奈良教育大学学術リポジトリNEAR
オーストラリアにおける「学習困難」問題の展開と 早期対応 −クイーンズランド州の場合−
著者 玉村 公二彦, 片岡 美華
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 50
号 1
ページ 241‑250
発行年 2001‑10‑15
その他のタイトル Development of Educational Policy and Early Intervention for Learning Difficulties in Australia −In the Case of Queensland−
URL http://hdl.handle.net/10105/1389
奈良教育大学紀要 第50巻 第1号(人文・社会)平成13年
Bull. Nara Univ. EducりVol. 50, No. 1 (Cult. & Soc). 2001
オーストラリアにおける「学習困難」問題の展開と早期対応
‑クイーンズランド州の場合‑
玉 村 公二彦
奈良教育大学学校教育講座(障害児教育学) 片 岡 美 華
(クイーンズランド大学大学院) (平成13年4月27日受理)
キーワード‑. 学習困難,学習障害,早期対応.オーストラリア,クイーンズランド州
は じ め に
オーストラリアでは. 「学習障害」を障害のカテゴリ ーとして認定し教育措置を展開したアメリカとは異な
り,障害のカテゴリーとするというよりは, 「学習困難 (Learning Difficulty)」という概念を用い.教育全般の エコロジカルな検討を進展させる中で.教育サービスを 展開してきた経過を持っている.
今日でも,実際.オーストラリア各州での主要に使用 されている用語を示してみれば.ニューサウスウェール ズ.クイーンズランド,南オーストラリアでは「学習困 難」が‑舟那勺であり,ヴfクトリア.西オーストラリア では, 「リスク児(students at risk)」ないし「教育的 リスク児(students at educational risk)」が‑・般的で ある.州の教育政策文書においては,クイーンズランド 州が「学習国難」と「学習障害」を区別して使用し,ニ ューサウスウェールズ州が「学習困難」,酉オーストラ リア州では「リスク(at risk)」ないし「教育的リスク (at educational risk)」,ヴィクトリア州と南オーストラ リア州では「リスク」 「学業不振(underachieving月
「学習国難」 「特別なニーズ(special needs)」を使用し ている.このような中で, 「学習困難」の基準は川や各 学校においてまちまちであるが,多くは. 「学年で]年 以上の遅れ」ないし「学年で2年以上の遅れ」とされて おり,その出現率も10‑20%とばらつきがある.しかし, オーストラリアでは学習上の困難を経験している児童.
生徒すべてに対して何らかの教育的サポートを提供する という方針をとり.教育的な努力がなされている点は重 要である.
オーストラリアにおける「学習困難」への教育的相応 は, 1990年代を通じて.新たな段階を迎えていると思わ
241
れる.それは.特に読み・書き・算数などの基礎学力が 個人的,社会的,知的発達上の本質となる能力として再 評価され.それを基にしたリテラシーなどの高いレベル での能力が社会全体の向上においても重視されるという 位置づけがなされ, 「学習困難」への多様で重層的アプ
ローチの存在が模索されていることによる. 「学習困難」
という用語の包括性からくるが.障害のカテゴリーとL ての「学習障害」と軽度知的障害との関係‑の着目とい う段階から,早期対応によって回復可能な学業不振や低 学力の問題を含み込んだ「学習国難」 ‑の教育的相応の 計画化があり,すべての子どもに基礎学力を保障する学 校の自律的な取り酌みを支える教育計画の立案と実施と いう段階に至っていると考えられる.本稿では,こうし た1990年代の動向を,クイーンズランド州において捉え てみたい.まず,オーストラリアにおける「学習困難」
へのアプローチの歴史的前控を示した上で,クイーンズ ランド州における障害や困難をもつ千どもへのサービス 提供の再検討と学校教育での基礎学力の習得状況から要 請された教育サービス提供の動向を検討し.さらに1990 年代において学習国難への重層的なアプローチの開発の 特徴をみながら.オ‑ストラリアの経験から示唆される
ものを考えてみたい.
1. 「学習困難」に対する教育的対応一歴史的前提 オーストラ1)アにおける「学習困難」問題の顕在化は, イギリスからの特別教育の導入とその蓄積を前提としつ つも, 1960年代,アメリカの「学習障害」運動の影響と
「学習困難」をもつ子どもの親組織の成立という点が端 緒である. 1968年,オーストラリアの親たちは各州にお いて「特異性学習困稚児協会 Specific Learning Difficulties Association)」を組織した.各州での取り糾
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晶をもとに, 「学習困難」をもつ子どもたちのために開 発されたサービスのタイプ(主として取り出し指導のモ デルやリソースルームモデル)が.学習国難をもつ子ど もすべてにいきわたるよう訴え,それに対応する教師の 養成と雇用を連邦レベルへ要請した. 「学習国難」の分 野への問題意識と運動は.オーストラリア連邦政府が調 査を行うことによって解決策を兄い出さなければならな
い地点にまで高まっていった.協会のロビー活動はとり わけ連邦議会レベルにまで影響を及ぼし, 1974年.連邦 政府は.特別の権限を持つオーストラリア下院特別委員
会を設置し,教育的な対応への議論が開始された.
