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博士(理学)中屋隆明 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(理学)中屋隆明 学位論文題名

ヒト 免疫不 全ウ イル スと ボルナ 病ウ イル スの持続感染機序に関する研究

学位論文内容の要旨

  ウイルスの感染を受けた細胞は、大別して3つの運命をたどる。一っは、ウイルスの増 殖に伴い、細胞が破壊される溶解感染(lytic infection)である。第2の感染様式は、ウ イルスの感染によって、細胞が、がん化(transformation)する場合である。そして第 3番目は、細胞とウイルスが共存する感染様式であり、持続感染(persistent infection

)ないしは潜伏感染(latent infection)と呼ばれる。特に、溶解感染を起こし、死滅す るか、あるいは持続感染を起こし、ウイルスとの共存下で生き続けるかは、ウイルスの細 胞傷害性と深く関わる。また、潜伏感染からの活性化は宿主側の免疫応答能と深く関与す る。本研究では、ヒトに持続、潜伏感染し、免疫疾患を引き起こすヒト免疫不全ウイル ス、および精神神経疾患との関連性が示唆されているポルナ病ウイルスについて、その感 染機序を解明することを目的とした。

  ヒ ト免 疫不 全ウ イルス1型(Human immunodeficiency virus type1:HIV―1)は、

後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因ウイルスであり、感染機序の解明は、治療法を確 立する上で極めて重要である。本研究では、HIV―1の感染様式を加vitr〇の実験系におい て検討し、HIV―1の細胞傷害性および持続感染機序に関与する遺伝子の同定を試みた。ま た、HW―1の調節夕ンバク質のーつであるRevの働きを阻害するデコイオリゴヌクレオチ ドを用いて、抗ウイルス剤としての可能性を検討した。

  ポルナ病ウイルス(BOrnadiseasevirus:BDV)は、元来ウマに脳炎を起こすポルナ 病の原因ウイルスとして分離されたものであるが、最近の研究により、ヒト、特に精神疾 患患者との関連性が指摘されている。一方、慢性疲労症候群は、その病因にウイルス感染 症が疑われており、うつ症状などの精神症状も見られることから、本研究では、BDVと 慢性疲労症候群との関連性を検討した。さらに、免疫抑制状態にあるHW―1感染者および 悪性脳腫瘍患者に対するBDVの疫学調査を行い、ヒトにおけるBDVの感染様式について も検討した。

  従って、本論文は「第1章:ヒト免疫不全ウイルス1型(HW−1)の細胞傷害性の低下 に関わるアクセサリー遺伝子の変異」、「第2章:I氷Eデコイオリゴヌクレオチドによる HW−1増殖抑制効果」および「第3章:ヒトにおけるポルナ病ウイルスの感染に関する研 究」から構成される。

第1章は以下の内容に要約される。

1.HIV−1のin vitroにおける継代感染により、低細胞傷害性のウイルスが現れ、継代     4代以降は持続感染する細胞が出現した。継代と共にvpr遺伝子内のナンセンス変異     の割合が増加し、20代以降の持続感染細胞では、ほぽ全てのプ口ウイルスDNAが変     異型であった。これらのことから、vpr遺伝子の変異が細胞傷害性の低下をもたら     す一因であることが示唆された。

2.継代50代において、vifからvprにかけてミスアライメント欠失と考えられる変異     を伴うウイルスが検出された。この欠失ウイルスは、複製、増殖が可能であり、さ

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    らに細胞傷害性をほぽ消失していることが、組み換えウイルスを用いた感染実験に     より明らかとなった。

3.vpr遺伝子内のナンセンス変異は生体内のプ口ウイルスにも高率に認められ、m     wv〇における存在様式のーつであることが示唆された。

第2章は以下の内容に要約される。

1.Rev response element  (RRE)内のRev夕ンバク質結合部位(bubble構造)を含     むオリゴヌクレオチド(RREオリゴヌクレオチド)を合成した。これらのオリゴヌ     クレオチドはRevと結合することが明らかとなった。

