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平成18年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書

知的財産の適切な保護のあり方に関する

調査研究報告書

平成19年3月

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【お知らせ】 2002年(平成14年)7月3日に決定された知的財産戦略大綱において、従来の 「知的所有権」という用語は「知的財産」、「知的財産権」に、「工業所有権」という用語 は「産業財産」、「産業財産権」に、それぞれ改めることとなりました。本報告書におい ても、可能な限り新しい用語を使用しております。 ※法律名や組織名については、一部従来の用語のまま使用しております。

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要 約

平成18年度の「知的財産の適切な保護の在り方に関する調査研究」においては、情報な どのデジタル化、ネットワーク化の進展に伴い出現した新たなビジネスでの不正競争行為 及びその行為の不正競争防止法での取扱いの可能性と課題について、①著名な人物の氏名 や肖像、著名なキャラクター、著名なブランドのロゴなど需要者を吸引する魅力ある表示 (以下、「需要者吸引表示」という。)、②情報集合物(データベース、タイプフェイス)、 ③補充条項の導入と課題と、項目をわけて検討した。 1.需要者吸引表示の保護の可能性と課題 需要者吸引表示は、商品の販売や役務の提供を促進する効果を有しており、財産的価値 を有するものとして扱われている。そして、インターネットを通じた通信販売が急速な発 展を遂げている中、商品の販売や役務の提供を促進するものとして需要者吸引表示の財産 的価値は近年一層高まっている。しかしながら、このような需要者吸引表示の保護は、現 行知的財産法においては十分ではない。 そこで、財産的価値を有する表示の需要者吸引力を利用した商品化ビジネスや、広告ビ ジネスにおける公正な競争秩序を維持するために不正競争防止法において、これらの表示 の不正利用行為を不正競争として位置づけることの適否について検討を行った。 保護の要否については、需要者吸引表示には多大な努力と投下資本がかかっており、当 然保護すべきであるという積極的な意見が示されたが、他方で、需要者吸引表示の保護が 導入されると過剰な権利意識が生じ、企業活動の萎縮など実務面での問題を懸念する意見 も出された。また、需要者吸引表示は、現行の不正競争防止法所定の悪性ある不正競争行 為として保護されている例もあるが、法的根拠が不明瞭なままでいると実務上のリスクが 大きいとの意見が示された。 さらに、本研究会では、需要者吸引表示の保護に向け、抽象的な議論ではなく、条文の 構成要素を素材に具体的な検討を行った。その結果、産業界からの意見も含め、保護客体 の要件を設ける際には適用除外との関係も考慮する必要があるなど、法制面の課題を絞り 込んだ。 今後は、実務面からの課題(保護客体、規制の対象となる行為など)への対処も含めて、 更なる議論の深化を図る必要があると思われる。 2.情報集合物(データベース)の保護の可能性と課題 電子化された情報は複製が容易であり、常に不正利用の危険にさらされているため、悪 ⅰ

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性の強い行為に対しては一定の法的な保護が必要となる。電子情報には、著作権などの知 的財産権が認められ、保護される情報もあるが、他方で、その作製に多大なコストがかか りながら「創作性」を有しないデータベースのように、財産的価値がありながら知的財産 権を認められず、保護されない情報もある。これらが適切に保護されないと、データベー スの模倣・複製が横行し、資金や労力を投じて新たなデータベースを作成・提供しようと するインセンティブを削ぐことになる。そこで、データベースの作成と提供を事業として 行う者が、安心してその事業を営める仕組みを構築し、新たなデータベースの作成・提供 が促進されるような環境を整備することが望ましい。 データベースを作成・提供している産業の関係者からは、ビジネスの円滑化のためにデ ータベースの保護の要件を明確にする必要があるなどの積極的な保護を求める意見が寄せ られた。その一方で、情報通信・電気機器産業の関係者からは、現行法に加え、不正競争 防止法に基づく差止請求を認める必要性について、データベースビジネスの実態を踏まえ た検討が必要であり、新たな保護により情報自体の独占につながる懸念が払拭しきれず、 要件を定立するための十分な判例の蓄積があるかどうかは疑問があるなどの慎重な意見が 寄せられた。 本報告書では、前述のような見解の相違が存在したことから、不正競争防止法によるデ ータベースの保護の当否に関する方向性について明示することはせず、少なくとも行為の 悪性が強く差止めによる救済が認められるに値すると考えられる「翼システム事件」のよ うなケースに関しては、ビジネス上、許容される行為と許容されない行為との境界線・限 界を画定する議論を進めることは適切であるとの理解のもとで、今後の議論を促すべく考 えられる法制的な論点についての考え方を提示することとした。 「保護の趣旨」は、コンピュータ技術の発達に伴い、データベース作成コストは、デー タそのものの作成、データのキー入力、データの収集が大きなウェートを占めるため、こ のいずれかの中から決めるべきではないかとの意見があったが、このうちのいずれの「投 資」行為に保護の趣旨を求めるかにより、保護の客体(保護すべきデータベースの範囲)、 保護期間、規制の対象となりうる行為といった個々の論点に関する議論にも波及するとの 指摘もあった。今後、具体的に議論を進める上では、これらの関連について意識して進め ることが必要と考えられる。 「保護の客体」に関して、広く使われるデータベースほど不正利用から保護すべき必要 性が高く、保護対象を的確に特定する上から、「営業上特定の者に提供」、「管理手段を講じ ている」などの要件の検討が必要との意見があった。一方、一般への利用に供されてはい るものの、広告収入で成り立っているビジネスモデルもあるので要件を設けない方が良い との意見が示された。また、「周知性又は著名性」との要件は不明瞭であるので、代わりに 「有用性」の要件を課すとの意見が示された。しかし、「有用性」の評価の仕方に問題があ り、混乱が生じるのではないかとの指摘もあった。 ⅱ

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「保護の期間」に関しては、①データベースの保護の趣旨から、データベース提供者が 行った投資が回収されるまでの間に限定して規制の対象とする、②不正競争防止法は行為 規制であるので、悪性のある不正競争行為が継続する限り規制の対象とする、という2つ の考え方が示された。 「規制の対象となりうる行為」に関しては、「単なる複製行為(個々の構成データの無断 使用行為)」を規制の対象とすべきではなく、「複製品の流通行為」とすることに異論は見 られなかった。しかし、競業関係にない者や愉快犯による流通行為など、さらに具体的な 要件(付加的な要件)の要否も含めて、更に検討が必要と考えられる。また、データベー スの複製については、「量の概念」を取り入れることの当否も含めて検討が必要だと考えら れる。 「適用除外」に関しては、保護の趣旨、保護要件(保護すべきデータベースの範囲、保 護の期間、規制の対象となり得る行為)と相互に関連する事項であるので、保護の趣旨及 び保護要件についての検討を経た後に、情報独占の弊害などについて十分留意しつつ、改 めて議論を行うことが適当であると考えられる。 3.情報集合物(タイプフェイス)の保護の可能性と課題 デジタル時代になり、タイプフェイス(統一的なコンセプトに基づいて制作された一定 数以上の文字、数字又は記号にかかる一組の書体群)の無断コピーや改変が多くなった。 さらに、ネットワーク化の技術革新・普及と共に、電子文書にタイプフェイスを内包した デジタルフォントを埋め込み、当該文書をインターネットなどで送受信する技術が実用化 されたことが加わり、タイプフェイスの無断複製や改変が容易になり、タイプフェイスを 不正に流用する事例が多数発生している。また、各種メディアにおける書体デザインの重 要性が高まっていることを踏まえて、政府の「知的財産推進計画2006」では、「タイプフェ イスの保護を強化する」と保護のあり方を検討すべき旨が規定されている。 そこで、本研究会においては、書体デザインにかかる情報の集合物であるタイプフェイ スの不正競争防止法による保護のあり方について検討を行った。 関係業界より、タイプフェイスを保護対象として欲しいとの意見が示されたところ、こ れについて異論はなかった。 しかしながら、①事業者間(デザイナー間)での侵害行為が、非事業者(エンドユーザ ー)に比べて極めて少ないこと、②基本的に競争事業者間での行為を規律する不正競争防 止法において、非事業者の利用行為に対する措置を導入することは体系的に馴染みにくい こと、更に、③関係事業者においてタイプフェイスへの権利付与など、不正競争防止法以 外の枠組みによる保護が期待されていることなどを踏まえ、不正競争防止法にタイプフェ イスを保護するための個別の規定を設けることとはしない考えで一致した。 ⅲ