1 ) 1970年代半ば,連邦議会特別委員会での「学習 困難」の定義をめぐる議論
オーストラリア下院に設置された特別委員会は, 2年 にわたってビアl)ングを含む調査を行い,その報告によ って教育的対応の基本方向を示した.特別委員会は,当 初,アメリカ議会の「学習障害」の定義を出発点として は有効であろうと考え,大規模な意見聴取を取り射んだ.
しかし,審議によせられた意見具申には.定義的立場に おいて重大な多様性が存在することが徐々に明確になっ ていった.すなわち, 「読亨障害(dyslexia)」ないし「微 細脳損傷(minimal brain dysfunction)」といった用語で 説明するもの,神経学的中枢性機能障害の存在に基づい
たもの,知的障害や他の障害からの排除原理に基づくも の. 「学習困難」と他の学力上の問題を区別する困難性 を処理するような相関的な考え方を用いたもの.知能を
「巨L、をすえたものなどである.
多様な定義的な立場が表明されたが,しかし,多くの 意見具申と特別委員会での審議は,診断しこから導かれた
「学習国難」の定義に強く反対するものとなった.意見 具申の中には,定義を云々するのではなく, 「学習困難」
をもつ子ども(障薯児)から,子どもの「学習困難」‑
と焦点を移すことを主張するものもあらわれた.このよ うな変化に賛意が表され.次のような議論が表明されて いった(Select Committee Report, 1976上
(a)学校での学習の際に国雄を経験している子ども たちを援助する教育的手続きは,病因論それ自体 に依存することは少なく.子どもの診断的なラベ リングというよりはむしろ教育的ニーズに基づい て組織されるべきである.
(b)特殊な「学習困難」に適した定義を行うための 資料収集の調査は実りあるものとはならなかっ た.実際,千どもの持つ問題が脳の器質的な機能 障害と関連しているのか,対応の不適切さと関連 するものなのか.子どもと教育的対応とが合致し ていなかったのかを決定することは難しい.
(c) 般的にいって,学力上の問題は,個々のニー ズに適合するような学校教育を求めており,学校
教育が不適切で効果的でないことを指摘すること を考慮すべきである.
(a)もし,委員会が「特異性学習困難」についてカ テゴリー的ないし狭い定義に基づいた課題にその 審議を限定するならば,教育実践が狭い教育的ニ ーズに焦点づけられたものとなり,逆にカテゴリ ーの使用を一層永続させることになる可能性がな いか.
特別委員会は, 「学習困難」の定義と原因に関しては 多くの概念上の混乱があり,解決をするのには多くの年 数がかかるであろうと結論づけた.特別委員会提言は,
これらの子どもたちが一つ以上の分野で援助が必要な場 合にその援助から排除されないように,修飾語の「特異 悼(specific月 という修飾語を落とすというものであっ
た.学習困難をもつ子ども,学力遅進児と軽度知的障害 をもつ子どもとの間の明確な境界は必ずしもサービスの 実施にとって必要なものとはいえないとされたのであ
る.
2 )特別委員会の提言と学習援助モデルへの展開 特別委員会の報告においては,アメリカで使用されて いた「学習障害」の定義と原因に関しては多くの概念̲上 の混乱があると結論づけられたが,子どもたちの「全体 的な学習環境」を見つめて子どもたちを援助する活動が 必要とされるということは認識されていた.アメリカ的 な「学習障害」の特別な類型の定義は. 「措置,対応, ないし財源確保」にとっては,必ずしも必要ではないと いうことが確認されていった.州教育局から特別委員会 によせられた証言においても,厳格な定義の束縛なしに 通常学校が学習国難を経験している子どもたちに援助の 試みをおこなうという政策が支持され,最終的に,委員 会は.定義は援助サービスの基礎をつくることとは無関 係であると指摘した.
「学習困難」への教育的対応として, 1970年代,リソ ース・ティーチャーの制度が導入されていた.特別委員 会の援助サービス‑の提言によって,各州において,
「学習困難」をもつ子ども‑の財政的な基礎がつくられ, 1980年代において. 「学習困難」 ‑の教育的対応は多様 性をもって展開されるようになってくる. 「学習国難」
をもつナビもたちの教育的対応の場は. 'vl'通常学級での 対応,(号特別学級での全日ないしパートタイムでの対応, し享ノ学校外での対応に大別きれるが,教育的対応の場は,
二者択一のものではなかった.
1980年代を適して,通常学級の中での特別な対応とし ての特色を明らかにしてゆくことになるが,リソース・
ティーチヤーは,その考え方の基礎として取り出し指導 モデルと学習援助協議モデルを基にして活動を展開して いった.取り出し指導モデルは,アメリカなどで行われ ている通級別の特別指導室(リソースルーム)での指導
オーストラリアにおける「学習困難」問題の展開と早期対応
をいい,また.学習援助協議モデルとは,リソース・テ ィーチャーが専門性を発揮し,通常学級担任と子どもに 対してのカリキュラムや教授方法を協議しあって.より 望ましい学級での授業展開をつくっていくことをいう.
1980年代後半には.リソース・ティーチヤーは.特別指 導室での指導というより,通常学級教師と協力しあって 通常学級の中で対応してゆく方向‑と力点を移し,内容 的にも呼称としても「学習援助教師」としての性格を強 めていくことになった.しかも.それは,個々の「学習 援助教師」というよりは, 「学習援助チーム」として集
川的に機能していく方向‑と発展していった.
