博 士 ( 歯 学 ) 吉 原 俊 博
学 位 論 文 題 名
ラ ッ ト 血 中 コ ル チ コ ス テ ロ ン 及 び 摂 食 行 動 の 食 餌 性 リ ズ ム 発 現 機 序 に 関 す る 神 経内 分 泌学 的 研究 :
室 傍 核 二 ニ ュ ー ロ ペ プ タ イ ド Y の 役 割
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
[緒 言]
動物の内因性リズムを作る時計(生物時計)の持つ周期が24時間に近い時,このりズムを概日 リズムと言う。ラットで典型的な概日リズムを示すものに,明期の後半から暗期の前半にかけて 上昇する血中コ ルチコステロン(以下血中CORT)リズム,暗期に活動が盛んになる輸回し行 動,摂食行動などがあり,その中枢は視床下部の視交叉上核に存在する。一方,視交叉上核に存 在しない概日リズムも存在し,代表的なものに周期的制限給餌で出現する慨日リズム(食餌性リ ズム)がある。すなわちラットの給餌を一日の一定時刻に制限すると(周期的制限給餌),給餌 の1〜2時間 前よ り自 発 行動 量や血中CORTレベルが 増加する(給餌前ピーク)。 血中CORT tま 副腎 皮 質刺 激ホ ルモ ン(ACTH)放出ホルモン( 以下CRH)およびACTHの階層 支配を受 けている。CRHニューロンの細胞体が存在する視床下部室傍核には月畄幹に由来するカテコール アミン(以下CA)二ユー口ンが分布しており,このニューロンにはニュー口ペプタイドY(以 下NPY)が共存 している。また視床下部弓状 核からもNPY二ユー口ンも室傍核へ投射してお り,このニュ― 口ンにはCAが共存しない。本研究の目的は,絶食下および周期的制限給餌下 における悩内NPYを測定し,その経時変化を 解析することにより室傍核NPY二ユーロンの役 割を検討することである。
[実験デザインと結果]
実験には室温22土1℃,湿度60土5%,および6時から18時までの明の明暗サイクル下で繁殖 飼育したWistar系ラットを使用した。
実験1)食餌条件と室傍核NPY
自由摂食下,短期 (2日間)絶食あるいは長期(10日間)絶食後の再摂食時のラット血中 CORTと 脳 内NPY濃 度 お よ びPush―Pull法 に より 室 傍核 細胞 外液 中NPYを 測定 し た。 自 由摂食下では,血漿CORTは明期から暗期にかけてピークを有する明暗周期に同調したりズム を示した。脳神経核に含まれるNPY濃度は有意な24時間変動を示さなかった。短期絶食により 室傍核NPY濃度は増 加し,再摂食でさらに増加し た。弓状核NPY濃度に有意な変化は見られ なかったが,再摂食 後NPY濃度は一時減少した。 脳幹の孤束核NPY濃度に有意な変化は見ら れなかった。室傍核細胞外液中NPYは絶食により増加し,再摂食後減少した。長期絶食により 血中CORTは 増加 し, 再摂 食2時間で減少した。室 傍核NPY濃度も増加し再摂食 でさらに増 加した。室傍核細胞外液中NPYも増加し再摂食後減少したが,自由摂食下よりは依然高い値を 示した。
実験2)周期的制限給餌と室傍核NPY
@周期的制限期下におけるNPYの脳内変動
10時から12時までの2時間のみ食餌を与える周期的制限給餌を3週間行うと,室傍聿亥および弓 状核NPY濃度は摂食 後増加した。孤束核NPY濃度 は給餌前に増加し給餌後滅少した。室傍核 細胞外液中NPYは給餌前に増加し給餌開始後滅少した。
@周期的制限給餌下における摂食の影響
室傍核NPY濃度にっいて,周期的制限給餌を行った後,給餌時刻に摂食させた群では,10時 の値に対して12時の値が増加したが,摂食させなかった群でfよ,有意な差は認められなかった。
給餌時刻に摂食させた群,摂食させなかった群共に室傍核細胞外液中NPYは,給餌前に自由摂 食群より増加した。給餌時亥I亅に摂食させなかった群では給餌時刻後も室傍核細胞外液中NPYは 急激には減少しなかった。
