奈良教育大学学術リポジトリNEAR
奈良教育大学における日本語教育のあり方 ―実践 記録から見る今後の課題―
著者 澤田 田津子
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 32
ページ 63‑74
発行年 1996‑03‑01
その他のタイトル Japanese Language Teaching in Nara University of Education (1989‑1995)
URL http://hdl.handle.net/10105/6917
奈良教育大学教育研究所紀要 平成8年第32号
奈良教育大学における日本語教育のあり方事
一実践記録から見る今後の課題一
澤田田津子
(言語文化教室)
要旨:奈良教育大学の留学生に対しては、各留学生の立場、日本語力に応じた クラスがいくつか用意されてい糺しかしながらこれまで、本学の日本語教育 についてまとめられたものはまだ何もないのが現実である。本稿では筆者が赴 任してからの日本語教育を振り返り、今後の留学生の推移を予想するとともに、
そのためには日本語教育がどのようであるべきかを考察す孔 キーワード:コース別日本語教育、教材、クラスサイズ、学部留学生
1.はじめに
筆者が本学に赴任したのは平成元年(1989年)4月である。今年で7年目を迎えるわけで、こ こで今までの留学生に対する日本語教育についてまとめ、課題を整理し公にするのが本稿の目的 である。
日本語教育は決まったカリキュラムに沿って毎年同じように進められるものではなく、受講す る学生の日本語レベル、二一ズによって毎年やり方を変えてい糺完壁とは言えないが毎年コー ス・デザインを行い、実践しているといえる 〕。よい授業のためには何が必要か。適正なクラス サイズ、学生のバラエティなど、入学、選考の段階から配慮して初めて実現できることが多い。
日々留学生に接し、毎日日本語を教えている筆者本人でさえ、なかなか過去を振り返り、トー タルな目で本学の日本語教育を反省する機会がなかった。これはひとえに筆者の怠慢であるが、
6年半の日本語教育を概観することで、本学の日本語教育の問題がどこにあるのかが幾分見えて くるように思われる。
留学生の総数はさほど多くない本学ではあるが、その内訳を見ると、肩書きとしては学部正規 留学生(以後r学部生」と呼ぶ)、学部研究生、聴講生(日本語日本文化研修留学生「日研生」、
姉妹校留学生を含む)、大学院生、大学院研究生、教員研修留学生(以後、「教研生」と呼ぶ)と なる。国籍は1995年春の場合は台湾、中国、韓国、アメリカ、フランス、ドイツ、ルーマニア、
バンクラデッシュ、インドネシア、である。この6年半にその他の国としては、フィリピン、タ イ、ミャンマー、メキシコ、ブラジル、マレーシア、からも留学生を迎えた。更に、1995年の秋 からはスウェーデン、チェコ、ポーランド、からも日研生が来学し、現在学習中であ糺
まJapanese Lang皿age Teaching in Nara University of Ed㎜cation (1989−1995)
榊Taz皿ko SAWADA,(Departm㎝t of La㎎uage and Cult阯re)
このように多様な学生が、多様な二一ズを持って本学に留学してくるわけだが、その中の総て の学生が日本語を学ぶわけではない。中には既に日本語学習を終了してしまったようなレベルの 学生もいるし、日本語はできれば勉強したいけれど、専門の勉強が忙しく、そこまで手が回らな い学生もいる。筆者の観察によれば、留学生のうち、現在クラスに出てきて日本語を学習してい る者の割合は全留学生の約60%かそれより若干多い程度である。これ以外の学生でも一度でも過 去に日本語のクラスに出たものを加えると、80%ぐらいの留学生が、本学に来て一度は日本語を 学ぶ教室にいたということができる。
留学生のうち、日本語学習が義務づけられているのは学部留学生の一・二回生、日研生、教研 生、姉妹校留学生である。従って本稿ではまず、学部留学生用に開講されている日本語I,Iの