こうした「学習国難」への対応が「学習援助」という 方向へ展開していったことは,特別委員会での審議の過 程の中で. 「学習困難」について.排除原理をとらず,
しかも個々人に内在した器質的な「障害」という捉え方 というよりも教育環境との相互作用として生ずる「困難」
として捉え, 「全体的な教育環境」の再検討を要請する ことからいっても当然の帰結であったともいえよう.
以上のように,オーストラリアの教育界は. 「学習国 雄」に関して,原因論を狭く医学的な意味での「障害」
として捉えず,多様な要因を包括しつつ. 「学習困難」
に対応していくことになったといえる.ただ,オースト ラリアでは,原因論や定義に関して,イギリス的な知的 障害を含み込ませた「特別なニーズをもつ丁‑ども」とい う把握から始まって.アメリカ的な「学習障害」の定義 的な把描あるいは「低学力」と「学習障害」の共通の特 徴の指摘,医療サイドからの広い意味での「学習国難」
と限定的な意味での「学習障害」の区分,そして,ニュ ージーランドの教育界からの「学習障害の生み出される 環境的,文化的.経済的状態」を重視する上張の影響な どが複雑に絡み合って,議論が複雑に展開していったこ とも補足しておく必要があろう.しかし,ここで重要な ことは, 「学習国難」への対応は,そのいずれを選択す るということではなく,特別教育と通常教育の課題の交 差において成立する重層的な対応として聞かれた課題と なってきたし,その方向で, 1990年代においても各州で の模索が続けられたことである.このことが「学習国難」
‑の教育的対応の重層的な特徴を生み出しているものと もいえるのである. 1990年代における州レベルでの「学 習因難」への教育的対応を,クイーンズランド州におい て,次に見ることにしよう.
2.クイーンズランド州における障害・困難をもつ子ど もへの教育サ‑ビスの再配置とインクルーシブ・カ リキュラム
クイーンズランド州において,通常教育をカバーする 教育法制は,特別な教育的ニーズをもつ子ども・青年な どにも適用される.障害や国難を理由として,公教育か
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ら排除される子どもはいない.すなわち, 「1989年クイ ーンズランド教育(一般剛度)法(Education [General Provision] Act 1989 (Queensland)」によって,義務教 育年齢にあるすべての子どものための教育が規定されて いる.この法律では.すべての児童・生徒の年齢,能力.
態度,そして発達を考慮して指導のプログラムが提供さ れることが強調されておi上 義務教育である限i日程害や 国難をもつものとそうでないものとの間を差別すること はできないとされている.
1 )障害・困難をもつ子どもへの教育サービスの再配 置
「1989年教育(一般制度)法」にもとづいて, 1990年 代初頭,学校の自律性を高める方向で政策的推移があっ
たが,しかし,その 蝣hで,アカウンタビリティも強調 され,すべての教育を提供する機関は,教育プログラム の質という点で州の教育大臣の直接的な管轄となってい ことから.特別学校を含めてすべての学校の教育の実施 状況に関するレビューが行われた.
たとえば,クf‑ンズランド州の首都ブリスベン地域 の特別学校の配置については,特別学校の児童生徒数の 減少,児童・生徒の通学距離の遠隔化.中等教育年齢の 生徒の比重の高まりによる教育プログラムの変更などを 根拠として,児童・生徒の居住地域に密着したサービス 提供を行うという観点からの再配置も含まれる検討がな された.連邦政府の教育リストラクチャリングの影響を 受けつつ,いくつかの特別学校のユニット化・再配置, 通常学校への多様なサポートの開発を模索していく方向
に進んでいった.また. 「学習困難」との関係で,最も 注目されたのが.読み・書き.算数の基礎学力であり,
その低下の問題状況である.クf‑ンズランド州政府は, 1992年.委員会を設置し.各方面からの大童のデータ, 報苦を収集しカリキュラムとその実施状況をレビューし
ている LThe Statビof Queenslとmd, 1994上
このようなレビューをもとに, 1990年代半ばから,教 育全体にわたって計画化がなされることになる.たとえ ば.障害や困難をもつ子どもの教育の方針は, 「学校教 育を通してすべての児童・生徒が辛等な教育機会にアク セスし,参加し,肯定的な結果を得るということを保障 する」という規定を基徒としている.インテグレーショ ンとメインストリーミングという)1ft吾は,もはや政策文 吉においては用いられてはいない.焦強ま,すべての子 どもが学ぶことができ.教育的プロセスに対して,プロ グラムの柔軟さ,子どものニーズにあった組織と構造的 なアレンジを求めているということである.このような 柔軟性は.インクルーシブなカリキュラムの実践の適用 を適して探究されるとされた.そこでは.以下のような サービス提供の輪郭の特徴が描かれていった.
甘 個々の子ども‑のニーズに対応するために,次の
244 末 村 公二彦・片 岡 美 華 ような,教育のプロセスにいくつかの分節を設け,漸進
的に教育サービスを個別化・専門化させていく方策が準 備されていく.
