博 士 ( 医 学 ) 中 川 智 子
学 位 論 文 題 名
JC virus 感 染 症 の モ デ ル 動 物 の 作成 と そ の 治 療 法 に 関 す る 検 討
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
緒言
JCウ イ ル ス(JCv)は ポ リ オ ー マ ウ イ ル ス 科 に 属 す る2本 鎖 環状DNAウ イ ルス で, ゲノ ム は 5,130塩基 対 から なり ,6個の 蛋白 をコ ー ドし てい る.JCvは主 とし て 免疫不全患者 の中枢神 経 系に 進行 性 多巣 性白 質脳 症(progressive multifocal leukoencephalopathy; PML)を惹起す る .PMLの 治 療 法 と し て ,DNA合 成 阻 害 剤Ara―Cや 抗 ウ イ ル ス薬cidofovir等 が臨 床的 に 検 討 さ れ て き た が , 未 だ 確 固 た る 有効 性は 示さ れて い ない .臨 床的 に効 果 が得 られ なか っ た Ara−Cに 関 し て は , 培 養 細 胞 で は有 効と 報告 され て きて いる が, 以前 の 報告 ではSV40で 不 死 化し たヒ ト 胎仔 神経 系細 胞に 高 濃度 のAra−Cを 投与 して 芦り ,至 適 濃度での有効 性の検討 が 必 要 と 思 わ れ た , そ こ で 我 々 は ヒ ト 神 経 芽 細 胞 種 由 来 細 胞株IMRー32を用 いて 樹立 し た JCV持 続 感 染 細 胞JCiを 用 い てAra―CのJCV感 染 に 対 す る 抑制 効果 を検 討 する こと とし た . 次に ,PMLに 対す る 治療 法が 未だ 確立 さ れて いな ぃ原 因と し て,JCVはヒト以外に は感染が 成 立 せ ず ,JCV感 染モ デル が存 在 しな いと いう 事が 考 えら れる ,そ こで 我 々は マウ スの 脳 に JCV感 染 細 胞 を 接 種 す る こ と に よ り 伽wvoのJCV感 染 を 模 倣す るモ デル を 作成 する こと を 試 み た.さらに最近small interfering RNAs (siRNAs)を用い たRNA interference (RNAi)が種々 の 内因 性, お よび ウイ ルス, 細菌の遺伝子を抑制するため に用いられており,我々を 含めたグ ル ー プ が 仞vitroの 実 験 でJCVの 遺 伝 子 に 対 す るsiRNAを 用 い てJCVの 感 染 抑 制 に 成 功 し て い る . そ こ で 今 回 作 成 し たJCV感染 モデ ル を利 用し て, 伽vmり で効 果の 認め ら れたsiRNA を用いてPMLの治療法の検討をするこ とを試みた.
材料 と方法
1.培養細胞実験:6ーwelldishにJCIを蒔き,翌日からO,0.1,0.25,O.5,0.75,1.Oug/mlの 各 濃 度 でAra−Cを 含 ん だ 培 養 液 で培 養を 行な った .Ara−C投 与,3日 後に ,1枚を 細胞 数 計 算に,も う1枚はWesternblottingに用 いた.
2. 伽 ガmモ デ ル の 作 製 : 実 験 に は,BALB/cマ ウス と ,BALB/c由来 のヌ ー ドマ ウス を用 い た 頭 部 の 皮 膚を 切開 し, 十 字縫 合か ら右 ヘ1mmの 部位 に 電気 ドリ ルで 小さ い 穴を 開け ,マ イ ク ロ シリンジをこの穴から3mm刺 入し,10い1の細胞混濁液(8,000個/ml)を1い1/分の 割合で注 入した. 細胞はSVGーAとJCIを用いた .
3.mW閉siRNA実 験 : 用 い たsiRNAは 以 前 我 々 が 報 告 し たJCVのagnoproteinに 対 す る siRNA(Ag122)を用いた.siRNAは励ガゅでは速やかに分解 されてしまうので,コラー ゲン分子 の 両端 に存 在 する 主要 抗原部 位であるテロペプチドという アミノ酸配列を除去したバ イオマテ リ ア ル で あ る ア テ ロ コ ラ ー ゲ ン を 用 い て ,mWmで のsiRNAの 効 果 を 持 続 さ せ た . JCI細胞 をヌ ード マ ウス に移 植し て4日後 に, アテロコ ラーゲンと混和したsiRNAを 同部位に 注 入 し た , そ の6日 後 に 脳 を 採 取 し , 標 本 を 作 製 し た ,HE標 本 で 移 植 細 胞 が200個以 上 存
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在する切片を選択し,移植細胞数を数えた.さらにその連続切片を抗T抗原(Ab―2)抗体を用 いて免 疫染色 を行い,JCV感 染細胞数 を計数し,各動物にっき移植細胞のJCV感染率を求 めた.陰性対照群にはsiRNAの代わりに等量のPBSをアテロコラーゲンに加えたものを用い た,
結果
1.培養細胞実験:生細胞と死細胞をそれぞれ計数したところIAra←Cの濃度がO,5Vg/mlまで は総細 胞数は 変化せず ,死細 胞の割合 はAra−C濃度依存性に増加した,AraーCの濃度が 0.75 yg/ml以上では総細胞数の減少が認められ,Ara←Cにより細胞の増殖が抑制されている ことが示された.一方,Western blottingを行った結果,生細胞中のJCVのT抗原の発現量 はAra一Cの濃度によらず一定であった.以上の結果から,Ara−Cは以前の報告とは異なり,
JCVの増殖には影響を及ぼさなかった.
