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雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

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奈良教育大学学術リポジトリNEAR

英語学習入門期におけるイソプットとアウトプット の相互作用についての実証的研究 −中学校英語基 本構文の定着度調査を通して−

著者 伊東 治己

雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学

巻 44

号 1

ページ 105‑125

発行年 1995‑11‑24

その他のタイトル Empirical Research on the Interaction between Input and Output within EFL Beginners through Measuring the Degree of Internahzation of Basic Sentence Patterns

URL http://hdl.handle.net/10105/1624

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奈良教育大学紀要 第44巻 第1号(人文・社会)平成7年 Bull. NaraUniv. Educ, Vol. 44, No. 1 (Cult. &Soc), 1995

英語学習入門期におけるイソプットとアウトプットの 相互作用についての実証的研究

一中学校英語基本構文の定着度調査を通して一 伊 東 治 己

(奈良教育大学英語教室) (平成7年4月28日受理)

はじめに

・椴に教育・学習の構成要素として、教師・学習者・教材ならびに環境の4つがあげられる。

英語教育学という学問は、英語教育という枠組の中でそれら4つの構成要素個々についての理解 を深めるだけでなく、 4つの構成要素相互の関連性についても深く体系的に研究する学問である が、今t"lの研究では教材と学習者の間のイソクーラクショソに注目するO特に、日本の英語教育 の中でイソプットとして重要な地位を占める中学校用英語教科書と、英語学習の入門期にある中 学生との間の内的相互作用を、基本構文の学習に焦点を当てて、明確にしようとするものである。

I.研究の背景

1.日本の英語教育と教科書

日本の英語教育、特に中学校での英語教育の大きな特徴の一つは、教育を構成する4大要素の うち、教材なかでもその中心をなす教科書の果たす役割が非常に大きいということである。もち ろん、中学生が受け取るインプットは、何も教科書に含まれている言語材料だけとは限らない。

教師や級友が話す英語、マス・メディアから口頭あるいは文字の形で受け取る英語など、実に多 様なインプットに取り囲まれて、中学生は英語の学習を続けている。外国語学習におけるイソプッ トの重要性を我々に再確認させてくれたKrashenは、これら様々なイソプットの中で教室で教師 が口頭で学習者に提示するインプットつまりteacher talkが学習者にとってもっとも重要な comprehensible inputの供給源で、教科書教材など文字の形で学習者に提示されるイソプット

は重要ではあるがあくまで2次的な役割しか担えないとしている(Krashen et al. 1984:265) しかし、教科書で使用される言語材料の枠組みをほぼ決めてしまう学習指導要領の存在、教科 書の広域採択、その結果として市町村あるいは県レベルで中学生が全く同じ教科書で学習してい

る事実、教科書の出版における寡占体制、教科書に準拠して問題が出題される高校入試など、教 科書に関わる特殊事情の下、日本の英語教育は実質的に教科書中心に展開されていると言わざる を得ない。その結果、教科書によって学習者に提示されるインプットは、たとえそれが文字の形 で提示されるにしても、日本の中学生にとっては教師によって口頭で提示されるインプットより

も重要な地位を占めるものと推測される。

日本の中学校で使用されている教科書についてのもう一つの大きな特徴は、教科書に含まれる

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叩 ii rrr 己

言語材料が非常に限定されている点である。教科書で使える言語材料を質的・量的に規定してい る学習指導要領の存在や教科書の無償配布に伴う教科書編集上の制約に加えて、ここ数回の学習 指導要領の改定の度に、言語材料を精選した上二での基礎・基本の徹底の必要性がさけばれ、教科 書に含まれる言語材料が質的にも量的にも大幅に縮小されてきた経緯がある。例えば、語桑につ いては、昭和33年度の改定では中学3年間で指導すべき語乗数が1,100‑1,300であったものが、

今回(平成元年度)の改定では3年間で1,000語程度に縮小されている。また、文法については、

現在、高校の英語I ・英語IIで扱われる文法事項のほとんどが昭和33年度の改定時には中学校で の学習項目になっていた。さらに、平成5年度から採用されている新教科書はそのほとんどが挿 絵や漫画を多用しており、言語材料の縮小をますます印象づける結果になっている。比較材料と して、 Krashenらが提唱しているNatural ApproachのFで実施される最初の授業で提示される 言語材料を示すことにする。

What is your name? Look at Lisa, class. Lisa has blond hair. Hair, blond hair. Look at my hair. Is my hair blond? No, my hair is brown. Look at my eyes. Are my eyes brown? Are they blue? Yes, I have blue eyes. Does Lisa have blue eyes? Look at Lisa s eyes. Are they blue? Are they brown? OK, what is the name then of the student in this class who has blond hair and

brown eyes? (Krashen ef α/. 1984:266)

日本の教科書の場合は、最初に文が扱われるレッスソでの文の数はBe動詞だけを使った2‑

3文が主流で、量的にも質的にもその差は歴然としている。実際、上のKrashenらが最初の授業 で学習者に提示する教材には、日本では中学3年生が対象になっている文法項目(関係代名詞) も含まれている。このように、 Krashenが勧めるInput理論に基づくNatural Approachは、実 に豊富なインプットを前擬にしていることがわかる(cf. Krashen 1982; Krashen and Terrel1 1983) 対照的に、日本の中学校用教科書に含まれる言語材料は量的にも質的にも非常 に限定されており、とても自然な形でacquisitionが進行していくほどのcomprehensive input を学習者に提供できる状態にはない。

2.連合学習と関係学習

外国語の学習に限らず、 一般に学習には二つの性格の異なる方略が用いられる(Cruttenden 1981) ひとつは、学習の対象となる個々の項Hに個別に意味を付与していく方略で、もうひと つは、学習の対象になる項目の背後に隠されている関連性に意味を付与していく方略である。こ こでは、前者を連合学習、後者を関係学習と呼ぶことにする。 Cruttenden (1981)によれば、

学習開始当初は連合学習が主に使用されるが、学習が進展していくにつれて関係学習‑の依存度 が強まると考えられている。この理論に従うと、日本の・巨学生も、英語学習開始当初は連合学習 の方略を主に使用することになる。しかし、ここで学習者の知的発達段階を考慮に入れる必要が ある。ピアジェの知的発達段階説によれば、 12歳という年頃は知的に1分成熟しており、数学の 因数分解に象徴されるような形式的操作が行なえる年代である。このように学習者が知的にかな り成熟した段階で開始される日本の英語教育においては、なるほど学習開始当初はCruttenden (1981) が主張するように連合学習が大きな比重を占めるかもしれないが、連合学習から関係学習への早 期移行が意図的に図られても良いはずであり、その方がより効果的であると思われる。しかしな

