奈良教育大学学術リポジトリNEAR
オーラル・プロフィシャンシー・テストの理論と実 際 −カナダ外務省における日本語教育での実践を 中心に−
著者 伊東 治己, PRIKRYL Yoko Azuma
雑誌名 奈良教育大学紀要. 人文・社会科学
巻 46
号 1
ページ 123‑137
発行年 1997‑11‑10
その他のタイトル The Theory and Practice of Oral Proficiency
Test in Japanese: With a Special Reference to
the Japanese Oral Proficiency Test Conducted
by the Canadian Ministry of Foreign Affairs
URL http://hdl.handle.net/10105/1542
オーラル・プロフイシャンシー・テストの理論と実際
‑カナダ外務省における日本語教育での実践を中心に‑
伊 東 治 己 (奈良教育大学英語教育教室)
Yoko Azuma Prikryl
(カールトン大学I,D用言語学科)(平成9年4月18口受理)
1.は じ め に
カナダにおける外国語としての日本語の学習者総数は、遅い足取りではあるが、年々着実に増 え続けている。その理由としては、内的要因として、カナダ国内の異文化への関心の高まりを、
そして外的要凶としては、今日急速な経済発展を見せている東アジア地域を視野に入れた環太平 洋経済政策の推進を挙げることができよう。
まず、内的要因であるが、これは1971年にカナダ連邦政府によって導入された多文化主義政策 (Multiculturalism)に起因するところが大きいと思われる。この政策により、母語継承教育 (Heritage Language Education)を含む多文化主義教育が、草の根レベルにまで浸透し、その結 果として、カナダ国民の間に異文化および異質言語を尊重し、寛容に受け入れようとする風潮が 広まってきた。つまり、母語とは違う他言語の学習に興味を示す国民の総数が近年確実に増えて
きたのである。これは、大学レベルでの語学教育に限らず、中等教育のレベルでも見られる現象 である。たとえば、カナダの首都オタワにあるオタワ教育委員会管内の中等学校では、日本語も 含め全部で21もの外国語が教えられている(OBE, 1995)。
外的要因としては、 1980年代後半からのカナダ国内の経済の行き詰まりに端を発した外交・経 済政策の変更、具体的には、従来からのヨーロッパ中心志向から環太平洋の一員であるという認 識への移行が指摘できよう。その結果、大きな経済力を背景に持つ日本語や、 21世紀の巨大市場
を約束してくれる中国語の学習者は、特に増え続けている。たとえば、カナダの首都オタワにあ るオンクリオ州立カールトン大学では、まず、 1993年に卒業に必要な単位として取得可能な日本 語コースが正規の学部の授業として2クラス開設され、それが1995年には受講生の大幅な増加を 受けて4クラスに増やされた。さらに、国際ビジネス学科からも、在籍中の海外留学を必須とす る特別プログラムの‑一環として、日本語を‑・過8時間集中的に学習する学生が、この正規の日本 語クラスに送られてくるようになった1996年9月の新学期からは、 4クラスが5クラスに増設
されている。
さて、このようにカナダ国l畑こある大学の正規の授業科E]として設定された日本語のクラスに 限らず、 E]本譜教育プログラム受講生一般を対象に受講の動機を探ってみると、将来できれば外 交宮になりたいとか、日本で仕事がしたいという希望を抱いている学習者がかなりいる。しかし、
いくら日本語が話せる人材‑の需要が近年急速に高まってきたとは言え、そう易々とは事が進ま ないのが現実である。たとえば、本稿で特に注目するカナダ外務省の場合、財政困窮のあおりを
I2:s
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受けて、今までのように白紙の状態からの外国語訓練では費用がかかりすぎるので、特に習得が 困難であると考えられている言語、つまり、日本語・中国語・韓国語・アラビア語・ロシア語に 関しては、最初からある程度の語学力のある人材を採用する傾向が最近特に強くなってきている。
また、他のカナダ連邦政府機関や一般企業においても、近年、日本との交流はますます深まる傾 向にあり、その結果として、新規に人材を募集する場合には日本語でそれ相当のコミュニケー ションができることを採用条件のひとつに加えている職種も増えてきている。そういう新しい雇 用環境の中で、新規に人材を採用する側から言えば、採用予定者の日本語能力をいかに職種に合
わせて的確に把握するか、 方、採用予定者を送り出す教育機関の側から言えば、日本語受講者 の日本語能力をいかに引き上げ、かつ、その優秀性をいかに正確に採用側に伝えるかが、重要な 課題になりつつある。こういった新しい社会的状況を受けて、日本語教育に携わる者にとって、
学習者の日本語能力、特にE]本語口頭運用能力を正確に測定するためのプロフイシャンシー・テ ストの開発・改善の必要性が年々高まってきている。
本稿では**、このような硯状認識を踏まえた上で、まず、外国語教育の分野でプロフイシャ ンシー・テストがどのような歴史的経緯を経て誕生してきたのか明らかにするとともに、プロ フイシャンシーそのものの概念既定を試みる。次に、カナダでも最先端を走るカナダ外務省の日 本語訓練プログラムで実施されているオーラル・プロフイシャンシー・テストの形式と内容を紹 介するとともに、そのテストの中で利用されている測定法なり評価法のどのような要素が大学レ ベルでの日本語教育に、さらには、外国語としての英語教育も含め、広く外国語教育の分野全体 に応用できるのかについても考察を加える。
2.プロフイシャンシー・テスト誕生の歴史的背景
