博 士 (地 球環 境 科学 )佐 藤 孝治
学 位 論 文 題 名
Studies on purification and characterization of nucleoplasmin‑related proteins from fish eggs and echinoderm ovarleS
(魚類卵及び棘皮動物卵巣に含まれるヌクレオプラスミン関連夕ンパク質 の精製と性質に関する研究)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
真核生物においてクロマチンは、ヌクレオソームと呼ばれるヒストン8 量体(ヒストン H2A, H2B ,H3 , H4 のそれそれ 2 分子)の周りにDNA が約200 bp 巻き付いた構造からなっ ている。クロマチンの凝縮、脱凝縮の構造変化は遺伝子の発現や複製に関与していること が報告されており、脱凝縮の最初のステヅプにおいてヌクレオプラスミンと呼ぱれる分子 シャペロンが関与していることが明らかとなってきている。また、アフリカツメガェル成 熟未受精卵の抽出液からヌクレオプラスミンを免疫除去したものでは、脱凝縮活性が低下 することからこのタンバク質は卵抽出液中において脱凝縮に深く関与している因子である ことが示された。
アフリカツメガェルの成熟未受精卵から単離されたヌクレオプラスミンは、熱に安定な 5 量体で存在している。このタンバク質の一次構造は2 つの異なったcDNA から決定され、
200 アミノ酸残基数から成ることが報告された。また、このタンバク質はC 末端にGlu が
局在した配列を有し、ヌクレオソーム構造の再構築を促進する活性と精子核脱凝縮活性を
有することも報告されている。アフリカッメガェル由来のヌクレオプラスミンは両生類の
みぬらず、ヒト、軟体動物(イガイ)、魚類(サケ)の精子核をそれそれ脱凝縮すること
が報告されており、ヌクレオプラスミンと同様に精子核脱凝縮活性を有するタンパク質が
広く生物種に分布していることが示唆されている。そこで本研究では、これまで報告がな
かった魚類(コイCyprinus carpio) 成熟未受精卵からヌクレオプラスミン様夕ンパク質を
単離・精製し、既に単離されているアフリカツメガェルのヌクレオプラスミンと比較検討
する ことを 第一 の目 的と した。 また 棘皮動物(エゾバフンウニStrongylocentrotus
intermedius) 卵巣中にアフリカツメガェル・ヌクレオプラスミンに対する抗血清で反応す
るヌクレオプラスミン関連夕ンバク質を見出し、そのタンパク質の構造と機能を明らかに
することを第二の目的とした。
コイ ・ ヌク レ オ プラ ス ミン 様 夕 ンバ ク 質 の精製 は、コイ 成熟未受 精卵(50g)の 可溶化 画 分 を55%の 飽和 硫安 で分画し た後、イ オン交換と グルろ過 のカラム クロマト グラフイ ー に よ りSDS‑PAGEで 単 一 バ ン ド と な る ま で 行 っ た 。 こ の 精製 に よ り約2mgのヌ ク レ オプ ラス ミン様夕 ンノヾク質が単離された。このタンバク質はアフリカツメガェル・ヌクレオプ ラ ス ミン に 対す る 抗 血清 に より 認 識 され 、 オリ ゴマーで 存在して いること がHPLCを用い たゲ ルろ過カ ラムクロマトグラフイーで示された。また部分アミノ酸配列を調べたところ、
ア フ リカ ツ メガ エ ル ・ヌ ク レオ プ ラ スミ ン 同様 、C末端にGluがっなが った酸性 領域を有 し、 リン酸化 修飾を受け ているこ とがアル カリフオ スファタ ーゼ処理 により確認された。
さら にサケ精 子核を脱凝縮する活性を有していーることが明らかとなった。以上の結果から 単離 されたヌ クレオプラ スミン様 夕ンバク 質はコイ の成熟未 受精卵中 において受精や遺伝 子 の 発 現 な ど の 生 命 現 象 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る も の と 考 え ら れ る 。 一方 、棘皮動 物(エゾバ フンウ二 )卵巣の 抽出液を 調製し、 アフリカ ツメガエル・ヌク レオ プラスミ ンに対する 抗血清を 用いてウ ェスタン ブロット を行った 。