明しているが,この理 論には固相-液相間の相互関係や透水率のひずみ依存性が考慮されていない.そのため,軟 骨のコラーゲン線維,軟骨基質,含水成分の3要素の相互作用を考慮した検討が行えないと いう問題点があった.

この問題の解決には,軟骨の弾性解析と内部流体の流体解析を連成させた解析手法が有 効であり,近年ではそれらの解析が可能な有限要素解析ソフトウェア ABAQUS(Dassault

Systemes)を利用した軟骨の力学特性の解析が行われている.本研究室においてもLi48)

Sakai 24)のモデルを参考に,コラーゲン線維以外の軟骨基質を多孔質弾性体要素で表

し,これをバネ要素で表したコラーゲン線維で強化した線維強化多孔質弾性体要素(Fig. 1-

10)を用い,軟骨基質内を内部流体が抵抗を受けながら透過する構造モデルをABAQUS

で構築し,解析を行っている.

上述した軟骨の 3 要素の物性値は力学試験データと解析データを比較し,フィッティン グにより推定可能であり,物性値を変化させることで軟骨の圧縮挙動の予測も可能である.

近年では物性値の推定だけでなく,力学試験等で実証が困難な事象についての解析も行わ

れている Graindorge らは軟骨表面に基質部分と異なる物性を有する厚さ約 5μm の非晶層

(BSAL:Biphasic Surface Amorphous Layer),が有ると仮定して圧縮解析を行い,BSALの存 在により軟骨内部流体による荷重支持能を向上させることを報告している 49).また,

Pawaskar らは球状圧子での軟骨の圧縮解析において,内部流体の間隙圧を考慮する際,軟

骨モデル表面の水分流出入を許容し,圧子接触面の水分流出入を制限することで,軟骨内部 の流体が圧縮挙動に大きく影響を及ぼし,解析精度が向上することを示している50)

Fig. 1-10 線維強化多孔質弾性体モデル38)

(15)

11

ABAQUS は上記のような圧縮解析だけでなく,摩擦解析にも用いられ,多くの重要な

結果が示されている.Sakaiらは多孔質弾性体モデルを用いた有限要素解析により弾性率の 深さ依存性,透水率の圧縮依存性,コラーゲンを模したバネ要素の有無と潤滑特性の関連性 について調べた.弾性率に深さ依存性,透水率に圧縮依存性を付与しバネ要素により線維強 化したモデルは,それらを付与しない等方性モデルよりも,圧縮時,摩擦時において流体荷 重分担比が大きく増加することを報告している24)また,Fujieらは,軟骨表面近傍の表面に 対し平行方向に密に配向するコラーゲン線維と透水率に着目し,線維強化多孔質弾性体モ デルを用いて有限要素解析を行った.軟骨表面近傍のコラーゲン線維の影響で,平行方向の 透水率が垂直方向と比較し極めて低くなると考え,軟骨モデルの表面近傍に側方向透水率 1/10 に低下させた透水率低下モデルを作製し,摩擦解析を行った.その結果,透水率を 変化させていないモデルと比べ,透水率低下モデルにおいて起動摩擦係数と動摩擦係数が 低下することを報告している51)

以上のように軟骨の深さ依存性のある物性や,表層近傍の透水率は潤滑特性に大きな影 響を及ぼすことが報告されている.しかし,1.2.2 節で述べたような関節軟骨平行断面のコ ラーゲン線維配向を考慮した検討は十分に行われておらず,解析学的検討を用いたより詳 細な調査が必要である.

1.7 研究目的

本研究では関節軟骨の二相性潤滑理論における軟骨平行断面のコラーゲン線維配向の役 割に着目し,軟骨表面に対して平行方向の断面の透水性試験,線維構造観察を行う.加え て,線維配向を考慮した物性値を付与した,固液二相性を有する線維強化多孔質弾性体モ デルを用いた有限要素解析を行い,関節軟骨平行断面のコラーゲン線維配向が潤滑特性に 及ぼす影響を検討する.

(16)

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(20)

16

(21)

17

第 2 章

実験方法

(22)

18

2.1 試料

本研究では月齢 60 ヶ月以上の成熟個体のヒツジ(サフォーク種およびサフォーク種×ポ ールドーセット種の雑種)の大腿骨遠位荷重部内側顆の軟骨を試料として用いた.大腿骨内 側顆よりステンレス製で中空の円形刃を用いて軟骨を直径5.0 mmの円柱状に下骨ごと切り 出したものを基本試料として用いた.