◎周期的制限給餌ー自由摂食・絶食パラダイムにおける室傍核NPY
周期的制限給餌を3週間行った後,7日間自由摂食に戻し,その後3日間絶食とした。自由摂 食7日目(再自由摂 食ラット)および絶食3日目 (絶食ラット)の室傍核細胞外液中NPYを測 定した。再自由摂食ラット群では室傍核細胞外液中NPYは有意な時間変動を示さなかった。絶 食ラット群では,全ての時刻において,再自由摂食ラット群に対し,室傍核細胞外液中NPYが 有意に増加していた。また給餌直前に相当する時刻に室傍核細胞外液中NPYが有意に増加して いた。
実験3) 中枢CA二ユ―口ンとNPY
周 期 的制 限給 餌を2週 間行 った後,CA枯渇剤で ある6―OHDAあるいは生食を 室傍核に投
与 し , さ ら に 制 限 給 餌 を7日 間 続 け た後 ,Push一Pull法 に よ り 室 傍核 細 胞 外 液 中NPYを 測 定 し た 。 ま た6―OHDAを 中 脳 上 行 線維 束 に 投 与 し ,同様 の実験 を行っ た。室 傍核 投与に おいて , 生 食 投 与 群 で は 室 傍 核 細 胞 外 液 中NPYは 給 餌 前 に 増 加 し 給 餌 後 減 少 し た 。一 方 ,6ーOHDA 投 与群で は給 餌前の ピーク が消失 し有意な変動を示さナょかった。また給餌時間における摂食量は 6―OHDA1投 与 群 と生 食 投 与 群 の間 に 有 意 差 はナ よ か っ た 。 中脳 上 行 線維 束投与 におい ても,
同 様の結 果が 得られ た。
[ 考 察 ]
1給餌 条件と 室傍核NPY
自 由 摂 食 下 で は 室 傍 核NPY濃度 に 有 意 な24時 間 変 動 は認 め ら れ ず 室傍 核NPYが自 由 摂 食 下 で は 血 中CORT分 泌 や摂 食 行 動 に 関 与し て い な い こと が 示 唆 さ れた 。10日 間の絶 食によ り室傍 核NPY濃 度 お よ び 細 胞 外 液 中NPYが 増 加 し て お り ,NPY合 成 の 指 標 と な る 弓 状 核 のpre ‑ pro NPYmRNAレ ベ ル が 絶 食 に よ り 増 加 す る こ と が 知 ら れ て い る の で , 絶 食 下 で はNPY合 成 と 分 泌 が 共に 亢 進 し , 室傍 核NPY濃度 が 増 加 したと 考え られる 。絶食 後の再 摂食 で細胞 外液 中NPYの 現 象 に 伴 いNPY濃 度 が 上 昇 し た こ と は ,NPY分 泌 が 低 下 し 神 経 終 末 にNPYが 蓄 積 したこ とを 示唆し ている 。
2周期 的制限 給餌と 室傍 核NPY
周 期 的 制 限 給 餌 下 で の 室 傍 核NPY濃 度 と 室傍 核 細 胞 外 液 中NPYの 時間 変 動 よ り ,給 餌 前 の NPY分 泌 の 増 加 と 摂 食 後 のNPY分 泌 の 神 経 終 末 で の 抑 制 が 示 唆 さ れ た 。 孤 束 核NPY濃 度 の 給 餌 前 増 加 はNPY合 成 の 亢 進 あ る いは 軸 索 流 に よるNPYの移 動 の 停 止 を 意味 す る が , 給餌 前 に 室 傍 核 のNPY分 泌 が 増加 し て い る ので , 軸 索 流の停 止は 考えら れず, 合成の 亢進 を強く 示唆 す る 。 ま た 給餌 直 後 のNPY分 泌 の 急 激な 減 少 は 摂食に よる 直接的 効果と 考えら れ, 給餌数 時間 後 の 内 因 摂 食振 動 機 構 に よる も の と 考 え られ た 。室 傍核細 胞外液 中NPYは周期 的制 限給餌 一自 由 摂食・ 絶食 パラダ イムに おける 絶食 時に, 以前の 給餌直 前にほ ぼ一 致して増加していたことよ り , 給 餌 前 の 室 傍 核NPY分 泌 の 亢 進 も 内 因 性 食 餌 性 振 動 の 表 現 で あ る と 考 え ら れ た 。 3中枢CA二ユ ー口ン と室傍 核NPY