その結果、分子量 33 kDaのバ ン ドが 検 出 され 、 ウ二 卵 巣 中に ヌ クレオプ ラスミン 関連夕ン バク質が 存在す るこ とが明ら かとなった 。そこで このタン バク質の 精製を試 み、55%の 飽和硫安で分画し た 後 、 疎 水 性 カ ラ ムと ゲ ル ろ過 の カラ ム ク ロマ ト グラ フ イ ーに よ りSDS‑PAGEで 単 一 バ ン ド とな る まで 精 製 した 。 この 精 製 法に よ り25gの ウ ニ卵 巣 か ら1.2 mgのタ ンパク 質が 精製 された。33 kDa夕ンパク質 は糖鎖修 飾を受け ていない ことがglycopeptidase消化によ り示唆された。また部分アミノ酸配列を調べたところ、neuronal cell adhesion moleculeとし て見 出されたfasciclinIのフんミリ ーのタン バク質と 高い相同 性を示し た。決定されたア ミノ 酸配列中 には、細胞 と相互作 用すると 推定され る配列( Val‑Asp‑LeuとLeu‑Arg‑Glu) が 検 出さ れ たた め 、 ヒト 線 維芽 肉 腫 細胞(HT1080)を 用 い て細 胞 接着 実 験 を行っ た。そ の 結 果33 kDa夕ン バ ク 質は 細 胞接 着 活 性を 有 し、濃度 依存的に 細胞の接 着を促進 するこ と が 明ら か とな っ た 。ま た 、EDTAと へ パ リン を用い た細胞接 着の阻害 活性を調 べたとこ ろ 、EDTAで は 阻 害を 受 け ずへ パ リン で 細 胞接 着が阻 害される ことが明 らかとな った。こ の結 果から、 このタンパ ク質の細 胞接着活 性にはへ バリンが 重要な役 割を果たしているこ と が 示唆 さ れた 。 また推定 される細 胞接着ドメ インを合 むGly17‑Leu39のべプ チドを合 成 しそ の細胞接 着活性を調 べたとこ ろ強い接 着活性を 示し、そ の活性は へバリンで阻害され る こ とが 明 らか と な った 。 さら に こ のぺ プ チド により33 kDa夕 ンバク質 の細胞接 着活性 が 阻 害さ れ たこ と からGly17‑Leu39の領 域が活性 に重要な役 割を果た している ことが示 唆 さ れ た。 以 上の 結 果 から 本 研究 に よ り単 離 され た33 kDaのウ二 ・ヌクレ オプラス ミン関 連夕 ンバク質 は細胞接着 を介して 卵巣内に おいて重 要な役割 を果たし ている可能性が示唆 された。
学 位論文審 査の要旨 主 査 教 授 西 則 雄 副 査 教 授 坂 入 信 夫 副 査 教 授 荒 木 義 雄 副査 助教授 野水基義
学位論文題名
Studies on purification and characterization of nucleoplasmin‑related proteins from fish eggs and echinoderm ovarleS
( 魚 類卵 及 び 棘皮 動 物卵 巣 に 含ま れ る ヌク レ オプ ラ ス ミン 関連夕 ンパク質 の 精 製と 性 質 に関 す る研 究 )
真核生物においてクロマチンは、ヌクレオソームと呼ばれるヒストン8量体の周りに DNAが約200 bp巻き付いた構造からなっている。クロマチンの凝縮、脱凝縮の構造変 化は遺伝子の発現や複製に関与していることが報告されており、脱凝縮の最初のステッ プにおいてヌクレオプラスミンと呼ばれる分子シャペロンが関与していることが明ら かとなってきている。また、アフリカツメガエル成熟未受精卵の抽出液からヌクレオプ ラスミンを免疫除去したものでは、脱凝縮活性が低下することからこのタンパク質は卵 抽 出 液 中 に お い て 脱 凝 縮 に 深 く 関 与 し て い る 因 子で あ る こと が 示さ れ た 。 アフリカツメガエルの成熟未受精卵から単離されたヌクレオプラスミンは、熱に安定 な5量体で存在している。このタンパク質の一次構造は200アミノ酸残基数から成る ことが報告された。また、このタンパク質はC末端にGluが局在した配列を有し、ヌ クレオソーム構造の再構築を促進する活性と精子核脱凝縮活性を有することも報告さ れている。アフリカツメガエル由来のヌクレオプラスミンは両生類のみならず、ヒト、