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イソプットとアウトプットの相互作用についての実証的研究

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がら、 Lで述べた中学校用英語教科書の質的・墨的特質がこの連合学習から関係学習への移行を 遅らせていると本研究では考える。

英語の学習に限らず、対象となる学習項目が少なければ、学習項目相互の関連性などあまり考 慮せずに、連合学習の方略を用いて丸暗記するだけでそれ相当の成績が残せる。過去、 ○×式の 入試問題がこの傾向を助長してきたのも事実である。この方法の問題点は、当面の目標が達成さ れたのち、それまでの暗記学習の中身の大半が忘れ去られてしまうことであり、さらに新しくて、

より高度な学習課題に遭遇した場合に、以前の学習で培われてきた学力が必ずしも効果的に機能 しないという点である。これとほぼ同じ事が、中学校での英語教育についても言えそうである。

現行の教科書のように言語材料が限られていれば、暗記(連合)学習によってもかなりの成績が 残せる。しかも、この年代の学習者は記憶力も旺盛である。当面の目標を高校入試に限定するな らば、この方法もかなりの程度うまく行くはずである。実際、多くの中学生がこの暗記学習に走っ ている。中学校3年間という枠の,トだけで考えるならば、この方法を批判する理由はさほど見あ たらないし、それなりの利点もある。しかし、英語教育は中学校の段階で終わるものではない。

高校や大学でも続けられる。社会が国際化してきた今日では、生涯学習の視点から英語教育にア プローチしていく必要性を感じている。

中学校時代に英語の成績が優秀であった生徒が、高校に入って伸び悩んだり、その必然的な結 果として英語学習への意欲を失ってしまうケースを多く耳にする。おそらく、そのような生徒は、

中学時代、連合学習をLMjに英語の学習を続けてきたものと推測される。 Lに述べたように、言 語材料が限られている現行の中学校用教科書相手の場合は連合学習でもかなりの成績が残せるは ずである。しかし、この方法は、扱われる言語材料が極端に増大する高校での英語学習には通じ にくい。と言っても、中学時代に連合学習でそれなりの好成績を修めてきた生徒には自分の学習 法をそう簡単には捨て去ることはできないし、中学時代にそれに代わる学習方略を教えてもらっ ていない。そこで、たとえ覚えるべき言語材料が増えても、連合学習にさらに多くの時間をかけ てこの障碍を乗り越えようとする。しかし、覚えるべき言語材料はあまりに多すぎる。当然、努 力に見合った結果を残せなくなる。数回これが続けば、その責任を高校の英語教育、特に担当教 師に転嫁してしまうと同時に、中学時代の英語教育および担当教師を懐かしみ、場合によっては 神聖化してしまう。おそらく多くの高校教師が、これまでにこの種の学習者に多く接してきたこ とと思われる。連合学習は、その性質L、語嚢やイディオムの学習に向いている。当然、中学校 だけに限らず、高校でも大学でもその必要性がなくなることはない。問題は、その方法を総てに 適用するところにある。よく英語は「覚える」教科だと言われる。ひたすら暗記することをいや がったり、面倒くさく思う生徒が増えてきた今R、英語嫌いが増えてくるのも半ば当然である。

英語は覚えるだけでなく、それ以上に「わかる」教科であることを、そして、暗記することは

「わかる」ことには繋がりにくいことを中学生には是非理解してもらいたいと考えている。

3.先行調査との関連性

本研究は、もともと、教科書の質的・量的特質がrf学生の学習方略に影響を与え、結果的に連 合学習から関係学習への移行を遅らせているという推測に動機付けられている。この教材と学習 者との間のイソクーラクショソの実態を明らかにするために、特に基本構文の学習に焦点を当て て、すでに第1次、第2次の調査を実施してきた。基本構文の定着度と教科書での出現状況の間

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lit]竺 伊 東 治 己

の相関を調べた第1次調査(Ito 1992)では、基本構文の定着度が教科書での導入順序よりも出 現頻度に大きく左右されることが判明した。さらに、 Do you like tennis very much?とDo you watch TV every evening?の場合のように、同じ基本構文でありながら、その中で使用さ

れている語嚢項目の違いによっても、基本構文の定着度が大きく左右されることも判明した。

第2次調査(Ito et al. 1994)では、表層的な語嚢項目の違いによる基本構文の定着度のゆれ に着目した。具体的には、同じ基本構文であっても、その主語と述語動詞の組み合せが教科書の 用例の中でもよく見かけられるもの(標準タイプ)と、主語と述語動詞の組み合せが教科書の用 例の中にほとんど出現していないもの(応用タイプ)の2種類を準備し、定着度を測定したとこ ろ、両者の定着度に大きなゆれが生じることが明らかになった。このことは、中学生の間に、英 語の基本構文をそれに付随する語嚢項目とセットにして、最近第2言語習得の分野でも注目を集

めつつある定型表現(prefabricated patternsとかIexical phrasesと呼ばれる)として、内的統 語構造を意識することなく、語嚢的に、ひとつの言語的かたまりとしてそのままの形でまるごと 覚えてしまう傾向が強いことを示唆している(Hakuta 1974 & 1976; Krashen and Scarcella 1978; Nattinger 1990; Nattinger and DeCarrico 1992) 。要するに、前項で紹介した連合学 習への依存度が高いのである。しかも、調査の結果から、いわゆるslow learnersほど標準タイ

プと応用タイプの定着度の差が大きくなることが明かになったが、この事実は、基本構文を定型 表現として特定の語嚢項目と連動する形で固定的に覚えてしまおうとする傾向、つまり、連合学 響‑の依存度もslow learnersほど強いということを示唆している。

このように、第2次調査では、同じ基本構文であっても、標準タイプと応用タイプとでは、そ の定着度に大きなゆれが生じてくることが判明した。標準タイプと応用タイプの違いは、主語と 述語動詞のチャソクの中身の変化に呼応しているが、その中身の変化は、下の例に見られるよう に、単に主語や述語動詞として機能している語嚢項目の違いのみならず、チャソクの絶対的な長

さとも関係している。

例1 :標準(I don t like) baseball very much.