CA枯 渇 剤 で あ る6―OHDAを 室 傍 核 あ る い はNA上 行 線 維 腹 側 束 に 投 与 す る と 室 傍 核 細 胞 外 液 中NPYの 給 餌 前 ピ ーク が 消 失 し たこ と よ り , 周期 的 制 限 給 餌に お け る 室 傍 核細 胞 外 液 中 NPYの 給 餌 前 ピ ー ク の 発 現 に はNA上 行 線 維 腹 側 束 中 のNA. NPY共 存 二 ユ 一 口 ン が 重 要 で あ る こ と が 示唆 さ れ た 。 周期 的 制 限 給 餌 下に お ける 室傍核 細胞外 液中NPYの給 餌前 ピーク の役
割 に関 して は ,6―OHDA投与により給餌前のNPY分泌を抑制しても摂食量 に有意な変化が 見られなか ったことから,室傍核NPYの 食餌前ピークはラット摂食行動よりもむしろ給餌前 CRH分泌と の関連性が考えられる。
[ 結 語]
1.視 床下 部NPYは 目由 摂食下の血中CORTお よび摂食行動のりズムには関 与していないこ と が示唆された。
2.室 傍核 投 射NPYニュ 一 口ン のう ち, 絶 食に より機能亢進を示すのは 弓状核由来のNPY 二 ユ一口ンであることが示唆さ れた。
3. 周期的制限給餌下では孤束 核NPY二ユー口ンが重要と考 えられ,室傍核細胞外液中NPY の 増加は内因性の食餌性振動の表現と考えられた。それに対し,給餌後の室傍核細胞外液中 NPYの減少は摂食の直接的効果 と考えられた。
4. 周期的制限給餌下における 室傍核細胞外液中NPYの給餌 前ピークの発現には,NA上行線 維 腹側束中のNA・NPY共存二ユ 一口ンが重要であることが示唆された。また給餌前細胞外液 中NPYピ ー ク は 摂 食 行 動 よ り も む し ろCRH分 泌 に 関 与 し て い る と 考 え ら れ た 。
学位論文審査の要旨
[緒 言]
ラットの給餌を一定時刻に制限する(周期的制限給餌くrestricted feeding:以下RF冫)と,
給餌のl〜2時間前より血中コルチコ ステロン(以下CORT)が増加する(給餌前ピーク)。副 腎 皮質 刺激 ホ ルモ ン( 以下ACTH)放 出ホ ル モン( 以下CRH)ニュー口ンの細胞 体が存在す る視床下部室傍核には脳幹由来のカテコールアミン(以下CA)ニューロンが分布しており,こ こにはニ ュ一口ペプタイドY(以下NPY)が共存している。また視 床下部弓状核からもNPY
久 夫
章 一
春 和
研
口 田
本 間
小 亀
松 本
授
授
授
授
教
教
教
教
査
査
査
査
主
副
副
副
ニュー口ンも室傍核へ投射しており,このニュ一口ンにはCAが共存しない。本研究の目的は,
絶食下および周期的制限給餌下における脳内NPYを損l亅定し,室傍核NPYの役割を検討するこ とである。
[実験デザインと結果]
実験1) 食餌条件と室傍核NPY
実験にはWistar系雄ラットを使用した。自由摂食下,短期(2日間)絶食あるいは長期(10 日 間 ) 絶 食後 の 再摂食 時のラッ 卜血中CORTと脳 内'NPY濃度 および 室傍核 細胞外 液中NPY を測定した。自由摂食下では,血中CORTは明期から暗期にかけて上昇するりズムを示した。
脳神経核NPY濃度は有意な24時間変動を示さなかった。短期絶食および長期絶食により室傍核 NP.Y濃度は増加し,再摂食でさらに増加した。弓状核NPY濃度に有意な変化は見られなかっ たが,再摂食後NPY濃度は一時減少した。脳幹の孤束核NPY濃度に有意な変化は見られなかっ た 。室傍 核細胞 外液中NPYは絶食 により 増加し ,再摂 食後滅少した。長期絶食により血中 CORTは増加し,再摂食後滅少した。
実験2) RFと室傍核NPY
@RFにおけるNPYの脳内変動