2. in vivoモデルの作製:マウスの脳内ではSVG−A細胞は移植後14日で生存は認められな かった.次にJCVを感染させたSVG―A細胞をマウス脳に移植したところ,移植後5日の早期 でCD68陽性細胞に貪食されている事が示唆された.そこで,マウスの免疫による移植細胞拒 絶を抑 制する ために,CyclosporinAを投 与したマ ウス,お よびヌ ードマウスにJCV感染 SVG―A細胞およびJCi細胞を移植し,種々の組み合わせ条件を検討した結果,ヌードマウス にJCI細胞を移植する実験系において,移植後2週間にわたって安定して生着細胞を確認で きた.
3. 仞vivo siRNA実験 :陰性 対照群のJCv感染率の平均は10.1%であり,伽vitroでのJCI 細胞のJCV感 染率と変 化は認 められな かった .一方siRNA投与 群の平均は7.2%であり,
siRNAの投与により細胞のJCV感染率が減少する傾向が認められた.
考案
今回,最初に既報の培養細胞でのAra−Cの効果について追試実験を行なったが,有効と されていた濃度では細胞障害が生じ,生細胞でのウイルス抑制効果は無いことが判明した,
JCVはヒト以外の動物では増殖しないので,純粋な動物実験は組めなかったが,ヒ卜神経 系細胞をマウス脳に移植し,移植細胞でのウイルス感染率を判定するという実験系を作製し た.
SVG−A細胞にJCVを感染させた細胞をマウス脳内に移植した際には,長期生存が得られな かったが,この組み合わせではin vitroの条件でも,約2週間でlytic infectionの状態となり 死滅する事から,拒絶反応よりむしろJCV感染によるSVG―A細胞自体の傷害が生じ,細胞が 生存できなかったことが予測された.免疫抑制と移植細胞の組み合わせ検討の結果,JCI細 胞をBALB/c由来のヌードマウスに移植すると,少なくとも移植後14日間JCI細胞はマウス脳 内で生着している事が明らかになり,本研究の目的であるJCVに対する種々の薬剤投与の効 果判定について充分有用である事が判明した,
伽Vl VO実験系では而vit′〇での成果を考慮し,薬剤効果を試すよりもsiRNAを用いた実験 を優先させた.今回の実験ではまだ動物数も少なく,有意差は出せなかったが,予備実験の 段階では有効と思われ,今後さらに実験を進めていく指標が得られた.今回我々が採用した アテロコラーゲンを用いて脳内にsiRNAを投与した研究はこれまでに認められず,今後他の疾 患に関しても応用が期待される.
結語
1.仞m′ 。でAra−Cの 細 胞毒 性 は 強く,JCVに 対する抑 制効果は 認めら れなかっ た.
2.JCV感染を模倣するモデルとして,ヒト神経系細胞をマウス脳内に移植するモデルの作成 を試みた,
3.ヌードマウスの脳内にJCI細胞を移植し,少なくとも移植後14日聞生存することを確認した.
4.JCVに 対するsiRNAを用 いた場合 ,マウ ス脳内に移植したjCI細胞の感染性は低下する 傾向にあることを明らかにした.
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学位論文審査の要旨 主査 教授 長嶋 和郎 副査 教授 佐々木秀直 副査 教授 岩崎 喜信
学 位 論 文 題 名
JC virus 感染症のモデル動物の作成と そ の 治 療 法 に 関 す る 検 討
JC virus(JCV)は 主 と し て 免 疫 不 全 患 者 の 中 枢神 経 系 に進 行 性 多 巣性 白 質 脳症 (progressive multifocalleukoencephalopathy; PML)を惹起する.PMLの治療法として,
DNA合成 阻害剤Ara‑Cや抗 ウイルス薬cidofovir等が臨床的に検討されてきたが,未だ確固 たる有効性は示されていない.そこで,過去にin vitroで効果のあった薬剤等を今回再検討 することを試みた.