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4.補充条項の導入の可能性と課題 デジタル化、ネットワーク化の進展に伴い新たなビジネス形態が次々と出現し、従来の 知的財産保護の枠組みでは十分にとらえきれない情報成果物の冒用などビジネス上のトラ ブルが発生している。そのため、競争事業者間における公正な取引秩序の確保、維持のた めのルールのあり方について関心が高まっている。我が国の不正競争防止法は、不正競争 行為を限定的に列挙しているため、新たに悪性が強い不正競争行為が発生した場合には、 個別具体の行為類型として要件を規定できる行為について、必要に応じて「不正競争」と して追加してきた。しかしながら、社会通念上、不正な競争行為であると目される行為で あっても、不正競争防止法に列挙された行為類型に該当しなければ、規制の対象とはなら ない。そこで、新しい不正競争行為への対応方法について検討を行った。 他人の成果物を無断で利用して自己の利益を図るという行為は許されないということは、 一般的にコンセンサスを得ていると思われる。しかし、不正競争行為類型には入っていな いから法的に文句を言われる筋合いはないと考える者もおり、それによって多大な損害を 被っているのに何らの救済も受けられない者がいる。従って、一般的あるいは補充的規定 を設けて、利益を得るために社会的に妥当と思われない行為をすることは不正競争行為と 評価されるということを明示しておけば、健全な商慣習も生まれるし、具体的事案におい て妥当な結論を得ることが可能になり、法改正に伴う社会全体のコストを考えると十分納 得できるとの意見が示された。一方で、抽象的な条項を設けざるを得ないという点に関し て、もう少し説得力のある議論が必要であるとの意見が示された。 一般条項を導入することにより予見可能性が損なわれ、企業活動が萎縮することが懸念 されるとの意見があった。しかし、民法第709条に依存し、不正競争防止法の要件を欠きな がら、損害賠償が認められてしまう方が問題であり、一般条項を置くことで判断の指針が できて良い効果を及ぼすとの意見も出された。また、予見可能性や対象が不明瞭になると いった懸案については、平成5年の不正競争防止法改正に向けての検討を行った委員会で、 ドイツ不正競争防止法を参考に議論されたが、近年の判例では、他人が投資・労力をかけ たもの、特定された類型の創造物、知的財産権法で保護されていないものについて、ある 要件を立てて保護がされているため、予見可能性が損なわれるという心配はないのではな いかとの意見が示された。 特定された「補充条項」として新たな条文を導入する場合、その要件としては、商品な ど表示としての使用ではない他人の成果や名声の不正な利用などが考えられるとの意見が 示された。しかし、「成果」には何が含まれるのか不明であり、それが限定されないような 条文が掲げられると企業活動が萎縮すると言う意見があった。この点に関し、差止請求は、 その行為が特に悪性の高い場合、あるいはその行為によって著しい損害が発生する場合に ⅳ

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のみ認めるといった限定を付すことで萎縮するという懸念は払拭できるのではないかとの 意見が示された。 また、補充条項を検討する上では、原産地など誤認惹起表示(不正競争防止法第2条第 1項第13号)や、信用毀損行為(不正競争防止法第2条第1項第14号)などの条項の適用 範囲を拡大する方途も考えられるのではないかとの意見があった。 5.その他の課題 研究会では、前述の「需要者吸引表示」、「情報集合物(データベース・タイプフェース)」、 「補充条項」について検討を加えた他、不正競争防止法について考えられる「その他の課 題」、すなわち、技術的制限手段無効化機器の提供行為(第2条第1項第10号及び第11号)、 誤認惹起行為(第2条第1項第13号)、信用毀損行為(第2条第1項第14号)についても、 問題提起を行った。 しかしながら、「その他の課題」について具体的な検討は行われなかったことから、本報 告書では、研究会において提起した論点をそのまま掲載することとする。 6.不正競争防止法改正に関する産業界の意識 本研究会では、不正競争防止法改正に向け検討を進めてきたが、それに関する産業界の 意識をアンケートにより調査した。アンケートは、国内企業約3,000社の知的財産担当者に 送付した。回答企業は718社(回収率:約25%)であった。 現時点において、顧客吸引力表示を利用・管理している企業は少なく、また、回答企業 全体では国内外を含めトラブルになった例も少ないようである。そのためか、顧客吸引力 表示に関する具体的な社内マニュアルを作成している企業は少ない。このような状況にお いて、回答企業全体では顧客吸引力表示の法的保護の必要・不必要の意見はほぼ同数であ った。 データベースの利用形態としては、「制作することが多い」、「制作、利用を行っている」、 「利用することが多い」がほぼ同数であり、制作されているデータベースについては殆ど の企業がID、パスワードといったアクセスコントロールなどの技術的な制限手段を施し ている。著作権以外の法的保護の必要性については不要との意見がやや多いが、著作権法 以外の法的保護がされた場合の影響については、多くの企業が影響はないと回答している。 「営業の成果」については法的保護が必要であるとする企業が約7割であった。営業の 成果は投資など企業努力の成果であり、財産的価値を有すると判断する企業が多く、それ らを保護する法制度が希薄であると認識している企業が多い。過度の保護に対する権利濫 ⅴ