レベル1 :データ収集・協議・照会・学校内サポート レベル2 :子どもの力量のモニター
レベル3 :協議とリソース援助
レベル4 :プログラムの修正も含んだ子どものための プログラムの開発と実施
レベル5 :個別教育計画としての主要なプログラムの 修正を含むプログラム開発と実施
レベル6 :個別教育計画が作成され,個別化され,防 議された指導プログラムの実施
なお,レベル4以降は関連サービスや専門家の援助 がなされていく.
(、② ターゲットグループ‑焦点づけたサービス提供の システムの整備である(タ‑デ、ソトグループとして,自 閉症,聴覚障害,知的障害,肢体障害,視覚障害,そし て重複障害が設定された上 この中には,特別学校の将 来的な役割の変化を漸進的に見通した計画も含まれる.
壇l 教育サービス再配置計画の中では, 「障害.学習 困難,社会的行動的な困難をもつ子どもたちのための通 常学校における学習援助が,将来においてすべての障害 児教育サービスの一層重要な部分となる」とされ, 「学 習援助」の具体化の撤密な計画が提案され.通常学校に おける学習環境とそれを支える教育条件の提案が実施さ れていく.そのガイドラインとして,社会的公正.援助 的学校環境,インクルーシブ・カリキュラム,雇塙の機 会均等があげられ,それをになう学習援助教師の役割と 配置が計画化されていく.
2)通常学校でのインクルーシブ・カリキュラムの開 発
以上のような障害・困難をもつ子どもたちへのサービ ス提供の再配置を進める上で,その質を保障するものと して重視されたのが通常学校でのインクルーシブなカリ キュラムの開発である.このインクルーシブなカリキュ ラムは次のような原理をもつ(CS‑15: Principles of Inclusive Curriculum,1994).
(i)児童.生徒の,学校教育の機会.参加,そこから の利益を制約するような障壁を認識し.それを払寸式する.
(2)蝣蝣社会的文化的なすべての広範な集団の学習,視点.
貢献.そして経験を基礎として,それらの集団内と集団 間の多様性を認識することによって,含み込み.価値づ け,用いる.
13> 次のようなことに対して必要とされる,知識,技 能,態度,意欲を発達させる.
1 いかにして社会構造内に不利益が発展し.実在 しているのかという疑問.
ii 社会的公正の受け止めというより,それへの志 向
iii 平等なものとして参加する人々を力づける.
この計画の作成に携わったエルキンスは,その中軸と なる通常学校の学習環境とカリキュラムについて次のよ うに指摘している(Elkins. 1994).
「すべての子どもが成就するような包括的なカリキュ ラムが求められている.学校の課題は,共通のカリキュ ラムが排除的なものではないことを確実にすることであ る.出発の‑ ・つの道は,就学前の教育と低学年の時期に 始めることであり,学校のプログラムがすべての子ども のニーズに合致することを保障することである.そのよ うなカリキュラムではどのように多様性と個別性が求め られるかについては.利用可能な実証があるわけではな い.わずかの児童・生徒は学校生活全体で少なからぬ個 別の計画を必要とするだろうが,多くの児童・生徒は一 時的な特別な配慮を必要とするものと考えられる.その 間で,カリキュラムの適用の連続性が存在する.この個 別化にもかかわらず,カリキュラムの目標と諸活動の重 要な共通性が存在するのである.」
通常学校で利用可能なサービスとサポートが.サービ スの再配置の中で,学習援助教師とそのチームによって いっそう充実されることが期待されてきた.それは同時 に,通常学校自体のもつカリキュラムの柔軟性を高め, 学校内でのすべての児童生徒の学習ニーズに合致するよ
うなインクルーシブなカリキュラムを構築することによ って実現されることが期待されてきた.認定された学習 ニーズに対応するような広範なプログラムの選択肢の提 供とその実施を適して,学校でのインクルーシブなカリ キュラムの開発と提供を促すものと考えられているが, 特に, 「学習国難」との関連では.カリキュラムの共通 性と就学前と低学隼の時期のプログラム開発が示唆され ていた点は重要であった.
3) 「学習国難」と「学習障害」
通常学校のカリキュラムのインクルーシブなカリキュ ラムへと改革する課題と同時に質の高いカリキュラムと する改革が求められる. 「学習困難」との関係では,先 にのべたレビュー(The State of Queensland, 1994)で は,特に読み・書き・算数について,およそ20%の児 童.生徒がL分なレベルを習得できていないまま在籍, 卒業しており,その多くの児童が援助を受けていないこ
と,援助的対応があまりにも遅いということが浮き彫り にされた.同時に,ほとんどすべての調査校から早期対 応の可能性と必要性が提言された.
オーストラリアにおいては, 「学習困難」の厳密な定 義とその運用には,サービスの財政的基礎がその定義に おかれていなかったために,学校現場では関心が払われ てこなかった.しかし,クイーンズランドにおける読
オーストラリアにおける「学習国難」問題の展開と早期対応
み・書き・算数の基礎学力の現状への州教育局の対応 は,財政的圧力とサービス提供‑の大きな要望との間で.