軟体動物(イガイ)、魚類(サケ)の精子核をそれぞれ脱凝縮することが報告されてお り、ヌクレオプラスミンと同様に精子核脱凝縮活性を有するタンパク質が広く生物種に 分布していることが示唆されている。そこで本研究では、これまで報告がなかった魚類
(コイ)成熟未受精卵からヌクレオプラスミン様タンパク質を単離・精製し、既に単離 されているアフリカツメガエルのヌクレオプラスミンと比較検討することを第一の目 的とした。また棘皮動物(エゾバフンウニ)卵巣中にアフリカツメガエル・ヌクレオプ ラスミンに対する抗血清で反応するヌクレオプラスミン関連タンパク質を見出し、その タ ン パ ク 質 の 構 造 と 機 能 を 明 ら か に す る こ と を 第 二 の 目 的 と し た 。 −1573―
コイ・ヌクレオプラスミン様タンパク質の精製は、コイ成熟未受精卵の可溶化画分を 55%の飽和硫安で分画した後、イオン交換とゲルろ過のカラムクロマトグラフイーによ りSDS‑PAGEで単一バンドとなるまで行った。このタンパク質はアフリカツメガエ ル・ヌクレオプラスミンに対する抗血清により認識され、オリゴマーで存在しているこ とがHPLCを用いたゲルろ過カラムクロマトグラフイーで示された。また部分アミノ 酸配列を調べたところ、アフリカツメガエル・ヌクレオプラスミン同様、C末端にGlu がっながった酸性領域を有し、リン酸化修飾を受けていることが確認された。さらにサ ケ精子核を脱凝縮する活性を有していることが明らかとなった。以上の結果から単離さ れたヌクレオプラスミン様タンパク質はコイの成熟未受精卵中において受精や遺伝子 の 発 現 な ど の 生 命 現 象 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る も の と 考 え ら れ る 。 一方、棘皮動物(エゾバフンウニ)卵巣の抽出液を調製し、アフリカツメガエル・ヌ クレオプラスミンに対する抗血清を用いてウェスタンブロットを行った。その結果、分 子量33 kDaのバンドが検出され、ウニ卵巣中にヌクレオプラスミン関連タンパク質が 存在することが明らかとなった。そこでこのタンパク質の精製を試み、55%の飽和硫安 で 分 画 した 後 、 疎 水 性 カ ラ ム と ゲ ルろ 過の カラ ムク ロマ トグ ラフ イーに より SDS‑PAGEで単一バンドとなるまで精製した。33 kDaタンパク質は糖鎖修飾を受けて いをいことが示唆された。また部分アミノ酸配列を調べたところ、neuronal cell adhesion moleculeとして見出されたfasciclinIのファミリーのタンパク質と高い相同 性を示した。決定されたアミノ酸配列中には、細胞と相互作用すると推定される配列 (Val‑Asp‑LeuとLeu‑Arg‑Glu)が検出されたため、ヒト線維芽肉腫細胞 (HT1080) を用いて細胞接着実験を行った。その結果33 kDaタンパク質は細胞接着活性を有し、
濃度依存的に細胞の接着を促進することが明らかとなった。また、EDTAとへパリンを 用いた細胞接着の阻害活性を調べたところ、EDTAでは阻害を受けずヘパリンで細胞接 着が阻害されることが明らかとなった。この結果から、このタンパク質の細胞接着活性 にはヘパリンが重要な役割を果たしていることが示唆された。また推定される細胞接着 ドメインを含むGly17‑Leu39のベプチドを合成しその細胞接着活性を調べたところ強 い接着活性を示し、その活性はへパリンで阻害されることが明らかとなった。さらにこ の ベ プ チ ド に よ り33 kDaタ ン パ ク 質 の 細 胞 接 着 活 性 が 阻害 さ れ た こ と か ら Gly17‑Leu39の領域が活性に重要な役割を果たしていることが示唆された。以上の結 果から本研究により単離された33 kDaのウニ・ヌクレオプラスミン関連タンパク質は 細胞接着を介して卵巣内において重要な役割を果たしている重要で興味深い可能性が 示唆された。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱心であり、
大学院過程における研鑽や単位取得なども併せ申請者が博士(地球環境科学)の学位を 受けるのに充分な資格を有するものと判定した。
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