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博士(地球環境科学)藤部貴宏

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Academic year: 2021

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博士(地球環境科学)藤部貴宏      学位論文題名

    Physiological and molecular genetic studies on UV‑B tolerance of paraquat ― resistant mutants     of Arabidopsis thaliana

  (シロイヌナズナのパラコート耐性突然変異体の UV‑B耐性に関する生理学的、分子遺伝学的研究)

学 位 論 文 内 容 の 要旨

  植物は光合成のために太陽光が必須であり、そのことは同時に紫外線にさらされるこ とを意味している。また、近年ク口口フルオロカーボンなどの大気中への放出によって オゾン層が減少することが懸念されており、オゾン層の減少に伴って地表面に到達する uv−B量が増加することが知られている。このオゾンの減少はすでに極地だけではなく、

大都市が集中する北アメリカやヨ―ロッパで確認されている。さらに、増加した紫外線 によって作物の収量が減少することも示唆されている(Teramuraら、1991)。今後の生 物資源の安定した確保を考えると、紫外線に対する防御機構の解明と耐性を持った植物 の作出が重要であると考えられる。

  紫外線を照射された植物体は、核酸やタンパク質の構造の変化や、活性酸素の発生に 伴う酸化ストレス、アポトーシスの促進などにより損傷を受ける。しかし植物はこの回 避できない紫外線照射によるストレスに対抗するために、紫外域に遮蔽効果を持つ色素 や、発生した活性酸素を除去する低分子化合物や酵素群、核酸に生じた変異を修復する 酵素などを持っている。

  パラコ―ト(メチルビオロゲン)は除草剤として開発された物質だが、植物体に吸収 されると葉緑体中で光化学系|から電子を受け取ルパラコ―トフリ―ラジカルヘと変化し て、酸素を活性酸素の一種であるス―パーオキシドヘと変化させる。また、UV―Bの照射 によっても葉緑体中で活性酸素が発生することが予想されるため(Rengerら、1986)、

このパラコ―トに対して耐性を示す突然変異体を単離してその耐性獲得機構を調べるこ とが、同時にuvーB照射に対する耐性機構の解明にっながると考えられる。そこで、本 研究ではパラコ―トに対して耐性を示す突然変異体を単離し、その突然変異体の耐性機 構 を 調 べ 、uv−B照 射 に よ る 損 傷 と の 関 わ り を 調 べ る こ と を 目 的 と し た 。   パラコ―卜を含む培地上で生育可能な突然変異体を約12,000系統の変異原処理した 突然変異体集団よルスクリ―二ングし、5系統のパラコート耐性突然変異体を得た。こ のうち最も強いパラコ―ト耐性を示した系統をpqrl (paraquat resistant)と名付け た。pqr´は劣性の突然変異体で、野生型と比べて小さく、成熟時の花茎の長さが野生 型の半分ほどで、特に葉柄が短かかった。また、葉の色が若干濃くなっていた。色素は ク口口フイル、アントシアニン、uvーB域に吸収を持つ色素全体についてそれぞれ調べた が、これら全てについて生重量あたりの蓄積量が野生型より多かった。パラコ―ト添加 培地上で生育させたときのク口口フイル量と根の成長を測定した結果、pqr´は野生型の

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4‑5倍のパラコート濃度に耐えられることがわかった。

  UVーB照射による傷害として、核酸の損傷や活性酸素による膜脂質の過酸化、光合成活 性の低下が知られているので、これらの損傷をpqr′で調べた。DNAの損傷産物である シクロブタン型ピリミジンダイマ―の蓄積量は、pqr´では野生型より少なかった。これ はpqr´で多く蓄積しているUVーB域に吸収を持つ色素による遮蔽効果の結果と考えら れる。また、過酸化脂質の生成により膜構造が維持できなくなったことによる細胞から の電解質の漏出も野生型より少なく、光合成活性の指標となるFv/Fmの低下も野生型よ り減少していた。これら2つの損傷は活性酸素が原因と考えられるので(Takeuchiら、

1995;Olssonら 、2000)、pqr′で は活 性酸 素の 除去活 性が 高い と考え られ る。

  フラボノイド合成系に変異を持つ突然変異体はuv―Bの照射に対して感受性を示す

(Liら、1993)。フラボノイド化合物の代表的な物質であるアントシアニンの蓄積量は pqr´で多く、さらにuv―B照射に伴う蓄積量増加の割合もpqr´の方が野生型より多か った。さらにフラボノイド合成系の鍵酵素となるフェニルアラニンアンモニアリア―ゼ (PAL)やカルコン異性化酵素(CHI)、カルコン合成酵素(CHS)のmRNA量を調べたとこ ろ、PALは野生型とほぼ変わらなかったのに対して、CHIとCHSについては、UV−B照射 後、pqr´の方が野生型より,mRNA量が増加していた。

  uv―Bの照射によって植物は光化学系に損傷を受け、飽和した電子が酸素と反応し葉緑 体中に活性酸素を発生させる。この活性酸素の除去に関わる酵素群についてmRNA量の 変化を調べてみると、pqr′ではストロマに局在する葉緑体型のアスコルビン酸ペルオキ シダ―ゼのmRNA量が野生型よりも多く、UV−B照射後のmRNA量も多いことがわかった。