サービス提供のために一定のカテゴリ‑的なシステムへ の動きを促している.すなわち.ク1'‑ンズランド州教 育局は,サービス提供の輪郭の中に, 「学習困堆」と同 時に「学習障害」の概念を車大してきたのである.教育 政策文書「CS‑13学習困難と学習障害をもつ児童・生
徒‑の教育的サービスの提供」 (CS‑13 Educational
Provision for Students with Learning Difficulitiesとlnd
Learning Disabilities. 1996.9,このFirst Issue Paper versionは, 1995年に出されている)は,学校のアカウ
ンタビリティとして,次のように規定している.
学校は,学習困薙または学習障害によって.カリキュ ラムにアクセスすることに制約を受けているような児 童・生徒を援助し.読み書き(話し言葉と書き言葉)と 数星的思考(数,空間,測定上 ないし学習方法の学習 という分野において,諸能力を発達させなければならな い.
クイーンズランド教育局のすべての部門は,すべての 児童・生徒のニーズに適切な教育サービスを提供するた めの調和的なアプローチを実施しなければならない.早 校は,以下のようなことを行わなければならない.
(a)学校教育の期間を適して.学習困難と学習障害 の早期発見を確実に行うために. ‑定範囲のアプ ローチを拝fHすること.
(b)効果的な教授・学習の実践を適して,千どもの もつ学習ニーズに対応すること.
(C)児童.生徒の知識.社会的文化的経験,信念と 価値の多様性の上に.結合され蓄積されたインク ルーシヴなカリキュラムの実践を用いること.
(d)適切な専門的なサポートとプログラムか払要と 認められたときには,障害と学習困難をもつ児 童・生徒に対する確認指針において輪郭が描かれ たプロセスを採用すること.
(亡)これらの子どもの個々の学習ニーズに対応する ために計画された 一定範囲のカリキュラムとプロ グラムを提供すること.
(f)必要とされる時には.子どもに適切なサポート を提供するために適TTJされるべきアセスメントに 対して特別に留意をするようなプロセスを採用す
ること.
さらに.手続きと指針として.次のような定義を規定 している.
1.定義
1.1.学習国難と学習障害は.児童生徒のカリキュラム
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‑のアクセス.参加,そしてそこからの成果を制限 するような障壁(バリアー)をいう.
上2.学習国雄をもつ児童・生徒は,読み書き,算数的 思考,学び方の学習の分野の ‑つ以.1:において,短 期間もしくは長期間にわたる問題があるが故に,カ リキュラム‑のアクセスが制約されている.
1.3.学習障害をもつ児童・生徒は.学習困難をもつ児 童・生徒の内の小グループであり,その因牡の基礎 にある神経系の問題によって,読み書き,算数的思 考.学び方の学習の分野の‑I‑A‑3以上において,持続 的に長期間にわたって問題をもち,高度な援助ニー ズをもっている.特定の障害(disorders)の特質に よって,特有の学習スタイルを示し,学校での学習 が妨げられている.
以上のような,ク1‑ンズランドの教育局における
「学習困難」と「学習障害」の概念の導入による教育サ ービスの輪郭を描く試みは,走義士は, 1990年のオース
トラリア全回保健医療調査委員会報吉(National Health And Medical Research Council, 1990)などの>E 義とほぼ同様のものであり.医学的な意味での「学習障 害」を想定したものと考えられる.しかし,学習困難を 経験している広い範囲の子どもの中から「学習障害」を 区別する特定の指針をもっているというわけではなく.
「学習障害」という用語を使って敦If拍勺対応に対してな かなかその成果が上がってこない子どもを言うにすぎな い.したがって,今の所, 「学習困難」 ‑の対応につい ての財政措置の限定化になっているわけではない.また,
「学習国難」 ‑と対応してきた研究者や学校現場におい ても, 「このような用語の導入とそれに付随する定義は,
ラベルないしカテゴリーというよりはむしろ個々のニー ズに基礎をおいてサービス提供するといってきたクイー ンズランドの政策に合致するものではない」との批判が なされており.実際的には「学習困雑」に対する教育的 相応に影響を及ぼしているわけではない.
3.リテラシーの重視と「学習困難」の早期把握・早期 対応への着手
1990年代半ば以降のクイーンズランドにおける「学習 因難」への対応は,カリキュラムに関するレビュー報告 が,読み・書き・算数の基礎学力の現状を示し.多様な 提案を行ったことを契機として.より高い位置づけが与 えられた.すなわち. TJテラシ一・二ュ‑メラシーは, 個人的社会的知的発達上のカギとなる能力であり,社会 全体の向上もこれらハイレベルな能力にかかっているも のとして重要視され,読み・書き・算数などの基礎学力 の向上が,教育政策Lプライオリイティのある課題とし て位置づけられたのである.このような位置づ古ナのもと.
246 玉 村 公二彦・片 岡 美 華
「学習困難」 ‑の対応は.その早期発見と早期対応に焦 点化された.ここでは. 1990年代後半,早期発見と早期 対応として導入された2つのシステム・プログラムをみ ておこう.そのひとつは,州レベルで開発・導入された 学校全体での「小学2年次診断綱 The Year 2 Diagnostic Net)」であり,いまひとつは,個別指導を 基礎に「学習困難」 ‑赦密に対応していくプログラムと
して組織的に導入されてくることになったリーディン グ・リカバリー(ReadingRecovery)である.