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用などの危険性も懸念されるが、保護要件を明確にするなどの工夫により、今後何らかの 保護の在り方を検討する必要があると思われる。 不正競争防止法第2条第1項第13号の表示列挙の見直しの必要性については、賛否の意 見がほぼ同数であった。しかし、提案された問題となる表示の中には、現行法に限定列挙 された表示では解釈しにくいものも多数見られる。時代の推移を考慮しながら、現行法の 見直しを検討する必要性はあると思われる。 不正競争防止法第2条第1項第14号について、会社の信用を害する事実を告知・流布さ れた経験のある企業は全体の1割強であるが、それらの不正行為に対する差止請求権の必 要性を感じている企業は約7割に達する。これは、インターネットなどの情報手段の発展 に伴い、本号に規定する不正競争行為に遭遇する危険性が高まっており、その早急な対応 策として必要であると感じている企業が多いためである。現在、本号は「競争関係」、「虚 偽の事実」などの限定事項があり、現行法では不正競争行為にならない場合が生じ始めて いる。そこで、これらの限定を削除し、現行法を拡大する可能性について検討する必要が あると思われる。 その他、現在の不正競争防止法全般については非常に多くの意見が集まった。その中で 特に多かった意見は、不正競争行為に該当するか否かの判断が難しい、というものである。 これに対してはガイドラインを示したり、啓発活動をしたりするなどの対策が望まれてい る。また、不正競争行為に対しては、一般条項、補充条項などを定めて規制するべきであ るという意見、罰則規定を強化して欲しいなどの意見も多く見られたが、上記問題も含め、 保護要件、保護範囲などの条件を見極めつつ、今後その可能性について検討する必要があ ると思われる。 7.不正競争行為の規制に関する主要先進国の状況 (1)イギリス 一般的に不正競争を禁じる法令は存在せず、需要者吸引表示の商業的利用の問題を具体 的に取り扱う法令は存在しない。著名人の肖像などの無断使用に対して、詐称通用の申し 立て、あるいは、守秘義務違反又はプライバシー侵害を理由として提訴する可能性がある。 データベースは、欧州議会の指令(96/9/EC(データベース指令))が著作権法において 実施され、著作権・意匠・特許法の改正を含む「1997年データベース規制に係わる権利(デ ータベース規制)」において実現され、データベース権(データベースに係わる新たな独自 の(sui generis)権利)あるいは著作権によって保護されている。データベース権では、 情報の入手、検証、及び、データベースでの提示に対する投資が保護要件とされるが、著 作権で保護される場合には「独創的」であることが要件とされるなど、それぞれの権利に より保護範囲、保護期間、救済措置などが定められている。著作権・意匠・特許法は、デ ⅵ

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ータベースを含む著作物を保護する技術的手段の回避を禁止することを目的とした条項を 定め、回避用装置に係わる民事及び刑事条項も定められている。 (2)ドイツ ドイツ民法及びドイツ商標法の双方において、氏名、商号及び商標の「不正な利用又は 毀損行為」からそれらを保護するため規定が設けられている。侵害訴訟があった場合、民 法・商標法に基づき権利所有者は不正使用の停止・是正を要求し、損害賠償を受ける権利 を有し、裁判所は侵害行為の差止めを命じることができる。ドイツ2004年不正競争防止法 には、「競業者、消費者及びその他市場参加者の利益に反して、競争を瑣末でなく歪曲する おそれのある不正な競業行為は許容されない」との一般条項(第3条)と11の例示条項(第 4条)が置かれている。また、同法には、利益団体(消費者団体など)にも排除措置命令 (差止請求)を申立てる権利、損害賠償を受ける権利等が認められている。 データベースは、著作権法により、著作物あるいは欧州議会のデータベース指令に基づ くデータベース権として保護される。データベースが著作物であるためには、資料の選択 又は配列が創造的努力の結果でなければならない。また、データベース製作者は実質的な 投資を行っていなければならない。データベース製作者は、当該データベースの実質的な 部分に関し排他的な権利を有し、さらに実質的でない部分でも反復的かつ体系的に利用す ることを排する権利を有する。違反があった場合にはデータベース製作者に損害賠償請求 が認められる。著作権法に基づき、保護期間は15年である。また、著作権法において、技 術的制限手段を回避してはならないとしており、違反した場合には犯罪として処罰される。 民事的救済措置は定まっていない。 (3)フランス フランスには、需要者吸引表示を定義し、保護するような法律は存在しないが、その権 利の保護には、人格権に係わる法制度、及び、不正競争又は寄生的利用を禁止する法制度 の2つが主に適用される。しかし、それらの法制度が市場での企業活動の自由を阻害して はいないと考えられる。また、フランスの法律には、一般的又は明確に不正競争を禁じる 条項はない。人格権、及び、不正競争又は寄生的利用の民事的救済措置には差し止め、損 害賠償、判決の公開、侵害物の破棄などが含まれる。刑事罰は適用されない。 データベースは、欧州議会のデータベース指令を実施したデータベース法により、著作 権並びにデータベース権に基づいて保護されている。また、不正競争によっても保護され ており、著作権やデータベース権の規定を満たすことができない場合に実施される。デー タベース権による保護要件について、実質的な投資が必要であると裁判所は判断している。 著作権法による保護には、コンテンツが構成される方法について独創性が認められること が要件とされる。それぞれの権利により保護の範囲、保護期間、救済措置が定められてい ⅶ

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る。技術的手段の法的保護及びその制限は知財法に規定され、回避行為は制約又は禁止さ れており、回避行為を行った場合、刑事罰が科される。民事救済措置には差し止め、損害 賠償、侵害物の破棄などが含まれる。 (4)スイス 需要者吸引表示の利己的な利用は、明示的規定により制限されていないが、その概念を 考慮するとスイス不正競争防止法の一般条項違反に該当すると判断される。不正競争防止 法では、不公正、欺瞞的、虚偽的な比較、個人の特徴の不正な利用、他人の氏名の不正な 使用についても言及し、同法第2条の一般条項では、不正競争行為の具体例を挙げながら、 競争関係にある会社同士の関係、又は、売り手と買い手の間の関係に影響を及ぼすような 詐欺的行為又は信頼関係の毀損が禁じられ、また、その本質において混同を招く恐れのあ る行為を禁じている。対象となる不正な業務行為の種類を、具体例を挙げて列挙している。 不正な競争によって経済的利益が脅かされている、又は損なわれている個人あるいは団体 などが救済を求めることができ、民事救済措置には差し止め、侵害の抑止、損害賠償など が含まれる。また、刑事罰も規定されている。 スイスにおいては、欧州連合のデータベース指令は適用されない。データベースは著作 権法により保護され、不正競争防止法が追加的な保護を与えるものと解釈される。不正な 競争によって経済的利益が脅かされている、又は損なわれている個人あるいは団体などが 侵害に対する救済措置を求めることができる。技術的制限手段の回避を防止する法律はな く、またそれを罰する刑法もない。 (5)アメリカ 需要者吸引表示の利己的利用は個人のプライバシー権又は著名な人のパブリシティ権の 侵害となる場合がある。コモンロー上のパブリシティ権では、本人の同意なくその名前、 肖像、又は、その他の個人的な特徴を営業目的で盗用した者は損害賠償の責任を負うとさ れている。需要者吸引表示の侵害に対して、民法による罰則は規定されていない。但し、 差止めによる救済は可能である。不正競争は限定的に捉えることはできないため、裁判所 は理論的な不正競争の定義を成し得ていない。 米国最高裁判所は、データベースのような編集に係わる著作物について著作権法による 保護が認められるには、「額に汗」や「勤勉な収集」ではなく、最小限の創造性、独創性が 存在しなければならないと判示した。著作権者は差し止め、損害賠償の請求が認められて いる。侵害が故意に行われた場合は犯罪であり、刑事罰の対象となる。著作権によるデー タベースの保護は不十分であるという意見は多く、契約による保護の方が合理的であると 考えられている。但し、現時点で、データベース保護のための立法措置が支持されるか否 かは明らかではない。技術的制限手段を回避する行為は犯罪であり、刑事罰が科される。 ⅷ