しかし、細胞質型のアスコルビン酸ペルオキシダ―ゼの発現量はuvーB照射前、後とも に野生型よりも少なかった。また、ス―パーオキシドジスムタ―ゼ(SOD)について電気 泳 動後 の活性染色による酵素活性とmRNA量を調べた。細胞質型Cu/Zn SODは、pqr′ で有意な増加が見られなかったのに対して、葉緑体局在性SODの活性はuvーBの照射前 後共に野生型より高いことがわかった。これらの結果から、pqr´では葉緑体で野生型よ り高い活性酸素除去活性を保有していて、そのためにUV一B照射によって生じた活性酸 素に対して耐性になっていると考えられる。また、この葉緑体における活性酸素除去活 性の増加は、同じく葉緑体中に活性酸素を発生させるパラコート処理に対する耐性獲得 の原因であると考えられる。

  pqr′についてマッピングを行い原因遺伝子の特定を行ったところ、1番染色休上の CEロ′遺伝子で塩基置換が起こり、新たに終始コドンが形成されていることがわかった。

CEロ´遺伝子は酵母中に導入すると酵母が活性酸素耐性になる遺伝子として単離され、核 局在性タンパク質をコードしていて、転写因子と結合し転写の調節を行うことが報告さ れている(Belles―Boixら、2000)。

  pqr´は活性酸素の一種であるオゾンの曝露に対しては野生型よりも感受性を示した。

形態的な特徴とオゾン感受性という性質はrcdl突然変異体(Overmyerら、2000)と似 ているので相補性検定を行ったところ、PQR1とRCD1は同じ遺伝子座であることがわか った。rcdlは外生的なオゾンやスーパーオキシド処理によって、エチレンを介してアポ ト ー シ ス を 引 き 起 こ す こ と が 報 告 さ れ て い る (Overmyerら 、2000) 。   pqr´でオゾンの曝露によって細胞死が起こることは、ストレスの感知から応答までの シグナル経路にPQR1遺伝子が関与していることを示唆している。pqr′ではストレスを 与えていない状態でもストレスヘの防御機構が構成的に発動してしまい、本来は病原菌 の感染による過敏感反応として起こるアポトーシスが誤作動して、オゾン感受性が生じ たと考えられる。pqr´はこのストレス・シグナル経路の異常によって、本来ストレスが 加わってから誘導が起こるフラボノイド化合物などのuv一Bの遮蔽効果を持つ物質の蓄 積と、活性酸素の発生源の葉緑体における活性酸素除去酵素の活性の増加が起こり、そ

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の結果uv―B照射に対して耐性となると考えられる。本研究の結果から、高等植物のUV

―B照射に対する耐性獲得のために、uv―Bの遮蔽と活性酸素の除去が有効な手段である ことが結論できた。

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学位論 文審査の要旨 主査

副査 副査 副査 副査

教授 教授 助教授 助教授 教授

山 本 興 太 朗 , 田 中   奥 山 英 登 志 山 崎 健 一

竹 内 裕 一 ( 北 海 道 東 海 大 学 工 学 部 )

     学位論文題名

    Physiological and molecular genetic studies on UV‑B tolerance of paraquat‑resistant mutants      、of Arabidopsis thaliayza

     (シロイヌナズナのパラコート耐性突然変異体の     UV ・B 耐性に関する生理学的、分子遺伝学的研究)

  紫 外 線 を 照 射 さ れ た 植 物 は 、 核 酸 や タ ン パ ク 質 の 構 造の 変化 や、 活性 酸素 の発 生 に 伴 う 酸 化 ス ト レ ス 、 ア ポ ト ー シ ス の 促 進 な ど に よ り 損傷 を受 ける 。し かし 植物 は こ の 回 避 で き な ぃ 紫 外 線 ス ト レ ス に 対 抗 す る た め に 、 紫外 域に 遮蔽 効果 を持 つ色 素 や 、 発 生 し た 活 性 酸 素 を 除 去 す る 低 分 子 化 合 物 や 酵 素 群、 核酸 に生 じた 変異 を修 復 す る 酵 素 な ど を 持 っ て い る 。

  パ ラ コ ー ト ( メ チ ル ビ オ ロ ゲ ン ) は 植 物 に 吸 収 さ れ て、 葉緑 体中 で活 性酸 素を 生 じ る 。 ま た 、UVBの 照 射 によ っ ても 葉緑 体中 で活 性酸 素が 発生 する ため 、パ ラコ ー ト に 対 し て 耐 性 を 示 す 突 然 変 異 体 を 単 離 し て そ の 耐 性 獲得 機構 を調 べる こと が、 同 時 にUVB照 射 に 対 す る 耐 性機 構 の解 明に っな がる と考 えら れる 。そ こで 、本 研究 で は パ ラ コ ー ト に 対 し て 耐 性 を 示 す 突 然 変 異 体 を 単 離 し 、そ の変 異体 の耐 性機 構を 調 ベ 、UV‑B照 射 に よ る 損 傷 と の 関 わ り を 調 べ た 。