そもそも外国語教育の分野においてプロフイシャンシー(熟達や堪能と訳される)という概念 が導入され、積極的に実践に移されるようになったのは、米国が第2次世界大戦に参戦してから のことである。それまでの米国では、主にACLS (AmericanCouncilofLearned Societies,米国 学術協会)という政府組織が、国家公務員を対象にした外国語教育を担当していた。本来、即戦 力の育成が期待される政府レベルでの外国語教育ほど、高度なアカウンタビリティー(指導への 責任)が要求されるはずであるが、このACLSでのプログラムにおいても、実際のところ、 1年 なり2年なりの集中外国語訓練講座を修!した受講生が、一体どの程度目標言語の実用的運用能 力を獲得しているかを測定するためのテストはほとんど行われていなかったようである(Wilds,
1975)。
第2次世界大戦への米国の参戦に伴い、実戦的コミュニケーション能力を備えた人材の海外派 遣が国家的要求となり、政府レベルでの外国語教育プログラムに参加している受講生の外国語能 力獲得の程度を的確に測る手段として、目標言語についての知識の獲得の程度を測るそれまでの 項目中心的な外国語能力試験に代わって、実際に外国語を運用できる技能の獲得の程度を測るプ ロフイシャンシー・テストが徐々に取り入れられていった(Thompson, 1971 。しかし、プロフイ シャンシー・テストと言っても、当時の学問レベルや学問的志向を考えるとやむを得なかったこ とかもしれないが、依然外国語での読み書き能力の測定にかなりの重点が置かれており、今から 思えばきわめて伝統的なテスト方法が採用されていた。必ずしも外国語での口頭運用能力に重点 を置く現場の要求に答えるものではなかった。
第2次世界大戦後、俗に言う戦中スパイ教育の理念や教授法をそのまま受け継いだのが、 FSI (ForeingService Institute,米国国務省研修所)であった。その親組織である米国国務省は、外 交政策上、外国語でのオーラル・コミュニケーションの重要性を認識し、学習者の外国語口頭運 用能力を的確に把握するための口頭能力試験の必要性を痛感していた。そのため、 1950年代に入 り、 FSlを中心に外国語能力を測定するために使用されている言語能力テストの中身の検討を含 む広範な研究が行われ、今日外国語教育の分野で‑一般に使用されているプロフイシャンシー・テ ストの基本的枠組みができ上がった。これが、 FSIがプロフイシャンシー・テストの草分け的存 在、または、生みの親と言われている所以である(Bachman & Plainer, 1981;CFSI, 1994)。
1960年代に入り、 FSIがプロフイシャンシー・テスト用に開発した評価基準の使用が、米国国 防省言語研修所(The Defense I.anguage Institute)や、中央情報局(The Central Intelligence Agency)いわゆるCIAの語学研修所などの政府外国語訓練機関にも広がり、 FSIで開発された プロフイシャンシー・テストの基本的枠観みを基盤にしながらも、各訓練機関の必要に応じて、
独自の採点基準や採点方法が作り上げられていった。その結果、 l司じ国家公務員であるにもかか わらず、所属する省なり機関によって外国語能力の評価にあながち無視することのできない差異 やばらつきが出てくるという不都合が浮上してきた。そこで、 1968年に各省語学研修所の代表が 一同に集まり、外国語能力測定のための評価レベルを明確に定義するとともに、評価基準を統一 するための合同研究会議が開催された(Jones, 1975)。その結果として、 ILR (Interagency Language Roundtable)スケールと呼ばれる統一評価基準が作成された。参考までに、このILR スケールは、現在ではFILR (Federal Interagency Language Roundtable)スケールと呼ばれてい る。
また、このILRスケールに基づくプロフイシャンシー・テストは、第2次大戦後の米国にお いて政府中枢機関での外国語教育のみならず、平和部隊をはじめとして民間レベルで実施された 様々な海外人材派遣プログラムへの参加者の外国語能力査定においても使用された。ところで、
この平和部隊志願者のためのプロフイシャンシー・テストに関しては、当初、 FSIの試験官が担 当していたが、あまりに膨大な人数を限られた期間内に取り扱うため、プロフイシャンシー・テ ストに熟練した試験官の不足が表拍i化してきた。この間題を解決する手段として、平和部隊員の プロフイシャンシーを測定する試験官を専l耶勺に養成する組織としてETS (Educational Testing service)という機関が設立された。そして、このETSでの訓練担当官はFSIからさらに専門的 な訓練を受けるといった2重構造がとられていた(Liskin‑Gasparro, 1984)。
その後、カーター政権時代になると、外国語教育や異文化理解の重要性がそれまで以上に強調 されるようになり、 1978年には、外国語教育に関する情報収集と今後の方向性を探る目的で、
「外国語および国際理解教育に関する大統領諮問機関」 (The President's Commission on Foreign Language and International Studies)が設立された。この諮問機関は、外国語能力を的確に評価 するための国家レベルでの共通基準を設けることと、大学など一一・一股的な教育機関で利用されてい るプロフイシャンシー・テストに関しては、 FSIの枠組みを基盤にしながらも、さほど高度な専 門性を問われることのない大学生に期待される外国語能力を適切に測定するための新しい評価ス ケールを開発することの必要性を強く政府に対して勧告した。国家機関で活用されているプロ フイシャンシー・テストは、国策上やむを得ないことではあるが、非常に高度な外国語能力を測 定するためのものである。それゆえに、そこまで高度な外国語能力の獲得を期待されておらず、
かつ、専門的・集中的訓練を受けていない大学生にそれらをそのままの形で適用することは、必