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はじめに

デジタル化に伴い新たなビジネス形態が出現する中で、事業者間の公正な競争秩序の観 点から不法行為(民法第709条)により違法と評価される競争行為が発生したり、これまで 重要な問題として認識されてこなかった不正な競争行為がより重要な問題としてクローズ アップされたりしてきている。このような新たなビジネスの健全な発展のためには、当該 ビジネスを阻害する行為に対してルールを明確にする必要な場合があり、このような不正 競争行為に対する規制手段として競業者間の公正な競争秩序の維持を目的とする不正競争 防止法の役割は極めて重要である。 そこで、本調査研究では、これらの新たなビジネスによって生じる不正競争行為及びそ の行為の不正競争防止法での取扱いについて調査研究する。第一には、商品化ビジネスに 代表されるような財産的価値を有する表示の需要者吸引力を利用したビジネスにおける公 正な競争秩序を維持するために不正競争防止法において、これらの表示の不正利用行為を 不正競争として位置づけることについての可能性と課題を検討する。また、データベース の作成と提供を事業として行う者が、安心してその事業を営める仕組みを構築し、新たな データベースの作成・提供が促進されるような環境を整備することについて検討する。さ らに、それらの検討を踏まえながら、不正競争行為に関する補充条項あるいは一般条項を 設けることの可能性と課題について検討を行った。 上記調査研究の遂行のため、学識経験者、弁護士等からなる委員会を発足させた。委員 会の開催に当たっては、事前に調査検討事項ごとに関係する業界へのヒアリングを行い、 問題となる点を抽出し、事務局からヒアリングの概要、裁判例、想定事例、新たな不正競 争類型の提案などについてのプレゼンテーションを行うとともに、必要に応じて検討事項 に関連する業界関係者によるプレゼンテーションを行った。本報告書は、これらに基づき、 委員らによる質疑や議論を行った集大成である。本報告書が、今後の、不正競争防止法の 検討に資するとともに、これに関する議論の一助となれば幸いである。 最後に、本調査研究の遂行に際し、御指導を頂いた委員各位、オブザーバー各位、ヒア リング調査にご協力頂いた各関連企業の方々、並びに、調査にご協力頂いた独立行政法人 日本貿易振興機構(JETRO)事務所(デュッセルドルフ(ドイツ))の皆様に、深く感謝申 し上げる次第である。 平成19年3月 財団法人 知的財産研究所

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知的財産の適切な保護のあり方に関する調査研究委員会 名簿

(敬称略) 委員長 土肥 一史 一橋大学 大学院 国際企業戦略研究科 教授 委 員 小泉 直樹 慶應義塾大学 大学院 法務研究科 教授 小塚 壮一郎 上智大学 法学部 教授 平嶋 竜太 筑波大学 社会科学系(企業法学専攻) 助教授 牧野 利秋 ユアサハラ法律特許事務所 弁護士 横山 経通 森・濱田松本法律事務所 弁護士 稲林 芳人 (財)知的財産研究所 主任研究員 オブザーバ 由良 英雄 経済産業省 経済産業政策局 知的財産政策室 室長 石上 庸介 経済産業省 経済産業政策局 知的財産政策室 課長補佐 波田野 晴朗 経済産業省 経済産業政策局 知的財産政策室 課長補佐 望月 孝洋 経済産業省 経済産業政策局 知的財産政策室 係長 柳澤 薫 経済産業省 経済産業政策局 知的財産政策室 係長 平 克 内閣官房 知的財産戦略推進事務局 事務官 大手 昭宏 法務省 民事局付 分部 悠介 経済産業省 製造産業局 模倣品対策・通商室 専門官 北村 敏剛 経済産業省 製造産業局 模倣品対策・通商室 係長 横山 康之 経済産業省 製造産業局 デザイン・人間システム政策室 係長 太田 茂雄 経済産業省 商務情報政策局 文化情報関連産業課 課長補佐 眞柳 秀人 経済産業省 商務情報政策局 文化情報関連産業課 係長 古田 敦浩 経済産業省 商務情報政策局 情報通信機器課 課長補佐 紀田 馨 経済産業省 商務情報政策局 情報経済課 係長 山本 純 (財)デジタルコンテンツ協会 企画・推進本部 企画調査部 部長代理 湯浅 政義 (社)日本音楽事業者協会 アドバイザー 一色 秀夫 (社)電子情報技術産業協会 法務・知的財産権総合委員会 運営委員会 前委員長 (元 株式会社日立製作所 知的財産権本部 IPビジネス本部 知財保全センタ長)

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赤松 耕治 (社)電子情報技術産業協会 法務・知的財産権総合委員会 経済法規専門委員会 委員長 (富士通株式会社 法務・知的財産権本部 法務部 担当部長 兼 知的財産戦略室 担当部長) 古川 靖弘 (社)電子情報技術産業協会 法務・知的財産権総合委員会 経済法規専門委員会 副委員長 (キヤノン株式会社 製品法務推進課) 武田 貞生 (財)日本情報処理開発協会 常務理事 奥住 啓介 (財)日本情報処理開発協会 データベース振興センター 参事 大野 郁英 (社)日本印刷産業連合会 知的財産研究会 委員 (凸版印刷株式会社 法務本部 法務部 主任) 高橋 佳奈 (社)日本印刷産業連合会 知的財産研究会 委員 (凸版印刷株式会社 法務本部 法務部 法務課) 葛本 京子 特定非営利活動法人 日本タイポグラフィ協会 知的財産権委員会 委員長 (株式会社視覚デザイン研究所 代表取締役) 布施 茂 特定非営利活動法人 日本タイポグラフィ協会 知的財産権委員会委員 大畠 邦彦 (社)日本広告業協会 専務理事 山田 和彦 (社)日本広告業協会 法務委員会 委員長 (株式会社電通 法務室 法務1部長) 小竹 伸幸 (社)日本広告業協会 クリエイディブ委員会著作権小委員会 委員長 (株式会社博報堂 法務室 室長) 今子 さゆり ヤフー株式会社 法務部 マネージャー 事務局 稲林 芳人 (財)知的財産研究所 主任研究員 山内 勇 (財)知的財産研究所 研究員 杉浦 淳 (財)知的財産研究所 第二研究部長

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目 次

要約 はじめに 委員会名簿 Ⅰ. 総括 ―不正競争防止法の課題― (土肥委員長)・・・・・・・・・・・・・ 1 Ⅱ. はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 1. 不正競争防止法をめぐる動向について ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 2. 本調査研究の目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 3. 知的財産の適切な保護のあり方に関する調査研究委員会の開催について ・・ 5 Ⅲ. 需要者吸引力表示の保護の可能性と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 1. 問題の所在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 2. 検討すべき論点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 3. 保護の趣旨・法的性質 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 4. 保護の客体(保護の対象・保護の範囲) ・・・・・・・・・・・・・・・・ 9 5. 不正競争とされるべき行為 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 12 6. 適用除外のあり方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14 7. その他の論点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23 Ⅳ-1. 情報集合物(データベース)の保護の可能性と課題 ・・・・・・・・・・ 25 1. 問題の所在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 25 2. 不正競争防止法による保護の必要性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26 3. 産業構造審議会知的財産政策部会不正競争防止小委員会における検討 ・・・ 26 4. 諸外国におけるデータベースの法的保護状況 ・・・・・・・・・・・・・・ 29 5. 本研究会における検討の経緯 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32 6. 検討すべき論点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 7. 検討用条文案をめぐる議論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45 Ⅳ-2. 情報集合物(タイプフェイス)の保護の可能性と課題 ・・・・・・・・・ 47 1. 問題の所在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47 2. 保護の客体 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47 3. 現在の不正競争防止法による保護 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48 4. 本研究会における検討状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49 Ⅴ. 補充条項の導入の可能性と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51 1. 問題の所在 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51 2. 国内の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 51

