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博 士 (地 球環 境 科学 )大 野

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 (地 球環 境 科学 )大 野    浩

     学 位 論 文 題 名

Location and chemical form of water‑soluble impurities   and air bubble to clathrate hydrate transformation     in polar ice sheets

(極地氷床中に存在する水溶性不純物の分布と化学状態ならびに

    

空 気 包 接 水 和 物 結 晶 の 形 成 過 程 に 関 す る 研 究 )

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  極地氷床において掘削された深層氷コアは,高い時間分解能で古気候復元を可能にする ばかりでなく,過去の大気組成を与える唯一の直接的な情報源である。しかし,より詳細 に古環境情報を氷コアから読み取るためには,気候プロキシーが氷床表面に堆積して以降 の位置的・質的変化を考慮する必要があり,そのためにはシグナルの変化に関与している 物理過程を理解する必要がある。そこで本研究では,この問題に直結した以下のニつの課 題について氷コアの物理解析研究を行った。

  1)極地氷床中に存在する水溶性不純物の分布と化学状態:イオンクロマトグラフイー 分析で得られる融解水のイオン濃度の深さプロファイルは,過去の気候・環境の指標とし て氷コア研究における主要な解析項目となっている。しかし,最近になって,結晶粒界を 通る不純物の拡散が本来の古気候情報を大幅に変質させてしまうほど大きい可能性が指摘 され,イオン濃度プロファイルの気候プロキシーとしての信頼性が大きな問題となってい る。この問題の解決には,水溶性不純物が氷結晶組織のどこにどのような状態で存在する のかという基本的な知見が不可欠である。そこで本研究では,水溶性不純物の分布と化学 状態を実験的に明らかにすることを目的とした。

  2)極地氷床における空気包接水和物結晶の形成過程:極地氷床氷に含まれる気泡は 氷床深部でクラスレート・ハイドレー卜に変化する。気泡やクラスレー卜・ハイドレート に含まれる空気から過去の大気組成が復元され,これらの数密度やサイズ分布は温度と涵 養量の指標として利用されている。気泡からクラスレート・ハイドレー卜への遷移過程に ついては,それに伴う気体分別過程も含めて解明が進んでいるが,その核生成メカニズム にっいては良く分かっていない。特に,遷移過程初期における微小なクラスレー卜・ハイ ドレ ートの核生成やその中に02が異常に濃縮されるメカニズムは未解決の重要課題であ る。

  第一の課題に関しては,南極ドームふじ観測拠点で掘削された深層氷コアについて,ま ずは光学顕微鏡観察を行った。その結果,氷の内部に無数の微小な介在物が見出された。

っづいて,介在物の顕微ラマン分光法による高分解能測定を行ったところ,介在物は硫酸 塩をはじめとする塩微粒子であることが明らかになった。しかも,その大部分は氷結晶粒 の内部に分布しており,塩微粒子に含まれるイオン量の総和は,イオンクロマトグラフイ ーで測定されるイオン濃度を説明し得る量であった。すなわち,この結果は,硫酸などの

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共晶点の低い酸は結晶粒界に液相として存在するというこれまでの定説を覆すものであり,

酸性不純物の相当の部分が水溶性の塩微粒子として氷結晶粒内に固定されていることを明 示している。この事実は,水溶性不純物が氷床の内部でほとIんど拡散していないこと示唆 するものであり,イオン濃度プロファイルの気候プロキシーとしての信頼性を支持する画 期的な新知見である。また今回の発見は,これまでに不純物の関与が指摘されながらも解 釈の難しかった様々な物理現象や物理的性質を塩微粒子という具体的な存在に基づいて議 論するための契機になると期待される。

  第二の課題に関しては,ドームふじ氷コアにっいて,気泡およびクラスレー卜・ハイド レー卜の分布を塩微粒子の分布やイオン濃度プロファイルと対応させて詳細に測定した。

その結果,気泡およびクラスレー卜・ハイドレートの分布と塩微粒子の分布の聞に高い相 関関係が見出された。また,塩微粒子がクラスレート・ハイドレートの内部に氷の内部と 比べて極めて高い数密度で存在することがわかった。気泡およびクラスレー卜・ハイドレ ートの空間分布と塩微粒子の空間分布の統計解析を行った結果,クラスレー卜・ハイドレ ー卜の核生成は気泡の表面で起こるとするこれまでの定説に反して,少なくとも遷移帯の 初期では,塩微粒子を核としてクラスレー卜・ハイドレー卜が生成することが明らかにな った。この結果に基づいて生成過程を考察することによって,これまで謎とされていた遷 移帯初期に微小なクラスレー卜・ハイドレー卜が卓越して現れることおよびその中のガス が異常に大きな分別を受けていることなどの原因を明らかにすることができた。これらの 発見は,気泡一クラスレート・ハイドレート遷移過程の数値計算モデルの発展に貢献する とものと期待される。