1 ) 「小学2年次診断網(TheYear2 Diagnostic Net)」の実施
「小学2年次診断網」 (以下, Y2診断と略)は.小 学校における低学年期の千どものリテラシー・ニューメ
ラシー(読み・書き・算数)の発達を継続して把握する ことを意図したものであり,カリキュラム調査報告を受 けて, 1995年よりクイーンズランド州のすべての児童を 対象に行われることになったものである.この教育的診 断は,小学2年生を中心に,小学1年生から3年生を対 象にしている. 2年生を中心とした教育的診断は.学習 に困雅を示す場合.この時期から顕著になるということ を根拠のひとつとしているが,低学年での早期発見・対 応が学校全体として効果的である考えられたからである (Elkins,1992).このY 2診断は,全校的な総合開発計画 に位置づけられ.英語と算数での読み・書き・算の教育
内容を中心にした全校のサポート計画として具体化され るものである.したがって.学校全体の「学習困難」へ のアプローチとして特徴づけられる.
!蝣蝣 Y2診断の概要
Y2診断のシステムの概要を図1に示した.クイーン ズランドでは1年4学期制が取られているが,その年圧 の各学期において.学校全体で取り組みが進められる.
マッピング(Mapping)とよばれる個人票作成及び対応 は. 1年生から3年生まで継続して行われるが.焦点は, 小学校2年生での確認と修止を含む確定的な教育的診断
であり,担任教師は.小学2年生の時点で学習の国雄を 経験している児童の状態とその国難への具体的対応に関 して,各学校に配布されているY2診断パッケージ (The Year 2 Diagnostic Net Box)を用いて教育的診断 と対応の方針を出すことになる. 1学期は主に準備期間 で.前学年の個別児童プロフィール Individual Student Profile)の引き継ぎ,マッピングによるプロフ ィールの作成を行う. 1年から3年まで.個々の丁ども についてマッピングがなされ. 2年生次2学期に診断と 同時にミスマッチがないかなどの確認がなされる.
マッピングは,読み,書き,算のそれぞれについて6 つの段階に区分によるものとなっている.読みの分野で
は, 「読みあそぴ」 「「試み的な読み」 「初歩的読み」 「移 行的な言売み」 「自律した読み」 「発展的な読み」となって
オーストラリアにおける「学習因牲」問題の展開とrij一期対応 おi),書きの分野では. 「書きあそぴ」 「試み的な書き」
「初歩的な書き」 「形式的な作文」 「熟練した作文」 「発展 的な作文」となっている.更に算数については, 「環境 の説明」 「数の初歩的発見」 「数学習のはじまり」 「初期 の空間の把握」 「初歩的操作」 「空間把握の拡張」となっ ている.内容的には, Y2診断は概括的であり,詳細に は対Ll>の中で検討がなされることになる.
個別IL1童プロフィールは.教師のほか両親からの要求 があれば参照することができ∴卒業後10年間保存しなけ ればならないものとされている.役割分担に関しては.
校長がY2診断の実施に対してすべての責任を負う.す べての担任教師は.会議への参加言両親への報告などが 義務づけられているが,特に2年生の担任は個別児童プ ロフィールと,学級データ票の提Il同寸義務づけられてい る.
(2,診断と対応の体制
Y2診断には,全学校での実施をサポートするために, キー.チ(チャー(Key Teachers)と呼ばれる教師が 配置されている.この教師の主な役割は次の3点におか 礼,学級担任,学習援助教師と協議して.教育的診断と 細心を援助していく〔複数の学校巡回の場合もあるが, 2年生の1クラスあたり過に1時間の協議時間が保障さ れている上
I Y2言n.斤において中程度のサポートを必要とする 児童の個別援助プログラムの実行と管理に関しての 援助.
11小学1‑3年生の教師が児童の読み・書き・算数 における発達過程を診断する際の援助.
iii 学習援助教師と共に確認,修正作業の実行.
また,キー・ティチャーとは別に,読み・書き・算数 領域の援助プログラムのためのコーディネータがおり, 時間割,教材に関して調整を行う.コーディネータがチ
ューターの調整もする.チューターとは,学級の中で読 み・書き・算数において個人的に指導する教員のこと で.学級初任にフィードバックも行う.
「学習国難」をもつ児童には,その診断をもとに学習 援助教師が専門的な援助を行うことになる.学習援助教
師は,個々の子どもについて詳しく診断し,担任教師と 両親にアドバイスを与えるとともに,集中的な援助を行 う.この集中援助は最終的に通常学級で学習についてい けることを目標としている.またこの援助には,ボラン ティア教員(講習を受けた両親など)千, Support
こi‑Reとlder. Support‑a‑ writer, Support‑a‑Maths
Leとiderといわれる教授システムも用いられている場合 もある.また,少数であるが.長期にわたって問題を抱 える生徒の全目剛特別学校への照会もある.
このような読み・書き・算数領域で特別な援助を必要 とする児童への対応(キー・ティチャー.教育アドバイ
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ザ‑,専門家のサービスの提供を含む)のために直接学 校に予算配分がなされている.各学校での対応として, 具体的な指導講習,教室内外での少人数の授業,カリキ
ュラムの再検討などが行われているが.さらに州政府は, 小学1 ‑ 3年生の課程を4年かけて修丁する学級の導入, 学校援助センター内に困難をもつ児童への診断的援助と 対応のために教科問にわたる教師チームを結成するとい
うことなども模索されている.