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3. 諸外国の状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52 4. 不法行為法の限界 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57 5. 包括的行為類型を導入する場合のイメージ ・・・・・・・・・・・・・・・ 57 6. 検討用条文案 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60 7. 検討すべき問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 61 Ⅵ. その他の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66 1. 不正競争防止法第2条第1項第10号及び第11号(技術的制限手段無効化機器の 提供行為について) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66 2. 不正競争防止法第2条第1項第13号(誤認惹起行為)について ・・・・・・ 72 3. 不正競争防止法第2条第1項第14号(信用毀損行為)について ・・・・・・ 74 Ⅶ. 不正競争防止法改正に関する産業界の意識 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 76 1. アンケートの趣旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76 2. アンケート対象 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 76 3. アンケート結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 78 4. アンケート結果のまとめ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 93 Ⅷ. 不正競争行為の規制に関する主要先進国の状況 ・・・・・・・・・・・・・・ 95 1. 他人の需要者吸引表示の保護について ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 95 2. データベースなどを不正に利用する行為に対する保護について ・・・・・・101 3. 他人の成果や信用・名声を冒用する行為に対する保護について ・・・・・・109 4. 技術的手段を回避する行為について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・110 5. 新たな不正競争からの保護について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・112 資料編 Ⅰ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・121 資料 1 国内企業アンケート結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・123 資料 2 海外調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・187 資料 3 需要者吸引力表示関連裁判例集 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・285 資料 4 情報集合物(データベース)関連裁判例集 ・・・・・・・・・・・・・・305 資料 5 補充条項関連裁判例集 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・311 資料編 Ⅱ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・331 資料 1 日本印刷産業連合会資料(第5回研究会説明資料) ・・・・・・・・・・333 資料 2 日本音楽事業者協会意見書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・335 資料 3 日本広告業協会意見書(第6回研究会説明資料) ・・・・・・・・・・・340 資料 4 日本広告業協会資料(第7回研究会説明資料) ・・・・・・・・・・・・349 資料 5 日本情報技術産業協会資料(第2回研究会説明資料改訂) ・・・・・・・351

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資料 6 日本情報処理開発協会資料(第2回研究会説明資料) ・・・・・・・・・355 資料 7 日本タイポグラフィ協会資料(第2回研究会説明資料) ・・・・・・・・361 資料 8 日本タイポグラフィ協会資料(第6回研究会説明資料) ・・・・・・・・366 なお、本報告書は、委員会での議論を基に、事務局にて執筆し、委員の方々の承認を得 た。各報告の内容は、委員会での議論を踏まえた各委員の見解をそのまま掲載している。 なお、本調査研究に当たっては、JETRO Düsseldorf (ドイツ・デュッセルドルフ)の方々 にもご協力いただいた。

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Ⅰ.総括 ― 不正競争防止法の課題 ―

1 不正競争防止法は、昭和9年、「工業所有権の保護に関するパリ条約ヘーグ改正条 約」批准にあたり、同改正条約が同盟国の国民を不正競争から有効に保護することを同盟 国に義務付けていたことから、わが国もその義務を果たすため制定された。同改正条約第 10 条の2では、商品・営業主体混同惹起行為、商品・営業誹謗行為及び誤認惹起行為が特 に例示されてはいるが、広く「工業上又は商業上の公正な慣習に反するすべての競争行為」 が不正競争とされているところである。かかる不正競争行為の具体的列挙と一般条項の併 用は、不正競争概念を有する大陸法制とこれを有しないアングロ・アメリカン法制の妥協 の結果に他ならない。 この不正競争なる概念は、事業環境の変化及び市場の成熟度に応じて変遷する。昭和9 年当時、不正競争防止法所定の規定の号数は3号であったものが、現在は 15 号に増加して いるのはこれを裏付ける一の証左に他ならない。市場における競争行為は商品(役務)の 価格と品質(役務の質)を通じてなされる。かかる競争をわい曲するあらゆる行為は市場 の透明性を阻害する行為として排除されなければならない。市場の透明性が確保されて始 めて自由競争の効用が発揮されるからである。不正競争防止法の制度設計においては、排 除されるべき不正競争行為が正確に捕捉されているか、が常に問われる必要がある。この ことは同時にわが国が先のパリ改正条約同盟国として果たすべき義務でもある。 わが国の不正競争防止法は、制限列挙主義を採用している。無論、制限列挙主義を採用 しても、パリ条約第 10 条の2(2)所定の「工業上又は商業上の公正な慣習に反するすべて の競争行為」をもれなく捕捉しているのであれば問題はない。むしろ、いかなる行為が不 正競争行為であるのか具体的に明示することは、市場に参入する事業者にとって、萎縮す ることなく事業行為を展開することをより可能にする意味で有利となる。したがって、不 正競争行為につき制限列挙主義を採用する法制度の下では、法と実態の欠缺の有無を確認 するために、その検討を定期的に行うことは当然になされるべき作業ということになる。 2 かかる観点の下で、本委員会においては、近年の判決例(ギャロップレーサー事件 最高裁判決[最判平成 16 年2月 13 日判時 1863 号 25 頁]、翼システム事件判決[東京地判平 成 14 年3月 28 日判時 1793 号 133 頁]など)を参考に、検討すべき事項を絞り込んでいる。 パブリシティの権利(利益)が法的に承認されることは明らかであるが、特別法によって 承認される商標権や著作権とは異なることもまた明らかである。ギャロップレーサー事件 最高裁判決は、需要者吸引力の排他的権利性を否定し、不法行為の成立をも否定している が、従前の下級審判決の流れの中でみるとき、この判決は需要者吸引力が一定の悪性ある 行為態様の下で利用されることまで容認するものではないと考えられる。 本委員会は需要者吸引力が表示の態様において利用される場合における、不正競争性に -1-

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ついて広く検討を進めるべきであると考えている。いわゆる一般条項あるいは補充的一般 条項の機能と影響の分析検討はこの検討作業の一環としても、法と実態の欠缺の有無の確 認の一環としてもなされる必要がある。 3 不正競争防止法は行為規制法であるから、市場における行為秩序に照らし悪性を有 すると認められる行為を特定し、その排除のための執行規定が設けられる必要がある。こ れに対し、他の知的財産法、例えば、特許法や著作権法などの権利保護法は、産業政策な り文化政策に基づき、それぞれの保護対象の範囲を画定し、かかる保護対象についての権 利にどのような効力を与えるのか、さらにはこれらの権利の移転や利用としてどのような 態様のものを認めるのか明確にする必要があることになる。この特別法の存在の反対解釈 として、そして有限資源の有効利用の必要性から、特許法や著作権法などの権利保護法に おいて保護対象とされていない成果物は保護されないことになるが、かかる成果物を産業 政策上の理由から経過的に不正競争防止法で保護できないか、という問題が生ずる。いわ ゆる不正競争防止法の補完的機能の問題である。 不正競争防止法と他の知的財産法との補完関係は2つの様相がある。1つは、他の知的 財産法に基づく権利の効力が及ぶ範囲における補完関係と、もう1つは、他の知的財産法 に基づく権利の効力が及ばない範囲における補完関係である。前者における補完関係にお いては、不正競争防止法は基本的に謙抑的でなければならない。例えば、著作物性が認め られ、著作権侵害が成立している場合に、不正競争防止法第2条第1項第3号による保護 が重畳的に認められることにはならない(結論において同旨:東京地判平成 15 年7月 11 日 LEXDB)。さらにいえば、権利保護法による保護の存続期間が満了している場合において、 例えば、不正競争防止法第2条第1項第1号所定の商品等表示性が認められ、不正競争行 為が成立することにはならないはずである。この問題は、講学上、いわゆる技術的形態除 外説と非除外説との対立するところであるのでここでは踏み込まないが、知的財産法にお ける権利の存続期間の意味からすれば、その結論の如何は明らかであろう(東京高判平成 13 年 12 月 19 日判時 1781 号 142 頁参照)。ただ、この意味における補完的機能がないかと いえばそうともいえないのではないか。例えば、意匠権は意匠登録により発生するが、設 定登録前の損害については、特許法(特許第 65 条)や商標法(商標第 13 条の2)と異な り、その救済は不可能である。この場合に、意匠権者が営業上の利益をも侵害されている 者であれば、不正競争防止法第2条第1項第3号の不正競争性の考慮をリエゾンすること によって、同法第4条によって、意匠権設定登録前の損害填補の補完が考えられるからで ある(結論において同旨:大阪地判平成 14 年2月 26 日 LEXDB)。 4 これに対し、後者の補完関係、すなわち他の知的財産法に基づく権利の効力が及ば ない範囲における不正競争防止法による補完関係は、別論ではないか。従前の市場環境、 -2-