応用(I don t remember) his name very well.

例2 :標準(Jane is) a high school student.

応用(That new building is) our school.

どちらも第2次調査で定着度に大きな「ゆれ」が見られた問題であるが、例1は述語動詞の違 いに基づく応用タイプの例であり、例2は主語の名詞句への拡大に基づく応用タイプの例である。

ここでは前者をチャソクの多様化、後者をチャンクの拡大として捉える。第2次度調査では、こ の三つの異なる応用タイプが混在していたので、調査の結果明らかにされた定着度のゆれが主に どちらの要因によって引き起こされたのかが、必ずしも明確にはできなかった。英語学習をチャ ソクの多様化と拡大のプロセスと捉える立場(伊東1993)からすれば、この問題はさらに深く追 及していく価値が十分にあると考えられる。しかも、上位集団から下位集団になるにつれて定着 度のゆれが大きくなっていった事実を考慮するならば、その要因をより具体的に把録することは、

基本構文内在化のメカニズムを明らかにする上での重要な手がかりを与えてくれるものと思われ る。

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イソプットとアウトプットの相互作用についての実証的研究

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II 基本構文定着度調査の概要

1.日的

教材と学習者のインターラクションの実態把握の一環として行われた今回の第3次調査におい ては、先行調査との関連性のところで触れた第2次調査の結果を受けて、基本構文を構成してい るチャソクの多様化と拡大のどちらが定着度のゆれにより大きく貢献しているのかを、基本構文 の主語と述語動詞の呼応関係に注目し、定着度調査に利用する問題文の変数をより厳密に制御す ることによって調査することにした。具体的には、基本構文の定着度のゆれを測定するための応 用問題として、チャソクの多様化に対応した問題とチャンクの拡大に対応した問題を準備し、そ れぞれ標準問題と組み合せることによって、基本構文の定着度のゆれの原因をより具体的に把握 することを目指した。さらに、第2次調査の場合と同様に、測定された定着度のゆれと英語学力 との関係を調べることによって、基本構文内在化のメカニズムを学習者要因と関連付けてより重 層的に把握することも調査の重要なねらいとした。そこで、今回の調査を進めるに当たって、次 のような実験仮説を設定した。

実験仮説I :同一の基本構文について、その定着度を標準タイプで測定した場合と、応用タ イプで測定した場合とでは、基本構文の定着度に差(ゆれ)が生じてくる。

実験仮説II :同じ標準タイプと応用タイプの間の定着度のゆれであっても、チャソクの多様 化に起因するゆれの程度と、チャンクの拡大に起因するゆれの程度は異なる。

実験仮説Ill :標準タイプと応用タイプの間の基本構文定着度のゆれの程度は学力に応じて変 化する。

実験仮説Iは、第2次調査の結果を追試するためのものであり、実験仮説IIは、今回の調査の 中心で、基本構文を構成しているチャンクの多様化と拡大のどちらが基本構文の定着度のゆれに より強く貢献しているかを調べるために設定されている。この背後には、第2次調査の結果や今 日までの筆者の文型理解に関する研究(伊東1992;1993;1995)や教育経験に基づく一つの予測、

つまり、おそらくチャソクの多様化よりも拡大の方が基本構文の定着度のゆれに大きく貢献して いるという予測が働いている。さらに、実験仮説IIIは、前回の調査でも報告された基本構文の定 着度と英語学力との関係、より具体的には、学力的に下位に位置付けられる学習者の場合ほど、

基本構文定着度のゆれの程度は広がる傾向にあるという調査結果を追試するためのものである。

これら、三つの実験仮説の大前提になっているのは、英語の基本構文を、そこで使われている 表層的な語嚢項Hに左右されることなく、あくまで抽象的な関係概念として理解・運用できる力 こそが、英語学習における基礎学力となるという考えである。極論するならば、教材と学習者の イソタ‑ラクショソの実態把超を目指して行われた第1次から第3次までの一連の調査はすべて この基礎学力観を実証するために実施されたものであるとも言える。

2.被験者

奈良県のある公立中学校の1年生5クラス計172名(男子88名、女子84名)が今回の基本構文

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110

伊 Ll土it;己

定着度調査の被験者である。チャソクの多様化と拡大のどちらがより多く定着度のゆれに貢献し ているかを明らかにするという調査の目的に照らし合わせて、この5クラスの被験者を、チャソ クの多様化と定着度のゆれとの相関を測定するためのグループ(2クラス、 70名)と、チャソク の拡大と定着度のゆれとの相関を測定するためのグループ(3クラス、 102名)に分割した。こ こでは、前者を多様化グループ、後者を拡大グループと呼ぶこととする。これら二つのグル‑フ に後で紹介する定着度調査テストを実施したわけであるが、実際の分析の対象にしたのは、多様 化グループ70名のうちの60名と、拡大グループ102名のうちの60名、計120名である。二つのグルー プの被験者の数を同一にしたのは、調査によって得られる数値データの比較を容易にするためで ある。また、各グループ60名の抽出に当たっては、ランダム抽出が理想であるが、ここでは、定 着度テスト20間のうち5間以上に渡って無解答である被験者や、定期テストの成績と今回の定着 度テストの成績が極端に食い違っている被験者を対象外とするなど、若干の恋意性が含まれてい る。その点で今回の調査はtrue experimentというよりquasi‑experimentとしての性格を有する

(cf. Nunan 1992:41)

さらに、チャソクの多様化および拡大に起関する定着度のゆれと学力との関係を調査するため に、それぞれのグループ60名を、調査時までの4回分の定期テストの成績に基づいて、上位集川 20名、中位集団20名、下位集団20名の三つの学力別集卜刑こ分割した。

チャンクの多様化と拡大のどちらがより多く基本構文の定着度のゆれに貢献しているかを調査 するためには、多様化グループと拡大グループが英語の学力において同じレベルであることが前 提条件となる。そこで、両グル‑プの英語学力の面での等質性を定期テストの成績をもとに、平 均値の差の検定(1検定)を実施した。次の表1はその結果である。

表1 :被験者の定期テスト成績(偏差値合計の平均と標準偏差)

