博 士 (地 球環 境 科学 )伊 藤充輝
学 位論 文 題名
h/Iapping of the breakpoint in the mouseT (X ; 16 ) 16H translocation that causes non‑randomX chromosomelnaCtiVation ・
(選択的
X染色体不活性化の原因となる マウス
T(X ;
16)16H転座点のマッピング)
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
哺乳類の雌では雌雄間で生じるX 染色体連鎖遺伝子の発現量の違いを補正するため、
胚 発生 初期に
X染色体 不活 性化
(XCI)が 起こ り、雌 では 二本 のX 染色体のうち一方が ほぽ完全に不活性化される。マウスの胚体外組織では刷り込み型のXCI が起こっており、
父方由来のX 染色体が常に不活性化している。しかし、将来、胎児を形成する胚体部で
は不活性化するX 染色体は胚発生
6.5日目までにランダムに決定し、一旦不活性化され
た
X染 色 体 は 細 胞 分 裂 を 経 て も 変 化 す る こ と な く 受 け 継 が れ る 。
胚体外部では刷り込み型の不活性化を受けるX 染色体が、胚体部ではランダムに不活
性化される機構がどのようなものであるは解っていないが、いくっかの要因によってこの
ランダムな不活性化が偏ることが知られている。未だ同定に至っていないがXce (X ―
chromosome controlling element)は不活 性化 する
X染 色体 に必 須な領域である
Xic (X―
chromosome inactivation center)内にあり、対立遺伝子の組み合わせにより不活
性 化す るX 染色 体の選 択に 偏り を与 える。 同じ く
Xic内 にあ るXist く
Xinactivation specific transcript)遺伝子やXist のアンチセンス鎖より発現するTs 改遺伝子のノック
ア ウ ト マ ウ ス で も 不 活 性 化 に 偏 り が 現 れ る こ と が 報 告 さ れ て い る 。
16番染色体と
X染色体の相互転座であるT 伍;
16)16H (以下T16H とする)を持つマ
ウスでもXCI に偏りが見られ、成熟雌の体細胞で は正常X 染色体のみが不活性化されて
いる。他のX 一常染色体相互転座マウスではこのような選択的な不活性化が見られないこ
と からT16H マウス特異的な現象であると考えられる。
X連鎖遺伝子蹴―ヱのアロ酵素
を 利用 した研 究で は、
T16H胚 では 正常
X染 色体 とT16H の不 活性 化はランダムに起こ
るが、Xic を持つ1 .x 染色体が不活性化された細胞は遺伝的に不均衡な状態になるため淘
汰されていくと考えられた。しかしながら、T16H マウス胚でも発生段階で細胞死による
発生の大きな遅れや異常が見られないことや細胞遺伝学的な研究では受精後6 .5 日目胚で
は す で に 正 常X染 色 体 が 不 活 性 化 さ れ た 細 胞 が 圧 倒 的 に 多 く 存 在 し て い る こ と か ら 、 不 活 性 化 す るX染 色 体 の 選 択 はXCI開 始 時 点 か ら 偏 っ て い る 可 能 性 が 示 唆 さ れ て い る 。 本 研 究 で は 、 最 初 にRtI、 −PCR法 を 用 い た 研 究 か ら 初 期 胚 で の 不 活 性 化 の 偏 り に つ い て の 検 討 を 試 み た 。 雌T16Hマ ウ ス くXn/X16;16X/16)をJF―1マ ウ ス 雌 とC57BL/6J雄 と の 交 配 で 得 ら れ たFi雑 種(XJ/Y)の 雄 と 交 配 し 、 受 精 後 6.5日 目 と7.5日 目 に 雌T16H マ ウ ス か ら 胚 を 回 収 し た 。 転 座 点 近 傍 の マ ー カ ーDXMit62は16x特 異 的 な 多 型 が あ り 、 D,KAIit78はXJに 多 型 が 見 ら れ る こ と を 利 用 し て 胚 の 核 型 の 決 定 を 行 っ た 。Xist RNAの 蓄 積 量 に 加 え 、 そ れ ぞ れ 転 座 点 よ り 近 位 と 遠 位 に あ るX一 連 鎖 遺 伝 子Hprt. Pgk‑lのRNA 蓄 積 量 をRT‑PCR法 を 用 い て 比 較 し た 。 ア レ ル を 区 別 す る た めXist. Htjr丶 蹴 ― ヱ のPCR 産物はそれぞれHmmII、Sc d`−I、鬥mnで消化 した。