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技術状況さらには当時のビジネスモデルからは特別法による保護が求められていなかった 領域においても、その後の市場環境の変化や技術の進展から、新たなビジネスモデルが登 場し、産業政策上の格別の考慮が必要となることは当然考えられる。 例えば、著作権法におけるデータベースの保護は、「情報の選択又は体系的な構成」にお いて創作性があることが求められている。この結果、この意味での創作性のないデータベ ースはいかに多大な投資と多数の労力を必要とするものであっても、著作権法上の保護を 受けることはできない。知的財産法が文化・産業政策立法であることからすれば、かかる欠 缺を不正競争防止法の補完的機能により埋めることを検討してよい。不正競争防止法の一 般法として位置づけられる民法第 709 条所定の不法行為からの保護は既に認められている (翼システム事件判決:東京地判平成 14 年3月 28 日判時 1793 号 133 頁、ヨミウリ・オン ライン事件:知財高判平成 17 年 10 月6日 LEXDB)。判例データベースや住宅地図データベ ースを始めとする現在の各種データベースに関するビジネスモデルは、民法第 709 条によ る保護で足りているのかどうか、産業政策上の観点から再度問われる必要があろう。かか る観点から、本委員会においては、アンケート調査を実施するとともに、情報集合物とし てのデータベース及びタイプフェイスの不正競争防止法による補完的な保護の可能性のあ り方を検討している。 5 取り上げた検討課題はいずれもさまざまな考慮すべき要素を有している。本委員会 はその全てについて、確定的な結論に到達できてはいない。それぞれの検討課題に対する 本委員会の検討結果は本報告書を参照いただきたいが、委員及びオブザーバの方々のご意 見、ご協力を得ていささかなりとも成果が得られたのではないか、と自負している。不正 競争防止法 73 年間の学説判例の積み重ねの中で、一般条項のみであらゆる不正競争行為に 対応するという選択肢はなかろう。それは 2004 年ドイツ不正競争防止法が行った、一般条 項のみによる不正競争規制から、一般条項と例示規定の併用規制への変更の示すところで もある。不断に進展する市場における競争行為の実態と過去の実態を反映する法内容との 乖離は不可避的であることからすると、補充的一般条項の採用を含め、法の欠缺を確認し これを埋める検討作業は今後とも行われなければならない。国内アンケート調査及び海外 法制度調査の貴重なデータを含め、今後の検討作業において、本委員会の検討内容が活用 されることを期待したい。 (土肥 一史) -3-

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Ⅱ.はじめに

1.不正競争防止法をめぐる動向について 情報などのデジタル化、ネットワーク化の進展に伴い新たなビジネス形態が出現する中 で、情報のコピーや流通が容易になり、企業の情報成果物や営業成果物が安易に冒用され るリスクが大きくなっている。このため、従来の不正競業の規制や知的財産権の保護とい った枠組みでは必ずしも十分に保護されず、事業者間の公正な競争秩序の観点から不法行 為(民法第709条)により違法と評価される競争行為が発生したり、これまで重要な問題と して認識されてこなかった競争行為が、不正競業の規制の観点からより重要な問題として クローズアップされたりしてきている。このような新たなビジネスの健全な発展のために は、当該ビジネスを阻害する行為に対して「公正・適法な行為」、「不正・違法な行為」と の間のルール・境界を明確にすることが必要であり、このような不正競争行為に対する規 制手段として競業者間の公正な競争秩序の維持を目的とする不正競争防止法の役割は極め て重要である。 我が国の不正競争防止法は、昭和9年の制定以来、「不正競争」にあたる行為を限定的に 列挙している。このため、新たなビジネスが発展し、これに対する公正な取引秩序を乱す 新たな競争行為が発生した場合には、これらの行為のうち特に悪性が強い行為であり、か つ、個別具体の行為類型として要件を抽象的に規定できる行為について、累次の改正を通 じて「不正競争」として追加してきた。 しかし、社会通念上、「公正・正当とは言い難い」と目される競争行為であっても、不正 競争防止法に列挙された「不正競争」に規定する行為類型に該当しなければ、規制の対象 (権利者側から見れば救済の対象)とはならない。そこで、新しい不正競争行為に不正競 争防止法がどのように対応していくのか、との問題がある。 2.本調査研究の目的 そこで、本調査研究では、これらの新たなビジネスによって生じる不正競争行為及びそ の行為の不正競争防止法での取扱いについて以下の観点から調査研究する。 (1)需要者吸引表示の保護の可能性と課題 商品化ビジネスに代表されるような財産的価値を有する表示の需要者吸引力を利用した ビジネスにおける公正な競争秩序を維持するために不正競争防止法において、これらの表 示の不正利用行為を不正競争として位置づけることについての可能性と課題を検討する。 -4-

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(2)情報集合物(データベース、タイプフェイス)の保護の可能性と課題 著作権法では、創作性のあるデータベースに限り、著作物として保護されているが、「創 作性」を有しないデータベースは著作権法では保護されていない。このような中、創作性 のないデータベースのデッドコピーに関して、民法(不法行為)に基づく救済を認めた裁 判例があることを踏まえて、事業者間の公正な競争を通じた営業上の利益の保護を図る不 正競争防止法において、データベースの作成と提供を事業として行う者が、安心してその 事業を営める仕組みを構築し、新たなデータベースの作成・提供が促進されるような環境 を整備することについて検討する。 また、写植機用文字盤や印刷用の書体の模倣に関して民法(不法行為)の適用の余地が ある旨を判示した事案があること、各種メディアにおける書体デザインの重要性が高まっ ていることなどを踏まえ、同じく不正競争防止法におけるタイプフェイスの保護の可能 性・在り方について検討する。 (3)補充条項の導入の可能性と課題 不正競争防止法に列挙された行為類型に該当しない競争行為が、規制の対象にならない ことは、健全な商行為を阻害するものと思われる。需要者吸引表示、情報集合物の検討を 踏まえながら、現在の限定列挙という「枠」にとらわれない不正競争行為に関する「補充 条項」あるいは「一般条項」を設けることの可能性と課題について検討をする。 (4)その他の課題 コンテンツビジネスの競争秩序維持のため、平成11年に技術的制限手段回避装置などの 提供行為が不正競争行為とされたが、その後の技術やネットワークの進展による新しい問 題、それに伴う現行法制の課題について検討する。 また、不正競争防止法第2条第1項第13号(誤認惹起行為)、同第14号(信用毀損行為) についても、現行法制の課題と規制範囲の拡大の可能性について検討する。 3.知的財産の適切な保護のあり方に関する調査研究委員会の開催について 上述の調査研究の遂行のため、学識経験者、弁護士などからなる「知的財産の適切な保 護の在り方に関する調査研究委員会」(委員長 土肥一史 一橋大学教授)を開催した。委 員会の開催に当たっては、事前に調査検討事項ごとに関係する業界へのヒアリングを行い、 問題となる点を抽出し、事務局からヒアリングの概要、裁判例、想定事例、新たな不正競 争類型の提案などについてのプレゼンテーションを行うとともに、必要に応じて検討事項 に関連する業界関係者によるプレゼンテーションを行った。 本報告書は、これらに基づき、委員らによる質疑や議論を行った集大成である。本報告 -5-

