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発達における機能連関に関する研究(2) −話し ことば獲得期のちえおくれ児および自閉的傾向児の 発達的特徴−
著者 田辺 正友, 横田 多喜
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 33
号 1
ページ 125‑139
発行年 1984‑11‑26
その他のタイトル A Study of Functional Relations with
Development (2)−Developmental Features of Mentally Retarded and Autistic Children in the Period of Verbal Language Acquisition−
URL http://hdl.handle.net/10105/2243
奈良教育大学紀要 第33巻 第1号(人文・社会)昭和59年 Bull. Nara Univ. Educ, Vol. 33, No.1 (cult. & soc), 1984
発達における機能連関に関する研究(2)
話しことば獲得期のちえおくれ児および自閉的傾向児の発達的特徴
田 辺 正 友・横 田 多 喜
(奈良教育大学障害児学教室) (昭和59年4月27日受理)
問 題
通常1歳半ごろの時期は、直立二足歩行、話しことば、道具の使用の獲得に象徴されZ発達の 質的転換期であるが、障害児の発達過程を詳しく観察すると、この時期でつまづいている子ども が多い。この転換期でつまづいている障害児は、 「ことばがでない」 「ことばがおくれている」と いう子どもたちが多い。さらに、長島瑞穂(1970)が指摘するように、話しことばが獲得されな いままに生活年齢が高くなると、無目的行動の増加や激しい常同行動、自傷行為などがみられや すく、生活年齢が発達にとってマイナスになりやすいということがある。それだけに、言語獲得
は、障害児教育の実践において重要な課題のひとつとなっている。言語の獲得をめざしねぼり強 く、そして赦密なとりくみをすすめながら、この困難の多い課題を切り開いていかなければなら ない。
ところで、子どもが言語を獲得していく過程を詳細に検討してみると、それはきわめて複雑で あり、ダイナミックな過程であることがわかる。前論文で筆者らは(田辺正友、 1981)、言語発 達と他の諸機能の発達との連関の問題を明らかにしようとして計画した実験的研究のひとつとし て、話しことば獲得期前後のちえおくれ児を対象に、手把機能の発達との関連について分析した 結果を報告したO そこでは手指機能‑ 「把握」 「つまみ」の発達水準と言語発達の水準との間に 一定の対応関係が兄い出された。子どもの言語の問題を考える場合、ことばだけを対象として研 究するのではなく、できるだけ多面的に諸機能の連関しあう関係のなかで、言語の役割をとらえ ていかなければならない。子どもの生活の中では、諸機能が密接に相互に連関し合いながら働き、
子どもが新しい段階へと発達するにつれ諸機能の連関のしかたの構造が変わり、諸機能の中で中 核的役割をになうものが変わっていくのである。
現在の発達研究のなかで求められている方向は、子どもの要素的な行動の個別機能的発達だけ を問題にするのではなく、それらの間の機能連関を重視することである。そして、こうした発達 研究を基軸とした研究成果から多くの知見が得られ始めている。障害児においては、とくにこの ような発達連関が問題になる場合が多い。とり出される行動によって発達の「ずれ」が生じやす く、ひとりの子どものなかで、発達の債域によって「ずれ」が大きく、巷得したレベルと獲得し ていないレベルとを同時にもった時期が長く続くという現象を起こしやすい。そのことがまた、
次の質的転換期の獲得を困難にしているのである。田中呂人(1977)の可逆操作特性の高次化に おける「階層一段階」理論では、障害がある場合、この発達のずれは発達の階層間の移行におい ておこりゃすいとされる。