10個 の7.5日 正 常 胚 (X /XJ冫 で は ア レ ル 間 のXな ムHp凡 蹴 ― ヱ のRNA蓄 積 量 の 比 較 か ら ラ ン ダ ム な 不 活 性 化 が 起 こ っ て い る と 考 え ら れ た 。 一 方 、11個 の7.5日T16H ヘ テロ 雌(T16H/XJ) 胚の 解析 では 、ヌ お卩 鋼RNAが平均7.2%(1.7―14.9%)、Hり舛馳jRNA が平均12.8%(5. 争23.1%)、Pg女一i野j融乢へが平均13.2%(4.l127.7%)の蓄積量で正常 X染 色 体 が 不 活 性 化 さ れ て い る 細 胞 が 多 数 を 占 め て い る こ と が 示 さ れ た 。 さ ら に 、5個 の 6.5日T16Hヘ テ ロ 雌 (T16H/XJ冫 胚 の 解 析 で は 、Hわ 館 恥j恥 岨 と 罷 出 ―i冊JRNAの 蓄 積 は 平均12.1%(2.9−20.6%)と平均16.1%(13.8―18.O%)の蓄 積量であったため、T16H 雌 胚 は 受 精 後6.5日 目 で す で に 正 常X染 色 体 が 不 活 性 化 し た 細 胞 が 多 数 を 占 め て い る と 考 え た 。T16H6.5日 目 胚 の ズ お 卩6曚NAの 蓄 積 量 は 平 均18.8% (11.7―23.2% ) と 鰯 ガf や 蹴 一 ヱ の 結 果 に 比 べ や や 高 い 結 果 が 得 ら れ た が 、 本 来 ,a. sHWAの 発 現 の な い 雄 の6.5 日 胚 か ら もi岱fRNAの シ グ ナ ル が 検 出 さ れ た こ と か ら 、 こ の 結 果 はn汝RNAの 影 響 を 受 け て い る と 考 え た 。 こ れ ら の 結 果 は 先 に 報 告 さ れ て い る 細 胞 遺 伝 学 的 な 解 析 結 果 を 支 持 す る も の で あ り 、 胚 体 部 の 不 活 性 化 が5.5か ら6.5日 目 に 始 ま る こ と と 併 せ て 考 え る と 、 T16H雌 で はXCI開 始 時 点 で 正 常X染 色 体 が 選 択 的 に 不 活 性 化 さ れ て い る 可 能 性 が 高 い との結論に達した。
正 常X染 色 体 の 選 択 的XCIはT16H転 座 マ ウ ス で 特 異 的 に 見 ら れ る こ と か ら 、 転 座 点 近 傍 に 存 在 し て い る ラ ン ダ ム なXCIの 選 択 に 関 与 し て い る 遺 伝 子 ま た は 調 節 領 域 がT16H の 転 座 に よ っ て 突 然 変 異 を 引 き 起 こ さ れ て い る 可 能 性 が あ る と 考 え た 。 そ こ で 次 にT16H 転 座 点 の マ ッ ピ ン グ を 試 み た 。T16Hの 転 座 点 はG6D〔 故 遺 伝 子 とP( ) ぬ 遺 伝 子 の 間 約4cM の 領 域 に あ る こ と が 報 告 さ れ て い る 。 デ ー タ ベ ー ス 上 で 公 開 さ れ て い るYACを 用 い た 物 理 地 図 にRadiationHybridマ ッ プ か ら 得 ら れ た マ ー カ ー を 配 置 す る こ と で 、 転 座 点 の 近 傍 領 域 の よ り 詳 細 な 物 理 地 図 を 作 製 し た 。 こ の 物 理 地 図 上 に あ る マ ー カ ー を 元 に & 丶Cク ロ ー ン を ス ク リ ー ニ ン グ し 、 得 ら れ た & 气Cク 口 ー ン を プ 口 ー プ と し てFISH法 に よ る 解 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 & 气C188ー15Fと297−lOOに 挟 ま れ た 約2.8Mbの 領 域 に 転 座 点 が 存 在 し て い る こ と が 示 さ れ た 。 こ の 領 域 に は17個 の & 虻 ク ロ ー ン か ら な る 不 完 全 な コ ン テ ィ グ が 公 開 さ れ て い た の で 、 こ れ ら の & ゜ ℃ ク ロ ー ン を 用 い てFISH法 に よ る 解 析