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書が、今後の、不正競争防止法の検討に資するとともに、これに関する議論の一助となれ ば幸いである。 最後に、本調査研究の遂行に際し、御指導を頂いた委員各位、オブザーバー各位、ヒア リング調査にご協力頂いた各関連企業の方々、並びに、調査にご協力頂いた独立行政法人 日本貿易振興機構(JETRO)事務所(デュッセルドルフ(ドイツ))の皆様に、深く感謝申 し上げる次第である。 -6-

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Ⅲ.需要者吸引表示の保護の可能性と課題

1.問題の所在 大容量高速通信回線の普及や情報のデジタル化などに代表される情報通信システムの飛 躍的な進歩は、コンテンツビジネスなどの新たなビジネス市場の発展と拡大をもたらして いる。情報通信網を活用したビジネスは、魅力的な情報の配信やライセンスによって収益 をあげるビジネスモデルが中心となっている。そして、このようなビジネスモデルにおい ては、特定の情報が、物と同様に、財産的価値を有するものとして取り扱われている。す なわち、近年では、情報の財産的価値は、情報媒体や情報発信主体から切り離され、独立 した商品として扱われているといえる。 また、近年、著名な人物の氏名や肖像、著名なキャラクターを無断で使用した商品が販 売されたり、これらを無断で使用した広告宣伝が行われたり、著名なブランドのロゴがパ ソコン用の壁紙用素材としてインターネットを通じて提供されるなどの行為が行われ、問 題となってきている。 このように著名な人物の氏名や肖像、著名なキャラクター、著名なブランドのロゴなど 需要者を吸引する魅力ある表示(「需要者吸引表示」という。)は、商品の販売や役務の提 供を促進する効果を有しており、第三者へライセンスされるなど財産的価値を有するもの として扱われている。そして、情報通信機器の普及、発達及びブロードバンドの展開を背 景として、インターネットを通じた通信販売が急速な発展を遂げている中、商品の販売や 役務の提供を促進するものとして需要者吸引表示の財産的価値は近年一層高まっている。 しかし、このような需要者吸引表示の保護は、現行知的財産法においては十分ではない。 すなわち、表示が著作物となる場合には著作権法によって保護されるが「人の肖像」や「商 標」など、著作物性が認められない表示も少なくない。また、表示が表示主体の「出所表 示」として利用される場合には、商標法や不正競争防止法によって保護されるが、人の肖 像やキャラクターなどの「本来的に出所表示でないもの」や、商品化行為、役務利用行為 や広告使用行為などのように、これらの表示が有する「需要者吸引力そのものに着目して (出所表示としてではなく)表示が利用される場合」には、保護の対象とならない。 そこで、本研究会においては、財産的価値を有する表示の需要者吸引力を利用した商品 化ビジネスや、広告ビジネスにおける公正な競争秩序を維持するために不正競争防止法に おいて、これらの表示の不正利用行為を不正競争として位置づけることの適否について検 討を行った。 なお、研究会での検討においては、研究会委員による議論の参考とすべく、この問題に ついて関係・関心を有している多数の事業者団体・企業の関係者にオブザーバーとしての 参加を求め、被害の状況など保護の必要性やそのあり方、仮に何らかの保護を行った場合 -7-

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に想定される実務面への影響などの課題などについて、多種多様なかつ具体的な意見が積 極的に提示されたが、これに加えて、特に、社団法人日本音楽事業者協会研究会、社団法 人日本広告業協会の両団体からは、研究会に対して意見書が提出されている。両団体のこ の問題に対する基本的な考え方や研究会で検討を行った論点(後掲2.以下参照。)に対す る詳細かつ具体的な意見・見解については、資料編Ⅱに、研究会における関係団体のプレ ゼンテーション資料とともに所収しているので、併せて参照されたい。 2.検討すべき論点 需要者吸引表示を利用した商品化ビジネスや、広告ビジネスにおける公正な競争秩序を 維持するために不正競争防止法において、財産的価値を有する表示の不正利用行為を不正 競争行為と位置づける際に、検討が必要と考えられた以下の点について検討を行った1 (1)保護の趣旨・法的性質 (2)保護の客体(保護の対象・保護の範囲) (3)不正競争とされるべき行為 (4)適用除外の考え方 (5)その他 (ⅰ)保護の期間 (ⅱ)移転可能性 (ⅲ)保護の主体 3.保護の趣旨・法的性質 (1)問題意識 著名な人物の氏名や肖像、著名なキャラクター、著名なブランドのロゴなど需要者を吸 引する魅力ある表示の不正競争防止法における保護のあり方について検討する際には、こ れらの保護の趣旨・法的性質が問題となる。 これらの表示の保護と対比しうるものとして、いわゆる「肖像権」や「パブリシティ権」 について権利創設・付与型の保護を検討する際にその保護の性質の議論があげられる。こ れらの権利の趣旨について、理論的には①人格権的構成2、②財産権的構成3を採るものに 1 この問題については、本研究会に参加したある産業界オブザーバーより、著名な芸能人の氏名、肖像の不正な利用行 為に対する保護を求めるとの意見があった一方で、他の産業界オブザーバーからは長年にわたる関係業界の自主的な 努力により、紛争回避の方法を築いてきたのだから、それを尊重して欲しく、ケースバイケースであるが、需要者吸 引表示に関する様々な問題については新たな立法を行うまでもなく現行法で十分解決されるとの意見も示された。 2 氏名、肖像などのパブリシティ価値を排他的に利用できる権利を、人格権の一環としてとらえるもの。この見解では、 個人は誰であっても自己の氏名、肖像が、どこでどのような態様で利用されるかを決定する権利(自己決定権)を有 -8-

