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博 士( 地 球環 境科 学 )帖佐直幸

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Academic year: 2021

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博 士( 地 球環 境科 学 )帖佐直幸

学 位 論 文 題 名

昆 虫 の フ ェ ノ ー ル 酸 化 酵 素 前 駆 体 活 性 化 系 を 構 成 す る セ リ ン プ ロ テ ア ー ゼ に 関 す る 研 究

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  昆 虫の 体液 を体 外に 取 り出すと一般に黒化すること が知られている。これは体液中のフ ェノ ール 酸化 酵素 前駆 体 が活性化されて、体液内に存 在するチロシンやドーパを酸化し、

メラ ニン が形 成れ たた め である。このフェノール酸化 酵素前駆体の活性制御機構はフェノ ール 酸化 酵素 前駆 体活 性 化系と呼ばれており、体液の 血漿部分に存在することが明らかに なっている。フェノール酸化酵素前駆体活性化系は、カピの細胞壁成分であるロ‐1,3‐グル カン やバ クテ リア の細 胞 壁成分であるぺプチドグリカ ンが、数十〜数百ピコグラム存在す ると 活性 化カ スケ ード の 引き金が引かれることが明ら かになっており、その際、少なくと も二 種類 のセ リン プロ テ アーゼ前駆体が活性化するこ とが知られている。一っはフェノー ル酸 化酵 素前 駆体 活性 化 酵素で、この酵素はフウノー ル酸化酵素前駆体を限定分解によっ て切 断し 、活 性化 させ る 。そしてもうーっは、ベンゾ イルアルギニンエチルエステルを良 く 加 水 分 解 す る こ と から 、仮 にBAEEase、 そ の前 駆体 をproBAEEaseと呼 んで いる 酵素 で ある 。ProBAEEaseは昆 虫 血漿 中に 存在 する セリ ンプ ロテ アー ゼ前 駆体 とし ては 初めて家 蚕血 漿画 分か ら精 製さ れ た酵素で、これまでの研究か らフェノール酸化酵素前駆体の活性 化に は直 接関 与せ ず、 活 性化カスケードの途中から枝 分れした位置に存在していることが 明ら かに なっ てい る。 し かし 、proBAEEaseの生 体内 での 基質 や機 能は 未だ 明ら かになっ てい ない 。そ こで 、本 研 究ではこのセリンプ口テアー ゼの生体内における具体的な機能を 明らかにすることを目的とする。

  ま ずproBAEEaseの 一 次 構 造 か ら そ の 機 能 を 推 定す る目 的で 、cDNAの クロ ーニ ング を 行 っ た 。 精 製proBAEEaseを り ジ ル エ ン ド ペ プ チ ダー ゼで 処理 した 後、 逆相HPLCで分 離 し、 それ ぞれ のべ プチ ド 断片のアミノ酸配列を決定し た。この情報を基にオリゴヌクレオ チ ド プ ラ イ マ ー を 作 成し 、家 蚕5齢幼 虫の 脂 肪体 のcDNAラ イブ ラリ ーを スク リー ニン グ した 結果 、polyA及 び開 始メ チオニンを含む2,102 bpのクローンを得ることができた。こ のク ロー ンの 全塩 基配 列 のうちコーディングリージョ ンは1,107 bpで、proBAEEaseは369 個 の ア ミ ノ 酸 で 構 成 され てい るこ とが 明ら かに なっ た。 さら に相 同性 検 索とBAEEaseの アミ ノ酸 配列 の情 報か ら 、24残基 のシ グナ ルペ プチ ド、 活性 化の 際の 切断 部位 を挟んで ア ミ ノ 末 端 側 に88残 基の 軽鎖 、カ ルポ キシ ル末 端に257残 基の 重鎖 の存 在が 示さ れた 。 また 、軽 鎖に おい ては6個の シス テイ ン残 基が それ ぞ れ3対の ジス ルフ ィド 結合 を構成す るク リッ プド メイ ンの 配 列が、重鎖ではセリンプロテ アーゼの活性中心を構成するヒスチ