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ずLも効果的ではない。なぜなら、ほとんどの大学生の外国語運用能力がILRスケールでは初 級レベルとして一律に判断され、大学生に期待されている外国語運用能力を適切に測定できない からである。そこで、その代案として、上記諮問機関は、評価スケールの下(初級)のレベルを もっと細かく分けることによって、大学など一般的教育機関での外国語教育に適合した評価基準 を設定すべきであると勧吾しているのである(Liskir‑Gasparro, 1984)。
この大統領諮問機関の勧告に基づいて、 ACTFL (American Council on the Teaching of Foreign Languages,全米外国語教育協会)は、 1982年に大学生を対象にしたプロフイシャンシー・テス トの共通ガイドラインを作成した。これが、現在も米国の多くの大学で実施されている外国語教 育の中で使用されているACTFLプロフイシャンシー・ガイドライン(ACTFL, 1989)である。
3.プロフイシャンシーおよびプロフイシャンシー・テストについて
プロフイシャンシー・テストが測定しようとしているプロフイシャンシーとは、そもそも、一 体何を意味するのであろうか。世界で最も権威のある英語辞書と言われているOED {Oxford
EnglishDictionary)は、プロフイシャンシーを、
a) improvement in skill or knowledge progress
b) the quality or fact of being proficient, expertness, skill
と定義している。概ね、 「技能の上達」あるいは「卓越の度合」と解釈することができるであろ う。また、外国語としての日本語教育の第一人者のひとりである牧野(1991, p.15)は、プロフイ シャンシーを「言語を含む技能の能力のレベル」と定義している。これらの定義を参考にして、
本稿では言語のプロフイシャンシーを「言語についての知識」としてではなく、言語運用能力つ まり「言語を操る技能」として考えることにする。たとえば、仮に「あの人は日本語を知ってい る」と言った場合には、その人が必ずしも日本語が話せるとか、書けるとかを意味していないこ とがある。一方、 「あの人は日本語ができる」と言った場合には、たいていその人は日本語が操 れることを意味している。これが、プロフイシャンシーの基本的概念と大まかに考えてよいので はなかろうか。
では、この言語運用能力のレベルを測るプロフイシャンシー・テストとは、一体、どのような テストであろうか。カナダ外務省研修所の場合、プロフイシャンシー・テストは「知識としての み受動的に蓄積された潜在的な言語能力を評価するものではなく、あくまで限られた時間内に実 践的に運用される言語能力、すなわち、伝達能力のみを測定するテスト」と解釈されている。基 本的には、外国語能力の評価においてknowledge testsとperformance testsを明確に区別する Shohamy (1983)の考え方と同一線上にあると言える。より卑近な言い方をするならば、プロフイ
シャンシー・テストとは、いわば人間の人!Lの一瞬をカメラで捉えるようなものとして考えられ ている。つまり、日頃は知っているのだが、試験の当日たまたま思い出せなかったとする。当然、
カメラのたとえで言えば、その部分は写真に写らない。いくら知識があると言っても、写真に写 らなかった部分は、価値判断つまり測定の対象にはなり得ないのである。よって、カナダ外務省 の日本語プロフイシャンシー・テストにおいては、受験者が潜在的に持っている日本語の文法知 識の量や、覚えている漢字の数などではなくて、あくまで受験者が試験官である日本人とどれだ
け自由に意思の疎通ができるのか、どれだけ効果的にその場に応じた会話ができるのか、といっ た点に焦点を合わせて、試験ノF',:が受験者の日本語プロフイシャンシーを評価していくことになるo
正確でかつ実戦的な外国語運用能力の遂行が求められる外交官を送り上目す立場にある外務省にし てみれば、いわば当然のことと考えられる。
4.カナダ外務省日本語オーラル・プロフイシャンシー・テストの実際 (1)受験対象者
この日本語オーラル・プロフイシャンシー・テストの受験者は、 (ア)現役の外交官、 (イ)外 務省就職応募者、 (ウ)他省に勤務する国家公務員の3種類に分けられる。このうち、現役の外 交官については、さらに、日本赴任の経験の有無にかかわらず、すでにある程度日本語に堪能な 者と、外務省研修所日本語講座を長期間(1年〜2年)または短期間(半年以内)受講した者お
よび現在受講している者の2種類に下位区分される。
(2)試験結果の用途
日本語オーラル・プロフイシャンシー・テストの結果の用途としては、主に、次の4点が挙げ られる。まず第1に、受験者が現役の外交官である場合には、その昇給のための判断材料として 活用される。次に、受験者がこれから外務省研修所での日本語集中講座を受けようとしている場 合には、その日本語訓練の受講期間を決定する場合に使われる。つまり、受験者が将来日本語で 外交業務が果たせるレベルに到達するには今後どれぐらいの期間、集中講座を受講すればよいの かといった判断の材料になる。さらに、受験者が外務省就職応募者の場合には、応募者が外務省 入省の条件を満たしているかどうか、仮に条件は満たしている場合、就職決定前の第2のハード ルである面接試験に呼ぶか呼ばないかの重要な判断基準としても使用される。ちなみに、カナダ 外務省への就職応募資格は、現在のところ、弁護士あるいは貿易・経済の専門家か、日本語や中 国語のように習得困難な言語ができる者となっている。よって、日本政府が英語を母語とする若 者を日本国内の中学校や高等学校に英語指導助手として招碑しているJETプログラム(Japan Exchange and Teaching Program)で日本に滞在していたとか、日本国内にある民間の英会話学 校で教えていたとか、日本の大学で日本語を勉強してきたとか、なんらかの形で日本および日本 語とつながりのある人たちが外務省に応募してくる。
(3)試験実施要領
日本語オーラル・プロフイシャンシー・テストは、テープ・レコーダーおよびビデオ・カメラ が設置された個室で行われる。受験者以外に日本人がふたり、カナダ人がひとり、試験官として
