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首都大学東京大学院

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Academic year: 2021

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氏 名 吉田 舞

所 属 人文科学研究科 社会行動学専攻 学 位 の 種 類 博士( 社会学 )

学 位 記 番 号 人博 第 76 号 学位授与の日付 平成 27 年9月 30 日 課程・論文の別 学位規則第4条第1項該当

学 位 論 文 題 名 先住民における労働変容と相対的底辺化

―フィリピン・アエタを事例として 論 文 審 査 委 員 主査 丹野 清人

委員 玉野 和志 委員 不破 麻紀子

【論文の内容の要旨】

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首都大学東京大学院 人文科学研究科 社会行動学専攻 社会学教室 氏名:吉田舞 学籍番号:11958101

論文題名:先住民における労働変容と相対的底辺化―フィリピン・アエタを事例として

I. 論文の概要

本論文の目的は、フィリピンの市場社会の構造を、先住民アエタ(Aeta、以下、アエ タ)の事例を介して分析することである。アエタは、1991年のピナトゥボ火山噴火を機に、

急速に市場社会に参加することになった。しかし、彼/彼女らは市場社会において、「差異を 持つ人びと」として、平地民(多数派のフィリピン人)の労働者とは異なる位置に置かれ ている。また、平地民の階層や所得の二極分化が進むなか、アエタ内でも格差が生じはじ めている。ただし、市場社会へ積極的に参加し、現金収入を得るようになったアエタであ っても、平地の労働市場では〈差異化〉され、底辺の位置にとどまっている。

本論文の主題にある、相対的底辺化の「相対的」とは、平地社会のなかで「アエタ」と いう先住民の集団が相対的に底辺化していることを指す。また「底辺化」とは、先住民が、

平地の労働階層おいて、低賃金で不安定な下層労働や、職業威信体系のなかで①周辺的な 職種に就くこと、その結果、②生活が窮乏化することの2つの意味を持つ。

本論文が市場社会の分析のために、アエタを研究対象とする理由は、三つある。一つ、

アエタが、ピナトゥボ火山の噴火後、およそ10年間という短期間で市場経済に積極的に参 加するようになったことである。二つ、アエタが、狩猟・採集や焼畑などの山仕事、米軍 基地内でのインフォーマルな雑務を基本とする混合経済から、市場経済という異質な経済 システムへ移行したことである。三つ、アエタが、平地の労働市場のなかで、声の小さい 存在であるという点である。ここには、平地民はもとより、他の国内の先住民やエスニッ ク・マイノリティ集団とは異なる、アエタ特有の状況と問題がある。

本論文では、市場社会への参加にともない〈共同化〉と〈個人化〉、参加(国民)と非 参加(棄民)の狭間で翻弄されているアエタの姿を考察した。市場社会は、アエタの伝統 的な価値観や身体を「無能化」し、彼/彼女らの内的世界をも「合理化」させた。市場社会 のなかで、アエタは「持たざるもの」となった。そこでアエタは、市場的価値の受容と、

経済的性向の身体化を強要された。そして、アエタ自身も〈差異〉を克服するため、市場 社会が求めているそれらに適応しようとした。しかし、アエタが〈差異〉をなくそうとす るほど、その生活は圧迫されていった。本論文では、このような、市場社会における先住 民の相対的底辺化の要因およびそのプロセスを、フィールドワークのデータを用いて明ら かにする。

II. 論文の構成 地図:調査地の位置 図表一覧

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略語一覧 凡例

1部 市場社会への参加と貧困 序章 問題の所在

1節 先住民の相対的底辺化

1.1 ピナトゥボ・アエタ

1.2 相対的底辺化

1.3 市場社会の研究 2節 なぜアエタの労働なのか

2.1 急速な参加 2.2 市場社会への参加 2.3 労働者アエタ 2.4 論文の構成 1章 調査対象の説明

1節 調査対象と調査方法 1.1 サパの概要

1.2 調査の方法

2節 サパ・アエタの経済史 2.1 第1期:狩猟焼畑時代 2.2 第2期:米軍基地時代 2.3 第3期:災害復興時代 2.4 第4期:観光開発時代 3節 国家のまなざし:政策