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ジン、アスバラギン酸、セリン残基の存在がそれぞれ確認できた。クリップドメインはカ ブトガニの血液凝固系を構成するプロクロッテイングェンザイムで初めて発見され、その 後、節足動物のプロテアーゼにおいて数例報告されている。その機能については明らかに なっていないが、クリップドメインをもつ酵素の大部分がある種のカスケード反応に関与 していることから、カスケード反応の活性調節の機能が示唆されている。ProBAEEaseの クリップドメインについては、抗クリップドメイン/lgGを用いたウェスタンブロット解 析の結果、活性化の際に軽鎖の一部が重鎖から遊離され、クリップドメインが単独で存在 することが示された。活性化の際にクリップドメインが遊離されるプ口テアーゼの報告は proBAEEaseが初め てである 。更にノー ザンブロ ット解析 の結果、proBAEEaseのmRNA は脂肪体で最も強く発現し、次いで血球と上皮細胞で発現しているのが観察された。この 三つの組織で検出された転写産物は何れも同じ大きさであり、この長さはcDNAから予想 されるmRNAの 長さとほ ぽ一致した。これらのことから、proBAEEaseは脂肪体、血球、

上皮細胞で不活性な前駆体として合成されて血漿中に分泌された後、カピや細菌の細胞壁 成分の存在下でフェノール酸化酵素前駆体活性化系を経て活性化し、その結果クリップド メインが遊離されることが明らかになった。

  ProBAEEaseのアミノ酸配列を基に相同性検索を行った結果、最も高い値を示したのは ショウジョウバエの発生初期において胚の背腹軸決定に関与するeasterで、シグナルベプ チドを含む全アミノ酸配列で約48%、活性中心を含む重鎖のみでは約53%の相同性を示 した。ショウジョウバエの背腹軸決定に関しては、主に遺伝学的な手法を用いた研究が活 発に行われており、これまでに複数のプロテアーゼの関与するカスケードモデルが提唱さ れている。そのプロテアーゼカスケードの最終段階でpro‑spatzleがeasterによって限定分 解を受けると、spatzleは細胞膜上に存在するTonレセプターに結合し、関連遺伝子群を 活性化することが示されている。同様にショウジョウバエではspatzleとTollが一連の抗 菌ベプチドの発現調節にも関与していることが明らかにされている。更に、最近Toll様 のレセプターが哺乳類からも発見され、自然免疫に関与していることも証明された。そこ で、大腸菌及びパキュロウイルスの発現系を用いてショウジョウバエpro‑spatzleの組換え タンパク質を作成し、この組換えpro‑spatzleと活性型のBAEEaseを反応させた。その結 果、pro‑spatzleはBAEEaseによって限定分解を受け、活性型のspatzleとなることが明ら かになった。更に、BAEEaseによって限定分解を受けたspatzleのアミノ酸配列解析の結 果、その切断部位はeasterによるものと一致し、pro‑spatzleがBAEEaseの基質となり得る 可能性が示された。しかしながら、家蚕においてショウジョウパエspatzle様のタンパク 質や相同性の高い遺伝子は発見されていない。本研究でもその探索を試みたが、明らかに することはできなかった。また、ショウジョウバエにおいてpro‑spatzleを限定分解するプ   ロテアーゼはeaster以外にも存在することが示唆されている。そこでショウジョウバエで proBAEEase様のタンパク質がeaster以外にも存在するのかをウェスタンブ口ット解析で 確認した。その結果、ショウジョウバエの幼虫と蛹においてeaster以外にもproBAEEase 様のタンパク質が存在することが示された。これらのことから、フェノール酸化酵素前駆 体活性化系はカピや細菌の細胞壁成分によって活性化カスケードの引き金が引かれると、

  一方ではメラニン形成、もう一方では抗菌ベプチドの発現調節に関与していることが強く

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示唆された。今後は、家蚕からショウジョウバエのpro‑spatzle及びTonのホモ口グを精製 することにより、フェノール酸化酵素前駆体活性化系と抗菌ペプチドの発現調節機構の相 互作用を、より詳細に解析することができると期待される。

