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博士(地球環境科学)

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Academic year: 2021

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博士(地球環境科学)   吉川知里

    

学位 論 文 題 名

Study on the Marine Nitrogen Cycle in the Western     and Central Equatorial Pacific and the Sea of     Okhotsk uslngtheNitrogenISotopiCRatio

(窒素同位体比を用いた西部・中央部赤道太平洋と

    

オ ホ ー ツ ク 海 に お け る 窒 素 循 環 の 研 究 )

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

窒 素は 海洋 生物 に必 要 不可 欠な 栄養 塩で あるた め、海洋生物生産メカニズム について議論する 上で窒素循環の 理解は極めて重要であると考 えられる。海洋において窒 素は、生物地球化学的な 内 部の 循環 とこ の循 環 への 外部 から の窒 素の流 入出(陸起源窒素の供給や窒 素固定、脱窒、水 平移流)によっ てその分布が規定されている 。これまで生物地球化学的 な内部の循環に関する研 究はたくさん行 われてきたが、外部との窒素 の流入出に関する研究は海 水循環を考慮する必要が あることと外部との窒素の流入出が局所的に起こるためにまだ十分明らかになっていない。しかし、

海 域ス ケー ルの 窒素 循 環の 理解 には 、生 物地球 化学的な内部の循環だけでは なくこの循環への 外部からの窒素 の流入出も考慮する必要があ ると考えられる。本論文では、この外部との窒素の流 入出も考慮する ためにそのトレーサーである 窒素同位体比とN*を用いて 西部・中央部赤道太平洋 とオホーツク海 の窒素循環メカニズムについ て議論した。また、生物地球化学的な内部の循環とこ の 循環 ーの 外部 から の 窒素 の流 入出 の両 方を考 慮した包括的かつ定量的た考 察を目的として、

赤 道海 域で は窒 素同 位 体を 含む 窒素 収支 モデル を構築し、オホーツク海では 窒素同位体を含む 海洋生態系モデ ルを構築した。

中 央部 赤道 太平 洋の 硝 酸の 窒素 同位 体比 は 、通 常の 海域 で 見ら れる 表層 へ向 か って 高く なる 分布を示した。 これは植物プランクトンが同位体分別を起こしながら14Nからなる軽い硝酸を選択的 に取り込むため である。このような海域では 硝酸の窒素同位体比とその 濃度の対数の関係は直線 関係を示すはず である。しかし中央部赤道太 平洋ではサイ卜ごとに異なる東西方向に規則正しく並 行にずれた直線 関係を示した。このような分 布はこれまで報告された例はなく、この海域特有の分 布であると考え られる。この特徴的な分布に ついて考察するため、窒素 同位体を含む窒素収支モ デルを構築して この海域の硝酸供給ルートに ついて考察した。その結果 、「表層水への硝酸供給 ルートが通常の 海域でみられる亜表層からの 鉛直方向の供給よりも東赤 道海流による東部赤道太 平洋からの水平 方向の供給の方が主である」 ことが明らかになった。一 方、西部赤道太平洋の ffesh pool と 呼ばれる塩分の低い水塊中の 硝酸の窒素同位体比は表層 にもかかわらず低い値を 示した。これは 低い窒素同位体比をもつ陸起 源窒素の付加を意味し、この結果から「fresh poolの 硝酸は陸や窒素 固定を由来とした窒素が起源 である」ことが明らかになった。このfresh poolが表 層 を覆 って いる 海域 の 沈降 粒子 の窒 素同 位体比 は硝酸の窒素同位体比と同じ く低い窒素同位体 比を示し、その 季節変化はTRITONブイによっ て観測された塩分の変動と 非常によく一致した。こ

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のことから 「西部赤道太平洋の沈降粒 子の窒素同位体比はfresh poolの移動に伴う硝酸の起源の 変化を卜レ ースしていた」ことが明ら かになった。