同席する.日本人のうちのひとりはテスター(tester)と呼ばれ、もうひとりはエグザミナ‑
(examiner)と呼ばれている。テスターの役割は、受験者と積極的に日本語で会話をし、なるべ く多くの日本語を受験者から引き出すことである。エグザミナ‑は、受験者に対して英語かフラ ンス語でいろいろテストに関する指示を与えるとともに、テスターと受験者が会話をしている間 に気づいた点を自分のノートにメモする。このメモは、あとで受験者の日本語プロフイシャンシー を評価する時や、テストの報告書を作成する際の重要な資料となる。最後のカナダ人の試験官は、
オブザーバー(observer.と呼ばれる。本人自身は日本語ができないものの、プロフイシャンシー・
テストに関しては専門的知識を有し、いわばテストの達人と呼ばれている人物である。
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(4)試験内容
日本語オーラル・プロフイシャンシー・テストは、第1部「会話」‑12分)、第2部「イン タビュー」5‑12分)、第3部「ブリーフィング」5‑10分)の3部に分かれている。第1部 から第3部までの一工程をこなすのにおよそ45分かかる。
第1部の会話では、日本人テスターの誘導の下に会話が8分から12分間行われる。黄初の3分 間は、受験者を落ち着かせるという意味も含めて、自己紹介や天候の話など日常的な事柄につい て話を進める。その後の5分から9分の間は、一般世相から受験者の仕事の専門分野にわたって、
話の内容を次第に高めていく。もし、途中でスムーズな会話ができなくなったら、逆に話の内容 を徐々に身近なものに下げていき、その後再び話の内容を少しばかり突き上げてみるoこのよう に、話の内容のレベルを螺旋的に変化させていきながら、受験者の日本語プロフイシャンシーの 最高レベルを引き出そうとするのである。要するに、リアルタイムで日本語での言語処理が完全 にできるのはどこまでなのか、言語処理ができなくなるのはどこからなのかを丹念に調べていく のである。
第2部のインタビューでは、攻守ところを換えて、今度は受験者が日本人テスターに対して日 本語でインタビューをし、聞き取った内容をエグザミナ一に母語である英語またはフランス語で 報告するという形式をとる。受験者にとって外国語である日本語で的をついた質問をし、聞き 取った情報をいかに正確に第三者に伝えるかが鍵となる。しかもこの場合、大まかな内容だけで なく、社会的・文化的な引用例も含めて詳細に報吾することが受験者に要求されている。インタ ビューの内容に関しては、当然、日本に関することが中心となるが、だいたい、(ア)政治、(イ) 経済、(ウ)防衛、(エ)教育、(オ)女性問題、(カ)歴史、(キ)観光業、(ク)国際社会におけ る日本の役割、(ケ)マス・メディア、といったジャンルに分けられている。このうちから5つ のジャンルに即応したテーマが受験者に提示される。受験者は、その5つの中から自分の得意な テーマをひとつだけ選択し、正確な情報収集のためのインタビューを展開する。
第3部のブリーフィングでは、受験者が母語である英語またはフランス語での記事を読んだ後 で、その内容を日本語で要約し、かつ、その内容について私見を述べるように要求される。ここ でも、受験者には5つの異なる記事が提示され、受験者はその中のひとつを選択することができ る。記事が決まったら、試験官2人とオブザーバーは、試験室から退1141
illIノ、5分間、受験者をひ
とりにさせておく。この間、受験者は記事を読み、発表の準備をする。試験官が試験室に戻ると、
受験者は5分から10分程度で、読み取った内容に関して日本語でのプリゼンテ‑ションを行う。
この間、試験官は受験者の日本語での談話構成力に焦点を当てて聞いている。つまり、受験者が 記事の要旨をいかにうまくまとめ、理論的に筋道を立てて要領良く話すことができるか、という 点に特に注意を向けて聞いているのである。日本語での発表が終ると、今度は試験官が受験者に その発表の内容に基づいた質問をいくつかE]本譜で行うo受験者はその質問に対して簡潔に日本 語で答えなければならない。
このブリーフィングでエグザミナ‑が最も神経をすり減らすのは、どのレベルの記事を問題文 として受験者に提示するがという点であるOカナダ外務省の場合、ブリーフィングで使用される 記事は、一応、その難易度に応じてA、B、Cの3段l勘こ分けられている。このうち、Aレベル の記事は、最も難易度が低く、見出しを見るだけでそのだいたいの内容が推測できるような、ス トレートな内容の記事が中心である。日本語のアカデミックな言葉や、文化的背景やニュアンス を特に知らなくても、なんとか話せる範囲内の記事になっている。Bレベルの記事は、Aレベル
の記事よりはやや難しく、内容も多少複雑である。少しは、アカデミックな言葉や専門用語、あ るいは、文化的背景を持った言葉やイディオムなどを知らないと、日本語では的確に表現しにく い記事が選ばれる。 Cレベルの記事は最も難易度が高く、それこそじっくり腰を据えて読まなけ れば一体何についての記事なのか判断しにくいほど抽象的なものや、一般にはあまり知られてい ない専門用語をふんだんに使用している記事が蛙倒的に多い。日本語にかなり精通してないと、
このCレベルの記事の内容を日本語で的確に表現するのはきわめて困難である。
(5)評価
最後のブリーフィングが終ると、日本語オーラル・プロフイシャンシー・テストは終了し、受 験者は試験室から解放される。しかし、試験官にとっては実はこれからが大変な作業なのである。
カナダ外務省日本語オーラル・プロフイシャンシー評価表(表1)に基づき、受験者の日本語を ひとつひとつチェックしていくのである。評価表の縦のカテゴリーは評価の観点を表しており、
横のカテゴリーは到達レベルを表している。さらに、表の下の総合スケールは個々の受験者の総 合評価を示すためのものである。以下、それぞれの内容についてもう少し詳しく説明していくこ
とにする。
表1カナダ外務省日本語オーラル・プロフイシャンシー評価表
評 価 の 観 点
到 達 レ ベ ル 観 点 別
得 占.