うち筆者が担当しているIについてとりあげる。学部留学生用日本語「I」「皿」は、いずれも 週に一回の授業で、それぞれ独立して授業がおこなわれており、関連性は持たせていない。受講 生も若干異なっているので、こういう形態しかとれない現状である。尚、筆者がこのうちの「I」
を担当し、「皿」は読解を中心に他の教官が担当している。
次に教員研修生用の日本語の授業があるが、教研生のカリキュラム等については、以前、学内 の特別研究で取り上げられており、報告書も出ている2〕ので、簡単に概観するにとどめたい。
最後に姉妹校留学生用の日本語教育について取り上げるが、これは2人または3人の教官が同 じ教材を使って行う集中教育なので、筆者一人が担当する授業についてではない。従ってこれに ついてはコース全体について述べることにする。
2.学部図学生用 日本語I 2.1.年度別の標果
①1989年度(平成元年度)
受講生 :一回生5名、二回生4名、他に研究生・院生数名 レベルは全員日本語能力試験一級合格基準を満たす者
教材 :4,5月は現代文学作品から抜粋した文を読ませ、様子をみる。
6月以降3月まで夏目漱石rこころ」を読札大体一回につき半章 章。
毎回「言葉と用例」の説明、内容確認のためのアンサーシートをわたし、それに沿っ て学習してくることを前提とした。
コメント:地味な内容にも拘わらず、受講者は全員興味を持って最後までついてきれ たまたま小説に興味を持つ受講者がそろったからこそできた内容だった。
また、この当時は非漢字圏の留学生がこのクラスにいなかったので、漢字について の苦労が少なく、そのことも小説を読むときにはプラスに作用したと思われる。
この後はなかなかこのような授業は実施しにくいままである。
②1990年(平成2年度)
受講生 :一回生1名、二回生4名、三回生1名、他に教研生2名、日研生1名、院生2−3
名。レベルは学部留学生については、全員、日本語能力試験一級合格レベル。他の
受講者の中に、中級の上程度の学生が数名いた。また、非漢字圏の学生が一名いた。
教材 :引き続き小説を読む。この年度は最初の三ヶ月は教師が毎回、日本でよく読まれて いる小説の要約を準備し、その作家と作品について説明し、要約文を読み、抜粋文 をみんなで読んだ。
このように、いくつか要約の仕方、発表の仕方、抜粋文の選び方のサンプルを教師 自らが示した後、六月ぐらいから、受講者それぞれが毎回担当.を決めて、発表した。
授業の進め方は以下の通り:
(1)2〜3人(1人でもよい)がグループで一つの作品を担当する。
(2)作品を授業中に全部読むことはできないので、抜粋部分を選び、そこをみんなで読む。
また、小説の内容の要約文を書いて、当日参加者に配乱 (3)担当者ははじめに全員に「あらすじ」を書いたものを配る。
(4)担当以外の者はその「あらすじ」を読んで、わからないところなどを担当者に質問す る。(登場人物やストーリーについて)
(5) 「あらすじ」がわかったら、その作品の抜粋を何カ所か読む。
(6)(5)の時には担当者が用意した語彙説明のリストを参考にす糺 (7)読後全員でその作品について話し合う。(司会は担当者)
(8〕最後に担当者はその作品について一般的評価などを紹介する。
以上の作業を通して、「読んで内容を理解する力」(2,4,5)、「内容を要約してまとめて 書く力」(2,3)、「質問することによる聞くカ」(4)、「説明したり、質問に答えたりする 話す力」(4,7,8)という言語の四技能がバランスよく身につけられるのではないか、と 考えたわけである。
以上のようにして、学部留学生は一人2〜3回担当し、他の留学生も、1−2回担当した。
当初、授業についてくるだけで精いっぱいだった非漢字圏の留学生も、最後に自分でr伊 豆の踊り子』について発表し、さかんな拍手をうけた。
なお、自分で特に読みたい小説を選べない学生には教師がいくつかの作品を提示し、そこ から選ばせるようにした。また、二回目の発表では、自国の小説で是非とりあげたいもの があれば、それでも良しとした。ただしその場合は抜粋文がないので、自分で書く要約文 を長くしなければならなかった。
一年間に取り上げられた作品の一部を以下にあげておく。
志賀直哉r小僧の神様j、遠藤周作伯い人』、芥川龍之介r羅生門」r秋」、
太宰治r走れメロス』、川端康成r伊豆の踊り子』『雪国』、菊池寛『恩讐の彼方に』、