3.1 先住民法における先住民認識 3.2 先住民に関わる生活支援策 4節 社会のまなざし:呼称と差別

4.1 当事者の呼称:「名づけ」と「名乗り」

4.2 平地民による呼称

4.3 メディアのなかのアエタ 2章 先住民の研究と課題

1節 排除される貧者

1.1 社会的排除

1.2 文化的包摂

1.3 マイノリティの「参加」

1.4 「持たざるもの」と「持てるもの」

2節 仮説の提示:市場社会と相対的底辺化

2.1 「参入型」:参加・共同化

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2.2 「適応型」:参加・個人化

2.3 「伝統型」:非参加・共同化

2.4 「解体型」:非参加・個人化

2部 参加する先住民/参加しない先住民 3章 「適応型」の労働と生活

1節 村で働く

1.1 地域労働市場への参加

1.2 現代的労働の特徴

2節 町で働く

2.1 マニラの先住民

2.2 住み込み労働とネットワーク

2.3 先住民/平地民ネットワーク

3節 市場文化へ包摂される人びと

3.1 労働価値

3.2 消費価値

4章 「伝統型」の仕事と生活 1節 「仕事」と「労働」

1.1 山仕事の意味 1.2 産婆の賃労働者化

1.3 米軍基地時代のアエタの労働 2節 婚資の変容

2.1 アエタ社会における婚資 2.2 簡素化される婚資

2.3 省略される婚資 3節 協同組合と互助機能

3.1 組合設立の背景 3.2 組合運営の顛末 3.3 協同組合の破綻

3.4 〈もたざる〉状況と相互扶助

3.5 サパのその後

4節 女性の副業と「暇」の概念 4.1 内職

4.2 「無駄な時間」と「暇」

5章 「解体型」の仕事と生活 1節 ホームレス化する先住民

2節 エスニック・ネットワークからの断絶 3節 路上のネットワーク

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6章 先住民の相対的底辺化

1節 カテゴリー化される<差異>

1.1 米軍基地時代のアエタ優遇にみる差異

1.2 1990年代以降の労働にみる〈差異〉

1.3 〈差異〉による相対的底辺化

2節 ネットワークから見えるもの:貧困の共有から貧困の分有へ 3節 類型移行のメカニズム

3.1 「参入型」への移行 3.2 「適応型」への移行 3.3 「伝統型」への移行 3.4 「解体型」への移行 7章 労働変容と相対的底辺化

1節 相対的底辺化再考 7.1 階層の下降分化

7.2 先住民を介した「市場社会の研究」

2節 今後の課題

補論1:方法論について 1. データの科学性 2. 調査の科学性

補論2:先住民バジャウ:スクオッターの暮らし 1. 短期滞在型のバジャウ

1.1 マニラに来た経緯 1.2 マニラでの生活

2.長期滞在型/移住型のバジャウ 2.1 故郷とのつながり

2.2 スクオッター内のつながり 参考文献

III. 論文の内容

本論文は、主題を理論的に提示する 1部と、主題を事例で検証する 2部の構成をとる。

序章では、まず、ピナトゥボ・アエタの全体的な概要と、先住民の相対的底辺化の定義を 行った。次に、本論文の問題関心として、現代における先住民の問題を、本質化された先 住民の問題として捉えるのではなく、先住民を介した「市場社会の研究」という視点から 捉えることの重要性を示した。

1部1章では、本論文の調査対象および調査方法について説明した(1節)。2節では、調 査地であるサパ(Sapa)の集落の概要と、サパのアエタのたどった経済史を4期に分けて 説明した。3節では、国家のアエタに対するまなざしについて考察した。そこでは、国家の

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外に置かれ「棄民」の状態であったアエタが「国民化」されるプロセスに着目した。まず、