  12000系 統 の 突 然 変 異 体 集 団 よ ル パ ラ コ ー ト 耐 性 突 然 変 異 体 を ス ク リ ー ニ ン グ し 、5系 統 の 変 異 体 を 得 た 。 こ の う ち 最 も 強 い 耐 性 を 示 し た 突 然 変 異 体paraquaf resisぬ ヵfJ(pqrl)に つ い て 主 に 研 究 を 行 っ た 。pqrlは 劣 性 で 、 野 生 型 と 比 べ て 小 さ く 、 葉 の 色 が 若 干 濃 く な っ て い た 。 パ ラ コ ー ト 添 加培 地上 での 成長 を調 べた と こ ろ 、pqrlは 野 生 型 の45倍 パ ラ コ ー ト 耐 性 だ っ た 。

  UVB照 射 に よ る 傷 害 と し て 、 核 酸 の 損 傷 や 光 合 成 活性 の 低下 を調 べた 。DNAの 損 傷 産 物 で あ るCPDの 蓄 積 量 は 、pqrlで は 野 生 型 よ り 少 な か っ た 。 こ れ はpqrlで 多 く 蓄 積 し て い るuvB域 吸 収色 素 によ る遮 蔽効 果の 結果 と考 えら れる 。ま た、 光合 成

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活性 の指標とな るFv/Fmの低下 も野生型 より減少 していて 、pqrlがUV一Bに 対して 耐性であることがわかった。

  UV−Bの 遮蔽効果を 持っアントシアニンの蓄積量はpqrlで多く、さらにUvーB照射 に伴 う蓄積量増 加の割合 もpqrlの方が野生型より多かった。フラボノイド合成系の 鍵酵 素のmRNA量を調 べたところ、フェニルアラニンアンモニアリアーゼは野生型と ほぼ 変わらなか ったのに 対して、カルコン異性化酵素とカルjン合成酵素は、Uv―B 照射後、pぴ|の方が野生型よりmRNA量が増加していた。

  活性 酸素の除去 に関わる 酵素群に ついて調 べてみると、朋nではストロマに局在 する葉緑体型アスコルビン酸ペルオキシダーゼのmRNA量が野生型よりも多く、UV−B 照射 後のmRNA量も多 かった。また、スーパーオキシドジスムターゼについても、葉 緑体局在型酵素の活性がUV−Bの照射前後ともに野生型より高かった。これらの結果 から、pぴ´では葉緑体で野生型より高い活性酸素除去活性を保有していて、そのた めにパラコート耐性になっていると考えられる。

  伽nに ついてマッ ピングを 行い原因 遺伝子の 特定を行ったところ、同変異体では 1番染 色体上の箆W遺伝子で 塩基置換 が起こり 、新たに 終始コド ンが形成さ れてい るこ とがわかっ た。斑Wは 酵母中に 導入する と酵母が 活性酸素耐性になる遺伝子と して 単離され、 核局在性 タンパク質をコードしていて、転写因子と結合し転写調節 を 行 う こ と が 示 唆 さ れ て い る ( Belles Boixら 、 2000冫 。     活性 酸素を発生 するオゾ ン曝露に 対する感 受性を調べたところ、閉dは野生型よ り感 受性が高か った。さ らに、オゾンの曝露を止め、清浄な空気に戻しても損傷の 拡大 が進み、ア ポトーシ ス様の細 胞死を起 こした。 同様な反 応が門田(Overmyer ら、2000)で報告さ れている ので相補 性テスト を行った ところ、 朋Wは比Wと同 一 遺伝子座であることがわかった。

  以上の結果より、′珊´はストレス・シグナル経路を構成していて、pり´ではスト レス を与えてい ない状態 でもストレスへの防御機構が構成的に発動してしまい、本 来ス トレスが加 わってか ら誘導が 起こるフ ラボノイ ド化合物などのUv―Bの遮蔽効 果を 持つ物質の 蓄積と、 活性酸素の発生源の葉緑体における活性酸素除去酵素活性 の増加が起こり、その結果UV―B照射に対して耐性となると考えられる。本研究の結 果で は、色素に よるUいBの遮蔽効果により、発生する活性酸素量そのものが減少し ていると考えられるため、活性酸素除去酵素の増加がUV―B耐性に与える効果を十分 に評価することができなかったが、高等植物のUV−B照射に対する耐性獲得のために、

UV―Bの遮蔽が有効な手段であることが結論できた。

  以上 のとおり、 著者は高 等植物のUvIB耐性にお ける朋艚 遺伝子の 役割につい て 新知 見を得たも のであり 、植物のストレス耐性の理解に貢献するところ大なるもの がある。

  よっ て、著者は 博士(地球環境科学)の学位を受けるのに十分な資格を有するも のと判定した。

参照

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