I Ⅲ … Ⅳ Ⅴ W
理 解 ノJ 0 ‑ 4 5 ー 9 1 0 ‑ 1 4 IS ‑ 1リ 2 0 ‑ 2 4 2 5
談 話 構 成 ノJ 0 l 4 r. ‑ <・ 10 ‑ 1 4 1 5 ‑ 19 2 0 ‑ 2 4 2 5
構 造 0 、 5 6 ‑ l l 12 ‑ 1 7 18 ー 2 3 2 4 ー 2 9 30
語 菜 力 0 ‑ fi 6 ‑ l l 1 2 ← 1 7 18 23 2 ‑1 ご9 30
流 暢 さ 0 1 ‑ 3 4 ー 5 6 ー 8 9 10
総 L トTJ
総合評価スケール
0 0 + 1 1 + ワ :' f 3 3 + 4 4 + 5
0 ‑ S 6 ‑ 18 1 9 ー3 1 3 2 ‑4 4 4 5 ‑ 5 7 5 8 ‑ 70 7 上 8 3 8 4 ‑ 9 6 9 7 一10 9 1 10 ‑ 18 1 1 9 一2 0
まず、評価の観点を示す縦のカテゴリーは、 「理解力」、 「談話構成力」、 「構造」、 「語菜力」、お よび「流暢さ」の5つの部El男二分かれている。また、各評価観点ごとの配点の違いは、そのまま、
総合評価における各評価観点の比重を示している。 「談話構成能力」に「構造」や「語蛮力」に 匹敵するほどの比重が置かれているのが大きな特徴となっている。
最初の「理解力」の項目は、口頭でのプロフイシャンシーを評価する関係上、受験者の総体的 な聴解力を評価するためのものである。 2番目の「談話構成力」の観点からの評価に際しては、
試験官はさらに以下の5つの小観点に注意を払いながら受験者の日本語を評佃けることになる。
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小観点の第1点は、いかに理論的に筋道を立て、自分の考えを話すことができるかであり、第2 点は、いかに話の主導権を握れるかである。第3点は、自己修正ができるか、つまり、間違った 言葉や表現に自分で気づいて、言い直すことができるかどうかであり、第4点は、適切な言葉を 思い出せなかったり、まだそれが未習得であった場合に、すでに自分のものにしている言葉で言 い換える能力があるかどうかである。非常に簡単ではあるがひとつ具体例を挙げると、仮に「貿 易」という言葉が、思い出せなかったり、未習得であった時に、それを「物を他の国から買った り、他の国に売ったりすること」などという言葉で言い換えることができるかどうかである。最 後の第5点は、相槌の打ち方や間の取り方が適切かどうかである。受験者の中には、記事の内容 についての日本語での説明などはほとんどできないのに、 「えーと」とか「そうですね」といっ た相槌表現だけは、日本人並に非常に上手にできる人がいる。 JETプログラム経験者など、正式 な日本語訓練を受けることなく、日本に赴き、そこで一定期間なんらかの形で働いてきた人たち に特にこの傾向が顕著に見られる。
評価の観点の第3番目の「構造」は、受験者が話す日本語の構文の正確さを評価するためのも のである。動詞や形容詞の扱い方や、文の中での語嚢の順序など、文法に関する事柄に加えて、
発音、ピッチやイントネーションなど音声に関する事柄もこの中に含まれる。
第4番目の「語糞力」は、受験者が習得している語菜の幅がどのくらいかを判断するためのも のである。そもそも語糞力というのは、外国語を操る上できわめて重要なものである。ごくあり ふれた例で説明するならば、魚屋で「魚をください」と言っても用は足せない。魚屋に買物に行っ たならば、せめて「鮭をください」とか「鯵をください」とか、魚の種類を現わす言葉が必要に なってくる。この卑近な例からも分かるように、語秦力は外国で生活する上で非常に大切なもの であり、カナダ外務省で採用されているプロフイシャンシー評価表においても大きな比重が置か れている。さらに、個々の単語に加えて、イディオムの使用法だとか、敬語表現、常体・敬体の 使い分け等もこの観点に含まれる。最後の観点である「流暢さ」においては、文字どおり、日本 語で流暢に話ができるかどうかが、評価の対象となる。
評価表の横のカテゴリーに示されている到達レベルは、 6つの異なるレベル(I‑YI)に分け られている。それぞれの到達レベルの具体的中身については、各評価観点ごとに異なる弁別的特 徴が別途定義されており、受験者のプロフイシャンシーを観点別に評価する上での簡便な物差と
して機能している。たとえば、 2番目の評価観点である「談話構成力」を例にとるならば、 Iか ら1.Iまでの到達レベルの中身はだいたい次のようになる(CFSI, 1994),第Iレベルでは、意味 のある機能的な会話が全くできず、暗記した語句や表現のみが単発的に使用できるだけである。
第打レベルでは、会話の運び方があくまで受身的で、自分の考えを秩序立てて表現できない。挨 拶や単純な会話は自然にできるものの、複雑な構文はほとんど作れないし、理解もできない。第
Ⅲレベルでは、依然自分の考えを秩序立てて言えない。試験官は、受験者の話の意図をくみ取る 努力を強いられる。しかし、聞くことに関しては、頻繁に質問しながらではあるが、話の要点は なんとか理解できる。第IVレベルでは、談話の構成に一貫性が見られる。試験官と長い間スムー ズに会話ができるが、場面に即した適切な表現がいつも使えるとは限らない。第Ⅴレベルでは、
自分の考えを秩序立てて明確に話せるようになる。場面に応じた様々な表現が使用でき、同音異 義語や音の抑揚などもうまく操れるようになる。ただし、このレベルでさえも、母語話者には受 験者が明らかに外国人であることは容易に推測することができる。最後の第Ⅵレベルでは、教養 ある日本人とほぼ同じ程度の会話ができる。自分にとって望ましい結論が導き出せるように、会