壷井栄r二十四の瞳』、
この中のいくつかの作品については映画化されており、VTRが出ているので、節目節目 で見ることにより、より一層の理解を深め、作品に対する親近感を持ってもらえるように した。
コメント:この年も比較的受講者のレベルがそろっていたし、引き続き小説に興味のある学生
が多かったのでこのような形式が可能だったのだろう。受講者の達成感、満足感も あったようなので、またこの形式でやりたいものだと思っているが、なかなか条件 がそろわず、実現していない。
この授業をうけたことで、少しは同じ年代の日本人学生の読んできた世界を共有す ることになるわけで、基礎学力の面からも意味があったと言える。
ただ、この形態は「やる気」に大きく左右され、中にはごく短い要約文と抜粋文し か出さない受講者もいたのが残念である。
③1991年(平成3年度)
受講生 :一回生2名(途中から1名休学)、二回生1名(休学中)、日研生(非漢字圏、漢字 圏各1名)、研究生、院生など、3−4名
教材 :授業の都度、新聞を読んだり、小説の抜粋を読んだり、作文指導したりしれ特に、
教材を定めず、一回完結の授業になるようにした。
コメント:この年は受講生が少なく、単位を出すべき学部留学生が実質1名しかいなかった。
研究生も参加してはいたが、出席率が一定せず、連続した授業がしにくい雰囲気が あっれ受講者のレベルも全体的にあまり高くはなく、学習動機にもばらつきがあっ て、率直なところ、非常に授業の進めにくい年だったと言える。
④1992年(平成4年度)
受講生 :一回生なし(入学者なし)、二回生1名、研究生、大学院生 数名 教材 :新聞記事抜粋など
コメント:この年も前年と同様、核になるべき学部生がわずか1名で、あとの受講生は来たり 来なかったりという事が多く、連続性は持たせられなかった。また、非・漢字圏の 学生である日研生も参加せず、淋しく活気のない一年となった。
⑤1993年(平成5年度)
受講生 :一回生2名、日研生1名(非漢字圏)、研究生、院生 4−5名 教材 :r外国学生用日本語教科書 上級I,I』3〕、その他
コメント:ようやく学部生が再び入学し、安定的に出席してくれたので、主にこの2名のレベ ルに合わせて教材を選んだ。上記の教材から、学生にとって興味のありそうなトピッ クを選んで読解教育をおこなった。
教科書を離れて、随時新聞の論説文を読ませたり、作文をさせたりもした。学部留 学生に完全に的を絞ったので、「読み」「書き」にかなり偏った授業であったと思う。
⑥1994年度(平成6年度)
受講生 :一回生5名、二回生2名、日研生 前期2名・後期5名、研究生、院生、数名 教材 :VTRによる授業 前期〜後期前半にかけて『青春家族』4〕、のこりの三ヶ月は「こ とわざ」「慣用句」「テレビからのVTR」などを使って、作文練習。
指導法は以下の通㌦
[前半]
日本語教育用に再編されたNHKドラマ「青春家族」を使って日本人の話し言葉に触れ る。世代、性別、場面によって違う言葉遣いをすることを理解させる。語彙の面では、
話し言葉に特有の省略、縮約形、方言、位相について生のものを理解するきっかけとす る。
(1)まずVTR一回分15分を見せ、内容の要点がつかめていたかどうかだけを質問してい く。真偽法による内容確認問題も使った。
(2〕次に進出語彙、慣用句、の解説を行い、話し言葉について導入する。
(3)二度目をスクリプトを適宜追いながら見糺
(4)最後に要点をかい摘んで書くことと、あるトピックについての感想を書いてくること を宿題として出す。
[後半]
ことわざ、慣用句を使って
(1)一つの諺、慣用句についていくつかの例文を与え、文の意味が理解できたところで、
自分なりのことばでその諺、慣用句を説明する文を書かせた。
(2)次に、自分でもその諺を使った例文を作らせた。話し言葉にも使われるような諺、憤 用句を中心に導入し、作文教育と連動させた授業にした。
コメント:この年再ぴ学部留学生が一定数入学し、二回生と合わせると7名となり、また安定 的に出席したので、続きものの授業をすることができた。