集団  人数   多様化グループ    拡大グル‑フ     差     t df

O   O   O   C

C﹂> C^ C^ C^

204.6(30.58)    203.3(34.51) 232.3( 7.96)    239.9( 9.83) 209.4( 9.06)    206.2( 7.90) 172.0(28.37)    163.8(22.47)

CO ^O CO CV]

i‑i c^ en oc

0.22     118 2. 59*     38 1.17       38 0.99      38

*p<.05

この裏が示すように、 ′検定の結果、多様化グループの英語力と拡大グループの英語力の間に は、上位集団20名において統計的に有意な差が見られたが、それ以外の場合はすべて統計的に有 意な差は見られなかった。両グループの平均値の差の大きさから判断する限り、全体的に見れば、

両被験者グループの英語学力はほぼ等質と見なすことができるであろう。なお、被験者が使用し ていた教科書は、 NEWHORIZON (鹿京書籍)平成5年版である。

3.基本構文定着度調査テスト

基本構文の定着度を測定するために、部分英作文の形式を利用することにした。その掛目とし ては、まず第‑・に、英語でコミュニケーションしようしても、最初まどうしても日本語で内容を 考えざるを得ない初級レベルの英語学習者にとっては、英作文という形式は、自分たちのレベル でのコミュニケ‑ショソの実態に近いという点があげられる。英作文を部分英作文とした理由は、

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イソプットとアウトプットの相互作用についての実証的研究 Illl

今回の調査の主眼が主語と述語動詞の呼応関係に置かれており、その部分のみに関して被験者か ら反応を収集するだけで当初の目的は達成できると考えたからであり、かつ、英訳の範囲を広げ ることによってこちらが予期していなかった要因も介在して来ることが予想されたからである。

調査の対象になった英語基本構文は、中学校1年次で学習する基本構文から選ばれた10個の基 本構文である。第2次調査の場合と特に異なる点は、チャソクの多様化と拡大のどちらがより多 く基本構文の定着度のゆれに貢献しているのかを探るため、多様化グループと拡大グル‑プに対 してそれぞれ異なる定着度テストが準備された点である。それぞれのテストは20問の部分英作文 の問題からなっている。そのうち10問は、どちらのグル‑プも、調査の対象になっている基本構

文を使っての部分英作文で、かつ、 t語と述語動詞のコロケ‑ショソがそのままの形で教科書の 両こ比較的多く出現しているものである。ここではこれらの10問を標準問題と呼ぶことにする。

残りの10問は、どちらのグループも、利用する構文は同じ基本構文であっても、主語と述語動詞 のコロケーションがその形では教科書のL再こ出現していないものである。ここでは、これらの10 問を応用問題と呼ぶことにする。ただ、この応用問題については、チャソクの多様化と拡大のど ちらがより多く基本構文の定着度のゆれに貢献しているのかを探るという調査の目的との関連で、

多様化グループと拡大グループとで「応用」の中身が異なっている。多様化グループの応用問題 は、 :t語ならびに述語動詞のチャソクを形成している内容語が、どちらもI‑一応既習語ではあるが、

どちらか 一方または両方とも教科書での出現回数が少なく、かつ、その組み合せでは教科書に出 現していない間題である。一一万、拡大グループの応用問題は、利用されている単語自体は教科書 の中で比較的多く出現しているものの、二つ以上の単語が結び付いてひとつの大きなチャソクを 形成している点で、応用としての性格を有している。次に示すのは、それぞれのグループに対す る今回の定着度テストにおいて調査の対象になった英語基本構文の用例であり、丸括弧に囲まれ ている部分が部分英作文の形で被験者に要求した部分である。

多様化グループ 標Will拙

roffini胃凹

① (That is) a new train. It runs very fast.

② (We play) soccer after school every day.

③ (Nancy plays) tennis every Sunday.

④ (This isn t) my room. It is my brother s.

⑤ (They don t like) soccer very much.

㊨ (Jane doesn t like) hambergers very much.

⑦ (Is this) your camera or your father s?

⑧ (Do you play) baseball at school every day?

(Does Mike like) Japanese music very much?

⑲ (Mike is playing) baseball in the park now.

⑪ (Susan is) a new student. She is from Canada.

㊨ (We visit) our friend in Tokyo every summer.

㊨ (Bob washes) his car every Sunday.

⑭ (Lucy isn t) my friend. She is my brother s.

⑮ (They don t watch) TV very often.

⑮ (Tom doesn t know) Jenny's brother very well.

⑰ (Is Judy) an American student or an English student?

⑱ (Do you help) your mother every evening?

⑲ (Does Jim eat) Japanese food every evening?

㊨ (Jenny is making) a cake in the kitchen now.

(9)

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拡大グループ 標準問題

応用問題

f>* >k :(il 己

① (That is) a new train. It runs very fast.

② (We play) soccer after school every day.

③ (Nancy plays) tennis every Sunday.

㊨ (This isn t) my room. It is my brother s.

⑤ (They don t like) soccer very much.

㊨ (Jane doesn t like) hambergers very much.

⑦ (Is this) your camera or your father s?

⑧ (Do you play) baseball at school every day?

⑨ (Does Mike like) Japanese music very much?

⑲ (Mike is playing) baseball in the park now.

⑪ (That new teacher is) our English teacher. He is from Canada.

⑫ (Tom and I play) tennis in the park every Sunday.

⑬ (Our English teacher plays) baseball every Sunday.

⑭ (This old racket isn t) mine. It is my father s.

⑮ (Jim and Jenny don t like) Chinese food very much.

⑯ (My father doesn t like) pop music very much.

⑰ (Is your mother) an English teacher or a music teacher?

⑬ (Do Bob and you play) tennis after school very often?

⑲ (Does your brother like) American music very much?

㊨ (Bob s brother is playing) the guitar in his room now.

