博士(地球環境科学)佐藤佳宏 学位論文題名
Photodissociation Dynamics of Atmospheric Trace Molecules ( 大 気 微 量 成 分 分 子 の 光 解 離 ダ イ ナ ミ ッ ク ス )
学 位 論 文 内 容 の 要旨
大気微量成分分子が、オゾン層の減少やPSC(極成層圏雲)の形成のきっかけになる塩素原子や硫 黄原子などを、光解離反応によって放出する際の電子状態の対称性及び解離性ポテンシャル上振る舞 いを知る為に、従来から光解離分光法が用いられてきた。これは対象となる分子を特定のポテンシャル に光励起して、そこから解離放出される原子や分子のフラグメントの並進エネルギー及び角度分布から 元の分子の電子状態の対称性やエネルギー分配を知る物である。しかし従来型の実験方法では解析 に必要な情報を得る為に多数回の実験が必要であったり、光解離用と検出法の2つのレーザー光源が 必要など難点が多かった。そこで今回、たった1回の実験で解離するフラグメントの電子・振動・回転状 態、質量を選択して、並進速度及び角度分布を同時に画像として観測する事が可能な「光イオン画像 分光装置」を自作し、OCS,HNCO,NOCI,(CH3):1COC1,CCl4,SOClzの光解離ダイナミックスを研究し た。
OCSの230 nmの光 解離 から 放 出されるCO分子は振動状態がv 0であり、 パートナーの硫黄原子の 励起に向かう以外の内部エネルギーは全て回転エネルギーに分配されなおかつJ 40以上に高回転励 起しているという特徴を持つ。またこの波長域のOCSの解離性ポテンシャルヘの励起は平行遷移のは ずであるが、観測されたCO分子の角度分布から、回転準位が比較的低い場所では垂直遷移も混在し た特徴を持っていた。この事からこの波長域のOCSの光解離は2つの解離経路を持ち、一っは水平・
垂直遷移の2つのポテンシャルに励起しそこから他ポテンシャルへのクロッシングにより低い回転準位の C〇分子を解離生成する経路 で、もうーっは単一の水平遷移のポテンシヤルから高い回転準位のCO 分子を解離生成する経路である事がわかった。
l‑INCOの2L7 nmの光 解離 によ るCO分子 の光 イオ ン画 像を解析した。 この波長域のHNCOの解離 性ポテンシャルヘの励起は垂直遷移であり、画像から得られた角度分布も垂直遷移の特徴を示しよく一 致した。またサプライザルプロットによる回転エネルギー分布の解析においても以前報告されていた 230 nm及び193 nmの結果から得られるものとよく一致しており、大きな回転エネルギーを持ち、並進 エネルギーへの分配が小さい事が分かった。
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N〇Cl,(CH:J:lCOC1,CCI.,. SOCl2の235 nmの光解離に より、同時に生成するスピン 軌道の異なる塩 素 原 子CI/Cl*の そ れ ぞ れ の 光 イ オ ン 画 像 の 解 析 か ら 、 こ れ ら 塩 素化 合物 の光 解 離に は大 きく3種 類 の 光 解 離 過 程 が あ る 事 が わ か っ た 。 一 つ 目 はCCI.IやSOCIZの低 い 並進 エネ ルギ ーの 成 分の 様に 、 ボ ルツ マン 分布 を 持っ もの であ る。 こ れは解離ポテンシャ ルの曲面に沿って急速に解離 したものではな く 、一 度光 励起 し た後 に振 動励 起し た 基底状態のポテンシ ャルから熱的に前期解離した ものである。ニ つ 目 は 、(CH:)3COC1やNOC1の 大 き な 並 進 エ ネ ル ギ ー の 成 分 の 様 にCl/Cl*と も ほ ぼ 同 じ 分 岐 比 を 持っ てい るも の であ る。 これ は同 一 の解 離性 ポテ ンシ ャ ルヘ 励起 した 後 にCI/C1*生成 するポテンシ ヤ ルに 同じ 割合 で 非断 熱的 に分 岐し た 結果 によ るも ので あ る。 三っ 目は 、S〇Cl2とCCl4の大きな並進 エ ネ ル ギ ー の 成 分 やNOCIの 小 さ な 並 進エ ネル ギー を 持っ 成分 で、Cl/Cl*のど ちら か一 方 しか 生成 さ れないもので ある。これは、CI/.Cl*を生成するそれぞれの解離性ポテンシャルが、アボイデッドクロッシ ン グを する 直前 の とこ ろに 各分 子が 励 起さ れる 為に 、Clま たはCl* のど ち らか 一方 だけ が断熱的な経 路で生成され た結果によるものである。
本 研究 によ り、230nm付 近の 各 大気 微量 成分 分 子の 光解 離ダ イナ ミックスを明らかにす る事が出来た。
こ れら の研 究の 結 果に より 得ら れた 解 離過 程の 解明 と初 期 並進 エネ ルギ ー 及び 角度 分布 のデータは、
大気化学をシ ュミレート上で重要な初期条 件を与えるものと期待でき る。
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学位論文審査の要旨