学部生たちはみんな漢字圏の学生であったが、一方で日研生は非漢字圏の学生が多 く、読解教材を選ぶのは難しいように思われた。従ってVTRを素材に、主に日本 語の話し言葉、待遇表現の理解を深めさせた。ただ、作文が中心の授業になったの ・で、どうしても自宅学習に委ねる部分が多くなり、学生によっては殆ど家でやって こないものもあり、進度にばらつきがでたかもしれない。
⑦1995年度前期(平成7年度)
受講生 :一回生2名、二回生6名、日研生5名、教研生2名、大学院生、研究生4−5名 教材 :1.VTR教材(NHKクローズアップ現代、視点・論点、テレビ朝日 ニュース・
ステーションなど)
学生にとって、できるだけ興味のもてる内容のものを選んで、かつ日本語学習と しても意味のある内容のものを選んだ。VTRの長さは10分から15分までが限度 であり、「クローズアップ現代」の場合は二回にわけて授業をした。取り上げたテー マは以下の通り
「変わる製造年月日表示」「関西新空港」「就職戦線」(以上クローズアップ現代)、
「国語世論調査から」(視点・論点)、「モノの50年 給食」(ニュース・ステーショ ン)、r広告について」(徹子の部屋)、「銭湯」(NHKの番組)
2.毎回適当なVTR教材を提供できない場合があったので、数回は日本の現代小
説をテープ化したものと、そのスクリプトを使って授業をした。
この場合も、テープの長さは1O分程度、せいぜい15分が限度であっれVTRと 違い、テープは音声だけなので、集中力の維持が問題とな糺
使用教材はr現代文学の世界」ヨ〕の中から
星新一「友好使節」、安部公房「空飛ぶ男」、太宰治「津軽」
[VTRの場合の指導法]
(1)まずVTRを見せたが、あまり日常的になじみのないトピックの場合は、若干の解説 をしてからのこともあった。
(2)次にプリントを使って、語彙の説明、慣用句の説明と単文作成。
(3)二回目は要所要所でテープを止めながら、聞き取りにくいところ、早口のところ、省 略、方言などは特に何度か巻き戻して注意深く聞いた。
(4)さらに、空所を多く設けた要約文を与え、そこに適当な語句、数字を入れて、完成さ せるタスクを与えた。
(5)最後に、質疑応答を口頭で行い、全体に対するコメントもさせ、口頭でおこなったこ とは自宅で文に書いてくるように毎回宿題とした。
[テープの場合の指導法]
(1)まず、作家と作品の背景について簡単に説明してから、テープを聴いれ /2)次に、語句の説明をしながら、少しずつ聞いていく。(スクリプトを見ながら)
(3)あとは、VTRの時と同じように質疑応答、要約文の完成などをした。
コメント:この期はこの6年半で初めて20人を越えるような授業になることもあり、かつてな くにぎやかなクラスとなった。研究生や院生も刺激されたのか、あまり休まず、ほ ぼ毎回固定した出席者となった。
VTRのトピックの選び方については概ね好評だったのではないかと思う。政治的 なもの、宗教的なもの、精神世界を取り扱ったもの、等は扱わないようにした。日 本語教育の教材として使って有益な、論旨の明快なもの、起承転結のはっきりした もの、原因結果のとらえやすいもの、また、学習者の世代にとって必要な情報とい う観点から教材を作ったつもりである。
また、日本人の話し方の多様性に慣れるため、敢えて方言を話す人の出てくるも のにしたり、ビジネスマン、学生、主婦、経営者などの登場するものを選ぶように した。
ただ、なにぶんにも受講生の数が多かったので、質疑応答をするにしても、用例を 作らせるにしても、結局全員に答えさせることはとてもできず、中には受け身で授 業中座っているだけのものもいた。
また、作文という形で最後にまとめさせたわけだが、これは自宅学習にさせたの
で、やはり個人の学習動機の有無によって、したりしなかったりという結果になっ
てしまった。
VTR教材をもとにしてディスカッションに発展させるとか、ディベートをさせる とかいうことも考えていたが、一時間半の授業ではなかなかそこまで余裕がなく、
といって次回(一週問後)に持ち越す、というのも適当ではなく、若干消化不良に なってしまった感は否めない。
2.2.これからの学部留学生用日本語コース