基本構文10個のうち、文の種類で言えば、芹定文が3個、否定文が3個、そして一一般疑問文が 4個となっている。また、動詞の種類で言えば、 Be動詞が3個、 ‑一般動詞が6個、現在進行形 が1個となっている。標準問題の順番と応用問題の順番は互いに対応している。つまり、標準問 題①と応用問題⑪が同・の基本構文に基づく問題文となっている。このうち、標準問題⑧と応用 問題⑩は、ともに 一般動詞を使った疑問文という点では同一‑であるが、前者は2人称単数を主語 とし、後者は2人称複数を主語としている点で、厳密に言えば同じ基本構文の例文とは見なされ ないが、基本文の応用例としては典型的な部類に属するので、他の応用例と同様に扱うこととし た.また、調査の主眼はあくまでL語と述語動詞の呼応関係に置かれていたので、解答において 利用すべき動詞のうち比較的難しいと判断されたものについては、あらかじめ問題用紙において 被験者に示しておいた。実際に用いられた定着度テストは、拡大グループ用のものが巻末に資料 として掲載してあるが、そこでの問題の順番は、上に示されている問題の順番とは意図的に変え てある。

4.実施方法

上記の基本構文定着度テストは、中学校1年次の被験者がほぼ1年間の英語学習を終えた時点 (1994年3月)に被験者が在籍する奈良県内の公立中学校で、通常の授業の中で授業担当の英語 教師によって1年間の復習テストを兼ねて実施された。通常の授業の一環として実施した関係で、

調査の対象となった5クラスすべてを同じ時間帯で調査することはできなかったが、実質的には ほぼ同時期に実施されたと見なせる。テストの所要時間は約20分である。問題と解答欄は[司じ ‑ 枚の用紙に印刷されており、テスト用紙回収後、直ちに被験者全員の解答欄だけを後の分析のた

(10)

イソプットとアウトプットの相互作用についての実証的研究

113

めに複写機で複写するとともに、事前に設定されていた復習テストの基準に基づいて採点し、被 験者に返却した。

複写して手元に残しておいた解答については、本来の定着度調査の基準に照らし合わせて改め て独白に採点を実施した。その際、調査の目的には直接関係ないスペリングの間違いや、調査の 主眼となっている主語と述語動詞のコロケーション以外の箇所での間違いなどは、採点から除外 した。また、採点結果をコソビュータ処理する関係上、完全な正解のみに1ポイソト与え、それ 以外はすべて0ポイソトとし、部分点は与えなかった。定着度テストの採点結果は、定期テスト の成績と合わせて、被験者ひとりずつ、表計算ソフト(Lotusト2‑3)を使ってコソビュータに 入力し、 120名分の個人別基礎データを作成した。

III 結果と考察 1.問題類型別・学力集団別調査結果

表2 :多様化グループ問題別正答数と正答率(%)

No.類型    目   標  文 全 体    上 位    中 位    下 位

60       20       20       20

1 標準 Thatis 2 標準 We play 3 標準 Nancy plays 4 標準 Thisisn t 5 標準 They don tlike 6 標準Jane doesn tlike 7 標準Is this

8 標準 Do you play 9 標準 Does Mikelike lO 標準 Mike is playing

56  93. 3 42  70.0 45  75.0 49  81.7 29  48.3 30  50.0 41  68.3 43  71.7 25  41.7 35  58.3

19  95.0 20 100. 0 20 100. 0 20 100. 0 15  75.0 16  80.0 19  95.0 18  90.0 16  80.0 18  90.0

19  95.0  18  90.0 16  80.0      30.0 16  80.0      45.0 18  90.0  11  55.0 45.0      25.0 10  50.0      20.0 15  75.0      35.0 17  85.0   8  40.0 8  40.0       5.0 12  60.0      25.0

11応用 Susanis l2 応用 We visit 13 応用 Bob washes l4 応用 Lucyisn t 15 応用 They don t watch

16 応用 TOm doesn t know 17 応用IsJudy

18 応用 Do you help 19 応用 DoesJim eat 20 応用Jenny is making

52  86. 7 44  73.3 42  70.0 46  76.7 28  46.7 31  51.7 29  48.3 42  70.0 32  53.3 37  61.7

19  95.0 20 100. 0 19  95.0 19  95.0 18  90.0 16  80.0 18  90.0 18  90.0 19  95.0 18  90.0

19  95.0  14  70.0 16  80.0   8  40.0 15  75.0   8  40.0 17  85.0  10  50.0 8  40.0     10.0 11  55.0      20.0 45.0      10.0 15  75.0      45.0 11  55.0      10.0 12  60.0      35.0

表3 :拡大グループ問題別正答数と正答率(%)

No. SiV ∫ ft   <L 全 体    上 位    中 位    下 位

60      20      20      20   % 1 標準 Thatis

2 標準 We play 3 標準 Nancy plays 4 標準 Thisisn t 5 標準 They don tlike 6 標準Jane doesn tlike 7 標準Is this

8 標準 Do you play 9 mm Does Mikelike lO 標準 Mike is playing

55  91.7  20 100.0 34  56.7  20 100.0 47  78.3

49  81.7 30  50.0 34  56.7 45  75.0 28  46.7 26  43.3 27  45.0

20 100. 0 20 100. 0 17  85.0 18  90.0 17  85.0 15  75.0 16  80.0 17  85.0

19  95.0  16  80.0

10  50.0      20.0

17  85.0  10  50.0

19  95.0  10  50.0

10  50.0      15.0

13  65.0     15.0

18  90.0  10  50.0

8  40.0      25.0

45.0       5.0

8  40.0      10.0

(11)

HE!

仰 心(71* 」T.

11応用 That new teacher is 12 応用 Tom andI play

13 応用 Our English teacher plays 14 応用 This old racket isn t 15 応用Jim andJenny don t like 16 応用 My father doesn t like 17 応用Is your mother 18 応用 Do Bob and you play 19 応用 Does your brother like 20 応用 Bob s brother is playing

Ln o H rt io ^i co ^ io N

1   2   1   1   1   1   1   1   1   1 0   N   o   o   r o   o   n   s   n   N

i o   t o   o   i o   n   o   (

× 3   i

‑ H   C O   r

‑ 1

co N n csi ^ in n ^ ^'*

^ co to ^ o n m io ifiM ^ H H CSI CO CNI N N IM

75.0 100.0 55.0 55.0 75.0 80.0 65.0 70.0 75.0 85.0

o   o   o   o   o   o   o   o   o   o

o o LO Ln iO LO LO o iO Lc

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‑ I   i

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O   M   H   H   C O   n   H   N   C O   H

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o   o   o   o   o   o   o   o   o   c o   o   o   L O   O   L O   L O   L n   o   L n

r o   o ‑ c O ' ‑ i ‑ ^   L O ‑ ^ ‑ ^   ^ r   c o

^ 0 ‑ ^   c r >   c o   o o                 6   7

1                       1

多様化グループと拡大グループそれぞれについて個人別基礎データの作成が完fした後、基本 構文定着度テストの各問題について、正答数と正答率を被験者集凹(全体・上位・ 【出立・卜位) 別に算Miした。上の表2と表3は、その結果を示している。