「学習国難」への教育的対応は.担任教師と学習援助 教師のよって主として担われているが,エルキンス (Elkins,2000)によると,問題点としてiB.tt教師と学習 援助教師の意思疎通が「分でなく,目標と教材がなかな か‑致せず児童が混乱してしまうこと,地方の学校で学 習援助教師を確保できないことなどがあげられている.
学習援助教師の養成と,読み・書き・算数の専門的発達 的プログラムのマニュアルを作成することが課題視され ている.学習援助教師の要請と対応の質的改善の検討と
ともに, Y2診断の結果, 「学習国雄」の概括的な傾向, 教育的な対応の改善.インクルーシブなカリキュラム‑
のキャッチアップなどの検証が課題となっているといえ よう.
2)リ‑ティング・リカバリー(ReadingRecovery) プログラムの導入
Y2診断は.学校全体による低学年レベルでの「学習 困難」の把握と対応を促すものであったが,その一一万で,
クイーンズランドにおいては,低学年への着目をもとに, 読みに関して特定のプログラムの導入をはかり.学校で の「学習国難」 ‑の相応を促してきた.それが,リーデ
ィング・リカバリーである.
亘,リーディング・リカバリーの概要と主要な特徴 もともと,このリーディング・リカバリーは.ニュー ジーランドにおいて,治療教育から発想され,通常教育 の中で組織的に普及されたものであった.オーストラリ
アにおけるリーディング・リカバリーの導入は.州政府 主導で1996年にはじめられた.
リーディング・リカバリーは.読み書き国雄への効果 的早期細心のプログラムである.このプログラムは.良 期にわたる読み書きの同姓を防止することを目的とし, 学校教育のおおよそ1年が終わった段階で提供されるも のである.と周っけ.通常学級の読み書きについて最底 辺にある子どもを対象として計画されている.学級での 通常の学習活動に加えて,到達度の低い子どもが,毎日 個別化された教授を受け,短期間にクラスの仲間達の平 均的なレベルにまで到達することを目的としたものであ る.リーディング・リカバリーの特徴は以下の諸点であ る(Education Queensl'and.2000).
1)このプログラムで選定された子どもは, 6歳から7 歳2カ月までで.通常学級に在籍し,読み書きに国難
218 玉 村 公二彦・片 岡 美 華 が目立つ子どもである.
2)このプログラムはそれぞれの子どもによって異なっ ている.
3)教授は, 1対1の個別的なものである.それぞれの 子どもは,通常学級の読み書きの学習活動につけ加え て,毎日の指導という集中的なプログラムに参加する ことになる.プログラム中は,他の対応のプログラム へのアドバイスは行われない.
4)言売みにおけるメッセージの理解と書くことにおける メッセージの構成に焦点があてられ,巌も優先される のが,子どもが多くの本を読み.かつ自分白身の物語 をかくことにおかれる.
(至,71アセスメントと体制
独白の観察調査などによるアセスメントによってプロ グラム対象児を把握するが,そこでは.性別,民族,言 語の乏しさ,英語を母語としないもの,知能,稀少障害, 未成熟.家庭環境,低出席率.転居の多さ,行動ないし 情緒的困難などの理由によって,プログラムからの排除 は行ってはならないとされている.障害のあるなしにか かわらず,もっとも到達度の低い読み書きの子どもは, 例外なくこのプログラムの中に受け入れるように認定さ れることになる(ただし,重度の知的障害は除かれる上 このリーテ㍉′ング・リカバリーのプログラムの運用に は.リーディング・リカバリー教師が不可欠である.こ の教師は低学年での授業に熟練した教師であり,リーデ
ィング・リカバリーの研修を3年間にわたって受けたも のがその教師として資格をもつ.研修過程においてはそ の教師のポジションは保障され,学校での全面的な援助 がなされる.リーディング・リカバリー教師が. Y2診 断において設定されたキー・ティチャーとしての役割を 兼ねることは推奨されておらず,学校内での役割はリー ディング・リカバリーのプログラムの運用におかれる が,通常学級の教師との連携あるいは責任の共有のあり 方・配置形態については模索されている.リーデfン グ・リカバリー教師を得ることは,プログラムを成功さ せる唯一の必要条件ではないとされ,学校全体の方針, 通常学級での授業の系統性,子どもが援助を求めている 子どもにアプローチを保障する担任との連携と他の適切 なスタッフなどがリーディング・リカバリーの実施を成 功させる基礎となっている.
今日,クイーンズランド州全体の通常学校でリーディ ング・リカバリーは運用されているといわれているが, 現在はリーディング・リカバリー教師の養成の体制の整 備がなされ,本格的なプログラムの実施の段階に入りつ つあるのが現状である.リーディング・リカバリーの基 礎にある「学習国雄」の捉え方の特徴は,オーストラリ アの「学習困難」の捉え方に多くの影響を与えてきたも のであり.読み・書きに焦点をあてた「学習国難」への
早期対応として本格的に導入されたこのプログラムにつ いて今後の検証が興味深いといえよう.