話の駆け引きができるようになる。説得力のある会話も当然できる。
実際の評価に当たっては、まず、観点別に受験者の日本語の到達レベルを上で紹介したそれぞ れの弁別的特徴に照らし合わせながら評価していき、各評価観点ごとの点数を決定する。次に、
それらの観点ごとの点数を合計すると、その受験者の総合得点がはじき出されるようになってい るO総合得点が算出されたならば、表の下に示されている総合評価のためのスケールを使って、
受験者のプロフイシャンシーのレベルを決定する。
評価の最終段階で使用されるこの総合評価スケールには、 「0」から「5」まで全部で11の異 なるプロフイシャンシー・レベルが設定されている。この11段階のプロフイシャンシー・レベル は、観点別にはじき出される0点から120点までの総合得点と連動して決められている。すなわち、
総合得点で0点から5点までが総合評価スケールの「0」のレベルに相当し、 6点から18点まで
「0+」、 19点から31点までが「1」、 32点から44点までが「1+」という具合に、ある一定の得 点の幅を持ちながら上昇していき、最終的に119点から120点が最高の「5」のレベルに属するこ とになる。
参考までに、日本政府が実施しているJETプログラムに参加し、日本語がかなり喋れるよう になって帰って来た人たちでも、だいたい総合評価スケールの「1」か、 「1 +」のレベルである。
この人たちの特徴として、常体形つまりカジュアルな日本語表現(「〜だ」とか「〜だよ」など) は使えるものの、普通敬体形の「ます体」は、ほとんど出てこないのが一般的である。おそらく 日本での主な話し相手が中学生や高校生だったことを思えばごく当然のことではあるが、将来大 使館や領事館で働くとなると、 「ます体」が正しく使えないのは由々しき問題である。一応日本 語で外交官としての仕事が果たせると認められるのは、総合スケールのレベル「3」以上である。
外交官としての専門分野によって、その要求度は多少異なってくるが、 I‑一般的に政治分野に従事 する人は経済分野に従事する人よりも高いレベルの日本語が要求されている。
このように、カナダ外務省で実施されている日本語オーラル・プロフイシャンシー・テストは、
あくまで仕事に使える実戦的日本語運用能力を計るためのテストであり、文法的な細かい間違い をひとつひとつ細かく拾いあげていく伝統的な分析的査定方法ではない。受験者の日本語運用能 力を観点別に、かつ、総合的・全体的に査定していくための優れた評価方法であると言える。
5.カナダ外務省評価表とACTFL評価表の相違点
ACTFLのプロフイシャンシー・ガイドライン(ACTFL, 1989)は、すでに上で紹介したよう に、カナダ外務省でも採用しているILRスケールを基盤にしながらも、外国語の学習経験が浅 い受験者の外国語プロフイシャンシーも測定できるようにするために、評価スケールの下部層を 拡大し、大学レベルの外国語教育においても使えるようにしたものである。いわゆる4技能(ス ピーキング、リスニング、リーディング、およびライティング)ごとに、「初級の下」(Novice‑Low) から「超級」 (Superior)に至るまで9つのプロフイシャンシー・レベルが設定され、それぞれ のレベルに対して非常に細かい弁別的特徴が定義されている。たとえば、スピーキングの「中級 の中」については、次のような弁別的特徴が定義されている(ACTFL, 1989, p.2),
Able to handle successfully a variety of uncomplicated, basic and communicative tasks and
social situations.
Can talk simply about self and family members.
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・Can ask and answer questions and participate in simple conversations on topics beyond the
most immediate needs : e.g., personal history and leisure time activities.
Utterance length increases slightly, but speech may continue to be characterized by frequent long pauses, since the smooth incorporation of even basic conversational strategies is often hindered as the speaker struggles to create appropriate language forms.
・Pronunciation may continue to be strongly influenced by first language and fluency may still
be strained.
Although misunderstandings still arise, the Intermediate‑Mid speaker can generally be understood by sympathetic interlocutors.