関節軟骨平行断面のコラーゲン線維配向は,軟骨表面に垂直に針を指した際に一方向に

裂けるSplit lineの方向とおおよそ一致すると報告されている1-3).そこで,本研究で使用す

る成熟ヒツジ軟骨を用いて同様の検討を行い,Split lineの方向の確認を行った.

その結果,Fig. 2-2に示すように膝関節荷重部におけるSplit lineの方向は,膝関節屈曲伸 展時の摺動方向に対して垂直方向に配向している様子が確認された.本研究では,このSplit lineの方向が分かるように切り出しを行うことで,関節軟骨平行断面のコラーゲン線維配向 を考慮した検討を行った.

Fig. 2-1 関節軟骨基本試料の作製

Fig. 2-2 関節軟骨表面のSplit line配向

摺 動 方 向

大腿骨

脛骨

ϕ5.0 mm

(23)

19 2.2 コラーゲン線維構造の観察

関節軟骨平行断面のコラーゲン線維配向は,Split lineの方向とおおよそ一致すること1-3) から,Split lineに対して平行方向と垂直方向の断面では,線維構造が異なると考えられる.

しかし,Split lineの方向を考慮した軟骨断面の線維構造の検討は十分に行われていない.そ

こで本研究では走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope,SEM)を用いてSplit line の方向を考慮し,軟骨断面構造の観察を行った.

2.2.1 走査型顕微鏡を用いたコラーゲン線維構造の観察

生体組織を観察する際に用いられる固定,脱水,凍結乾燥の3つの過程を経て試料を作製 し,SEM (VE-8800,KEYENCE CORPORATION,Fig. 2-4)を用いて軟骨断面の観察を行っ た.以下に各処理方法4)を示す.

Fig. 2-3 Split lineの方向とコラーゲン線維配向方向の関係3

Fig. 2-4 SEM (VE-8800, KEYENCE CORPORATION)

(24)

20

(1) 固定方法

基本試料から軟骨のみを下骨から薄切し,Split line の方向に対して平行/垂直方向から観 察可能な断面を作製し,観察試料とした(Fig. 2-5).超純水100 mLに対し,リン酸水素二 ナトリウム(7558-79-4, 和光純薬工業(株))を2.300 g,リン酸二水素ナトリウム(7558-80-

7,和光純薬工業(株))を0.456 g添加しスターラーで撹拌した.その後リン酸水素二ナト

リウム,リン酸二水素ナトリウムを用いて, pH 7.4に調整し,0.1 Mリン酸バッファーに 調整した.使用期限を 6 ヶ月とし,4˚C で保存した.さらに 20%グルタルアルデヒド溶液

(072-02262, 和光純薬工業(株))4 ml0.1 Mリン酸バッファー20 mL,超純水16 mL

1:5:4の割合で調製し,グルタール固定液として使用した.使用期限は1週間とし,4˚Cで保

存した.

12 ウェルプレートで,室温下で試料を乾燥させないよう注意しながらリン酸緩衝生理食 塩水(PBS (-),Phosphate Buffered Saline,Thermo Fisher Scientific Corporation)で2回洗浄 した.洗浄後,12ウェルプレートを氷上に乗せ3回目のPBS (-) 洗浄をし,試料が浸る までグルタール固定液を添加し,4˚C24時間冷蔵し固定した.固定後,グルタール固定 液をマイクロピペットで除去し,PBS (-) 溶液で3回洗浄しPBS (-) 溶液に浸した状 態で4˚Cで冷蔵保存した.

(2) 脱水方法

固定処理から1週間以内に99.5%エタノール(050-06661,056-06663,和光純薬工業 (株) を用いて脱水処理を行った.脱水処理前に99.25%エタノールから 50, 70, 90, 95%エタノー ルを作製した.室温下で試料の乾燥に注意しながら50, 70, 90, 95%のエタノールに順次 60 分ずつ試料を浸漬した.凍結乾燥直前に99.5%エタノールへの浸漬を30分×3回行った.

(3) 凍結乾燥方法

事前に凍結乾燥装置(VFD-21S,(株)真空デバイス)(Fig. 2-5)のチャンバーを-20˚C 冷却した.室温下でt-ブチルアルコール(75-65-0,和光純薬工業(株))を用い,試料の乾

Fig. 2-5 観察試料の作製

成熟ヒツジ膝関節 大腿骨

観察方向

:平行

:垂直 ϕ5.0 mm

Split lineの配向方向

軟骨のみ 薄切

(25)

21

燥と凍結に注意しながら浸漬を30分×2回繰り返した.その後試料を凍結乾燥装置専用の ホルダに移し,試料が浸るまでt-ブチルアルコールを添加し,15分間冷凍庫で静置し,試料 中のエタノールをt-ブチルアルコールで置換した.置換後,ホルダを凍結乾燥装置内に設置 し,一晩真空引きすることでt-ブチルアルコールを昇華させ,試料を乾燥させた.凍結乾燥 後,電子顕微鏡資料作成用装置(SC-701AT,サンユー電子(株))を用い,膜圧10 nmの金

(Au)コーティングを施した.

