博士(地球環境科学)佐藤大介
学 位 論 文 題 名
超分子 ローターカチオンを有する[ Ni ( dmit ) 2 ]塩の 構 造と物 性に関 する研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
現在社会は様カなエネルギーを動力源として利用している。多くの動カシステムにおいて,
機械エネルギーに変換する過程で熱エネルギーを経由する。熱エネルギーを経由する過程は 変換効率にロスを生じやすく,熱エネルギー生成に化石燃料などの燃焼が伴えば,ニ酸化炭素 の発生により温室効果を引き起こす原因にもなる。新規のエネルギー変換システムが構築で きれぱ,環境に与える負荷を軽減するなど多くの問題を解決できると期待される。生体におい てはATPsynthaseなどに代表される分子モーターが,エネルギー源としてATPや水素イオンな どを利用し,高効率でエネルギー変換を行っている。これらの機構を模倣し人工的に応用して いくことで新しいエネルギー変換システムが構築できると考えられる。人工分子モーターの モデル分子として,これまで様々な化合物が合成されているが,その多くは溶液中で一方向 の分子回転を実現するにとどまっている。デバイスなどへの応用を考えた場合,固相での分子 モーターの開発が重要となる。
本論文では有機カチオンとクラウンエーテルから形成される超分子カチオンを用いること で,固体結晶中で様カな分子ローター構造の作製を行った。分子モーター実現への前段階とし て,ランダムな運動を行う回転子である,分子ローターの形成を目標とした。将来の機械エネ ルギーから電気的エネルギーへの変換を視野に入れ,カウンターアニオンとして開殻構造を有 する[Ni(dmit)2]錯体を用い,結晶に磁性や導電性を導入した。得られた結晶の構造ならびに物 性 を 明 ら か に す る こ と で , 結 晶 内 で の 回 転子 の 設 計 ,機 能 開 拓へ の 指 針を 示 し た。
本論文は全7章からなり,各章の内容は以下のとおりである。
第1章では,本研究の目的,研究の背景を述べた。
第2章ではanilinium([18lcrown‑6)[Ni(dmit)2]結晶において,ベンゼン環ならびに[18]crown‑6 の2種類の回転子が,結晶中に共存することを明らかにした。それぞれの回転子は異なる速度 で 回 転 し て い た 。ま たaniliniumの回 転 環 境 を変 化 さ せる た めdibenzo[18]crown‑6, dicyclohexyl[18]crown‑6を用いてローター構造を構築した。dibenzo[18]crown‑6を含む結晶にお いて,結晶構造を基にしたHF法による理論計算から回転障壁を見積もり,ベンゼン環のフリ ップ運動が抑制されていることを明らかにした。また,dicyclohexyl[18]crown‑6を含む結晶に おいてもベンゼン環のフリップ運動が抑制されていた。いずれの結晶も超分子カチオン構造 の変化とともに[Ni(dmit)2]配列も大きく変化し,dicyclohexyl[18]crown‑6を含む結晶においては
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[Ni(dmit)2]間に 強磁性 的な相 互作 用が観 察され た。
第3章 で はaniliniumにNH2基 を 導 入 し たo‐ ,m‑,p| フ ェ ニ レ ン ジ ア ミ ン の モ ノ プ ロ ト ン 化 体 (HOPD十 ,HMPD゛ ,HPPD゛ ) を カ チ オ ン と し て 用 い て[18]crown‑6と の 超 分 子 カ チ オ ン を 形 成 し , [Ni(dmit)2]結 晶 内 に 導 入 し た 結 果 を 述 べ た 。 ベ ン ゼ ン 環 に 置 換 基 を 導 入 す る こ と で フ リ ッ プ 運 動を抑 制し ,[18]crown‑6のみ の回 転運動 を示す 結晶の 作製を 行っ た。