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学位論文審査の要旨 主査    教授    芦 田正明 副査    教授    木 村正人 副査   助教授    早川洋一

学 位 論 文 題 名

昆虫のフェノール酸化酵素前駆体活性化系を構成する セリンプロテアーゼに関する研究

  昆虫に 徽やバク テリアが 侵入する と自らの 体を守る 防御反応、 いわゆる 生体防御 反応が 働 きだ す こ とが 知 られ て い る。 昆 虫 の生 体 防御 反 応 は大別 すると次の3つである 。1)侵 入した 微生物を 血球細胞 が取り囲 む「被嚢 形成」や 血球細胞に 取り込む 「貪食」 ;侵入し た微生 物や傷口 の周囲に おける血 液凝固と メラニン 形成;黴や バクテリ アの増殖 をおさえ た り、 殺 し たり す る作 用 を 持つ べ プ チド (anti−microbial peptide)の合 成。これ らの 防御反 応は微生 物など、 昆虫にと っての異 物が侵入 した時に活 性化され る。従っ て、これ らの反 応が始ま るために は、侵入 した微生 物などの 異物に特異 的な親和 性を持つ 分子(認 識 夕ン パ ク )が 存 在し 、 そ の分 子 が 異物 と 結合 し た とき、 防御反応が 始まると 考えられ る。認 識タンパ クついて の研究は 、生物に おける自 己と非自己 の識別と 言う生物 学上きわ めて大 きな研究 課題に直 結する。 この理由 から、生 物種の如何 を問わず 、認識タ ンバクに たいし て強い関 心がもた れている 。昆虫に おける生 体防御反応 の開始に 関与する 認識タン パ クと し て 確認 さ れて い る もの は 、 メラ ニ ン形 成 に 働いて いる一種の プロテア ーゼカス ケ ―ド ( フ ェノ ー ル酸 化 酵素前 駆体活性 化系、proPOカ スケ―ド )の構成要 素として 同定 さ れ て い る ぺ プ チ ド グ リ カ ン 認 識 タ ン パ ク(PGRP)、 ベ ー 夕 ―1、3― グ ル カ ン 認 識 タ ン パ ク([3GRP)そ れ に い く つ かの レ ク チン で ある 。proPOカ ス ケー ド は、 調 ぺ られ て い る限り のすぺて の昆虫に 存在して いて、徽 やバクデ リアが侵入 するとた だちに活 性化され る 。3つに 大 別 され る 昆虫 の生体 防御反応 が、どの ように相 互に有機的 に関連し ているか は 、現 在 の 所、 全 く明 ら かにさ れていな い。しか し、proPOカス ケ―ドの引 き金がま ず侵 入 微生 物 に より ちIか れ、 その結 果、上に 記した1や3の生体防 御反応を始 めるため の信号 が 細胞 に 与 えら れ ると の 仮 説が 繰 り 返し 主 張さ れ て きた。 本研究では 家蚕幼虫 を用い、

proPOカ ス ケ― ド の 構成 要素 であるが 、メラニ ン形成に は関与せ ず、カスケ ードの途 中で 枝 別れ し た とこ ろ に位 置 し てい る プ ロテ ア ーゼ 前 駆 体(proBAEEase)とそ の活性型プ ロテ ア ― ゼ(BAEEase)に つ い て 研 究 し た 。 研 究 内 容 は 、1)proBAEEaseのcDNAク ロ ― 二 ン グ 、2)proBAEEaseとBAEEaseの 精 製 法 の 改 良 、3)proBAEEaseの 活 性 化 反 応 の 解 析、4)BAEEaseのir7 vivoでの基 質の同定 である。

  主 要 な 研 究 成 果 は 以 下 の よ う に 纏 め ら れ る 。proBAEEaseのORFを 含 むcDNAが 得 ら

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れ、推定―次構造が明らかにされた。この前駆体は286 個のアミノ酸から構成され、N 末端がわに3 つのジスルフィド結合を持つクリップドメインの存在の可能性が示された。

