博 士( 地 球環 境科 学)曽 平続 学位論文題名
A new first‑order closure model for wind flow within ●
and above vegetation canopleS
(植物群落内外の風速予測の新しい1 次クロージャーモデル)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
植物群落内外の風は単に熱・運動量のみならず、水蒸気、炭酸ガス、メタンガスなど の物質輸送に大きくかかわっており、地球的視野から見ても重要である。植物群落上の 風に関する研究は1910年代から始まり、すでに多くの成果がだされている。しかし植 物群内の風については群落構造が複雑であり、植物の種類やその組み合わせで変わるた め に十 分 な精 度 で 風速 分 布を 数 値 的に 表 現 し予 測 する こ とはで きなかっ た。
本論文では群落上から群落内への運動量輸送現象を群落上の接地境界層に発達して いる比較的小さな乱流(small eddy)と境界層の外から入ってきた比較的周期が長く振 幅 の 大 き な 乱 流(large eddy)に よ る も の と に 分 け て モ デ ル を 構 築 し た 。 さらにlarge eddyによる運動量輸送が群落内で植物茎葉による抵抗のために減衰す る過程を表現するために、植物面積密度と風に対する植物体の抵抗を含む係数をあらた に考案し、演算時間が少なくてすむ1次クロージャーモデルの中に組み込んだ。なお、
small eddyによる輸送現象には従来のK理論モデルを用いた。
モデルの検証はまず著者が観測に参加して得た中国海南島のゴムノキ林の風速デー タを用いて行った。観測は高さ14mのゴムノキ林内に設けた高さ30mの鉄塔で行われ、
気温・風速は樹冠上から林床付近まで10層で測定したものである。また、樹冠上下2 ケ所で測定した日射量を用いて、植物面積密度の季節変化を算定した。植物面積密度の 垂直構造は葉面積の垂直分布の実測値から求めた。
モデルによる森林群落内外の風速計算結果は実測値と良く一致し、ゴムノキの落葉に 伴 な う 群 落 密 度 ( 植 物 面 積 密 度 ) の 変 化 に も 良 く 対 応 し て い た 。 次に、多様な植物群落へのモデルの適応性を、他の研究者の研究成果を用いて検証し た。対象とした植物群落はダイズ、ムギ、トウモロコシ、オレンジ、トウヒ、ヤマナラ シ、マツ、カシなど草本から木本まで、群落高もImから23mまで多様であったが、計 算値と実測値は良く一致した。
すでに提唱されているモデルと比較すると、K理論モデルだけによる計算では群落上 の風速は良く一致するが、群落内の風速は一致していないと言う欠点があった。ー方、
高次クロージャーモデルでは群落内は良く一致したが、群落上の風速は一致しない場合 があった。本モデルではそれらの欠点が解消されており、精度が大幅に向上していた。
Watanabe and Kondo (1990)が定義したバルク運動量輸送係数(のを本モデルにより 群落構造と関連させ表現することが出来た。また、Thom(1971)が提案した植物群落上を 吹く風の空気力学的特徴量である粗度長と地表面修正量の関係をしめす値(え)につい ても、過去の研究結果を統一的に表現することができた。
本研究により、多様な植物群落内外の風速分布を精度良く再現する数値モデルが開発 さ れ 、 演 算 時 間 も 短 い こ と か ら 、GCMモ デ ル な ど へ の 応 用 も 期 待 で き る。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教 授
小 教 授
平 助教授
高 助教授
石
野 有 五 川 一 臣 橋 英 紀 川 信 敬
学位 論 文 題 名
A new first‑order closure model for wind flow within
●
and above vegetation canopleS
(植 物 群 落 内 外 の 風 速 予 測 の 新し い
1次 ク ロ ー ジ ャ ーモデ ル)
植物群落内外の風は単に熱・運動量のみならず、水蒸気、炭酸ガス、メタン ガスなどの物質輸送に大きくかかわっており、地球的視野から見ても重要であ る。植物群落上の風に関する研究は1910 年代から始まり、すでに多くの成果が だされている。しかし植物群内の風については群落構造が複雑であり、植物の 種類やその組み合わせで変わるために十分な精度で風速分布を数値的に表現し 予測することはできなかった。
本論文では群落上から群落内への運動量輸送現象を群落上の接地境界層に発 達している比較的小さな乱流(small eddy) と境界層の外から入ってきた比較 的周期が長く振幅の大きな乱流(
large eddy)によるものとに分けてモデルを 構築した。
さらにlarge eddy による運動量輸送が群落内で植物茎葉による抵抗のために 減衰する過程を表現するために、植物面積密度と風に対する植物体の抵抗を含 む係数をあらたに考案し、演算時間が少なくてすむ
1次クロージャーモデルの 中に組み込んだ。なお、small eddy による輸送現象には従来のK 理論モデルを 用いた。
モデルの検証はまず著者が観測に参加して得た中国海南島のゴムノキ林の風 速データを用いて行った。観測は高さ14m のゴムノキ林内に設けた高さ30m の 鉄塔で行われ、気温・風速は樹冠上から林床付近まで10 層で測定したものであ る。また、樹冠上下2 ケ所で測定した日射量を用いて、植物面積密度の季節変 化を算定した。植物面積密度の垂直構造は葉面積の垂直分布の実測値から求め た。
モデルによる森林群落内外の風速計算結果は実測値と良く一致し、ゴムノキ の落葉に伴なう群落密度(植物面積密度)の変化にも良く対応していた。
次に、多様な植物群落へのモデルの適応性を、他の研究者の研究成果を用い
て検証した。対象とした植物群落はダイズ、ムギ、トウモロコシ、オレンジ、
トウ ヒ、 ヤマ ナラシ 、マ ツ、 カシ など 草本 から 木本 まで 、群 落高 もImから23m まで多様であったが、計算値と実測値は良く一致した。
す でに 提唱されているモデルと比較すると、K理論モデルだけによる計算では 群落 上の 風速 は良く 一致 する が、 群落 内の風速は一致していないと言う欠点が あっ た。 一方 、高次 クロ ージ ャー モデ ルでは群落内は良く一致したが、群落上 の風 速は 一致 しない 場合 があ った 。本 モデルではそれらの欠点が解消されてお り、精度が大幅に向上していた。
ま た本 モデルによりWatanabe and Kondo(1990)が定義したバルク運動量輸送 係数 (り を群 落構造 と関 連さ せ表 現す ることが出来た。さらにThom(1971)が 提案 した 植物 群落上 を吹 く風 の空 気力 学的特徴量である粗度長と地表面修正量 の関 係を しめ す値( え) につ いて も、 過去の研究結果を統一的に表現すること ができた。
本 研究 によ り、多 様な 植物 群落 内外 の風速分布を精度良く再現する数値モデ ルが開発され、演算時間も短いことから、GCMモデルなどへの応用も期待できる。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、また大学院課程における研鑽や取得単 位なども併せ、申請者が研究者として誠実かつ熱心であり、博士(地球環境科学)の 学位を受けるに十分な資格を有するものと判定した。