カナダ外務省で採用されているILRスケールにも、評価の観点ごとにほぼ同じような弁別的 特徴が定義されている。ただ、評価スケールの段階設定には両者の間に大きな違いが見られる。
表2は、 ILRプロフイシャンシー・スケールとACTFLプロフイシャンシーpスケールを比較・対 照したものである(cf. Hadley, 1993)。
表2 ILRスケールとACTFLスケールの対照表
5
超 級 4 十
4 3 十 3
2 + 卜級 の 上
ワ 上 級
1 十 中 級 の 上
1 Ll】級 の lI】
中 級 の .ド
0 + 初 級 の lトー
0
初 級 の 中 初 級 の 下 ILRスケール ACTFLスケール
カナダ外務省では、日本語で外交宮としてまともな仕事ができるプロフイシャンシー・レベル はII.Rスケールの「3」のレベル以上と見なされているが、このILRの「3」のレベルは ACTFI.プロフイシャンシー・スケールではすでに最高位の「超級」に相当する。,また、外務省 1酬答所で一日6時間、週5 「1、 10ヶ月間にわたる正規の1年間集中日本語訓練を受講した学習者
のプロフィンャンシー・レベルは,普通、 ILRスケールの「2」のレベル程度であるが、
ACTFLスケールでは「上級」に相当するn 上でも述べたように、 JETプログラムで日本に2‑
3年滞在した経験を有する人のプロフイシャンシー・レベルは、 ILRスケールの「1」または
「1十」に相当するが、 ACTFI.スケールでは「中級の上」、 「中級の中」、 「中級の下」の3段階 のいずれかに相当する。 ILRスケールでは外国語プロフイシャンシーがほとんど無いものと見な されている「0」または「0+」のレベルでも、 ACTFLスケールでは、少なくとも「初級」の
「.L・中・下」のいずれかに相当することになる。
逆に、 ILRスケールの「3」以上は、 ACTFLスケールでは、すべて「超級」として処理され てしまうことになる。よって、かなり高度な外国語能力を有していると思われる学習者のプロフイ
シャンシーをACTFLスケールを使って測定しようしとすると、その学習者のプロフイシャン シー・レベルを正確に測定できない恐れが十分にある。
このように、 2つのプロフイシャンシー・スケールを比較・対照してみると、ILRスケールは、
どちらかと言えば、かなり高度な外国語運用能力を有していると予想される学習者のプロフイ シャンシーを測定する場合に適しており、 I一一万、 ACTFLスケールは外国語運用能力がさほど高 くないと予想される学習者、たとえば、大学で初級・中級外国語コースを履修した学習者のプロ フイシャンシーを測定する場合に特に効果的であると言える,,
将来的には、この2つのプロフイシャンシー・スケールの統合も考えられてよい。近年、大学 レベルでの日本語教育においても、日本との交流の増加に伴ってか、 ACTFLスケールの「超級」
に属する学習者の数が年々増加している。よって、現行のACTFLスケールでは、必ずしも、彼 らの日本語プロフイシャンシーを正確に測定できない場合も出てきている。以前、 ILRスケール のIIFのレベルを細分化する必要があったように、いずれは、 ACTFIースケールの上のレベル、具 体的には「超級」のレベルを細分化する必要が出てくるものと予想される。この意味においても、
両プロフイシャンシー・スケールの比較・対照研究は、今後一層深められるべきだと考えられる。
6.カナダ外務省でのプロフイシャンシー・テストと大学での日本語教育
最後に、大学レベルでの外国語としての日本語教育に携わっている者にとって、さらには、広 く英語も含めた外囲語の教育に携わっている者にとって、このカナダ外務省日本語オーラル・プ ロフイシャンシー・テストからどのような点を学び取ることができるのか、という問題について われわれの私見を2つの点に絞って述べることにする。,
カナダ外務省日本語プロフイシャンシー・テストから学び取れる第1の点としては、その観点 別評価の方法なり枠組みを挙げることができるO 日本の学校教育においても、いわゆる新学力観 の提唱とそれに続く学習指導要録の改定に伴い、新しい観点別評価の方法が初等・中等教育に導 入されてきているが、理解力・談話構成力・構造・語菜力・流暢さというの5つの評価観点とレ ベルIから11までの6つの到達レベルを組み合せたカナダ外務省日本語プロフイシャンシー・テ ストの観点別評価法は、大学レベルでの日本語教育においても十分利用可能であると考えられ る。カールトン大学の日本語コースにおいても、 1995年‑1996年度の後期授業から、この観点別 評価の方法を実験的に採用してみたO前期授業では、従来型の10点満点の総合評価の方法のみを 採用していた。すると、この総合評価の点数に納得しない学生や、成績評価のひとつとして実施
したオーラル・プリゼンテ‑ションの録音テープを再生し、其体的にどこをどういう風にすれば もっと点数が良くなるのか指摘して欲しいと申し出る学生が数人出てきた。これらの学生の要求 に対して、残念ながら、従来型の総合評価だけでは説得力に欠けていた。そこで、後期授業から は、 10点満点の総合評価に加えて、カナダ外務省で採用されているものとほぼl司様の観点別評価
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を導入した。実際の評価に当たっては、それぞれの観点項目ごとに、到達レベルを表す弁別的特 徴と照らし合わせて点数を付け、さらにそれらを加算して総合点をはじき出した。さらにその総 合点を総合評価スケールと照らし合わせて総合的な熟達度を算出した。従来型の10点満点の総合 評価と比べて、最終評価結果を出すための手順ははるかに複雑になるが、それだけ学生に対する 説得力は確実に増したようである。要するに、大学での成績評価は必ず学生にフィードバックさ れなければならないが、その際のアカウンタビリティーを上げるという点で、この観点別評価の 方法は非常に有効であると考えられる。特にカナダの大学では、授業の成績評価に対して、もし 納得行かなければ担当教ノ柄二正式に説明を求める権利が学生に保証されているため、この種の観 点別評価への期待はそれだけ大きくなる。
カナダ外務省の日本語オーラル・プロフイシャンシー・テストから学び取れる第2点として は、プロフイシャンシー・テストの重要な柱となっているインタビューやブリーフィングの手法 が、授業の指導テクニークとしても十分に使えるという点を指摘したい0 ‑一般には、指導方法が テスト方法に反映されるべきであるが、その逆も当然考えられる。インタビューもブリーフィン
グも、あるひとつの言語で仕入れた第一一次情報を今度は他言語で第2次情報として他の人に伝え なければならないという点で共通している。今日の外国語教育の主流をなしているコミュニカ テイブ・アプローチで主要な指導テクニークとして採用されているところの、情報移動および情 報加1二を伴う言語活動と見なしても差し支えないであろう(伊東, 1994a ;伊東, 1994b),
すでに紹介したように、ブリーフィングでは母語で書かれた新聞記事が利用される。一般的に、