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を行ったところ、RP23 ―
132M12は転座点より近位に、RP23 ー
61E2は遠位にあることが 明 らかに なっ た。 この
BACクロ ーン間 の領 域を7 個のBAC クローンの塩基配列とマウ スゲノム計画で公開されている35.6 kb の塩基配列から、約900 kb の完全なコンティグ にすることができた。
5個のBAC ク口ーンについてはすでに塩基配列が公開されている。
し かしな がら 、これらの
7個のBAC クローンをプ口ーブにしたFISH 法による解析では
シグナルが、16x とX16 の両方の染色体から検出され、転座点の位置をさらに詳細に特定す
ることができなかった。以上の結果から転座点を物理的に完全な約900 kb の領域にマッ
ピングすることができた。この領域内に不活性化するX 染色体の選択に関与する新規遺
伝子または調節領域が存在していると考えられる。
学位論文 審査の要旨 主査
副査 副査 副査
教 授
高 教 授
木 教 授
松 助教授 瀧
木 信 夫 村 正 人 田 洋 一 谷 重 治
学位論文題名
Mapping of the breakpoint in the mouse T(X;16)16H translocation that causes non‑randomX chromosomelnaCtlVation .
゛(選択的
X染色体不活性化の原因となる マウスT (X ;
16) 16H転座点のマッピング)
哺乳類の雌では雌雄間に生じる
X染色体連鎖遺伝子の発現量の違いを補正するため、胚 発生 初期に
X染色体 不活 性化(XCI) が起こり、雌では2 本のX 染色体のうち一方がほば 完全に不活性化される。マウスの胚体外組織では父方由来のX 染色体が常に不活性化して いるが、将来、胎児を形成する胚体部では胎生6 .5 日目までにランダムなXCI が起きる。
一旦 不活性 化さ れた
X染 色体 は細 胞分裂 を経 ても 変化 することなく受け継がれる。
胚体部でランダムなXCI がおきる機構については、いくっかの要因が知られている。Xce
(X −
chromosome controlling element)は不活性化するX 染色体に必須な領域であるXic
(X ー
chromosome inactivation center)内にあり、対立遺伝子の組み合わせにより不活性 化するX 染色体の選択に偏りを与える。同じくXic 内にあるXist (Xinactivation specific
transcript)遺伝子やXist のアンチセンス鎖より発現するTsix 遺伝子のノックアウトマ ウスでも不活性化に偏りが現れる。
16
番染色体とX 染色体の相互転座であるT(X ;16) 16H (以下T16H とする)を持つマウス
でも
XCI,に偏りがあり、成熟雌の体細胞では正常X 染色体のみが不活性化している。X 連
鎖遺伝子Pgk‑l のアロ酵素を利用した研究では、不活性化はランダムに起こるが、Xic を
持つ
16x染色体が不活性化した細胞は遺伝的に不均衡な状態になるため淘汰されると結諭
された。しかし、細胞遺伝学的データは、
X染色体の選択はXCI 開始時点で既に偏ってい
る可能性を示唆している。
本 研 究 で は 、 最 初 にRT−PCR法 を 用 い て 初 期 胚 で の XCIの 偏 り を 検 討 し た 。T16H/+マ ウ ス を 雌 JFー1マ ウ ス と 雄C57BL/6Jと の 交 配 で 得 ら れ たFl雄(XJ/Y)と 交 配 し 、 受 精 後6.5 日 目 と7.5日 目 に 胚 を 回 収 し 、 マ イ ク ロ サ テ ラ イ ト マ ー カ ー の 多 型 を 利 用 し て 胚 の 核 型 を 決 定 し た 。 鮒 stば か り で な く 転 座 点 よ り 近 位 お よ ぴ 遠 位 に あ るHprt丶 Pgk‑l遺 伝 子 のRNA 蓄 積 量 もRTー PCR法 で 比 較 し た 。7.5日 正 常 胚 (X¨ /XJ)で は ラ ン ダ ム なXCIが 起 き て い る こ と を 示 す デ ー タ が 得 ら れ た 。 一 方 、7.5日 T16H/+胚 で は 、XistT'6HRNAが 平 均7. 2%