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自閉的傾向をもつ子どもに、個人内の発達のずれが大きく、そのずれは発達の質的転換期のい くつもにまたがることがしばしばみられることが実践的、臨床的に明らかになっている。運動性 の発達や手指の操作性では一定の発達の力量を備えているにもかかわらず、言語や社会性の発達 において大きく落ちこみやすいという傾向が指摘されている。そしてとりわけ、コミュニケーシ ョン手段としての話しことばの獲得が達成されていない場合、 「ウロウロ動きまきる」 「視線が合 わない」 「強い固執性をともなう儀式的振舞いがある」といった行動がさらに強まることになる。
こうした発達のずれやある種の傾向性は、保育や教育の課題が設定しにくく、顕在化した「不適 応」行動の対応におわれるなどにみられる保育・教育指導上の困難な状況をもたらしている。森 下勇(1984)の京都府立の養護学校、小学部・中学部・高等部における自閉的傾向児の実数把握 の調査報告では. 5校の全児童・生徒数784名のうち自閉的傾向児は115名(14.%%)で、小学部 では253名車62名(24.5%)と中等部・高等部とくらべてかなり高くなっていることが示されて いる。そして小学部における自閉的傾向児のしめる割合の年度別推移をみると、養護学校義務制 実施の1979年度を境にその割合が急激に高くなっている。養護学校においても、自閉的傾向児を 含む多様な子どもたちに対して、多様な教育内容・方法の充実が求められているといえよう。
WHO (1973)の国際疾病分類に関する用語解説試案(ICD‑9)や、 1980年の米国精神医学 会の精神疾患疾病分類および診断基準第3版(DSM‑1)において「自閉症」を症候群として とらえる考え方が示され、 「自閉症」という概念は、多様な原因を予想させる包括的なものとな ってきている。しかし、その病因も病理もまだ明らかにされておらず、診断についても症状によ る診断が中心となっている。病因や治療方法が解明されていない現状において、それだけ胎生期 を含む全発達過程を通じての症状の整理とそれに対応する治療・指導方法の確立がいそがれる。
Wing, L. (1976)も指摘するように、これまでの自閉的傾向児に関する研究は、病因論に偏りが ちであったが、発達と教育の側面からの研究が待たれていた。
山上雅子(1978、 1979)は、対人関係に障害を示す子どもの生後数年を、たんなる行動面での 特異性を探るのではなく、発達的見地から把握することを重視し、特に乳児期の社会的行動に焦 点をあてて発達上重要な特定の行動が一般に期待される時期に達成されているかどうかを調査し、
4群の類型を示している。 50名の自閉的傾向をもつ幼児は、生後6カ月ごろの他者への積極的な 情動的かかわりの態度、 8カ月ごろの養育者への強い愛着を示す人みしりと後追い行動、 12カ月 ごろの表象機能の先ぶれとしての指さし行動のいずれかに全対象児かつまづいていること、とり わけ生後6カ月ごろに起こる受動的な社会的反応から能動的な社会的かかわりの態度へと発達す る質的転換期でつまづいている者が圧倒的多数をしめたという結果を得ている。そして、自閉的 傾向児にみられる諸機能相互の協応障害やアンバランスな発達相は、たんに機能的な統合の障害
という平面的把握だけでなく、発達過程での統合の失敗として把握することも可能ではないかと 述べている。中村隆一(1979)は、自閉的傾向の早期発見の重要性を招賭し、その障害像が固定 化する以前にそれを発見し必要な手だてをたてることが可能ではないかと述べ、乳児期後半の連 結可逆操作の階層で発達上の弱さは顕著となり、 10カ月健診時にみられる第二者を対象化し可逆 的に交通する弱きがみられると指摘している。
発達保障論的視点にたち、田中ら(1982)の「新しい発達の力の誕生」の姿と関係させつつ行
動特性を再整理し、自閉的傾向児の発達構造を解明しようとする研究もみられるようになってき
た(長島; 1981、 1983、 1984)< さらには、自閉的傾向児に固有の行動特性とされる、周囲から
の極端な孤立、対人関係障害、同‑性保持行動、自傷行為などいわゆる「問題行動」といわれる
発達における機維連関に関する研究(2) 127 ものも、発達過程において変化し、消長することが明らかにされてきている(荒木穂積ら、
1981;長島、 1984)。障害児保育・教育において、これまで障害を発達的に理解する重要性が指 摘されているが、自閉的傾向という障害をもちつつ発達している子どもたちの具体的な発達像が 明らかにされていかなければならない。