こうやって6年半の授業を振り返ってみると、学部留学生用の日本語授業というのが、本学に おいてはすべての留学生のための「なんでも有りの日本語授業」になっている感さえする。本来 は私費外国人留学生のための入試を受けて、合格したもののみを対象に、正規の授業として開講 されているのだから、上級レベルで、学部留学生だけを受け入れればいいのだが、年によっては その核となるべき学部留学生がおらず、それでもなお開講され、出席しているのは全員本来なら 対象外の学生ばかりだった年もあった。
そこで、今までの経験から次のようなことが言えると思う。
①学部留学生が安定的に出席している授業では、研究生や大学院生の参加者の出席率もあがり、
結果として安定的な出席者による継続的授業が可能になる。(91年、92年以外)
(核となる学部留学生がいることで、クラス全体の雰囲気が引き締まり、聴講している学生 も学習意欲カ測激されるようである。)つまり、学部留学生の安定的な確保が、この授業の 運営の成功に欠かせないと言えるのである。
②漢字圏の学生と非漢字圏の学生が混合で授業をうけることは、一見困難なようだが、必ずし も困難さばかりが目立つわけではない。むしろ、双方ともに刺激を受けて、良い相乗効果を 生むことも多い。特にここ二年の非漢字圏学生の漢字力、漢字に対する旺盛な学習意欲はす ばらしく、ときには漢字圏の学生よりも漢字に詳しいこともあるほどであ乱
③学生の関心事があまりにもばらつくとトピックの選択が大変難しいので、できれば10人前後 のクラスが理想的であ糺発表形式の授業は10名を越えると、担当する回数が減って、効果 をあげにくいと思われる。少なすぎると、クラス全体が緊張感に乏しくなり、効果が出ない ことが多い。いずれにしても、適正なクラスサイズの実現が授業の成功の可否を左右する。
3.教員研修留学生用 日本語A 3.1.年度別侭要
① 1989年度
受講生 :中国、マレーシア、メキシコ、ブラ.ジル 各1名、タイ2名 教材 :下絵とタスクで学ぶ日本語』6〕他
② 1990年度
受講生 :韓国3名、中国1名(日研生1名)
教材 :rにほんごいろいろ』〒〕他
③ 1991年度
受講生 :タイ、フィリピン、メキシコ 各2名
教材 :『総合日本語中級前馴助他
④1992年度
受講生 :フィリピン、タイ、インドネシア 各1名(日研生1名)
教材 :nAPANESE FOR EVERYONE
⑤ 1993年度
受講生 :ミャンマー、タイ 各1名(目所生1名)
教材 :『英文実用日本語』m〕
⑥1994年度
受講生 :タイ、ミャンマー、フィリピン 各1名(日研生2名、研究生1名)
教材 :『現代日本語コース 中級I、皿」11)
⑦1995年度(前期)
受講生 :韓国3名、インドネシア1名(日研生2名、研究生1名)
教材 :r中級の日本語』1里〕
3.2.教員研修図学生用日本語授業のまとめと課題
教研生は全員本学に来る前の半年、大阪外大で日本語教育を受けてきている。非漢字圏からの 留学生は殆とが来日するまで全く日本語を知らなかったので、そういう人達の日本語のレベルは
ようやく初級の文法項目を一通り勉強したあたりであ糺
本学では外大時代に初級コースにいた人と中級コースにいた人が混ざることが普通であり、日 本語のレベルは揃っていないことが多い。その場合、下のレベルに合わせるようにし、外大で中 級を終わってきた学生については、可能な限り学部留学生用の授業に出てもらうようにしている。
ただし、教研生用日本語と学部留学生用の日本語とではかなりレベルに差があり、一方ではや さしすぎ、一方では難しすぎる、という学生が少なからず残ってしまうことがあり、このことが 最大の問題となっている。
教研生は年齢的にも学生ではなく、研究者レベルなので、あくまで自分自身の専門の研究を優 先させ、あとは比較的自由に日本語を学んでもらうようにしている。
研究活動には通常英語を使っているので、当日本語クラスの目的は「コミュニケーション能力 の育成」にある。従って、教材もできるだけ「コミュニカティブ」なものを選んで、話し言葉を 中心に授業を進めてきた。
なお、教研生用のクラスには、日研生のうちで若干日本語の力が上級には届かない者にたいし ても参加を勧めている。()内にその数を書いておいた。
年度毎の人数の推移を見てもわかるとおり、教員研修生は今後あまり数は増えないものと予想 される。今後は教研生のみのプログラムの改善を、発展的解消を含めて考えていく必要が出てく るものと思われる。