オホーツク 海の硝酸の窒素同位体比も 、植物プランク卜ンによる硝 酸同化時の同位体分別にとも なぃ表層へ 向かって高くなる分布を示 した。この分別係数は、北太 平洋の観測点の係数やこれま でに報告さ れた係数よりもかなり小さ ぃ値を示した。分別係数が小 さぃ原因は低い窒素同位体比 をもつ陸起 源窒素の付加であると考えられ、この結果から「オホーツク海では大気やアムール川か ら陸起源窒 素が供給されている」ことが明らかになった。一方、非常に古い海水であるDeryugin海 盆直上の底 層水では硝酸濃度の減少と 窒素同位体比の上昇が見られ た。このことから「Deryugin 海盆直上の 底層水では脱窒が起こっているJことが明らかになった。また、N*の分布も調べることで 硝酸の窒素 同位体比からはほとんど同 位体分別がおこらなぃため判 別できない「堆積物中の脱窒 が北西部大 陸棚の海底で起こっている 」ことも明らかになった。

最 後に 、赤 道 域で 構築 した 窒素 収 支モデルよりも生物地球化 学的な内部の循環をより正確 に扱 っ た窒 素同 位 体を 含む 海洋 生態 系 モデルを今回初めて構築し た。本論文では、窒素同位体 を含 む 生態 系モ デ ルを 用い た研 究の 第 一段階として、生物地球化 学的な循環のみでおおよそ表 現可 能なオホー ツク海サハリン東岸沖の表 層へ適用し、オホーツク海で 得られた沈降粒子の窒素同位 体 比の 季節 変 化に つい て考 察し た 。その結果、モデルは沈降 粒子の窒素同位体比の季節変 化を 再現し、「 オホーツク海の沈降粒子の 窒素同位体比が冬に高い値を 示す要因は、これまでの研究 で示唆され てきた沈降粒子中の動物プランクトンの占める割合が増加するためだけではなく、今回 新 た に 硝 化 に よ る 窒 素 同 位 体 比 の 上 昇 も 主 な 要 因 の1っ で あ る 」 こ と を 示 唆 で き た 。 本 論文 では 窒 素同 位体 比とN*を 用 いることで、陸起源窒素の 供給や窒素固定、脱窒、水平 移流 などによる 外部からの窒素の流入出を卜レースすることができた。また、窒素同位体を含む窒素収 支モデルを 用いることで、観測で得ら れた窒素同位体比を生物地球 化学的な内部の循環とこの循 環への水平 移流による窒素の流入出の両方を考慮して考察を行うことができた。さらに、窒素同位 体 を含 む生 態 系モ デル を用 いる こ とで、生物地球化学的な内 部の循環に関して定量的かつ 詳細 な考察を行 うことができた。これらの結果から、本論文で構築した窒素同位体を含む生態系モデル に 陸起 源窒 素 の供 給や 窒素 固定 、 脱窒などの過程を今後新た に導入することで生物地球化 学的 な内部の循 環とこの循環への外部から の窒素の流入出の両方を考慮 した考察がさまざまな海域で 可能になる ことが示唆された。

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学位論文審査の要旨 主査   助教授   中塚   武 副査   教授   南川雅男 副査   教授   吉,川久幸 副査   助教授   山中康裕

副 査

  

プ ロ グ ラ ム デ イ レ ク タ ー

    

和田英太郎(地球環境フロンテイア

    

研究センター)

    

学位論文題名

Study on the Marine Nitrogen Cycle in the Western     and Ceritral Equatorial Pacific and the Sea of     Okhotsk uslngtheNitrogenISOtopiCRatiO

( 窒 素 同位 体 比を用い た西部・中 央部赤道 太平洋と

    

オ ホ ー ツ ク 海 に お け る 窒 素 循 環 の 研 究 )

  

海洋において窒素は、全ての生物の成長に不可欠な栄養塩であり、その循環を理解するこ とは、海洋の生物生産カの変動や地球規模での炭素循環など、地球環境の将来を予測する上 で極めて重要である。海洋における窒素循環は、次の2 つの要素、即ち、内部循環と外部循 環からなる。内部循環とは、植物プランクトンによる硝酸塩やアンモニウム塩の取り込みと 有機化、動物プランクトンや魚などによる有機態窒素の食物連鎖を通じた変換、バクテリア による有機態窒素の分解、アンモニウム塩の硝化など、海洋生態系の内部で回っている窒素 の循環である。一方で海洋には、通常生物が利用できない莫大な量の窒素が窒素ガスの形で 溶け込んでおり、藍藻などの一部の生物が窒素固定という方法で、これを窒素の内部循環に 組み込む役割を果たしており、逆に、生物に利用可能な窒素の一部は、脱窒(硝酸呼吸)と いう方法で、内部循環から窒素ガスの形で外部に排除されていく。また海洋生物に利用され る窒素の一部は、大気や河川を介して外部、即ち陸面から供給されたり、大規模な海流によ って、隣接する他海域から運び込まれたりしている。