おわりに
アメリカやイギリスと異なO,障害や特別なニーズを もつ子どもについての独立した教育法制をとっていない オーストラリアでは.アメリカやイギリスの影響も受け ながら,障害や困難,特別なニーズをもつ子どもの教育 に関して,教師と学校の活動の自律性の保障の下で,そ の試みがなされてきたし.その試みに対して各州政府は 固有の財政的基礎を提供してきた. 「学習国難」に関し ても,多くの議論とその曲折はありながらも,柔軟な試 みを保障してきたと思われる.本報告で詳述してきたよ
うに,そこでは,障害のカテゴリーとして認定して財政 的な補助を提供するというよりは,州独自で教育的対応 を重層的に行っていくことによって,それへの対応が発 展してきたことを読みとることができる.
クイーンズランド刊で見てきたように, 「学習困難」
‑の教育的対応は. 2つの文脈の重なりのなかで,今L上 小学校低学年での早期対応の開発に発展してきていると いえよう.すなわち,一一一つは,特別なニーズをもつ子ど
もの教育サービスの再配置の文脈においてであり,いま I‑一つは,リテラシー・ニューメラシー‑の着目という基 礎学力の形成の文脈においてである.クイーンズランド 州政府は, 「学習困難」と「学習障害」の二つの用語で サービスの輪郭を描こうとしているが,必ずしもそれは 浸透しているというわけではない.むしろ.オーストラ
リアが掲げてきた「社会的公in 原理とそれに基づくリ Tフン一・二ュ‑メラシーの保障の一環としてすべての 子どもに学力を保障するという計画によって, 「学習困 難」をより全面に据えたとりくみを促しているともいえ
よう.
このクイーンズランドでの流れは.連邦レベルの動向 とも関連をもっている.すなわち,連邦レベルでも, 1990年代後半,経済合理主義に基づくアカウンタビリデ
イの‑.環として, 3, 5牢生に対して標準化されたアチ ーブメントテストが実施され,その結果として.リテラ シーとニューメラシーについての計画が要請されてきて いた. 1998年には, 「オーストラリア全国リテラシー・
ニューメラシー計画(Australian National Literacy and Numeracy Plan)Jが出され(DEETYAJL998),さらに.
1999年には連邦と各州の教育大臣の会議において「21世 紀の学校教育全回目標に関するアデレード宣言 Adelaid Declaration on National Goals for Schooling in the Twenty First Century)」が出されるにいたって いる.アデレード宣言では, 「すべての児童・生徒は.
適切なレベルで計算し,コミュニケーションのための読
オーストラリアにおける「学習困難」問題の展開と早期対応
み書きができるように.英語の読み書きと数量的思考の 技能を獲得しなければならない」とされ,基礎学力の保 障は教育政策上の優先課題とされたのである.
周知の通り, 1999年に出されたわが国の「学習障害」
の定義は,アメリカでの定義を基礎に,障害として限定 する方向で提起された.しかも,障害カテゴリーに含め たとはいえ,教育的対応について多様な試みをおこなう ための財政的保障は十分であるとはいえなかった.なに よりも基礎学力の保障という観点での,重層的な教育的 対応が現場では求められるが,その点で,オーストラリ アの早期対応を組織的重層的に行っていく方向には学ぶ ものがあり,そのプログラムの検証などが今後の課題と なろう.
本稿は. 1, 2を玉村が. 3を片岡が分担執筆し,全体 として.玉村が調整したものである.
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250 玉 村 公二彦・片 岡 美 章
Development of Educational Policy and Early Intervention for Learning Difficulties in Australia
‑In the Case of Queensland
TAMAMURA Kumhiko
(Departmen t of SpeClal Education, Ni.ira Univei・sity of EduC・ation. Nara 630‑8528. Japan)
KATAOKA Mika
(Ph.D Candidate. The University of Queensland, Brisbane 4072. Queenzhuid, Australia) (Received April 27, 2001)
This paper aims to describe the historical outline and current development of the educational policy for stu‑
dents with learning difficulties in Australia, focusing especially on the state of Queensland.
Tn order to develop educational policy of learning difficulities at the state level, the concept of learning difficuli‑
ties had been discussed until the middle of the 1970's. Receiving the submissions which argued strongly against a diagnostically‑oriented definition of learning disabilities, the Select Comittee concluded that there was much concep‑
tual confusion regarding the definition and cause of learining difficulties that might take many years to resolve.
Despite that it was recongnised that action was needed to assist children by looking at their total learning ellviron‑
merit , and recommended the development of an educational policy for students with learning difficulties.
During 1980'S, support teachers for‑ students with learning difficulties were employed in many schools. Scince the early 1980's support teachers have been making their efforts in regular classrooms rather than in the resource rooms. Their roles have been to help students with learning difficulties using effective and specific skills, and to con‑
suit with the regular classroom teとicher in solving the problems related to learning difficulties in regular classes.
CLirrently, the support system for students with learning difficulties has been employed to organize a more sys‑
tematic and broader approach in Queensland based on the accountability of schools. In the context of enphasizing
literacy and numerとicy, a systematic whole school approach and particular programs, sLich as the Year 2 Diagnostic
Net and Reading Recovery, have been introduced into the educational system for early identification and early inter‑
vention.
Key Words: learning difficulties, leとirning disabilities, early intervention, Australia, Queensland