(1.7ー14. 90)、Hprt F‑1RNAが平均12. 8% (5.4―23.1%)、Pgk̲l jF‑' RNAが平均13. 20h (4.1一27.7%)
で 正 常X染 色 体 が 不 活 性 化 さ れ て い る 細 胞 が 多 数 を 占 め た 。 さ ら に 、6.5日 胚 の 解 析 で は 、 Hprt IF‑I RNAとPgk‑1IF‑' RNAの蓄 積は 平 均12.1%(2.9―20.6%) と 平均16.1% (13.8―18.0%)
な の で 、 こ れ ら の 胚 で は こ の 時 期 に す で に 正 常X染 色 体 が 不 活 性 化 し た 細 胞 が 多 数 を 占 め て い る 。 駈s tn6"RNAの 蓄 積 量 は 平 均18. 80(11.7一23. 2y0)と や や 高 い が 、Tsix RNAを 検 出 し て い る 可 能 性 が あ る 。 こ れ ら の 結 果 は 先 に 報 告 さ れ て い る 細 胞 遺 伝 学 的 な 解 析 結 果 を 支 持 す る も の で 、 胚 胎 部 の XCIが5. 5か ら6. 5日 目 に 始 ま る こ と を 考 え る と 、T16H/+で は 正 常X染色体が選択的に不 活性化する可能性が高い。
正 常X染 色 体 の 選 択 的XCIはT16H/+マ ウ ス で 特 異 的 な の で 、 転 座 点 近 傍 に あ る ラ ン ダ ム なXCIの 選 択 に 関 与 し て い る 遺 伝 子 ま た は 調 節 領 域 がT16H転 座 に よ っ て 変 異 し た 可 能 性 が あ る 。 そ こ で 、T16H転 座 点 の マ ッ ピ ン グ を 試 み た 。 転 座 点 は G6pdx遺 伝 子 とPola遺 伝 子 の 聞 約4 cMの 領 域 に あ る と 報 告 さ れ て き た 。 デ ー タ ベ ー ス に 公 開 さ れ て い るYAC物 理 地 図 にRadiation Hybridマ ッ プ か ら 得 ら れ た マ ー カ ー を 配 置 し て 、 転 座 点 の 近 傍 の 詳 細 な 物 理 地 図 を 作 製 し た 。 こ の 物 理 地 図 上 に あ る マ ー カ ー を 元 にBACク ロ ー ン を ス ク リ ー ニ ン グ し 、 得 ら れ た ク ロ ー ン を プ ロ ー ブ と し てFISH法 に よ る 解 析 に よ り 、 転 座 点 は BAC188―15Fと 297―100に 挟 ま れ た 約2.8 Mbの 領 域 に が 存 在 す る こ と を 示 し た 。 こ の 領 域 に は 完 全 で は な い が17個 のBACク ロ ー ン か ら な る コ ン テ ィ グ が 公 開 さ れ て い た 。 こ れ ら の BACク ロ ー ン を 用 い てFISH法 に よ る 解 析 よ り 、RP23− 132M12は 転 座 点 よ り 近 位 に 、 RP23− 61E2は 遠 位 に あ る こ と を 明 ら か に し た 。 こ のBACク ロ ー ン 間 の 領 域 を7個 のBACク ロ ー ン の 塩 基 配 列 と マ ウ ス ゲ ノ ム 計 画 で 公 開 さ れ て い る35.6kbの 塩 基 配 列 か ら 、 約900 kb の完全なコンティグにす ることができた。
本研究では
7個のBAC クローンをプローブにしたFISH 法による解析ではシグナルが
16xとX16 の両方の染色体から検出されたため、残念ながら転座点に到達できなかった。
しかし、シーケンスの解析から約240 kb の領域に転座点が狭められた。この領域内に不
活性化するX 染色体の選択に関与する新規遺伝子または調節領域が存在していると考えら
れる。この結果を基にX 染色体不活性化の制御機構の解明が進むものと期待される。