  

これまで海洋学では、窒素の内部循環について数多くの研究がなされてきたが、その外部 とのやり取り、即ち陸起源窒素の流入や窒素固定、脱窒、海流による窒素の他海域との出入 りなどについては、多くの研究がなされてこなかった。その原因は海洋における窒素の外部 とのやり取り,が、空間的に極めて不均質に起こるため、培養実験などのミクロスケールの生

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物地球化学的手法では解明できない現象だったからである。筆者は、この海洋における窒素 の外部循環の問題に、硝酸塩等の窒素同位体比とN* という新しい化学トレーサーを用いて、

正面から取り組んでいることに、まず大きな意義がある。

  

海洋の主要栄養塩である硝酸塩の窒素同位体比は、窒素の外部とのやり取りで極めて大き く変動するため、その同位体比の広域分布から、海域スケールでの窒素の外部循環の情報を 抽出することが可能である。その値は、しかし窒素の内部循環でも変動するため、これまで 十分な解析が行われてこなかったが、本論文では硝酸塩の濃度分布の情報を、適切な海洋循 環モデルを用いて同位体比分布の解析に組み込むことで、硝酸塩の窒素同位体比から窒素の 外部循環の情報のみを抽出することに成功している。一方、海洋における硝酸塩とりン酸塩 の濃度差に着目したトレーサーであるN* は、窒素の内部循環では変化せず、もっぱら外部循 環の影響を受けて変動するため、本論文ではこのN* を窒素同位体比と組み合わせて、さまざ まな解析を効果的に行っている。

  

本論文では、まず西部・中央部赤道太平洋において、表層水中の硝酸塩の窒素同位体比の 東西分布を世界で初めて詳細に明らかにし、その分布が、東赤道太平洋域で湧昇した硝酸塩 の大規模な西方輸送でもたらされていることや、東南アジア域からの陸起源窒素の流入や窒 素固定などの影響を受けていること、また、硝酸塩の窒素同位体比に記録された窒素の外部 循環の時空間変動の情報が、沈降粒子の形で堆積物に輸送され、古海洋学的に解析可能であ ることなどを、海洋循環モデルの解析およびセジメ ントトラップ実験などを通じて、明らか にしている。更に、オホーツク海では、硝酸塩の窒素同位体比とN* の分布の解析から、北西 部大陸棚の堆積物中で活発な脱窒が生じており、その情報が低N* 水という形でオホーツク海 の中層を通って北太平洋中層水まで広く及んでいること、オホーツク海表層には大気エアロ ゾルおよびアムール川からもたらされた陸起源窒素が広く分布していること、オホーツク海 中央部の深海盆では水柱中での脱窒が起きていること等々を、初めて明らかにした。最後に、

オホーツク海西部において、表層生態系モデルに窒素同位体比を詳細に組み込み、セジメン トトラップで観測された沈降粒子の窒素同位体比の季節変動を再現して、窒素同位体比の測 定から植物プランクトンの栄養塩の選択性が解明できることや、冬季における表層水中での 硝化過程の重要性などを、初めて示唆した。

  

筆者は、一連の研究の中で、海洋での現場観測、実験室での窒素同位体比の分析、海洋循 環・生態系のモデリング、という異質な3 種類の仕事を一人でこなし、それらを統合するこ とに成功した世界で初めての研究者であり、本申請論文は、窒素同位体比を海洋循環・生態 系モデルに組み込んで、実際に観測・分析される窒素同位体比のデータを多角的に解析して いくという新しい研究分野を開いたという意味で意義深く、今後の大きな発展が期待される。

  

審査員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かっ熱心であり、これ までの研究論文の発表状況なども合わせて、申請者が、博士(地球環境科学)の学位を受け るのに十分な資格を有するものと判定した。

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参照

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