外国語の授業に母語で書かれた記事などを持ち込むことは敬遠されがちである。だが、実際問題 として、母語で仕入れた情報を外国語で他人に伝えるという活動、あるいはその逆に、外国語で 仕入れた情報を母語で他人に伝えるという活動は、決して、通訳や翻訳家など特殊な仕事に携わっ ている人々だけに限られたものではなく、日常生活の中でごく広範かつ自然に行われている活動 である。その意味で、大学での日本語授業に、多くの学生にとっては母語であるところの英語で 書かれた記事なり資料を持ち込むことは、決して邪道とは考えられない。むしろ、積極的に活用 する方向で考えたい。要するに、ブリーフィングは、決して、単なる翻訳ではない。母語である 英語またはフランス語で読んで仕入れた情報をもとに、外国語である日本語で、話を展開してい かなければならない高度な作業である。まとまった内容を外国語で論理的に伝えるための貴重な 練習の場を提供してくれるものと考えられるO
また、インタビューに関しては、棚手とのやり取りが外国語で行われるため、教室内に異文化 間コミュニケーションの実践の場を提供してくれるものとして非常に貴重である。しかも、カナ ダ外務省のプロフイシャンシー・テストの場合のように、インタビューの内容を第三者に伝える ように要求しておくと、自然、インタビューに際しても的を絞った的確な情報のやり取りが行わ れるようになる。このようにインタビューで得た情報がさらに第三者への報告の素材になるとい う点は、コミュこカテイブ・アプローチでの重要な指導原理であるinformation transferとtask‑
dependencyの原理(Johnson, 1983)が効果的に生かされていると言える。インタビューを大学 の外国語としての日本語教育に取り入れる場合、一一番問題になるのが、インタビューの相手役に なってくれる日本人の確保である。幸い、カナダの大学には多くの日本人学生が学んでおり、日 本の大学や企業から研究者も派遣されている。その人たちを日本語クラスのゲストとして招待す ることはそれほど凶難ではなく、 H本譜を学習している学生にとって大きな刺激となる。
7.お わ り に
本稿では、カナダにおける日本語教育を取り巻く現状を考慮した上で、プロフイシャンシー・
テストの必要性を指摘すると同時に、プロフイシャンシーおよびプロフイシャンシー・テストと いう考え方が生まれてきた歴史的背景について述べてきた。さらに、カナダ外務省の日本語教育 プログラムで実践されている日本語オーラル・プロフイシャンシー・テストの中身およびその評 価方法を具体的に解説するとともに、それが大学レベルでの外国語としての日本語教育にどのよ
うな示唆を与え得るかという点について具体的な提案を行ってきた。
現在、カナダ外務省研修所では本稿で取り上げたオーラル・プロフイシャンシー・テストに加 えて、リーディング・プロフイシャンシー・テストも導入しつつある。ただ、日本語の場合、漢 字および漢字を用いた熟語の難解さゆえに、 1年間にわたりきわめて専門的で集中的な日本語訓 練を受けてきた受験者でも、問題文として利用される新聞や雑誌の記事のようにauthenticな日 本語素材がすんなり読めないのが現実である。そのため、大半の受験生の場合、リーディング・
プロフイシャンシーがほとんど無いものとして評価されてしまう。この間題をいかに解決するか が当面の課題となっている。
今後、社会の国際化がますます進行していく中で、外国語としての日本語教育もそれ自体をい かに国際化していくかが大きな課題となっている。特に、日本語プロフイシャンシーの測定に関 しては、教育に携わっている者それぞれが独自の柑夏でもって評価するのではなく、本稿で紹介 したACTFLプロフイシャンシー・ガイドラインのように、ある程度世界的にも共通の物差で学 習者のオーラル・プロフイシャンシーを測定し、プロフイシャンシー・レベルの世界標準化を図 ることが切に望まれるところである。口頭での異文化間コミュニケーションが社会の国際化に対 応して、今後ますます増大していくことを考えれば、その必要性・重要性は高まる一途であろう。
その意味でも、国境を越えた研究者の交流が今後ますます必要になってくるものと予想される。
注
* ヵ‑ルトン大学(所在地:カナダ、オタワ)応用言語学科日本語抑当専任講師。
** 本稿は、衛‑・執筆者(伊東)が、 「平成7年度文部省海外研究開発動向調査等に関わる研究者派遣制度」
によってカナダのカールトン大学で6ヶ月におよぶ在外研究の機会を与えられた時に、カールトン大 学応用言語学科日本語担当のPrikr>,1講師との共同研究によってまとめられたものである。なお、
Prikryl講師はカナダ外務省日本語訓練プログラムの試験官も努めているo
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(Dep〟rtment of English Language Education. Nan Univcrsitv of Education. Nαra 630, Japan)
and Yoko Azuma Prikkyl
(School of Linguistics andノ1仲Iied Language Studies, Q〟γleton t'nil,∫,γsitv, Ottawa, Canadの (Received April 18, 1997)
Owing to the recent global expansion of Japan's economic activities and her international collaboration schemes, the Japanese language has come to be recognized, not simply as an exotic language in the Far hast, but as one of the important international languages in global politics and economy. This has been instrumental in increasing peoples awareness of the accountability of Japanese language teaching and consequently the necessity to assess the levels of the learners proficiency of Japanese more accurately. Recognizing this global trend surrounding Japanese
language teaching, the present paper first!>'emphasized thビnecessity to assess the oral proficiency
of Japanese language learners, and secondly described the Japanese oral proficiency test conducted bv the Canadian Ministry of Foreign Affairs, focusing on its framework, procedure and evaluation method. The paper also presented several implications which the described oral proficiency test
has for Japanesビ】anguage teaching at university leve一 The paper was concluded with a
suggestion for the standardization of the Japanese oral proficiency test on the global scale.