2.3 透水性試験

2.3.1 透水性試験機

本研究では,橋本らが開発した透水性試験機 5,6)を用い,上部ホルダ及び下部ホルダを新 たに作製し,試験を行った.改良した透水性試験機およびその構成部品をFig. 2-7~16に示 す.薄切試料の打ち抜きには内径0.50 mmの生検トレパン(BP-A05F,Kai Industries Co., Ltd.)

を用いた.試料を打ち抜いた生検トレパンを固定する流路を持つ上部,下部のホルダはそれ ぞれアルミ材,ポリアセタール樹脂を用いて作製した.上部ホルダには流体圧を加えるため のガラスシリンジ(容量500 μl,1750TL,Hamilton Company)と流路内圧力を測定するため の圧力計(PGS50KA,(株)共和電業),外径0.46 mmの針ノズル(SNA-26G-B,武蔵エン ジニアリング(株))を接合するための加工を施した.ガラスシリンジと上部ホルダの接合 部は水漏れを防止するため,継手(PC6-M6,(株)日本ピスコ)とポリウレタンチューブを 介して固定した.また,生検トレパンと針ノズルとの接合部は,ゴム片を介在させることで 止水した.下部ホルダには生検トレパンの内径と等しい径で流路を削孔し,流路内での軟骨 試験片の移動を拘束するため,流路と同径のPVA(Poly Vinyl Alcohol)を原料とする多孔質 材料ベルイーター(D(A),富士ケミカル(株))を固定した.また,下部ホルダの生検ト

(i) (ii)

Fig.2-6 (i)凍結乾燥装置(VFD-21S,(株)真空デバイス)(ii)ホルダ

(26)

22

レパンとの接合部は,生検トレパン刃部が密着するようにテーパ状の加工を施した.さらに 下部ホルダに外径4.0 mm,内径2.4±0.2 mmのガラス管(標準ガラス管,(株)高尾製作所)

を継手(PL4-M6M,(株)日本ピスコ)を介して固定した.圧力計,継手と各ホルダの固定 にはネジ機構を採用し,接続部にはシールテープ(フッ素シールテープ(PTFE),アズワン

(株))を巻くことで水漏れを抑制した.

マイクロシリンジポンプ(KDS-101,KD Scientific Inc.)を用いて,流体圧を一定に発生さ せ,圧力変化を圧力計で検出し,センサインターフェース(PCD-300A,(株)共和電業)を 介してPCに出力した.試験片を透過した流量は,ガラス管内の水頭上昇値をデジタルマイ クロスコープ(VHX-1000,KEYENCE CORPORATION)により測定した.

Fig. 2-7 透水性試験機の構成

Z軸 ステージ

3+6+

PC

モニタ マイクロスコープ

マイクロシリンジ ポンプ

シリンジ 継手

継手 圧力計

軟骨試料 生検トレパン

(内径0.5 mm)

針ノズル

(外径0.46 mm)

多孔質材料

上部ホルダ

下部ホルダ ジャッキ

センサーインターフェイス ゴム片

ガラス管

(27)

23 .

メーカー Kai Industries Co., Ltd.

型式 BP-A05F

刃部内径 0.50 mm

メーカー 武蔵エンジニアリング(株)

型式 SNA-26G-B

ノズル外径 0.46 mm

メーカー KD Scientific Inc.

型式 KDS 101

最低流速 0.2 ml/h (10 μl Syringe)

最高流速 506 ml/h (50 ml Syringe)

直進力 88.8 N/min

質量 2 kg

100 mm

Fig. 2-9 針ノズル

Fig. 2-10 シリンジポンプ Fig. 2-8 生検トレパン

Table 2-1 生検トレパンの概要

Table 2-2 針ノズルの概要

Table 2-3 マイクロシリンジポンプの仕様

(28)