4.姉妹校留学生用 日本語
本学ではアメリカの二つの大学一Lock Haven Univ.(LHU)、Central Michigan Univ.(CMU)一
と実質上の学生の交換を行っている。本学に来る学生数は例年2−3名である。彼らの留学期問 は毎年9月から12月までで、実質14または15週しか授業が受けられない。この間にどれだけの日 本語を学べるかが問題となる。
ただ、他の留学生と違い、彼らのためには週に4コマの日本語の授業があり、かなり集中的に 日本語が学習できる環境ではある。
4.1.年度別篠要
①1989年度
受講生 :LHUより女子2名、男子1名 こ札に教官1名が学生として参加
教材 :rAn Introducti㎝to Modem Jap㎜ese』 3〕
コメント:この年で最初で最後だったが、姉妹校より教官が来日し、学生と共に学んだことが この年の特徴。テキストの内容が留学期間と少しあわず、消化不良になってしまっ たようだ。漢字などは積極的にする時間がとれなかった。
また、男子1名の学生は最初の数回授業に出ただけで、あとは全く出席しなくなっ てしまい、これもテキストとの相性が悪かったのか、または日本そのものに対する 不適応なのか、はっきりとしないまま終わってしまい、残念だった。
②1990年度
受講生 :LHUより男子1名、女子3名
教材 :『BASIC FUNCTIONAL JAPANESE』 〕
コメント:この年からテキストをコミュニカティブ・アプローチに基づくものに変えた。
ただし、1年目のこの年は、テキストがビジネスマン用のものだったので、語彙の 差し替えなど、工夫を要した。文法内容の少ないテキストだったので、適宜補助教 材で補う必要があった。
女子学生のうち、1名は日本にとどまり、翌年の九月に帰国するまで、日本語を続 けた結果、中級の中程度までマスターできたようである。
③1991年度
受講生 :LHUより女子2名
教材 :『JAPANESE FOR EVERYONEj15〕
コーメント:どちらも大変真面目だがおとなしい学生で、よく勉強したが、二人だけのクラスは 活気に乏しく、効果が半減したと思㌔
この年に再びテキストを変えたが、こ札は語彙が多く、また内容も盛りだくさんだっ たので、適宜省いて必要に応じて教えるようにした。
④1992年度
受講生 1LHUより女子1名、男子1名、CMUより女子1名 教材 :TSITUATIONAL FUNCT1ONAL工APANESE」16)
コメント:この年の始めに出版されたばかりのコミュニカティブなテキストを使ってみる。初
年だったので、使い方に教師側が十分なれておらず、必要のないところまで覚え込
まそうと、無駄な苦労をしてしまったかもしれない。
CMUの学生はすでに一年ほど日本語を勉強してきていたので、その学生にとって も無駄にならないように工夫が必要だった。アメリカでは文法中心に学んできたよ うだったので、会話、話し言葉に重点をおき、なんとかLHUとの学習歴の違いを カバーするようにした。
⑤ 1993年度
受講生 :LHUより女子1名、CMUより男子1名 教材 :rSITUATIONAL FUNCTIONAL JAPANESE』
コメント:どちらも日本語は初めてで、かつ動機の強さも似通っていたので、やりやすかった 年と言えるが、人数はやはりもう少し欲しいところだ。
このテキストにも少レ廣れ、使用させる目的で教える文型、表現と理解項目との区 分ができるようになり、無駄が少なくなったと思われる。
アメリカヘ帰った後、その日本語をどのようにして学習し続けているのかが気にな るところである。
⑥1994年度
受講生 :LHUより男子1名
教材 :TSITUATIONAL FUNCTlONAL JAPANESE』
コメント:たった一人ではあったが、大変熱心に学び、テープの助けも得て、かなり成果があ げられた。SFJもかつてなく進むことができ、漢字は別のテキスト 〕を使ってやり、
500字ほど学ぶことができた。
4.2.姉妹校留学生用授業についての改善策
姉妹校留学生も当初は3−4人だったが、ここ数年二人以内が続いている。語学教育的観点か ら言えば、できればもう少し人数がいてほしい。