2.RREオリゴヌクレオチド(AROー2)、は、1から10ルMの濃度において、ヒトT細胞     由来株であるMOLT#8およびMl0細胞に持続的に感染したHIV―1(実験室株)の     ウイルス産生を抑制した。また、HIV−1が潜伏感染したヒトT細胞由来株(CEM)     であるACH−2細胞において、TNF‑a刺激によるウイルスタンバク質の合成(ウイ     ルスの再活性化)を抑制した。一方、添加濃度10ルMにおいて、RREオリゴヌクレ     オチドの細胞に対する傷害性は認められなかった。

3.RREオ リ ゴ ヌ ク レ オ チ ドくARO−2) は 、 ヒ ト末 梢血 単核球 に感 染し たHIVー1     (臨床分離株)のウイルス産生を抑制した。

第3章は以下の内容に要約される。

1.HIV−1感染者は非感染者に比ベ、BDV抗体陽性率が有意に高く、特に性病(STD)     を併発している患者ではその傾向は顕著であった。また、一般に免疫抑制状態であ     ることが報告されている悪性脳腫瘍患者(グリオプラストーマ)の脳腫瘍組織から     もBDV RNAが高率に検出された。

2. 日本国 内の慢性疲労症候群(CFS)患者では、健常者と比較し、抗BDV抗体および     BDV遺伝子の陽性率が有意に高かった。

3.CFSの家族内集団発症例において、CFSと診断された患者(両親、次男および長女     の4名)は全てBDVとの関連が示された。一方、CFSのいずれの基準にも該当しな     い 長男 は抗BDV抗体 および 末梢 血単 核球中 のBDVp24遺伝 子は陰 性で あった。

  以上のことから、HW―1はアクセサリー遺伝子vifおよびvprの変異により、宿主細胞 と共存している可能性が示唆されること、また変異が起きにくい領域(RRE)のアナ口グ であるRREデコイオリゴヌクレオチドの抗ウイルス剤としての有用性を明らかにすること ができた。さらに、ヒトにおけるBDVの存在様式は、宿主生体の免疫応答により抑制さ れた状態にある可能性を指摘すると共に、BDV感染とCFS患者の発病あるいは症状との 関連性を示唆する知見を得た。.

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学位論文審査の要旨

主 査   教 授      市 郎 副 査   教 授   谷 口 和 彌

副査   教授   菊池九二三 副査   教授   生田和良

     大学院医学研究科(免疫科学研究所)

学 位 論 文 題 名

ヒト免疫不全ウイルスとボルナ病ウイルスの持続感染機序に関する研究

  ウ イルスの感 染を受け た細胞は 、大別し て3つの運 命をたど る。一っは 、ウイル スの増 殖 に 伴い 、 細 胞が 破 壊さ れ る溶 解感染(lytic infection)で ある。第2の感染様 式は、ウ イ ル ス の感 染 に よっ て 、細 胞 が 、が ん 化(transformation)す る 場合 で あ る。 そ し て第 3番目 は 、細 胞 と ウイ ル スが 共存 する感染 様式であ り、持続 感染(persistent infection

) な いし は 潜 伏感 染(latent infection)と 呼ばれる 。特に、 溶解感染 を起こし 、死滅す る か、あるい は持続感 染を起こ し、ウイ ルスとの 共存下で 生き続けるかは、ウイルスの細 胞 傷害性と深 く関わる 。また、 潜伏感染 からの活 性化は宿 主側の免疫応答能に深く関与す る 。申請者は 、ヒトに 持続、潜 伏感染し 、免疫疾 患を引き 起こすヒト免疫不全ウイルス、

お よび精神神 経疾患と の関連性 が示唆さ れている ポルナ病 ウイルスについて、その感染機 序 を解明する ことを目 的とした 。

  ヒ ト 免 疫 不 全 ウ イ ル ス1(Human immunodeficiency virus type1HIV1)は 、 後 天 性 免疫 不 全 症候 群(AIDS)の 原 因ウ イ ルス で あ り、 感 染 機序 の 解明 は 、 治療 法 を確 立 する上で極 めて重要 である。 申請者は、HIV1の感染様式をin vitr〇の実験系において 検 討 し、HIV1の 細胞 傷 害性 および 持続感染 機序に関 与する遺 伝子の同定 を試みた 。ま た 、HIV1の調節 夕ンバク 質のーつ であるRevの 働きを阻 害するデ コイオリゴ ヌクレオ チ ド を用いて、 抗ウイル ス剤とし ての可能 性を検討 した。