そこで本研究は、話しことば獲得を課題とするちえおくれ児および自閉的傾向児それぞれの発 達的特徴を、発達連関に視点をあてて分析し、それから保育・教育における指導の手がかりにつ いて検討を試みることを目的としてなされた。この目的を達成するために研究方法として今回は 発達診断、実験的観察および学校生活場面での行動観察による研究法が用いられた。
方 法
対象児 対象児は奈良市N小学校障害児学級に在籍する児童のうち、話しことば獲得を課題と する児童7名で、その構成はTablel に示す通りである。なおここでは、生育歴のなかでの診 断なども参考にしながら、教師が日常の実践の中で把握している事実や発達診断場面において、
「対人関係がもちにくく、ひとり遊びが多い」「オーム返しやことばの理解に困難さがある」「同 一性保持の傾向が強い」などの行動特徴として「自閉症状」がみられるものを、自閉的傾向児と
して抽出した。
実験的観察課題および手つづき 実験的観察課題は対象児の発達段階を考慮して、手指の操作 については6課題、言語活動については3課題、対人関係については5課題を設定した。
(1)手指の操作
手指の操作についての課題の構成と手つづきはTable 2 に示す通りである。
(2)言語活動
言語活動についての課題の構成と手つづきはTable 3 に示す通りである。
(3)対人関係
対人関係については、 「バイバイの動作模倣」 「ボール遊び」 「相手のしていることに興味を示 し、自分もやろうとする」「平行遊び」「おもちゃのとりあい」の5課題を設定し、学校生活場面 での様子の観察および教師より聴取をした。
結果の処理 教師の聴取によった課題以外は、検査者2名が子どもの示した行為の様子を記録 した。なお、手棺の操作の課題のうち「はめ板一円板の回転」 「道具的行為」 「おはじきのつま み」 「把の模倣」の4課題、および言語活動の課題のなかの「言語理解‑ちょうだい」の結果に ついては、以下に示す基準に基づいて評価を行なった。
(1)はめ板一円板の回転
長島(1967)の研究を参考にTable 4 に示す5段階を設定した。
(2)道具的行為
近藤直子(1976)の「道具的行為の獲得過程」の研究に基づき、 Table 5 に示す4段階で評 価した。
(3)おはじきのつまみ
河添邦俊ら(1979)の「手指の機能の発達と獲得すべき力の目安」に基づき、 Table 6 に示 す5段階で評価した。
(4)指の模倣
Table l 対 象 児
ち え お く れ 児
対 象 児(性) O.T. (女 M.K. (女) 〜 I.M. (男)
自 閉 的 傾 向 児
S.T. (女) K.H. (男 M.T. (女 0.M. (女)
発達段階 躯幹一四肢レベル 手一指 レ ベ ル 言語‑認識レベル 生 時 産 時
定 頚 発 歯 這 行 つかまり立ち 始 歩 始 語 既 往 歴 相 談 歴
教 育 歴
1次元可逆操作期 1次元形成期 1次元形成期 母の病気・外傷等
なし 満期出産 胎位正常・自然分 娩
体重2320g 生まれてすぐ高熱
がつづいた 普 通 普 通 しなかった 普 通 遅い(3歳2ケ月頃)
生後2日ひきつけ 発熱380
精神薄弱児通園 施設2 if‑
1次元可逆操作期 1次元可逆操作期 1次元可逆操作期 母の病気・外傷等
なし
早産(9カ月) 胎位正常・自然分
娩
体重2300g 生後3日風邪 生後1週間発熱380
普 通 普 通 (10カ月頃) (12カ月頃) 遅い(1歳10カ月頃)
まだなし 1ケ月半毛細器管 支炎( 3週間入院) 1歳ヘルニア手術 2歳狭頭症と診断 精神薄弱児通園
施設2年
2次元形成期 2次元形成期 1次元可逆操作期 母の病気・外傷等 なし
満期出産 胎位正常・自然分
娩
体重2980g
普 通 普 通 遅 い 遅 い 遅い(1歳10ケ月頃)
8ケ月(マンマ) 11ケ月先天性股関
節脱口手術
幼稚園1年
2次元形成期 2次元形成期 示性数3可逆操 作期
母の病気・外傷 等なし
満期出産 胎位正常・自然 分娩
体重3640g
(4カ月) (8ケ月) (10ケ月) (12ケ月) (1歳3ケ月)
msMS腰
幼稚園3年
2次元可逆操作 期
2次元形成期 1次元形成期 母の病気・外傷 等なし
満期出産 仮死産・麿帯巻 絡
体重3000g
早い(2ケ月) 早い(5ケ月) 早い(6ケ月) 早い(8ケ月) 早い(11ケ月) 遅い(1歳8ケ月)
3歳11カ月 ハシカ
発熱38‑39 ‑
保育園 3年6カ月
2次元可逆操作 期
2次元形成期 1次元可逆操作 期
母の病気・外傷 等なし
満期出産 胎位正常・自然 分娩
体重3200g