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大別されており、また、裁判例にあってはその多数は財産的構成を採っている。 保護の対象に馴染むもの 譲渡・移転の可能性 人格権的構成 自然人に限定 一身専属的で移転などは不可 財産権的構成 自然人・法人・モノ など 相続を含む移転可能性あり (2)論点 不正競争防止法において、需要者吸引表示の保護を検討する場合に、保護の趣旨・法的 性質として①人格的構成、②財産的構成についても意識して検討する必要があるか。 (3)本研究会での議論 この点に関して、不正競争防止法において需要者を吸引する価値を有する表示の保護を 行う場合には、同法が「事業者間の公正な競争」の確保を目的とするものであることから、 これらの表示が有している「財産的価値(あるいは営業上の利益)」とこれに対する「公正 な競争を阻害する行為の抑止」という観点に着目して保護するものと考えるのが適当であ る。 したがって、不正競争防止法における需要者を吸引する価値を有する表示の保護の問題 は、肖像権やパブリシティ権の法的性質論とは切り離して議論を行うことが可能であり、 保護の客体や移転可能性については、不正競争防止法独自の観点から決めることが適切と の考えで一致した。 4.保護の客体(保護の対象・保護の範囲) (1)保護の対象 (ⅰ)問題意識 我が国では、いわゆるパブリシティ価値(財産的価値)の保護は、民法第709条の不法行 為に関する裁判を通じてなされてきている。したがって、今後、不正競争防止法において この種の価値ないし客体の保護のあり方を検討する際には、過去の裁判例において何が、 どのような場合に保護されてきたかを把握することが必要となる。 しているので、パブリシティ権侵害は基本的に人格権侵害であるとする。人格権的構成を採った場合には、人格権を 有する自然人のみがパブリシティ価値の発生源となる。また、その譲渡・移転可能性についても、人格権の一身専属 性から否定的に解される。 3 パブリシティ価値を排他的に利用できる権利を、財産権としてとらえるもの。この見解では、パブリシティ価値が本 質的に経済的利益であることから、パブリシティは純粋に財産権としてとらえることができるとする。我が国の裁判 例のほとんどはこの構成を採っている。財産権的構成を採った場合には、表示がパブリシティ価値を有していればそ の対象は生存している自然人に限定する必要はなく、故人、法人、動植物、建築物、キャラクターなどもパブリシテ ィ価値の発生源となる。また、その譲渡・移転可能性についても、財産権構成からは認められやすい。 -9-

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この点に関して、我が国のパブリシティ価値の保護に関する裁判例は、以下のとおり大 別することが可能である。 ①自然人の肖像・氏名などの無断使用が問題となった事例45 芸能人などの著名な自然人の肖像・氏名などの無断使用に関して不法行為の成立など が問題となった事例。 ②物のパブリシティ価値の侵害が問題となった事例6 自然人ではない物についてのパブリシティ価値の侵害が問題となった事例、すなわち、 著名な物の外観を無断で撮影した場合、物の名称を無断使用した場合に、当該物の所有 者がパブリシティ価値の侵害を理由に不法行為の成立などが問題となった事例。 ③その他の関連判例7 知的財産法に基づく保護の請求において、直接にパブリシティ価値の保護が争点にな っていないが、結果的にパブリシティ価値の保護が問題となった事例、すなわち、商品 化ビジネスの対象となっている著名なキャラクター、F1自動車のプラモデルへの使用、 有名企業のロゴ・企業名などの保護が問題となった事例。 (ⅱ)論点 保護の対象を、ⅰ自然人の肖像・氏名など、ⅱ物、ⅲその他のいずれとすべきか。 4 自然人の肖像・氏名など(いわゆる人のパブリシティなど)が問題となった事件として、請求が認容されたものとし ては、①マーク・レスター事件(芸能人の氏名・肖像=広告利用;東京地判昭 51.6.29)、②王貞治事件(スポーツ選 手の氏名肖像=商品化;東京地判昭 53.10.2)、③藤岡弘事件(芸能人の氏名・肖像=広告利用;富山地判昭 61.10.31)、 ④おにゃん子クラブ事件原審・控訴審(芸能人の氏名・肖像=商品化;東京地判平 2.12.21、東京高裁平 3.9.26)、⑤ キング・クリムソン事件(芸能グループの名称・メンバーの肖像=商品化;東京地判平 10.1.21)、一方、認められな かったものとしては、❶マックイーン事件(芸能人の肖像=広告利用;東京地判昭 55.11.10)、❷光GENJI事件(芸 能人の氏名・肖像=商品化;東京地判平 1.9.27)、❸土井晩翠事件(故人の名称=標識利用;横浜地判平 4.6.4)、❹ キング・クリムソン事件控訴審(芸能グループの名称・メンバーの肖像=商品化;東京高判平 11.2.2)がある。 5 この種の事例では、人格的利益である肖像権、プライバシーの侵害も争点となることが多い。 6 物のパブリシティ価値が問題となった事件として、請求が認容されたものとしては、①広告用ガス気球事件(広告用 ガス気球=広告利用;東京地判昭 52.3.17)、②クルーザー事件(ホテル所有のクルーザー=無断利用など;神戸地判 平 3.11.28)、一方、認められなかったものとしては、❶長尾鶏事件(天然記念物の鳥=商品化;高知地判昭 59.10.29)、 ❷顔真卿自書告身帳事件(書道家の書体=商品化;最判昭 59.1.20)、❸楓の木事件(樹木=出版物利用;東京地判平 14.7.3)、❹ギャロップレーサー事件原審・控訴審・上告審(競走馬の名称=商品化;名古屋地判平 12.1.19、名古屋 高判平 13.3.8、最高裁平 16.2.13。なお、原審・控訴審では損害賠償請求のみ認容された。)、❺ダービースタリオン 事件(競走馬の名称=商品化;東京高判平 14.9.12)、❻東京開花事件(錦絵=商品化;大阪地判平 16.9.28)がある。 7 このタイプの事件として、請求が認容されたものとしては、①NFL事件(スポーツチームのシンボルマーク=商品 化;最判昭 59.5.29)、②ポパイ・ネクタイ事件原審・控訴審・上告審(キャラクター=商品化;東京地判平 2.2.19、 東京高判平 4.5.14、最判平 9.7.17)、③シャネル香水事件(著名ブランド=表示使用;東京地判平 5.11.18)、平 16.3.15.)、 一方、認められなかったものとしては、❶ポパイTシャツ事件(キャラクター=商品化;大阪地判昭 51.2.24)、❷「香 りのタイプ」事件(著名ブランドの商品名=広告利用;東京高判昭 56.5.25)、❸F1プラモデル事件(企業ロゴ=商 品使用;東京地判平 5.11.18)、❹UNDER THE SUN 事件(CDタイトル=商品使用;東京地判平 7.2.22)、❺ベレッタ銃 事件(拳銃=商品化;東京地判平 12.6.29)、➏デール・カーネギー事件(書籍の題号=使用;東京高判平 14.2.28)、 ➐マクロス・ゼロ事件原審・控訴審(映画タイトル=無断利用;東京地判平 16.7.1、東京高判平 17.10.27)、➑チョ コエッグ・フィギュア事件(模型=商品化;東京高判平 16.11.25)がある。

参照

Outline

この点に関し、産業界より、広告業や印刷業などの実務上は法的紛争を予防することが重要であり、現在の実務にお ける対応について根拠が不明瞭とは言い切れないとの意見が示された。 再掲、キング・クリムゾン事件控訴審(東京高判平 11.2.24) 学術研究目的や社内利用目的、不可避なデータの読み込み行為などの行為については、一般的にはデータベース保有 者にとって営業上の利益の侵害が認められない場合が多いと考えられる。 平嶋竜太「新たな模倣類型に対する不正競争防止法の可能性について」(不正競争防止法を活用した知的財産の保護強 化に関する調査研究報告書(財団法人知的財産研究所、2005 年))244 頁以下 前掲脚注 65 参照。 再掲「文化審議会著作権分科会報告書」(平成 18 年1月 文化審議会著作権分科会)73 貢より引用。 平成 10 年の合同会議(産業構造審議会では、知的財産政策部会と情報産業部会の合同会議を平成9年 10 月に設置し、 不正競争防止法第2条第1項第 14 号 競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布す る行為 年であり、損害のおそれがある場合、商品の破 棄と差し止めが命じられる。従わない場合には、権利者には損害賠償が認められる。 年で消滅する。著作権侵害に対する救済措置には、

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