HOPD゛([18]crown‑6)[Ni(dmit)2]結 晶 で は 超 分 子 カ チ オ ン が ダ イ ポ ー ル 相 互 作 用 に よ り 密 な 層 状 構 造 を 形 成 し , ベ ン ゼ ン 環 の フ リ ッ プ 運 動 が 抑 制 さ れ て い る こ と を 明 ら か に し た 。[18]crown‑6 は 結 晶 中 で 回 転 し て お り , そ の 速 度 は200Kで 約50 kHzと 見 積 も ら れ た 。 結 晶 構 造 解 析 か ら 300K以 上 で [18lcrownー6の 酸 素 原 子 を 倍 の12原 子 確 認 し ,C6の 対 称 性 を 持 つ[18]crown‑6が 1200ご と だ け で な く60° ご と に も 回 転 ポ テ ン シ ヤ ル の 極 小 を 持 ち 回 転 し て い る こ と を 示 し た 。 HMPD十([18]crown‑6)[Ni(dmit)2]結 晶 に お い て も , 結 晶 構 造 か ら フ リ ッ プ 運 動 が 可 能 な 空 間 が 確 保 さ れ ず ベ ン ゼ ン 環 の 回 転 が 抑 え ら れ た こ と を 確 認 し た 。 こ の 結 晶 で は[18]crown‑6は120度 周 期 の 回 転 ポ テ ン シ ヤ ル の も と で 運 動 し て い た 。[Ni(dmit)2]分 子 は 梯 子 型 の ダ イ マ ー チ ェ ー ン 構造を 形成 し,磁 化率の 挙動は スピ ンラダ ーモデ ルと良 く一致 した 。
第4章 で は[Ni(dmit)2]の 部 分 酸 化 錯 体 結 晶 ヘ 分 子 ロ ー タ ー 構 造 を 導 入 す る こ と で , 分 子 回 転 と 伝 導 性 が 相 関 を 持つ 結 晶 の 作 製 を試 み た 。 カ チオ ン に は2‑fluoroanilinium,3‑fluoroanilinium, 213−dinuoroaniliniumな ど フ ッ 素 を 置 換 し た ア ニ リ ニ ウ ム 等 を カ チ オ ン と し て 用 い て 結 晶 を 作 製 し た 。 結 晶 構 造 と 磁 気 物 性 並 び に 電 気 伝 導 性 を 明 ら か に し た 。 結 晶 内 で は ベ ン ゼ ン 環 の フ リップ 運動 が可能 な空間 が確保 され ていな いこと が判明 した。
第5章 で は カ チ オ ン と し て ア ダ マ ン チ ル ア ン モ ニ ウ ム を 用 い る こ と で 結 晶 内 で の ア ダ マ ン タン部 位の 回転を 実現し た。[18]crown‐6,dibenzo[18]crown‐6,dicyclohexyl[18]crown―6の3種類 の ク ラ ウ ン エ ニ テ ル と ア ダ マ ン チ ル ア ン モ ニ ウ ム (Am岨3十 ) か ら な る 超 分 子 カ チ オ ン を 形 成 し 附i(dmiD2] 結 晶 に 導 入 し た 。 得 ら れ た 結 晶 に つ い て 結 晶 構 造 解 析 , 固 体NMR測 定 に よ る 分 子 回 転 評 価 , 並 び に 磁 化 率 測 定 か ら 磁 性 の 評 価 を 行 っ た 。 い ず れ の 結 晶 に お い て も120K以 下 ま で ア ダ マ ン タ ン 部 位 が 回 転 し て い る こ と が 判 明 し た 。 ベ ン ゼ ン 環 に 比 べ 等 方 的 な 形 状 を 持 つ ア ダ マ ン タ ン を 用 い る こ と で , よ り 回 転 障 壁 の 低 い 分 子 ロ ー タ ー が 作 製 で き た 。 ま た
(ADNH3゛) (dicyclohexyl[18]crown.6)[Ni(dmiD2]結晶については,結晶構造からアダマンタンの回 転 環 境 が 非 対 称 で あ る 可 能 性 が 示 唆 さ れ , 理 論 計 算 に よ り 回 転 ポ テ ン シ ャ ル の 評 価 を 行 っ た 。 以 上 , 本 学 位 論 文 に 紹 い て 種 女 の 分 子 ロ ー タ ー を 結 晶 中 に 作 製 し , そ の 構 造 を 明 ら か に す る と と も に 分 子 の 回 転 速 度 や 周 期 性 , 磁 性 な ど の 物 性 を 評 価 し た 。 超 分 子 化 学 的 手 法 を 用 い た 分 子 ロ ー タ ー の 作 製 は , こ れ ま で の 共 有 結 合 を 用 い た 分 子 ロ ー タ ー の 構 築 法 と 比 較 し て , 極 め て 容 易 で あ る 。 今 後 超 分 子 化 学 的 手 法 を 用 い た 分 子 ロ ー タ ー 研 究 か ら 機 能 性 分 子 モ ー タ ー 開発に 発展 できる ものと 期待さ れる 。
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