普通(3ケ月) 普 通 普 通
・普 通 早い(11ケ月)
遅 い
幼稚園2年
2次元可逆操作 期
2次元可逆操作 期
1次元可逆操作 潤
母の病気・外傷 等なし
満期出産 胎位正常・自然 分娩
体重3000g
ォ
通 通 通 通 通
n l
2
H r
普 普 普 普 普
SJ い
幼稚園1年 精神薄弱児通園 施設1年
ト・一
班
E g
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轍 ・
熟 切
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叫
発達における機能連関に関する研究(2) Table 2 手指の操作課題の構成と手つづき
129
Table 3 言語活動課題の構成と手つづき
板
課 題 の 構 成 身 体 各 部 人形の身体各部
*> ‑>蝣> ‑ ト̀
大人の指さt 左ををみる
¥L 什
・lii 犬 可 逆
倣
う だい ていって っ て き て
手 つ づ き
「身体各部」 「人形の身体各部」 (□・鼻・目・耳・頭・手の順) 「絵カー ド」 (K式絵指示図版一大・車・人形・茶碗・錬・魚の順)の3項目につい て、 「おくちどれ」 「プープーどれ」というように質問し、指さし行動がみら れるか観察した。
さらに、日常生活において、田中杉恵(1978)のいう、 「大人の指さした 方をみる(志向の指さし)」 「定位の指さし」 「要求の指さし」 「可逆の指さ
し」等がみられるか、教師より聴取を行なった。
「反復噛語」 「音声模倣」 「語嚢3語」の3項目について、これらの課題が 達成されているかどうか、検査および学校生活場面でチェックした。
「ちょうだい」は、 「道具的行為」課題終了後、子どものもっている‑コ
に対して検者が「ちょうだい」と言って手をさLだし、その時の子どもの反
応を観察したO 「もっていって」 「もってきて」の2項目については、学校生
活場面での様子を教師より聴取した。
130 田辺 正友・横田 多事
Table 4 「はめ板一円板の回転」の評価基準
Table 5 「道具的行為」の評価基準
Table 7 に示す3段階で評価した。
(5)言語理解‑ちょうだい
「ちょうだい」に対して無反応である場合「‑」、 「ちょうだい」に応じるが相手の顔をみな い場合「士」、相手の顔をみてわたしきるか、イヤイヤをしてわたさない場合は「+」と評価し た。
なお、可逆操作の階層一段階の確定は,入学時からの新版K式発達検査ならびにいくつかの下 位項目を附加して実施した結果と教師の聴取によってなされた。実験および観察日時は、 1983年
9月〜11月であった。
結果と考察 1.発達検査結果からみた全体的傾向
Table l に示した発達段階から全体的な発達傾向をみると、ちえおくれ児においては、言語
発達における機能連関に関する研究(2) Table 6 「おはじきのつまみ」の評価基準
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Table 7 「指の模倣」の評価基準
や認識の発達の遅れと相関するかのように手指の発達に落ちこみがみられる。一方、自閉的傾向 児においては、躯幹一四肢のレベルや手指の操作のレベルでは一定の発達的力量を備えているが、
言語や社会性の発達において大きく落ちこんでおり、獲得された諸能力間にかなりの「ずれ」が みられる。とりわけS.T.は、発達の階層間にまたがる発達のずれがみられる0
2.実験的観察および学校生活場面での観察結果からの分析
これらの諸機能問の関連を少し詳細に分析するために、実験的観察および学校生活場面での観 察結果、課題へのとりくみ方、設定された検査場面への参加状況、検査者との関係のもち方も含 めた分析を試みる。 Table 8 は全対象児の実験的観察課題の結果を示したものである。段階表 示は方法のところで示した基準に対応するものであり、 「積木の塔」はつんだ個数を、 「身体各
部」等の指きしについては正答数を記録している。また、 「+」は課題を達成していること、
「士」は課題を達成しているが不確かであること、 「‑」は課題を達成していないことを示して いる。
(1)手指の操作との関連
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Table 8 全対象児の実験的観察課題の結果
辛
作
蝣}X;