24

メーカー Hamilton Company

型式 1750TL

容量 500 μl

メーカー (株)共和電業

型式 PGS-50KA

定格容量 5 MPa 許容温度範囲 -20 ~ 70℃

質量 120 g

メーカー (株)日本ピスコ

型式 PL4-M6M

許容温度範囲 0 ~ 60℃

最高使用圧力 1 MPa Fig. 2-11 ガラスシリンジ

Fig. 2-12 圧力変換器

Fig. 2-13 継手

Table 2-4 ガラスシリンジの概要

Table 2-5 圧力変換器の仕様

Table 2-6 継手の仕様

(29)

25

メーカー (株)高尾製作所 型式 標準管

外径 4 ± 0.2 mm

内径 2.4 ± 0.2 mm

長さ 10 mm

メーカー シグマ光機(株)

型式 TSD-403

テーブルサイズ 40 × 40 mm Z軸移動量 ± 3 mm 最小読取

耐荷重

0.01 mm 88.3 N

メーカー KEYENCE CORPORATION

型式 VHX-1000

倍率 50〜500

Fig. 2-16 マイクロスコープ Fig. 2-14 ガラス管

10 mm

Fig. 2-15 Z軸ステージ

Table 2-7 ガラス管の仕様

Table 2-8 Z軸ステージの仕様

Table 2-9 マイクロスコープの概要

(30)

26

2.3.2 透水率の定義および算出方法

透水性は,物質が水分を透過する性質である.多孔質物質中の流体の通りやすさを表すパ ラメータを透水率(Permeability)といい,その値が大きいほど水分を透過する.透水率k ダルシーの法則7)を用いて記述することができ,(1)式のように定義される7)

V=∆Pk 1

(1)式のVは水分が多孔質材料を透過したときの流速を示し,∆Pは水分が任意の距離h(材 料の厚さ)を透過したときに生じる圧力差 P1 -P2 を距離h で除した圧力勾配を示す.硬質 かつ均質である多孔質材料の透水率は,圧力差,試験片の厚さ,透水断面積に依存しない.

本研究で対象とする軟骨は,コラーゲン線維やプロテオグリカン等の細胞外基質からなる 固相と,間隙を満たす間質水の液相で構成される多孔質材料と考えられる.しかし,軟組織 である軟骨の透水率は圧力差に依存するため,実験により求められる透水率は,材料固有の 値ではない.

軟骨の透水率kは,(1)式を用いて(6)式のように算出される.流路外への水分流出が 無いため,軟骨を透過した水分量Q1はガラス管内の水分増加量Q2と等しいと仮定した.

Q1 =Q2 2

このことから,水分が軟骨を透過した時の流速V1と断面積A1との積は,ガラス管内の流速𝐴2 と断面積A2との積と同じであり,(3)式のようになる.

V1A1 =V2A2 (3)

ガラス管内を上昇した水分の流速V2は,水頭上昇値Δlを測定時間Δtで除した値であり,これ らを(3)式に代入し,V1についてまとめると(4)式のようになる.

V1 = ∆l

∆t A2

A1 4

また,圧力勾配ΔPは(5)式のように表すことができる.

∆P= P1 -P2

h0(1+ε) (5)

(31)

27

h0は試験片の初期厚さ, は試験片に与えたひずみを表す.(1)式に(4)式,(5)式を代 入した(6)式から透水率kを算出した.

k= A2

A1

h0(1+ε) P1 -P2

∆l

∆t 6

2.3.3 透水性試験の手順

以下に透水性試験手順を示す5)

透水性試験機の多孔質フィルタ内の気泡を取り除くため,静水内で十分にそそぎ,浸 水させ,下部ホルダ内にフィルタを設置した.その後,シリコンチューブを用いてガ ラス管と実験用シリンジを接合し,生理食塩水で充填した.上部ホルダは実験用シリ ンジを用いて充填した.

流路に気泡が残存することを防ぐため,試料を打ち抜き,管内に試料を保持した生検 トレパンを生理食塩水で十分に充填し,気泡の有無に留意して試験機に固定した.

試験機固定後,平衡状態を保ち,試験機内部の圧力が70 kPaとなるようにシリンジ ポンプを用いて流路内を加圧した.

圧力が70 kPaに到達した後,シリンジポンプの流量を圧力が70 ± 1.5 kPaとなるよう

に調節し1,800秒の間維持した.

A2 A1

∆l

h

P2

軟骨試料

P1

Fig. 2-17 透水率の算出

Fig. 1-3  軟骨垂直断面の階層構造
Fig. 1-5 Split line に対して異なる角度で引張試験を行った際の応力-ひずみ線図 20)
Fig. 1-9 (i)Mansour ら 40) および(ii)中村ら 42) の直接法を用いた透水性試験機
Fig. 1-10  線維強化多孔質弾性体モデル 38)
+7

参照

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