  以上の成果は,氷床における不純物の存在状態および気泡ークラスレート・ハイドレー ト遷移における未解決課題を解決に導く新たな知見である。また,これによって不純物濃 度プロファイルの気候プロキシーとしての信頼性および大気組成復元の信頼性が明らかに なると期待される。

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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主査   教   授   本堂武夫 副査   教   授   香内   晃・

副査   助教授   古川義純 副査   助教授   内田   努

     ( 北 海 道 大 学 大 学 院 工 学 研 究 科 ) 副査   客員教授  VladimirY .Lipenkov   ゛      (ロシア北極南極研究所・研究主管)

    

学位論文題名

Location and chemical form of water‑soluble impurities   and air bubble to clathrate hydrate transformation     in polar ice sheets

    

(極地氷床中に存在する水溶性不純物の分布と化学状態ならびに

    

空 気 包 接 水 和 物 結 晶 の 形 成 過 程 に 関 す る 研 究 )

  

極地 氷床 において掘削される深層氷コアは、高い時間分解能で古気候復元を可能 に する ばか りでなく、過去の大気組成を与える唯一の直接的な情報源である。しか し 、氷 コア から過去の気候・環境情報を詳細に読み取るためには,その指標となる 物 質が 氷床 表面に堆積して以降の質的変化や分布の変化を考慮する必要がある。特 に,様々な気候・環境変動の指標として広く用いられている各種イオンに関しては、

そ の存 在状 態および氷床における反応過程・拡散過程の解明が重要な課題である。

ま た、 大気 組成復元に関しては、気泡からクラスレート・ハイドレート(空気包接 水和物)への遷移過程における気体分別のメカニズムを解明することが急務である。

  

本研 究で は、顕微ラマン散乱法などの物理解析手法を用いて、南極ドームふじ観

測 拠点 で掘 削された深層氷コアを詳細に調べることによって、上記の課題を解決に

導 く重 要な 新事実を見出している。すなわち、気候・環境指標となるイオンの大部

分 が塩 微粒 子として存在することを見出し、同時にそれがクラスレート.ハイドレ

ー トの 核生 成の原因物質であることを明らかにしている。これらの結果は,いずれ

も これ まで の定説を覆すものであり,イオン濃度プロファイルの気候・環境指標と

し て の 信 頼 性 お よ び 大 気 組 成 復 元 の 信 頼 性 を 高 め る 新 た な 知 見 で あ る 。

  

本論 文は

3

章か ら成 り、 第1 章 では 、氷 コア 研究 にお ける 物理 解析 研究の意義お

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よ びこれ まで の研 究の 問題 点と 本研 究の 目的が述べられている。第2 章では、氷コ ア に含ま れる 水溶性不純物の分布と存在状態にっいて、実験方法およぴ結果と考察 が 述べら れて いる。特筆すべき点は、氷の内部に存在する多数の微小な介在物が硫 酸 塩をは じめ とする塩微粒子であることを見出したことにあり、総イオン量のかな り の部分 がこ の塩微粒子として氷結晶粒内に固定されていることを明らかにしてい る。この結果は,硫酸などの共晶点の低い酸f ま結晶粒界に液相として存在するとい う これま での 定説を覆すものであり,イオン濃度プロファイルの気候・環境指標と し ての信 頼性 を支 持す る画 期的 な新 知見 である。第3 章では、気泡からクラスレー ト .ハイ ドレ ートヘの遷移過程における気泡とクラスレート・ハイドレートの分布 の 詳細な 測定 結果とその解釈が述べられている。特筆すべき点は、気泡からクラス レ ート. ハイ ドレートへの遷移過程における未解決課題を解決に導く新説を提示し て いる点 にあ る。 すな わち 、ク ラス レー ト.ハイドレートの内部に第2 章で述べた 塩 微粒子 が存 在することを見出し、クラスレート・ハイドレートが塩微粒子を核と して生成することを述べている。これは、クラスレート.ハイドレートf ま気泡の表 面 (氷と 気体 の界面)で核生成するというこれまでの定説を覆すものであり、これ ま で説明 でき なかった遷移帯初期における異常に大きな気体分別の原因を明らかに したものである。

  

以上、 本研 究は、氷コア研究における長年の懸案を解決するものである。本研究 で 得られ た知 見は、氷コアによる古気候・古環境復元の信頼性を高めるばかりでな く 、これ まで 解釈の難しかった様々な物理現象や化学分析結果を塩微粒子という具 体 的な存 在に 基づいて議論することを可能にするものであり、氷コア研究の新たな 発展が期待される。また、一連の研究は、申請者自らが計画、実施したものであり、

研究者としての資質の高さを知るに十分なものである。

  

審査員 一同 は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱心であ り 、大学 院課 程における研鑚や取得単位なども併せ申請者が博士(地球環境科学)

の学位を受けるに充分な資格を有するものと判定した。

参照

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