次に,PMLに対 する治療 法が未だ 確立さ れていない原因として,JCVはヒ卜以外には感 染が成立せず,JCV感染モデルが存在しないという事が考えられる.そこで,マウスの脳に JCV感染 細胞を接 種する ことによりin vivoでのJCV感染を模倣するモデルを作成すること を試みた.さらに最近smallinterfering RNAs (siRNAs)を用いたRNAinterference (RNAi) が種々の内因性,およびウイルス,細菌の遺伝子を抑制するために用いられており,当教室 がin vitroの実 験でJCVに対するsiRNAを 用いてのJCVの 感染抑制 に成功 している.そこ で今回作成したJCV感染モデルを利用して,in vitroで効果の認められたsiRNAを用しi,て PMLの治療法の検討をすることを試みた.
まず,培 養細胞 のJCIを用いてAra‑Cの有効性について検討した.0,0.1,0.25,0.5, 0.75,1.0 ptg/mlの各 濃度のAra‑Cを含んだ培養液で培養を行った.Ara‑C投与3日後に,
細胞数の計算とwestern blottingで評価を行った.細胞数は生細胞と死細胞をそれそれ計数 したとこ ろ,Ara‑Cの濃度が0.5 yg/mlまでは総細胞数は変化せず,死細胞の割合はAra‑C 濃度依存 性に増加 した.Ara‑Cの濃度が0.75 yg/ml以上では総細胞数の減少が認められ,
Ara‑Cにより細胞の増殖が抑制されていることが示された,一方western blottingを行った 結果では 生細胞中 のJCVのT抗 原の発 現量はAra‑Cの濃 度によら ず一定で あった.以上の 結果から ,Ara‑Cは以前のMajorら の報告と は異なり ,JCVの増殖に は影響 を及ぽさなか った,
JCV感染 モデル の作成で は,BALB/cマ ウスとBALB/c由来のヌ ードマ ウスを用いた.頭 蓋の十字 縫合から 右へImmの部位に電気ドリルで小さい穴を開け,マイクロシルンジを垂 ‑ 605―
直 に 刺入 して細胞液を注入した.JCVを感染させたSVG‑A細胞をマウス脳に移植したとこ ろ ,移植後早期の5日目に細胞は死滅し,CD68陽性細胞に貪食されていることが示された.
JCVを感 染さ せて いな いSVG‑A細 胞で は7日 目ま での 生存 が確 認できており,JCV感染に よるSVG‑A細胞自体の傷害が生じ,細胞が生存できなかったことが予想された.Cyclosporin Aを投与したマウス,およびヌ ードマウスに移植しても長期の生着は得られなかった.JCI 細 胞を用いて同様の実験を行ったところ,ヌードマウスに移植した場合で移植後2週間にわ たって安定して生着細胞を確認でき,これをモデルとして以後の実験に用いることとした.
siRNAは以 前に 当教 室か ら報 告し たJCVのagnoproteinに対 するsiRNA(Ag122)を用 い た. siRNAはin vivoでは速やかに分解されてしまうので,アテロコラーゲンを用いてinvivo で のsiRNAの効果を持続させた .アテ口コラーゲンはコラーゲン分子の両端に存在する主 要 抗原部位であるテ口ベプチドというアミノ酸配列を除去したバイオマテリアルである,
JCI細胞 をヌ ード マウ スに 移植 し て4日後に,アテ口コラーゲンと混和したsiRNAを同部 位 に 注入 し,その6日 後に脳を採取し,標本を作製した.この結果,陰性対照 群のJCV感 染 率 の平 均は10.1%であり,in vitroでのJCI細胞のJCV感染率と変化は認められなかっ た . 一方siRNA投 与群 の平 均は7.2% であ り,siRNAの投 与に より細胞のJCV感染率が減 少する傾向が認められた.
口頭発表に当たり,副査の佐々木秀直教授より,移植細胞JCIの生着期間,アテ口コラ ー ゲンの導入効率等に関する質問があった.また副査の岩崎教授より,JCI細胞移植後の観 察 期間を2週間までにした理由 ,siRNAや薬剤の投与方法等に関する質問があった.主査の 長 嶋 教授 より,siRNAや薬剤の投与方法についての質問が再びあった他,siRNAを用いて の実験の陰性対照について等の質問があった.これらの質問に対して申請者は概ね適切な回 答を行った.
この論文はヒト以外の動物には感染しないJCVの感染モデル動物を作成し,薬剤等の ス クリーニングに有効であることを示した点で優れている と判断され,今後PMLの治療を 研究する上で貴重な材料を与えたものと考えられた.
審査員一同は,これらの成果を高く評価し,申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充 分な資格を有するものと判定した.
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