2.仮説の検証 (1)実験仮説Iの検証

次に示す表4は、定着度テストの成績(平均点と標準偏差)を被験者グループ(多様化・拡大) ごと、学力集団(全体・日立・中位・ド位)ごと、かつ、問題類型(標準・応用)ごとに/Jミした

ものである。なお、テストの総点は全体が20点、標準と応用が各10点である。 SDは標準偏差を 示している。

表4 :llり担ttiV¥判.・*蝣[‑‑ ・'刈・ 'i '.ltL川判Aiiul̀t

被験者 集団  全体 SD    標準 SD    応用 SD    芹    t df 多様化 全体 13.0(5.93)

L位 18.2 (2.04) 中位 13.6 (5.07) 下位  7.0 (3.44) 拡 人 全体 10.5(5.89) L位 16.3 (3.13) 中位 10.6 (4.57) 卜位  4.6 (1.96)

6.58 (2.88)   6.38 (3.21) 1.05 (0.97)   9.20 (1.24) 7.00 (2.56)   6.65 (2.68) 3.70 (1.70)   3.30 (2.17) 6.25 (2.88)   4.25 (3.25 9.00 (1.04)   7.35 (2.41) 6.55 (2.27)   4.05 (2.62) 3.20 (1.33)  1.35 (1.06)

0.20   1.06     59 0.15    0.72    19 0.35   1.10    19 0.40    0.95     19 2.00   8.68*    59 1.65   3.58*   19 2.50   6.24*   19 1.85   5.81*   19

全 体 全体 11.7 (6.04)   6.42 (2.89)   5.32 (3.41)  1.10   6.49*  119

*p<.01

既に、定期テストの成績(表1参照)から多様化グループと拡大グル‑プの間には、英語の学 力において統計的に有意な差がないことが確認されている。よって、 L二の表4に示されている結 果の相違は、一応すべて問題の類型に応じた定着度のゆれの実態を示していると考えられる。

標準問題と応用問題の間の基本構文の定着度の違いに着日してみると、多様化グループにおい ては、全体的に見ても、各小集団ごとに見ても、いずれの場合もその差は統計的に有意な差とは 見なされない。一方、拡大グループにおいては、全体と各小集団のいずれの場合においても、定 着度の違いは危険率1%以下で統計的に有意な差と見なすことができる。さらに、今回利用した 定着度テストでの応用問題の種類の違いを無視して、被験者全体での標準問題の成績と応用問題

(12)

インプットとアウトプットの祁rI二作用についての実証的研究

115

の成績を比較してみると、上記の表に示されているように、そこには危険率1%以下で統計的に 有意な差が見られる。以Lの結果から、調査の目的のところで示した実験仮説I、つまり、基本 構文の定着度を標準タイプで測定した場合と、応用タイプで測定した場合とでは、定着度にゆれ が生じてくるという仮説は、まず、被験者全体を対象とした時には、危険率1%以下で支持され る。ただし、この標準問題と応用問題の間の定着度のゆれは、主に、拡大グループの間での定着 度のゆれに起因していることも付言しておかなければならない。

(2)実験仮説IIの検証

農本構文定着度に関する第2次調査では、基本構文を構成するチャソクの中身の変化に応じて 基本構文の定着度も大きく変化することが明らかにされた。ただ、チャソクの中身の変化を、調 査に利用した問題文のレベルで十分に制御していなかったので、チャソクの多様化と拡大のどち

らがより多く基本構文の定着度のゆれに貢献しているかは、必ずしも明らかにはされなかった。

L記の表4に示されている今回の調査結果からは、チャソクのrfl身の変化のうち、チャソクの多 様化よりも拡大の方が基本構文の定着度のゆれに大きく貢献していることがわかる。次に示す図 1は、多様化グループと拡大グループそれぞれについて、被験者全体での標準問題と応用問題の 成績の違いを、表4に示されているデータをもとに図示したものである。

図1 :問題類型別・グループ別平均点

S O) サ ーー (         m cj  ‑  s

l1

拡 大グループ

図擦準問題 国応用問題

実際のところ、今回の調査では、主語や述語動詞に当たる内容語の相違(つまりチャソクの多 様化)に起因する定着度のゆれは第2次調査で観察されたほどではなく、今回の調査結果に基づ

く限りでは、チャソクの多様化は基本構文の定着度のゆれにはさほど影響を与えないと結論づけ ることができる。ただ、チャソクの多様化に起因する定着度のゆれに関しては、おそらく応用問 題のために選ばれる内容語の性格に大きく左右されることも十分に予想されるので、今後さらに 継続して研究を重ねる必要性がある。いずれにしても、実験仮説II、つまりチャソクの多様化に 起目する基本構文定着度のゆれとチャソクの拡大に起因する基本構文定着度のゆれの間には差が 生じてくるという仮説は、支持される。

(13)

116

伊 東 治 己

(3)実験仮説IIIの検証

第2次調査では英語学力のレベルが下がれば下がるほど、基本構文の表層レベルでの変容(つ まりチャンクの多様化や拡大)に起因する基本構文の定着のゆれが全体的に大きくなる傾向があ ることも報告されていたが、今回の調査では、図2と図3が示すように、定着度のゆれが学力に 連動して漸次拡大していくという傾向はそれほど顕著には現れなかった。むしろ、それに代わっ て、特に拡大グループにおいて顕著に現れているように、 L位集団から中位集団へと学力レベル が下降するにつれて一旦拡大傾向にあった定着度のゆれが下位集団において再び収束する傾向が 明らかになった。この拡大から収束へという特異な傾向の原因は、下位集団の標準問題の正答率 が予想以上に低くなっていることに求められる。つまり、下位集団にとっては、たとえ問題文が

図2 :多様化グループ定着度のゆれ

口棲準問題 +応用問題 図3 :拡大グループ定着度のゆれ

口棲準問題 +応用問題

(14)