主査 教授 竹村 健 副査 教授 中村 博 副査 教授 松島龍夫
副査 教授 川崎昌博(京都大学大学院工学研究科)
学 位 論 文 題 . 名
Photodissociation Dynamlcs of Atmospheric Trace Ix/Iolecules ( 大 気 微 量 成 分 分 子 の 光 解 離 ダ イ ナ ミ ッ ク ス )
大 気微量 成分分子 が、オゾ ン層の 減少やPSC(極 成層圏雲)の形成のきっかけになる塩素原子 や 硫黄原子 などを 、光解離 反応によって放出する際の電子状態の対称性及び解離性ボテンシャル 上 振る舞い を知る 為に、従 来から光解離分光法が用いられてきた。これは対象となる分子を特定 の ボテンシ ャルに 光励起し て、そこから解離放出される原子や分子のフラグメントの並進エネル ギ ー及び角 度分布 から元の 分子の電子状態の対称性やエネルギー分配を知る物である。しかし従 来 型の実験 方法で は解析に 必要な情報を得る為に多数回の実験が必要であったり、光解離用と検 出 法の2っのレ ーザー光 源が必 要など難 点が多か った。 そこで今 回、た った1回の実験で解離す る フラグメ ントの 電子・振 動・回転状態、質量を選択して、並進速度及び角度分布を同時に画像 として観測する事が可能な「光イオン画像分光装置」を自作し、OCS,HNCO,NOC1,(CHユ)ユCOC1, CCIユ,SOCl2の光解離ダイナミックスを研究した。
OCSの230 nmの 光 解 離 か ら 放 出 さ れ るCO分 子 は 振 動 状 態 がv=0であ り 、 バー ト ナ ー の硫 黄 原 子 の励 起 に 向かう 以外の内 部エネル ギーは 全て回転 エネル ギーに分 配され なおかつJ40以 上 に 高 回転 励 起 してい るという 特徴を持 つ。ま たこの波 長域のOCSの解 離性ボ テンシャ ルへの 励 起は平行 遷移の はずであ るが、 観測され たCO分子 の角度分 布から 、回転準 位が比較的低い場 所 で は 垂直 遷 移 も混 在 し た特 徴 を 持 って い た。この 事から この波長 域のOCSの光解 離は2つの 解 離経路を 持ち、 一っは水 平・垂 直遷移の2っの ボテン シャルに励起しそこから他ボテンシャル へ のクロッ シング により低 い回転 準位のCO分 子を解 離生成す る経路 で、もう ーっは単一の水平 遷 移 の ボ テン シ ャ ルか ら 高 い回 転 準 位のCO分 子を 解 離 生成 す る 経路 で あ る事 が わ かっ た 。
HNCOの217 nmの 光解 離 によ るCO分子の 光イオン 画像を解 析した。 この波長 域のHNCO の解離性ボテンシャルへの励起は垂直遷移であり、画像から得られた角度分布も垂直遷移の特徴 を示しよく一致した。またサブライザルブロットによる回転エネルギー分布の解析においても以 前報告されていた230 nm及ぴ193 nmの結果から得られるものとよく一致しており、大きな 回 転 エ ネ ル ギ ー を 持 ち 、 並 進 エ ネ ル ギ ー へ の 分 配 が 小 さ い 事 が 分 か っ た 。 NOCL (CHユ)ユcocL CCl4,SO Cl:の235 nmの光解離により、同時に生成するスピン軌道の 異なる塩素原子Cl/Cl*のそれそれの光イオン画像の解析から、これら塩素化合物の光解離には 大きく3種類の光解離過程がある事がわかった。一つ目はCCl4やSO Cl2の低い並進エネルギ ーの成分の様に、ボルツマン分布を持っものである。これは解離ボテンシャルの曲面に沿って急 速に解離したものではなく、一度光励起した後に振動励起した基底状態のボテンシヤルから熱的 に前期解離したものである。二つ目は、(CHユ)3COC1やNOC1の大きな並進エネルギーの成分 の様にCl/Cl*ともほば同じ分岐比を持っているものである。これは同一の解離性ボテンシャル ヘ励起した後にCl/ Cl*生成するボテンシャルに同じ割合で非断熱的に分岐した結果によるも のである。三つ目は、SOC1ユとCC1。の大きな並進エネルギーの成分やNOC1の小さな並進エネ ルギーを持つ成分で、Cl/Cl*のどちらか一方しか生成されないものである。これは、Cl/Cl*を 生成するそれそれの解離性ボテンシャルが、アボイデッドクロッシングをする直前のところに各 分子が励起される為に、ClまたはCl*のどちらか一方だけが断熱的な経路で生成された結果に よるものである。
本研究により、230nm付近の各大気微量成分分子の光解離ダイナミックスを明らかにする事か 出来た。これらの研究の結果により得られた解離過程の解明と初期並進工ネルギー及び角度分布 のデータは、大気化学をシュミレートをする上で重要な初期条件を与えるものと期待できる。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における取得単位なども併せ申請者が 博 士 ( 地 球 環 境 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。