開発政策において、先住民が「政治的に中和」されている点を考察した。サパでは、先住 民の文化を尊重し、「アエタらしさ」を残しながら進められる開発事業に対し、強い反発も でていない。しかし、その開発事業のなかで、アエタは労働者となり、「国民化」されてい く。次に、都市部の先住民の「社会問題化」に着目した。都市部では、物乞いをする先住 民は「侵入者」として排除された。他方、すでにコミュニティを作っている先住民や、長 期間路上で生活している先住民に対しては、貧困対策として現金給付が実施された。ここ では、各事業の課題点を整理し、社会的包摂による新たな排除や、国家による貧者の選別 を指摘した。4節では、フィリピン社会におけるアエタの呼称をめぐる問題について整理し た。ここからは、市場社会の中でアエタのイメージや、〈差異化〉を理解するための重要な 示唆が得られた。

また、2章1節では、先行の社会的排除論や先住民研究、貧困研究において、「市場社会 への参加」と「先住民らしさ」がどのように捉えられてきたかについて考察した。ドミナ ント社会内におけるマイノリティの人びとの参加に関しては、先行のマイノリティ研究で 議論されてきた社会的排除論を取り上げ、その限界を説明した。また、先行の開発研究に おける「貧困(からの脱却)」の捉え方を整理し、本論文の立場を示した。これらをもって、

本論文が「先住民の研究」ではなく、先住民を介した「平地の市場社会の研究」を目指す ことを示した。2節では、仮説の提示として、相対的底辺化の説明に必要となる4つの類型 と視点を提示した。本論文では、アエタの労働と生活の変容を、共同化・個人化、市場社 会への参加・非参加という視点を軸に考察した。さらに、「参入型」「適応型」「伝統型」「解 体型」という4つの類型を設定した。

2部は、3章から5章で市場社会に参加する先住民の労働と生活の実態について記述する。

3章では、平地の労働市場で働くアエタの状況と、アエタの労働と消費に対する価値の変容 について考察する。アエタは平地の労働市場において、安価な労働力として〈差異化〉さ れている。そこでは、多くのアエタが、生活向上や階層の上昇が制限され、貧困化の道を たどっている。一方、市場社会で排除されたアエタは、苦しい生活から脱出するため、市 場的価値に適応しようとする。このように、アエタは、市場社会への適応の過程で文化的 に取り込まれる。本論文では、排除された人びとこそが、支配的価値に取り込まれている ことを指す概念としてある「文化的包摂」とする。ここに、アエタの「文化的強調と社会 構造の結びつき」による、排除の過程と構造をみることができる。4章では、伝統的価値の 変容に着目する。アエタの仕事・労働の変容や、婚資の慣習、協同組合、女性の内職、時 間の価値の変容について考察する。5章では、集落の共同体ネットワークから断絶され、都 市部でホームレス化するアエタの生活の実態について記述した。

6章では、3章から5章の関係性を検証し、3つの章の解釈を行う。まず、市場社会にお けるアエタの差異/〈差異〉の意味の変容について分析する。その後、仮説を実証する。

具体的には、4類型の間を移行するアエタの特徴を抽出し、それぞれの類型との関係性を分 析する。仮説の検証の結果、アエタは「参入型」に移行できないまま、「適応型」「伝統型」

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「解体型」にとどまっていることが確認できた。

最後に、7章では、本論文のまとめとして、アエタを労働者もしくは棄民として〈差異化〉

する市場社会における排除の構造と、相対的底辺化を再考した。本論文のデータからは、

市場社会におけるアエタの階層分化の 2 つの傾向をみることができた。これは、階層分化 を進める力と、階層分化をとどめる力である。しかし、〈差異化〉のため、先住民の階層分 化をとどめる力は、階層分化を推進する力より、圧倒的に強く、相対的に底辺の位置にと どまっている。

補論1では、方法論についての考察を記述する。ここでは、質的調査の科学性について、

先行のGoodwinとHorowitzの議論をもとに、代表性、解釈における主観性、自省性、自己

の表示について、本論文の位置を説明した。また、補論 2 では、都市のアエタの特徴を確 認するため、ミンダナオ島から都市に出てきた先住民バジャウの事例を紹介した。彼/彼女 らは、その住居・労働環境から、アエタと比べ、エスニック・ネットワークや平地民との ネットワークが形成されやすい。ここからは、都市部にて、ネットワークが形成しにくい アエタとの相違点が顕著になった。

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