インプットとアウトプットの相互作用についての実証的研究

117

標準型であっても、そこで使われている語嚢が十分に自分のものになっていなかったので、限り なく応用型の問題に近くなっているのである。これが、下位集団においては標準問題と応用問題 の間の定着度のゆれがさほど大きくならなかったことの原因であると思われる。仮に、下位集団 の間での標準問題の定着度が本来予想されるレベルにまで達していれば、おそらく今回の調査で も第2次調査の場合と同様、学力レベルがド降するにつれて定着度のゆれが比例的に拡大してい く傾向が見られたと思われる。よって、この点についても、今後さらに研究を重ねていく必要が あると考えられる。いずれにしても、学力に応じて基本構文定着度のゆれの程度が変化するとい う実験仮説Illそれ自体は、今回の調査結果(特に拡大グループの場合)によっても部分的にでは あるが、 I‑一応支持される。しかし、学力レベルに応じた定着度のゆれの変化の実態は、前回の調 香とはかなり食い違うものになっていることも付け加えておきたい。

3.項目分析

(1)標準問題と応用問題のiH答率の差

表5 :多様化グループ構文別定着度のゆれ(標準問題と応用問題の正答率の差)

構文 No.炉型      目  標  文       全 体  上 位  中 位  下 位 1 標準 Thatis

ll 応用 Susanis 2 標準 We play 12 応用 We visit

y.

3 標準 Nancy plays l3 応用 Bob washes

4 標準 Thisisn t 14 応用 Lucyisn t

5 標準 They don tlike v 15 応用 They don t watch

6 標準Jane doesn tlike

Ⅵ 16 応用 TOm doesn t know 7 標準Is this

Ⅶ 17 応用IsJudy

8 標準 Do you play vm 18 応用 Do you help

9 標準 Does Mikelike 19 応用 DoesJim eat

10 標準 Mikeis playing 20 応用Jennyis making

・Y

93.3    95.0    95.0    90.0 86.7    95.0    95.0    70.0 6.7    0.0    0.0    20.0

70.0   100.0    80.0    30.0 73.3   100.0    80.0    40.0

‑3.3    0.0    0.0  ‑10.0

75.0   100.0    80.0    45.0 70.0    95.0    75.0    40.0 5.0    5.0    5.0    5.0 81.7  100.0    90.0    55.0 76.7    95.0    85.0    50.0

5.0    5.0    5.0 48.3    75.0    45.0 46.7    90.0    40.0 1.7  ‑15.0    5.0 50.0    80.0    50.0 51.7    80.0    55.0

‑1.7    0.0   ‑5.0 68.3    95.0    75.0 48.3    90.0    45.0 0*   5

0    30

71.7    90.0    85.0 70.0    90.0    75.0

7    0 0   10

41.7    80.0    40.0 53.3    95.0    55.0

‑ll.7  ‑15 0  ‑15

58.3    90.0    60.0 61.7    90.0    60.0

5.0

‑3.3    0.0    0.0  ‑10.0

標準      65.8   90.5   70.0   37.0 応用       グループ平均        63.8   92.0   66.5   33.0 差      2.0   ‑1.5    3.5    4.0 [備考] *p<.05  **p<.01

(15)

118

伊 東 治 己

定着度テストの個々の問題における標準問題と応用問題の正答率の差に着目してみよう。問題 類型全体としては、すでに述べたように(表4参照) 、多様化グループにおいては標準問題と応 用問題の成績(平均値)の間に統計的に有意な差は見られなかったが、拡大グループにおいては すべての被験者集団(上位・中位・下位及び全体)で統計的に有意な差が観察された。ここでは、

今回調査の対象になった10個の英語基本構文それぞれについて、標準問題と応用問題の正答率の 差を各被験者グループごとに統計的に有意な差となっているかどうかを2項検定(x2検定)を 使って分析した。 Lの表5と下の表6にはその結果が示されている。

表6 :拡大グル‑プ構文別定着度のゆれ(標準問題と応用間題のiK答率の差)

構文 No.類型      目  標  文      全 体  上 位  中 位  下 位 1 標準 Thatis

ll 応用 That new teacheris 2 標準 We play

12 応用 Tom andI play 3 標準 Nancy plays

13 応用 Our English teacher plays

・v

4 標準 Thisisn t

14 応用 This old racketisn t

・Y.

5 標準 They don tlike

15 応用Jim andJenny don tlike

.4:

6 標準Jane doesn tlike

Ⅵ 16 応用 My father doesn t like 7 標準Is this

Ⅶ 17 応用Is your mother

8 標準 Do you play

Ⅷ 18 応用 Do Bob and you play 9 標準 Does Mikelike

Ⅸ 19 応用 Does your brother like

y.

10 標準 Mikeis playing X  20 応用 Bob s brother is playing

100.    95.0    80.0 75.0    30.0     0.0 2 25.0*   65.0*   3.0*

100.0    50.0    20.0 100.0    70.0    60.0

0   ‑20 100.0    85.0

55.0    30.0

55

100.0    95.0

55.0   15.0 0**  80 85.0    50.0 75.0    40.0 10 90.0    65.0 80.0    55.0 0   10 75.0    85.0    90.0 38.3    65.0    45.0 36.7*   20.0   45.0*

46.7    75.0    40.0 41.7    70.0    45.0 5.0    5.0   ‑5.0 43.3     D.0    45.0 43.3    75.0    40.0

0.0

15.0 2 15.0

5.0    5.0  ‑10.0 85.0    40.0   10.0 5.0    35.0    5.0 0.0    5.0    5.0

標準      62.5   90.0   65.5   32.0 応用       グループ平均        42.5   73.5   40.5  13.5 差       20.0*  16.5キ   25.0*  18.5*

[備考] *p<.05  **pく.01

表5と表6に示されているように(*印に注出、多様化グループの場合は、統計的に有意な 差が見られたのは基本構文Ⅶの、グループ全体での比較の場合(%2‑4.93, pく.05)においての みで、それ以外はすべて標準問題と応用問題の定着度に有意な差が見られなかった。これは、問 題類型全体として標準問題と応用問題の成績(平均値)の間に統計的に有意な差は見られなかっ

たとする上記の観察を裏付けているが、調査前の段階では、多様化グループにおいてもある程度 統計的に有意な差が観察されると予測していたので、意外な結果であった。その原間としては、

(16)