典型的なセリンブロテア―ゼにおいて活性中心を構成するHis ,Asp ,Ser の3 つのアミノ酸 の位置に相当するところに、proBAEEase においてもこれらのアミノ酸(Hjsl57 ,Asp219 , Ser317) が 同 定 さ れ た 。 推 定― 次構 造か ら計 算され た分 子量 は31 、 516 で あった 。 proBAEEase の精 製標 品は SDS −PAGE で移 動度 の異なる2 種類のボリベプチドを含むこ とが示された。移動度の小さいポリペプチドは、前に勝見により家蚕幼虫より精製された proBAEEase と同じN 末端アミノ酸配列を持ち、移動度の大きいボリペプチドの分子量は cDNA から推 定さ れたものより 1000 大きかった。推定―次構造中にN ―グリコシド結合 型糖鎖が付着すると予想される配列が検出されたので、分子量1000 の差は糖鎖の付着 に起因する可能性が大きいと判断された。勝見がpro 一BAEEase として精製したものを proBAEEase* 、今回新たに得られた前駆体をproBAEEase とそれぞれ表記することにし た。 通常の 生理 条件下の体内において、proBAEEase* は存在せず、proBAEEase として 存在していることが証明された。proPO カスケードが血漿中で微やバクテリアの細胞壁成 分により引き金をひかれると、proBAEEase(Gln25 −Glf1369) が限定加水分解をうけて活性 化される。proBAEEase は、まずクリップドメインを失いproBAEEase* (Ser84 ―G | n3 69

)となり、次いで、Arg112 と Va |113 の間のぺプチド結合が切断されて活性型セリンプロ テア―ゼ(BAEEase) となることが証明された。Ser84 −Arg112 のポリベプチドはジスル フィド結合でキャタリティックドメイン(lleu113 ―G |n369) につながっていることが示さ れた。BAEEase は Na −ベンゾイル‑L‑ アルギニンエチルエステルを加水分解する酵素とし て家蚕幼虫血漿から発見されたが、in vivo におけ盃基質は同定されていない。ホモロジ―

検索において、proBAEEase はイースタ―(セリンプロテア―ゼのひとつ)に最も高い相 同性をしめした。、イ―スターはショウジョウバェの初期発生過程においてべりビテリン 間隙で働き、胚の背腹軸決定に重要な役割を演じている。イ―スターの基質はプロシュ ペッツル(pro ーspz) と呼ばれるポリペプチドである。ショウジョウバエの幼虫や成虫が徽 に感染するとドロソマイシンと呼ばれる抗カビペプチドの合成が誘導されることが知られ ている。プロシュペッツルがシュペッツル(spz) へ限定加水分解され、脂肪体細胞上にあ る受容体(Toll) に結合することにより、この合成誘導が始まることを示す結果が報告さ れている。イ―スタ―を欠く突然変異体でも、徽が侵入するとドロソマイシンの合成は野 生型と同様に誘導されることが観察されている。したがって、イ―スタ一以外に、pro ‐ spz を spz ヘ限定加水分解するプロテアーゼが存在することが予想される。proBAEEase は徽の細胞壁成分により引き金を引かれるプロテアーゼカスケ―ドの作用で活性化され、

一次構造がイ―ス夕一によくにているので、BAEEase が spz 生成に関与しているかもしれ ないと考えられた。リコンビナントpro ―spz を合成して、この可能性を検討した。ショウ ジョ ウバエ のpro ‐ spz か らBAEEase の作 用で spz が生じることが証明された。また、

ショウジョウバエにはイースターとは異なるが、proBAEEase に対する特異抗体に交叉反 応するボリペプチドの存在が証明された。

   以上のとうり、著者は黴やバクテリアの細胞壁成分により引き金を引かれるプロテアー ゼカスケ―ド(フェノール酸化酵素前駆体活性化系)の構成要素であるセリンプロテアー ゼ前駆体(proBAEEase) の活性化機構を明らかにし、その生理機能の究明のために重要 な実験を行った。著者はフェノ―ル酸化酵素前駆体活性化系の生理機能について新知見を 得た もので あり 、昆 虫の 生体防 御機 構の 解明 に貢献するところ大なるものがある。

   よって、著者は博士(地球環境科学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判

定した。

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