  ボ ル ナ 病 ウ イ ル ス (BornadiseaseurusBDV) は 、元 来 ウ マに 脳 炎を 起 こ すボ ル ナ 病 の原因ウイ ルスとし て分離さ れたもの であるが 、最近の 研究により、ヒト、特に精神疾 患 患者との関 連性が指 摘されて いるふ一 方、慢性 疲労症候 群は、その病因にウイルス感染 が 疑 われ て お り、 う つ症 状 な どの 精 神 症状 も 見ら れ る こと から、申 請者は、BDVと慢性 疲 労症候群と の関連性 を検討し た。さら に、免疫 抑制状態 にあるHW1感 染者およ び脳腫 瘍 患 者 に対 す るBDVの 疫 学調 査 を 行い 、 ヒト に お けるBDVの 感染 様 式に つ い ても 検 討し た 。

  本 論文の重要 な結果は 以下の3点 である。

1HW1mWむ ・ 〇に お ける 継 代 感染 に より 、 低 細胞 傷 害 性の ウ イル ス が 出現 し 、一     部 の 感染 細 胞 に持 続 感染 が成立 した。こ れら細胞 傷害性の 低下はアク セサリー 遺伝     子 で あ るWfr遺 伝 子 の 変 異 ( ゆr遺 伝 子 の ナ ン セ ン ス 変 異、 お よ び叨fか らvpr     に お ける ミ ス アラ イ メン ト欠失 )による ことを明 らかにし た。また、 今回同定 され     ypr遺 伝 子 の ナ ン セ ン ス 変 異 は 生 体 内 の プ 口 ウ イ ル ス に も 高 率に 認 め られ 、m     ぬ ′ 〇 に お け る HW 1の 存 在 様 式 の ー つ で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。

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2.Rev response element  (RRE)内のRev夕ン バク 質結合 部位(bubble構造 )を 含     むオリゴヌクレオチド(RREオリゴヌクレオチド)を合成した。これらのオリゴヌ     クレオチドは、ヒ卜T細胞由来株であるM○LT#8細胞、Ml0細胞およびACH―2細胞     に持続、潜伏感染したHIV−1(実験室株)のウイルス産生を抑制した。さらに、

    RREオリゴヌクレオチドは、ヒ卜末梢血単核球に感染したHW−1(臨床分離株)の     ウイルス産生を抑制した。

3. 日 本 国 内 の 慢 性 疲 労 症 候 群 患 者 で は 、健 常 者 と 比 較 し 、 抗BDV抗 体お よ び     BDV遺伝子の陽性率が有意に高かった。また、慢性疲労症候群の家族内集団発症例     において慢性疲労症候群と診断された患者は全てBDVとの関連が示された。一方、

    慢性疲労症候群や精神疾患との関連性が認められないが、免疫抑制状態にあると考     えられるHIVー1感染者および悪性脳腫瘍患者(グリオブラストーマ)においても、

    抗BDV抗 体 お よ びBDV遺 伝 子 検 出 率 は 健 常 者 に 比 べ て 有 意 に 高 か っ た 。   以上、申請者は、HIV−1の持続感染に関与するウイルス遺伝子を同定すると共に、

HIV―1において変異が起きにくい領域(RRE)のアナ口グであるRREデコイオリゴヌクレ オチドの抗ウイルス剤としての有用性を明らかにした。これらの研究成果はヒトに重篤な 疾患をもたらすHIV−1の持続感染機構の解明および抗ウイルス剤の開発に大きく寄与する ものである。さらに、ヒトにおけるBDVの存在様式は、宿主生体の免疫応答により抑制 された状態にある可能性を指摘すると共に、BDV感染と慢性疲労症候群患者の発病ある いは症状との関連性を示唆する知見を得た。この様に、ヒトにおけるBDVの感染様式を 検討し、未だ病因が同定されていない慢性疲労症候群とBDVとの関連性を指摘したこと は、ヒトにおけるBDV感染の影響を研究する上での大きな貢献であると評価される。審 査員一同は申請者が博士(理学)の学位を受けるに充分な資格を有するものと認めた。

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