彼らの場合、在日期問が短く、かつ帰国してから日本語を続けるとは限らないので、とりあえ ず日本語の枠組みが理解でき、かつ習ってすぐ街で使える日本語を教えていく必要がある。その ためにはペア・ワークやロール・プレイなどの練習がしたいのだが、人数が二人以下ではできる ことも限られてくる。
また今まではたまたま二人のレベルにそれほどの違いがなかったので良かったようなものの、
将来もこの程度の人数で、しかもレベルが全く違うとなると、現状のような特別の授業はやりに
くくなる。
したがって次のことを提案したい。
1.二校のうち、一校とはまた正式な姉妹校協定が締結されていないが、きちんと姉妹校とし て締結したあとは、各校からそれぞれ二名、合計四名ぐらいは学生が安定的に来日するこ とが望ましい。
2.もし人数を増やすことが無理ならば、やはり姉妹校留学生専用のクラスというのを見直す
必要がある。
たとえば、毎年9月からは初級の日本語コースを実施することとし、そこに姉妹校留学生 が中心となって参加するようにする。ただし、そこには例えば研究生なども、レベルが合 えば参加できることとする。
5.まとめ
以上、学部留学生、教員研修生、姉妹校留学生のためのそれぞれの授業を6年半にわたって振 り返ってみたわけだが、このようにまとめて書くことで、筆者自身も改めて感じることがあり、
今後の留学生施策に役立てて欲しいと思うので、その点を書いておくことにしたい。
1.学部留学生はやはりなんとしてでも少なくとも毎年3人以上は入学してもらわないと、
せっかくの「日本語」の授業が形骸化する。これは大変無駄なことである。
2.教員研修生は本学においてはこのところ減少傾向にある。これは全国的には同じ程度の数 の教研生が来日しているのだが、受け入れ大学が増加したために、このような結果になっ ているものと思われる。従って、教員研修生の授業は、見直しの時期に来ていると言える。
3.姉妹校留学生に関しては、やはり安定的な数が欲しいところであ糺
留学生の日本語教育というのは、それが「目的」になっている人もいれば、ただ単に「手段」
になっている人もいて、そんな学生が入り交じっているクラスというのは確かに難しいものであ る。ただ、本学の場合、今のところは学生の種類別に授業が開講されている形にはなっているが、
実際には各レベルがそろっていることになる。レベルごとにまとめなおすと次のようになる。
[初級]:姉妹校留学生用授業
ただし、これは9月開講、エ2月までで、今までは他の留学生にはいっさい解放して こなかったので、その点について必要があれば検討するべきである。
[中級]:教員研修留学生用授業
教研生は今後、その数が本学の場合は減ってくることが予想される。さらに、教研 生の中にはすでに日本語の上級クラスに参加可能なものもいるので、そのような傾 向をふまえ見直しが迫られている。
このクラスは通年開講であるので、非公式には他の留学生にも希望があれば聴講を 認めてきた。レベル的には絶対に必要なレベルのクラスだと思われるので、見直す にしても、形を変えた存続が前提にはなる。
[上級]:学部留学生用授業
これは筆者の担当する授業の他にもう1コマあるので、週に2コマとなる。さらに、
前期のみの開講であるが、平成7年度より「日本語演習1,2」が開講され、作文 と読解を中心に学習しており、数の上ではすでに必要数が設置されていると言える。
ここ数年来安疋的に来学している日研生も受講できる授業として、内容の一層の充 実が望まれるものである。
以上のことから、特に、今後姉妹校留学生以外で、全く日本語の初心者の留学生が来る場合が
想定されるのであれば、9月開講の授業を見直し、通年で初級クラスを設置することを検討する
必要がある。さらに、本学には通常なら上級コースを修了しているような学生で、しかもまだ若 干の日本語力の増強を望む学生もいる。(学部三回生以上、大学院生など)そういう学生のため には、クラス対応の日本語教育ではなく、学習者支援システム蝸〕という形での教育の必要性があ ると考えられる。そのためにはリソースセンターの開設 9〕など、全学レベルの協力体制で臨むこ とが必要になってくるのである。
(註)