インプットとアウトプットの棚̲tl二作用についての実証的研究

119

まず第1に、標準問題として設定した目標文の中で利用されていた語嚢項目の教科書での出現頻 度が以外に少なかったり(例:基本構文Ⅴのthey) 、目標文で利用された語嚢項目自体の出現 廉度は高いがその組み合せが目新しかったため(例:基本構文ⅨのDoes Mike like) 、結果的 には標準問題よりも応用間題に近くなってしまっていたことが考えられる。もちろん、応用問題 のlE答率が予測以上に高かったことも原因となっているので(例:基本構文II、 III、 Ⅷ) 、現段 階ではその理由をii‑:確に特定することはできない。今後さらに継続して研究を進めていく必要性 を感じている。

‑方、拡大グループの場合は、まず、被験者集川全休では基本構文I、 II、 III、 Ⅳ、 Ⅶにおい て統計的に有意な差(危険率については上記の表参照)が見られた。次に、グループ内の学力集 川ごとに差を分析してみると、 H立集団では基本構文I、 III、 Ⅳの3箇所で、中位集団では基本 構文I、 III、 Ⅳ、 Ⅶの4箇所において、さらに下位集団においても基本構文I、 II、 III、 Ⅳ、 Ⅶ の5箇所において統計的に有意な差が見られた。ただし、基本構文IIの場合は、こちらの予測に 反して、応用間題の正答率の方が1二回っている。調杏前の段階では、第2次調査の結果などから、

基本構文全部で統計的に有意な差が生じるのではないかと予想していたので、今「ft]の結果は、問 題別に見る限りにおいて当初の予想を下回るものであった。その11二な原因としては、多様化グルー プの場合と同様に、標準問題の正答率がこちらが予想した以上に低かったために応用問題の正答 率との差が予想以Lに縮小してしまったことが考えられる。応用問題の正答率は、基本構文IIを 除いて、ほぼ当初予測した範回にあるので、標準問題の設定に若干の問題があったと思われる。

今後の検討課題としたい。

(2)基本構文の難易度

次の表7は、多様化グループおよび拡大グループそれぞれについて、今[‑uI調査の対象になった 10個の基本構文をグル‑プ全体での止答率を底準に定着度順に並べ替えたものである。

表7 :基本構文の難易度

多様化グルーフ      拡人グルーフ

叛fl        標  文     JE答数 ttl †り         (T.  L L「 n tx

標準 Thatis 標準 Thisisn t 標準 Nancy plays 標準 Do you play 標準 We play 標準Is this

標準 Mike is playing 標準Jane doesn t like 標準 They don t like

準 Does Mike like 応用 Susan is 応用 Lucyisn t 応川 We visit 応用 Bob washes 応用 Do you help 応用Jenny is making 応用 Does Jim eat 応用 TOm doesn t know

52 46 44 42

蝣11!

37 32 31

標準 That is 標準 Thisisn t 標準 Nancy plays 標準Is this

標準Jane doesn t like 標準 We play

標準 They don t like 標準 Do you play 標準 Mike is playing

Does Mike like 応用 Tom andI play

55 49 47 45 34 34 30 28 27 26 46

応用 My father doesn t like       30 応用Jim and Jenny don t like      26 応用 Does your father like        26 応用 Bob s brother is playing      25 応用 Do Bob and you play        25 応用Is your mother       23 応用 That new teacher is         21

(17)

伊 東 治 己

応用 Our English teacher plays 応用 This old racket isn t

That is

・M This isn t 標準 Nancy plays 応用 Tom and I play 標準Is this

標準Jane doesn t like 標準 We play

標準 They don t like 応用 My father doesn t like 標準 Do you play

標準 Mike is playing

応用Jim and Jenny don t like 標準 Does Mike like

応用 Does your father like 応用 Bob s brother is playing 応用 Do Bob and you play 応用Is your mother 応用 That new teacher is 応用 Our English teacher plays 応用 This old racket isn t

29

56 52 49 Eft

蝣15

44 43 42 42 42 41 37 35 32 31 30 29 29 28 25

応用IsJudy

応用 They don t watch Sip That is

応用 Susan is 標準 Thisisn t 応用 Lucyisn t 標準 Nancy plays 応用 We visit 標準 Do you play 応用 Bob washes 応用 Do you help 標準 We play 標準Is this

応用Jenny is making 標準 Mike is playing 応用 Does Jim eat 応用 TOm doesn t know 標準Jane doesn t like 標準 They don t like 応用IsJudy

応用 They don t watch 標準 Do郎Mike like

gc  i

o I<

o  i t, i ' ,i r,

r

r  W ) ? ]C ]T I  C 1

この表7に示されている基本構文のIE答率から見た順番は、中学生にとっての当該構文の難易 度のバロメータとして解釈することができるであろう。今回の調査では、基本構文の難易度まで は対象にしていなかったので、ここではこの間題について深く言及することは避けておきたい。

ただ、第2言語習得の研究分野で論議されてきた形態素の習得順序との関連で、いくつか興味あ る情報も提供してくれているのも事実である。今回の調査の主目的であった基本構文の定着度の ゆれとの関連で言えば、これら二組の表は同じ10個の英語基本構文の定着度を学力的に同等と考 えられる被験者を対象に調べた場合の結果を示しているにも関わらず、表に示された定着度の順 番が多様化グループと拡人グループで大きく食い違っている点である。次の表8は、基本構文の 定着度の順位の相関を問題類型ごとと被験者グループごとに分けて分析したものである。

表8 :基本構文難易度の順位相関

対  象    n      相  関  項  目      相関係数 問題全体

fff:llり担

応用問題 多様化グルーフ 拡 大グルーフ

o   o   o   o   o

C M   i ‑ H   ‑ ‑ I   . ‑ <     r ‑ H

多様化グループと拡大グルーフ      0.225 多様化グループと拡大グル‑7      0.790*

多様化グループと拡大グル‑7     ‑0.410 標準問題と応用問題      0.839*

標準問題と応用問題      ‑0.590

*#p<.01

同じ10個の基本構文の定着度を測定しているにも関わらず、多様化グル‑プと拡大グループの 間では、テスト問題全体で見た場合の順位相関は0.225と非常に低く、両者の間に実質的な相関 は認められない。また、被験者グループごとに標準問題での定着度順位と応用問題での定着度順 位の相関を分析してみると、多様化グループの場合はかなり高い相関が認められた半面、拡大グ ループでは反対に負の相関が認められた。これらの事実は、基本構文の定着度は、測定に利用さ

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