lO時か ら12時までの2時間の み食餌 を与え るRFを3週 間行う と,室 傍核NPY濃 度は摂 食 後 増加し た。孤 束核NPY濃 度は給餌前に増加し給餌後減少した。室傍核細胞外液中NPYは給 餌前に増加し給餌開始後減少した。
@RFにおける摂食の影響
RF後,給餌時刻に摂食させなかった群では10時と12時の室傍核NPY濃度の間に有意差は認 められなかった。室傍核細胞外液中NPYは給餌前に自由摂食群より増加したが,給餌時亥lJ後で は急激な減少は認められなかった。
◎RFー自由摂食・絶食パラダイムにおける室傍核NPY
RF後,7日間自由摂食に戻し,その後3日間絶食とした。絶食3日目では全ての時刻におい て再自由摂食ラット群に対し細胞外液中NPYが有意に増加し,また給餌直前に相当する時刻に 室傍核細胞外液中NPYが有意に増加していた。
実験3) 中枢CA二ユー口ンとNPY
RF後,CA枯 渇剤 で あ る6−hydroxydopamine( 以下6一0HDA) を 中脳上行 線維束 に投 与 すると 室傍核 細胞外 液中NPYの 給餌前 ピーク が消失 した。 また6ー0HDA投与群と生食投
与群間に摂食 量の有意差はなかった。
[ 考 察 ]
1給 餌条 件 と室 傍核NPY
NPY合 成 の 指 標 と な る 弓 状 核pre−pro NPYmRNAレ ベ ル が 絶 食 に よ り 増 加 す る の で , 絶 食 下 で はNPY合 成 と 分 泌 が 共 に 亢 進 し 室 傍 核NPY濃 度 が 増 加 し た と 考 え られ た。 ま た再 摂食 に よ りNPY分 泌 が 低 下 し 神 経 終 末 にNPYが 蓄 積 し , さ ら に 室 傍 核1XTPY濃 度 が 増 加 し た と 考 え ら れた 。
2RFと室 傍 核NPY
RF下 で の 給 餌 前 のNPY分 泌 の 増 加 と 摂 食 後 のNPY分 泌 の 神 経 終 末 で の 抑 制 が 示 唆 さ れ た 。 孤 束 核NPY濃 度 の 給 餌 前 増 加 はNPY合 成 の 亢 進 を 示 唆 し た 。 給 餌 直 後 のNPY分 泌 の 急 激 な 減少 は摂 食 によ る直 接 的効果と考 えられ,給餌前の 亢進および給餌数 時間後の減少は内因 性 振 動 機構 によ る と考 えら れ た。
3中 枢CAニ ュー ロン と 室傍 核NPY
RFに お け る 室 傍 核 細 胞 外 液 中NPYの 給 餌 前 ピ ー クの 発現 に はノ ルア ド レナ リン ( 以下NA) 上 行 線 維 腹 側 束 中 のNA.NPY共 存 ニ ュ ー 口 ン が 重 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。 ま たRF下 に お け る 室 傍 核 細 胞 外 液 中NPYの 給 餌 前 ピ ー ク は 摂 食 行 動 よ り も む し ろ 給餌 前CRH分 泌と の関 連 性 が考 えら れ た。
[ 結 語 ]
1. 視 床 下 部NPYは 自 由 摂 食 下 の 血 中CORTお よ び 摂 食 行 動 の り ズ ム に は 関 与 し て い な い こ と が 示 唆 さ れ た 。
2. 室 傍 核 投 射NPYニ ュ ー ロ ン の う ち , 絶 食 下 で は 弓 状 核 由 来NPYニ ュ 一 口 ン が ,RF下 で は 孤 束 核 由 来NPYニ ュ ー 口 ン が 重 要 と 考 え ら れ た 。
3.RF下 に お け る 室 傍 核 細 胞 外 液 中NPYの 増 加 は 内 因 性 の 食 餌性 振動 の 表現 と考 え られ た。
一 方 , 給 餌 後 の 減 少 は 摂 食 の 直 接 的 効 果 と 考 え ら れ た 。
4.RF下 に お け る 室 傍 核 細 胞 外 液 中NPYの 給 餌 前 ピ ー ク の 発 現 に は ,NA上 行 線 維 腹 側 束 中 のNA. NPY共 存 二 ユ ー 口 ン が 重 要 で あ る と 考 え ら れ た 。